第5話 段々分かってきたこの世界
数日後。
櫂から連絡が来たが、その内容として昨日倒しに行ったボスモンスターを倒したとのこと。その際、頭の中に聞いたことのないようなアナウンスみたいなものが聞こえてきたらしく、
【第21番目の
というのが脳内に響いてらしい。
そのアナウンスは櫂だけでなく、この地球に生きている全ての国民に発信されたものであり、その影響も多大なものだったそうだ。
因みに俺は寝てて聞いていなかった。そのアナウンスが発信された時間は9時半くらいで、まだ遅いとは言えないくらいだったためか時差の問題がある国以外は殆どの人間がそのアナウンスを聞いたらしい。だが俺が昨日寝たのは9時だ。田舎に住んでると早寝早起きが常態化しちゃうんだよね。
『お前も気をつけろよ。元々の原因が何言ってんだって感じだけど』
「そりゃこっちのセリフだ。下手こいてお前が倒したってバレんなよ」
『もちろんだ』
そうして通話は切れる。
アイツも頑張っているらしく、その大変そうな話を聞いているうちに昨日自分がレベル一つ上がんないだけで嘆いていたのが情けなく感じてくる。
「ただそれ以上に聞けた内容が濃かったな」
そう呟いた後、俺が電話をしながら片手でメモしていた紙切れを手に取り改めて内容を確認する。
まず、聞いた内容の中で1番の大きな点としては初回レベルアップ時の特典内容についてだ。櫂が聞いた限りでは、その最初の特典は1レベル時の初期ステータスによって大幅に変動するらしい。簡単に言えば、最初のステータスが高ければ高い分、レベルアップした時の特典……いわばスキルもレアなものになるそうだ。しかもそのスキルそのものが初期ステータスをによってもまた変動していくみたいで、『固有スキル』なんて枠組みもあるみたいだが、実際にはそもそものスキルの量が膨大すぎて得るスキルが被るということも起きることは少ないとのこと。
しかも聞いた話によると、そのスキルというものは未だ自主的に得られる方法はまだないらしい。だから昨日時点ではどれだけレベルが上がろうとも―――一日で上がるレベルにも限りがあるため櫂のレベルが最大と考える―――スキルは一人一つのもの……という認識だった。
「まさかボスモンスター倒したらスキルが得られるなんてね。しかも櫂の貰ったスキルはなんか凄そうだし…………《
そのスキルの説明書きにはこう書いてあったらしい。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
異界に君臨する孤高の王の持つ心。その王は昼を統べるその絶対者で完璧であり、唯一無二の超越した存在。そしてその心は揺らぐことはなく、何者からの影響も受けない。
追加ステータス
STR+250
DEX+125
AGI+100
効果:精神系状態異常無効、スキル:『太陽の祝福』、『魂奪取』の取得
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
これの真に恐ろしいところはあんだけ恐ろしいほどの量の追加ステータスがあるにも関わらず、そんなスキルにレベル表示があるところだ。しかもスキルにスキルそのものが付随してるってよ。
「まぁ……正直言ってチートそのものでしかないよな。ただそれをソロで倒せる櫂の方がそれ以上にチートと言えるか」
ここまで唐突に凄さを突きつけられても嫉妬も何も湧かない。このスキルを得ること自体が櫂の努力の塊だろうし。というか何がどうしたら昨日の今日でこんなにも人は成長するのか。……もしかして、愛?
「いやあの固有スキルのお陰だな。単純に人より十倍早く成長できるんだからレベルカンストが起きない限りあのスキルは一生最強枠に入り続けるだろーなー」
そんな呑気な声を出しながら、クルクル回ってリビングのソファのもとに近づいていき、ストンと座ってテレビをつける。
「こんな世の中になってもテレビ局は放送をやめないんだから凄いよな。普通止めて情報の入手方法はラジオだけになると思ってた」
なんて独り言を漏らしながらも、テレビを見ながらいつも見ていたバラエティ番組がニュース番組に変更されていることに小さな不満を抱く。
果たして、ゲームみたいになってしまったリスクのある世の中と、前みたいにあらゆるコンテンツを全面に享受できる平和な環境、どちらが自分にとって素晴らしいものとなるのか。
「(……ま、勿論そんなもの後者に決まってる。誰がこんなリスキーな世界を望むものか)」
そう吐き捨てて、数分だけテレビを見たのち特に何も思うこともなく唐突にコンセントを抜いて電源を落とす。
「(……そう言えば、このテレビも元々ここにあったものだったな)」
まだこの家を出ることはないが、準備は早めにしておいても後悔することもない。
そう思いながらも、俺は家にある野営道具を大きめのリュックにまとめていくのだった。
ただ持っていく物もそれほどないので、その準備自体に時間がかかるということはなく、昼頃には今すぐこの家を出ていけるだけの荷物は纏められた。
ただ何度も言う通り今すぐ行くわけではない。レベルと一つ上げて、なんとかこの世界の象徴とも言えるステータス、そしてスキルを得てからこの山々を出発する。
そしてそのためには―――
「ほいじゃ、スライム討伐行きますかね」
スライム倒して経験値を集める。
数日この辺りを散策してみたが、見つけられたモンスターと言える生物はあのベチョベチョスライムだけだった。
恐らくだが、その原因はあの穴にあるのだろう。
あのボスモンスター(仮)が出てきたあの穴。
櫂の話にによると、その穴は『ダンジョン』と呼ばれるものらしく、モンスターの出現している場所もここ何日間かの調査でその穴だと証明されたそうだ。
頭の中で櫂との会話を思い出しながら森の中を軽快な足取りで歩いていく。
『―――ボスモンスター……正式には『ワールドモンスター』と呼ばれるモンスターにはある特殊な「スキル」を必ず持ち合わせているんだ』
ここ数日毎日顔を合わせていたあの球スライムはあの身体の状態そのものがスキルなのだと考察する。
……一度はそう考えたのだが、俺は櫂の話を聞いているうちに段々と違和感を感じてきた。
『んでよ。そのワールドモンスターは特定の場所に留まらないらしくてだな、世界でもその放浪っぷりから討伐の準備してるうちにどっかにいっちまうんだと』
この時点でもあの球スライムは……なんかカッコ悪いからメタルスライムとでも呼ぶか。
『そんでもって倒すと世界の融合率ってのが上がるんだと。お前もあのアナウンス聞いてたら分かる通り恐らくその融合率ってのは前まで俺らが住んでいた世界とあのモンスターが生息していた世界との融合率だと思うんだよな』
えーっと……なんの話してたっけ。
『融合率が進むとどんな影響が受けるのかってのはまだ解明されていないらしいが……まぁ良くはないもんだよな』
あ、そうだ。あのメタルスライムがワールドモンスターじゃないんじゃないかって話だった。
『ただそんな危ないやつを野放しにしておくと奏音や両親にも危険が及ぶ確立が上がっちまう』
……違ったっけ?……でもまぁ特にやることには変わりない。
『だから積極的にレベルを上げて、そいつらをさっさと倒さねぇとな』
倒せたら倒そう。
アイツがいようがいまいが、アイツの存在が俺をここに留める理由にはなり得ない。俺の目標はただ一つ、レベルと一つ上げてスキルを手に入れること。それだけだ。
「っと、見えてきたぞダンジョン」
自分でも身勝手で無責任かもしれないが、結局惜しいのは自分の命だけ。櫂みたいに他の人のために行動できる人間自体が珍しいのだ。それにここには俺しか住んでいないし、それにあの最弱スライムがここから出ても経験値の足しにされるだけの存在でしか無い。
戦う前に、ステータスを開いてレベル欄の隣にある経験値の枠の場所に目を向ける。
《89.37%》
これがこの数日間の成果だ。
何故か最近ではスライム一匹の経験値が0.02にしかならなくて思わず怒りであのメタルスライムに特攻してしまったが、あの巨体での突進攻撃を受けそうになってしまい、決して挑んではならないと胸に誓ったのが昨日の出来事。
「いやぁ〜あれはマジで終わったかと思った。ここに来る前の俺だったら確実に死んでたね。恐ろしいったらありゃしない」
かと言って勿論挑まなくなるなんてこともない。
「さて、レベルが上がるまで単純計算あとスライム532匹。最近になって討伐ペースも上がってきたからこのままいったら今日明日で終了だ。頑張りますか」
口に出して意気込みながら、俺は腰のホルダーに刺していた短めのサバイバルナイフを手にとって、遠くでモゾモゾとうごめいているスライムに突っ込んでいくのだった。
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