第2話 いざ冒険!……でもその前に。

俺は人間の中でも比較的不運な部類に入ると思う。

そう思う理由の一つとして、高校生の年齢にも関わらずもう既に両親が他界してしまっていることだ。

休日の日曜日、俺が一人で留守番している時に車を運転して買い物に出かけていた際に寝不足トラック運転手に激突で即死だそうだ。

なんとも呆気ない別れに、その後の数日ははあまり現実味がなくひたすらに櫂とゲームだけをして過ごしていた。櫂も俺の都合を知っているお陰か、その時にはもう彼女がいたにも関わらず延々と俺に付き合ってくれた。


ただある日、前までは通学していた学校を休んでまでこんな不健康な生活を送っていたせいか、それとも精神が両親の死を正確に認識し始めたからなのか、唐突にぶっ倒れた。一人暮らしだったので、そのことは誰にもバレることなく事は済んだが、こんな生活ばかりではいけないと思い、取り敢えず身の回りの身辺整理をすることにした。


そこで見つけたのが何枚かの家の権利書だった。

そしてそのうちの一枚は今ここに住んでいる建物のもので、もう一枚が、


「長野、県……?」


長野県の名前の知らない場所の家だった。

そして俺は何を思ったのか、すぐさま俺はその権利書に書いてある家に財布だけ持って行った。


そして長い時間をかけ、もう学生は補導されるほどの時間になってまでも歩き続け、俺はその場所に到達した。

その日が、俺の運命の分かれ道だったのだろう。




















「さて、それじゃあまず最初にやることと言・え・ば。『ステータス』っと」


目の前に現れる半透明な横長の板。

そこにはまるで、ではなくどこかのゲームに絶対にありそうなステータス画面が映し出されていた。


「ふーむ。こんな感じか」


 ――――――――――――――――――――

真部まなべ 浩哉ひろや Lv.1《0%》


職業 《無職》


HP:45 MP:0

STR:31

VIT :25

DEX:49

AGI :78

INT :32


ステータスポイント:0


《スキル》



 ――――――――――――――――――――


「うん。強いのか弱いのか分からん。どこか調べたら出るかな……」


そう思いスマホ片手にネットサーフィンしてみせるが、一向に目ぼしい情報は見つからない。まぁゆーて数時間しか経ってないわけだし理解はできる。

だったら、と思って今度は書き込みサイトに飛んでみると、さっきとは打って変わって様々な情報が入り乱れていた。


そうして色々確認してみたところ。


「こうしてるより結局自分で確認したほうが早いな」


という結論に至る。いや、だってなんか色々な情報が交錯しすぎてどれが本当のか分からなくなってくるし、それに酷いレスバが繰り広げられてることがあるから見てるだけで精神がまいる。


「せめて一般の平均値さえ知ることが出来たら……ってかそれ知る方が遥かに難しいか」


うむ、どうしようか。

俺はどんな種類のゲームでもまず最初は色々他サイトから情報を集めて効率よく狩りをしたりする派だ。勿論ストーリーのネタバレになりそうなものは見ようとしないが、ヒノキの棒一本でスライムに突撃するよりもちゃんとした剣を買って、鎧を纏って、なんなら一番最初は薬草取ってそれを売り、ポーションまで買ってからようやく魔物との対面というのが俺のスタイルだ。


ただ櫂はいつもヒノキの棒を持ってスライム倒しに行く派だったな……。


「……ん?櫂?……そうだ!櫂に聞けば良いじゃん!」


こういう時こそ頼れる友の出番。

名案を思いついた俺は切られた電話を今度はこちらからかける。

スマホを耳に当て、コール音が何回か聞こえてくる。……だが、


「あれ……出ない。休憩終わったか?」


櫂の声は聞こえずに、10回コール音が聞こえたところで俺は電話を切った。


「しゃあねぇ。自力で考えよ。……つってもどうすればいいんだこれ……なんか画面ポチポチしたらなんか出てくるか?」


誰もいない部屋で一人そう呟いてから俺はステータス画面を適当に指で押していく。触ってみると、確かにそこにあるものの今まで触ったことのない感じがする。木でもないし石でもないし、プラスチックでも……


「(強いて言うなら……硝子?)」


なんて思いながら触っていると、唐突に新しい画面が姿を表した。


「うおっ、……『剣士』に『弓師』……『鍛冶師』……職業欄かこれ!」


そこには数多くの文字の羅列があり、塊ごとに分けられている部分を単独で読んでみると、聞き覚えのある言葉が沢山あった。


「はぁーなるほどなるほど。……で結局なんなんだって話よ。余計に知りたいことが増えたんだけど」


職種を選べるのは解明できた。確かに今更だけど職業欄を見てみたら無職になってるし今の職業を照らし合わせてここに示されるのなら、俺は恐らく無職ではなく『ニート』か『農家』になっているはずだ。というかそんなこと言ったら学生全員無職である。


しかも余計に謎が増えた点として、「どの職業を選ぶと、どんな特典が付いてくるのか」ということだ。


「(レベルアップ時のステータス上昇に補正がかかるのか、はたまた得られるスキルに得られないスキルがハッキリと組分けされるようになってくるのか。……もうここまで来たら情報は不確かだが投稿サイトに乗ってる情報を参考にしてみるか?いや、でもそれで痛い目遭うのはごめんだぞ)」


かと言ってここでヤケになってさっさと家を飛び出して不用意にレベルを上げて、もしかしたら存在するかもしれない「職業別の初レベルアップ時の初回特典」みたいなのがあったら洒落にならない。


「う〜ん。流石にこんなシステム作った神様もそんな意地の悪い性格していないとは信じたいが……」


なんて呻きながら頭を抱えていると、数分前に聞いたスマホのコール音がこの部屋に響き渡る。

誰からきたのか。いきなり掛かってきた気味の悪い電話に、眉をひそめながらそのかけてきた主の名前を確認すると、


「櫂?ってそう言えば先に俺が電話掛けたんじゃん。ナイスタイミングだ櫂……もしもし?」

『おーどうした?そんな次話すときは顔を合わせて―――みたいな電話の終わり方したのにそんなすぐに掛け直してくるなんて』

「悪いな、櫂に聞きたいことがあって。この職業欄についてなんだが―――」


と、いうことで俺は考えついた疑問を全て言葉にして櫂に訪ねていった。

そしてそんな疑問に対する櫂の返答は……


『……いやそんなん考えたこともなかったわ』

「お前に聞いた俺がバカだった」


そう言い放って俺は電話を切る。


「……結局俺もアイツみたいに石橋叩かずに歩いていくしか無いのか……?」


ホントにそうするしかないのか……と立ち上がろうとしたその時、再度電話が鳴る。


「……どうした?」

『いや職業欄についてなんだけどよ、仲間に聞いてみたら職業別で初レベルアップの恩恵が違うらしいぜ、なんかそれで「固有スキル」なんてものも手に入るらしい』

「でかした櫂。それでその……『固有スキル』ってのは?」

『なんかその初レベルアップで貰ったスキルをタップしてみたらそう表示されたらしいぞ。まぁ、字面から考えてその人特有のスキルなんだろ』

「ふむ」


世の中ゲーム化しているのならそんな存在も出てくるのではと思っていたがまさかこんな最序盤で手に入るものとは……。てっきりなんか特別なボスを倒して得られるもんだと思ってた。


『んで、ここからが重要、というかお前に知りたかったものなんだろうが……特定班曰く、その最初選んだ職業によって最初得られるスキルの傾向が変わってくるらしい』

「ほう?」


はぁ〜なるほど。ホントに良く出来たゲームみたいだな。


『因みに俺は最初レベルアップしたとき無職だったけど、なんか「取得経験値10倍」っていうの固有スキル貰ったぜ』

「チートじゃねぇか!!」


いきなり聞こえてきたそのトンデモナイ情報に思わず叫び声をあげてしまう。

えっ?いやだって取得経験値10倍?え……やばすぎんだろ。


『だろ?こんなんだから誰にも言えねぇし明らかに他の人たちより成長が速いから必然的にソロでやるしかなくなるんだよね』

「だろうな。というか櫂のくせに英断じゃないか」

『流石の俺とてそんなバカじゃないし。それにお前にゲーム教わった身だからな。そんなヘマはしねぇよ』

「……そうか」


俺は櫂にゲームを教えたつもりもないし、もしあのことを教えたと言っていたのならそれはただの思い違いだ。


「……ま、頑張れよ。そう言えばレベルは上がったのか?」

『いんや、まだだ。あともう少しって感じまで来てるんだが……ただこれからボスモンスターらしいヤツに挑んでみようかと思ってる。それで恐らく6まで上がるだろ』

「…………なぁ櫂。前に俺がそこを発つ時にお前に言った言葉覚えて―――」



『「逃げは恐れることじゃない。未来を掴むための道の一つ」、だろ?』



その言葉は俺の僅かに震える声を断ち切って、ハッキリと言葉にする。


『あのときはコイツなんてクサイセリフ吐いてんだって思ってたが……この状況だとその言葉以上に似合うセリフなんてものもないわな』


笑い声が今この場にいない彼からこの一つの機械を通して聞こえてくる。


「分かってるなら俺もこれ以上言うまい。それじゃ、知りたかったこともしれたし、また偶に電話するぜ」

『あぁ、じゃあな。次会うときは互いのステータス自慢でもしようぜ!』


そうして通話は切れた。


「(良い友達に恵まれたもんだ。俺は運が良い。そして運の良い俺は絶対にアイツのもとまでたどり着けるただ一つ懸念点があるとすれば……)」


彼の言ったことを頭の中で反芻する。


―――なんか「取得経験値10倍」っていうの固有スキル貰ったぜ。


そして手元のスマホから櫂のメッセージの履歴を確認。


『ようやくレベル5にアップしたぜ!』


「……、か」


……なんだか悪い予感がしてならない。

そんな不安を募らせながらも、俺は遠出する準備を開始するのだった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき。


趣味全開物語の開始です。

人気出てきたら(遅めの)不定期更新からなんとビックリ中二日投稿するかもしれないのでそこんところよろしくお願いします。


あと主人公の性格上、戦闘シーンに入る機会をことごとく避けるので結構少なくなるかも知れません。それでも良いよという方は引き続きお読みください。

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