第14話


 ◇ ◇ ◇ 二〇五二年 七月 四日 午前九時 五三分


「残り三〇秒。下忍とはいえ相手も忍者だ。痕跡を残さない為に力は使えない」

 俺はTOKYO銀座のヤクザ事務所。組長室で金庫を漁っている。

 部屋は首都の事務所だけあり、家屋も三階建ての最上階で家具も豪華だ。

 レッドカーペット、幾つもの観葉植物、歴代組長の写真の数々、ブランドの家具。

 過去に忍び込んだ、高級ホテルに匹敵する内装だ。

 そんな所で盗人働きをする理由は、入社?したギャング団の仕事である。

 今日は他のヤクザに売る為に、シノギリストを持って来いと命じられたのだ。

「分かってます」

「それなら良かった……さぁって、残り二〇秒」

 周囲には誰もおらず通信機器もない。パソコン画面に映るシノギリストも暗記だ。

 それでも言葉を返す人物が居た。魔術師であるリコちゃんである。

 魔術とは忍者とは力の源泉が違うらしく、忍者にも察知されない。

 今は魂を飛ばす魔術で、ナビゲートや周囲の警戒をして貰っていた。

「残り一〇秒……完了と同時に忍者走りで逃走開始するよ」

「了解です。皆にも伝えますね」

 逐一返答してくるリコちゃんが、どうにも珍しく感じる。

 公安に所属していた時、契約社員だからと滅多に誰かと忍者働きをした事がない。

 敢えて言うならば、俺が教育していた子達だけだろう。

 懐かしい感慨にふけていたが、ふとした疑問が生じる。

「追跡を振り切る為に、隠蔽工作してから合流するから……それでさ」

「何でしょう?」

 やっぱりだ、すぐに声が帰ってくる。

 木の葉の葉音さえ感じる超感覚が、声はすぐ隣から聞こえると教えてくれた。

「見張りって隣に居ても出来るの?」

「出来ませんよ?」

「え?」

 気配がしないリコちゃんから、意味の分からない言葉が飛び出す。

 見張りが隣で声をかけてて。隣に居たら見張りは出来ない? 何を言ってる?

 俺

 思わず素で返してしまい、彼女を問い正そうとした時。

 ガチャリと扉が開かれ、談笑する男が二人入って来た!?

 着物を着た老人。場違いなTシャツの青年……脳内人脈データと一致。

 それはこの組の組長、そして派遣されている傭兵忍者の下忍だ!?

「ちょぅおっ!?」

「何奴っ!?」「お下がりを組長!?」

 三者三様。全員が思わぬ状況にひっくり返った。

 組長は自室に見知らぬ男が居る事に。

 下忍たる青年は、忍者の超感覚にさえ映らない隠形能力を持つ俺に。

 俺は会うはずのなかった、彼らの登場に。

 考える前に体が行動に映った。即時撤退!

「御免っ!!」

「曲者だぁあ!? 護衛! 護衛!、組長!!」

 パソコンに映るデータを目で追い終わり、すかさず高速機動に入る。

 下忍も同時に高速機動に入るが、彼は護衛対象たる組長を庇う。

 俺はフェイントで窓から飛び出す動きを挟みつつ、天井へと跳び上がった。

 天井のアクリル板を外し、天井裏を駆け巡って煙の様にダクトから脱出!

「ゴメンなさいぃっ!」

「話は後だ! まずは脱出っ!!」

 俺は事務所の屋上に降り立ち、鳥も雲も人も静止した世界で跳び上がった。

 リコさんの慌てふためく声が、背後から遅れてやってくる。

 更に後方から、下忍が怒声をあげて追跡している様だ。

 俺は忍者として全力を振り絞り、追手を撒く事に集中した。

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