第二章
第13話
◇ ◇ ◇
夢を見ていた。山々に囲まれた田舎で、時期は真夏なのか蝉の音が五月蠅い。
農村の中は藁葺き屋根ばかりで、村の最奥には最も大きい寺社があった。
寺社には日本庭園の観葉植物が葉を揺らし、合間を縫って二人の子供が走る。
陽炎が玉砂利よりゆらめく場所で、彼らは笑い合っていた。
「ほらっ! 行こうよ、逃がしちゃう」
「待ってよ。お兄様っ!」
片割れの少年は髪を乱雑に片方伸ばし、幼女を抱き上げると猿の如く走る。
対する幼女は品のある顔立ちで笑い、日本人形じみた長髪を揺らす。
暫くして僧衣を纏った大人達がやってきた。
彼らは少年少女を呼び出すと、幾つか堅苦しい言葉で何かを諭す。
「……っ!? っ………」
少年の表情は初めは喜ばしげに、次に驚きに変わり、最後に思い詰める。
対する少女も最初は不思議そうで、次に喜ばしく変わり、最後に驚きに変わった。
「でも、だってっ!」
幼女が喚き散らすが少年は二度と笑わず、頭を垂れて地に這いつくばる。
大人達はソレを見て喜び、少女に告げた。
「これが雑貨の忍よ。良くぞまぁ、この平和な時代に育て上げたものだ」
少女に似た顔立ちの老人に、少年に似た顔立ちの男性が恐縮そうに頭を下げる。
少女は少年の肩を揺らすが、少年は頭を上げない。
見かねた法衣の僧侶達が、少女の手を取って去って行く。
「ハジメよ、アレがお前の主。忘れるな、お前は雑貨衆を背負う忍なのだから」
少年は焼けた鉄板の如き、玉砂利の上で這い蹲って頷く。
その表情を誰が見る事も無く……。
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