第12話



 ◇ ◇ ◇ 二〇五二年 六月 二五日 午後六時 〇〇分


 俺はARMSの兵士を殺害して、野暮用を済ませながら計画の場所へ急ぐ。

 既に夕暮れは過ぎて、夜空には星々が煌めいている。

 目指すは高級住宅街の豪邸。ベージュを基調とした館だ。

 一分程でTOKYOを走破すると、丁度彼女達も到着した所だった。

「彼は戦国時代に存在した傭兵忍軍。雑貨衆の末裔にして……あら?」

「ぁっ!」

 俺が車庫へと近づくと、彼女達も気づく。

 ツクモちゃんは不審げに眉を顰めて、リコちゃんは安堵の息を吐く。

 そしてキィちゃんが満面の笑みを浮かて、二人に紹介してくれた。

「日本お抱え忍者集団。公安編纂室に所属していた抜け忍……つまり忍者よ」

「ご紹介に預かりました。雑貨・一です。今日からお世話になります」

 ネクタイのないラフな姿で頭を下げると、二人も小さく頭を下げてくれる。

 入口に立ってては威圧感があると思って脇に退くと、キィちゃんが車から降りた。

「状況は?」

「敵戦力は全滅。示威行為は十分。高級車のタイヤ跡も隠蔽して来ました」

 キィちゃんは報告を聞いてどうやったのか聞きもせず、満足げに頷いて外に出る。

 とはいえ報告する事でもない。

 高級車を見た人間の記憶を妖術で消して、タイヤ跡を隠蔽しただけだ。

 忍者は短時間ならば亜光速まで加速出来る。大した仕事でもない。

「あ、あの……」

「うん? あぁ、どうも」

 振り返ると後部座席から降りた少女達が、俺に声をかけるのを待っていた。

 ツクモちゃんは相変わらずだが、リコちゃんは友好的な笑みを浮かべている。

 俺が頭を下げると、リコちゃんが駆け寄ってきて頭を下げ返してきた。

「ありがとうございましたっ!! リ、リコ。死ぬかと思って!!」

 この子は人見知りなのか、言葉はドモる所が多い。

 それでも初対面の人間に対する丁寧なお礼は、好感を抱くには十分だ。

 俺は表情筋を動かし、笑みを浮かべて彼女の肩を叩いた。

「無事で良かったよ。もう大丈夫だからね」

 顔をおずおずとあげたリコちゃんが、目に涙を溜めながら何度も頷く。

 生憎俺はハンカチを持ってない。どうしたものかと考えてると……。

「質問。貴様が雑貨衆だと言うのは本当?」

 怒ってるのか困惑してるのか、複雑な表情のツクモちゃんが後ろから声をかける。

 俺は質問とその表情に、正解が分からず無難に返した。

「えぇまぁ。詳しい事はキィちゃんから話があると思うけど」

 ツクモちゃんは「そうか」と呟くと、無表情に戻ってしまう。

 人形みたいに綺麗だが、リコちゃんとは別な意味でコミュ能力は低い様だ。

「何でボクらを助けた?」

「貴方達の会社に雇って貰う事になったんだ。君達とは今日から同僚って事」

 そう。俺が三人に助力した理由がソレだ。

 キィちゃんはお金持ちで、会社まで建てているらしいが暴力に屈していた。

 俺は抜け忍でお金も戸籍も未来もない。だがARMS程度は蹴散らせる。

 だから俺はキィちゃんに雇われるべく三人に助力した。簡単な入社試験だ。

 説明していると、キィちゃんが館の入口から顔を出しつつ叫んでいる。

「早く来なさいよ~!! アタシだけ入ってもしょうがないでしょ!!」

「んもぉ……キィは。分かった! ボク達もすぐに行く!!」

 何かを言いたげなツクモちゃんが叫び返す。

 リコちゃんも漸く嗚咽の停まり、彼女に手を引かれて館に入る。

 俺も後ろを追いかけつ……緊急事態故に聞けなかった事を聞いた。

「キィちゃん達の会社は、何処にあるんだい?」

 キィちゃんから二人さえ助ければ、後の心配は要らないと聞いている。

 だから聞きたいのは箱物ではなく、どんな業務内容なのかって事だ。

「……? アジトはバラバラよ。今はこの館ね」

「アジト。えーと会社名は?」

 きょとんとした顔をしたキィちゃんに、俺は嫌な予感がした。

 アジトという言葉をカタギは使わない。

 考えてみれば違和感があった。その違和感が線と線で結ばれていく。

 俺の顔を見たキィちゃんは、今日一番の笑みを浮かべて自信満々に胸を張る。

「ようこそ、脱サラ忍者さん。零細ギャング団『アウトレイジ』へ」

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