破壊
季節は巡り、葉が染まる時期になった。私は授業中、ノートに中庭に咲いている秋桜を描いている。春の桜は見ていて幸せな気持ちになるのに、秋の桜は寂しい気持ちになるのは何故だろう。
今度の高校生のコンクールがある。テーマは「花」。これで最優秀賞を取れば事務所の目にも留まるような大きなもの。私は今まで以上に本気で取り組んだ。でも、今までの劣等生の自分が脳裏をよぎって思い通りの絵が描けない。気分転換にとある場所に向かった。
渋谷駅は人が疎らだった。前の記憶を辿って1つのビルを目指す。今日は快晴という事もあり、まだ夏の暑さが残っている。前来た時と変わらずそこだけ輝いているかの様な雰囲気を醸し出していた。ここに来ると何もかも忘れて絵に向き合えていると感じる。私は近くに咲いていた赤い彼岸花を描いた。でも、自分が理想としている絵ではなかった。ネットで見たあの綺麗な絵から、画廊で見たあの美しい絵から、沢山技術を得ようとしたはずなのにどうしてこんな醜い絵ができてしまうのか。私は自分の無力さに耐え切れずその紙を破って近くの川に投げ捨てた。そして、決意した、「もう絵は描けない」と。
人生の核だった絵を捨てた私にやりたい事なんて無かった。学校に行く勇気もなく家の自分の部屋で引きこもっていた。友達からのLINEも見る気になれなかった。親には全ての事を話して理解してもらえた。こういう時に、私はあの2人が親で良かったと思う。別に自分の理想の絵が描けなかったと言って普通こんなに落ち込むとは思わないだろう。でも、特化してきた私とってネット上のライバルと比べたら大したものも描かないというのは今後のモチベーションや将来大人になった時に関わるとても重要な事。だから、切り捨てるなら早めにして、別の本気で取り組めるものを探そうと決めた。
「いらっしゃいませー」
普段他の人と関わらないせいで無理やり作ったぎこちない笑顔になる。やりたいことを見つける間、家から少し離れたオシャレなカフェでバイトをすることにした。学校には行くようになったが、アルバイト禁止のところなのでバレないようにするために敢えて家から離れた所を選んだ。不慣れなことで迷惑をかけることも多々あったが、今までの絵しかしてこなかった時と比べて人と関わるようになり楽しく過ごすことが出来た。学校の友達には絵を辞めたことは伝えなかった。バカにされてしまうような気がして、除け者にされてしまうような気がして。だからバイトの知り合いの人との方がありのままの自分で交流できるようになっていた。
ある日、私がバイトをしている時学校の友達が来店した。
「麗、こんなところで何してるの」
「朱音(あかね)。そっちこそなんでここに来たの」
彼女は雨鳥朱音(あまとりあかね)。私がよく仲良くしていた親友だ。
「たまたまこの辺に用事があって、お店の雰囲気良さそうだったから、通りすがりで入ってきただけ」
「そうなんだ」
「麗さん。知り合い?今日のシフト切り上げていいから話しておいで」
店長がそう言ってくれたので私は私服に着替えて窓側の席に朱音を呼んだ。彼女なら理解してくれる、そう私は信じてあの事を話す事にした。
「朱音に聞いて欲しいことがあるんだけどいい?」
「いいよー。何?」
「あのね。私もう絵描いてないんだ」
「えっ、なんで」
「もう無理って悟ったの、私の実力じゃ。世界には私よりずっと才能があって、それでいてずっと努力している人が山ほどいるって知った。だから、ごめんね」
「何それ。私の事を馬鹿にしてるつもり?」
「別にそんな事ないよ」
「だってあんた私よりもずっと上手く描けてクラスで1番努力してたのにそんなこと言うって。私の努力を貶してるの。私の夢を否定してるの」
「本当に違うんだって」
「信じられない。あんた最低。もう、私の前からいなくなって!」
「...」
私は駆けていく彼女の姿をただ呆然と見ているしか出来なかった。
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