盗作
雨音の雑踏の中で私は目を覚ました。部屋には、クロッカスの香水の匂いが漂っている。分厚い雲に覆われている日は何をするのも億劫になる。でも、今日は友達と渋谷に行く日。私は朝ごはんを食べてから傘とバックを持って家の玄関の扉を開けた。日曜日ということもあり、電車の中は空いていた。初めての私服姿と言うことで皆洋服が気になる。私は一番お気に入りの黒地にマークが入ったTシャツにを着てきた。足を弾ませながら集合場所へ向かった。
「みんなおはようー」
「おはよう」
「皆集まったから早速画廊に行こうか」
「うん!」
外に出ると雨は土砂降りだった。斜めに降る水が傘を差してもそれをすり抜け私達の服に染み込む。10分程歩いて目的の建物に入った。
「すごい!」
「綺麗!」
皆の歓声の声が聞こえる。
「静かにしなきゃだめだよー」
「そうだったねー」
でも盛り上がる気持ちも分かる。沢山の幻想的な絵に囲まれたこの空間は私達が目指すゴールそのものといえる。巨大な桜の木が植わっている街、1つのビルに照らす光、月明かりが散っている未来都市。他にも様々な絵を十二分に見た。私にとって、至福のひとときとなった。
時計を見ると針が1時を回ろうとしていた。雨は朝ほどではないにしろ傘が必要な程度には降っていた。私達は手に沢山買った物販を持ちながら近くにあったコーヒーで有名なチェーン店に入って昼食を摂った。駅に向かう途中私は不思議な光景を見た。通りから少し外れたところにある、1つのビル。そこだけ雨が降っておらず、太陽の光が差し込んでいた。ただ、ただ、綺麗だった。涼風が吹いている。今度そこに行ってみたいと思った。気が付くと皆が先を歩いていたので私は急いで追いかけた。駅で別れた後、近くの家電量販店にペンタブを買いに行った。普段遠出することがなく買う機会を逃していたが、高校生になってそろそろ性能がいい少し高めなものが欲しかった。そんな事をしながら私はこの日を楽しんだ。
夜、私は絵を描いていた。窓越しに見えている景色を。いつもよりも月が大きく明るく見えた様な気がした。
それから暫くして定期考査の時期になった。あの日以来絵を描くのに夢中で、真面目に勉強出来ていなかった。最初のテストということであまり難しくはないはず、と信じながらテストに臨んだ。はっきり言って結果は良くなかった。それどころか順位のピラミッドの麓の方だった。
「まだまだ沢山回数はあるからそれで頑張れば進学は大丈夫だよ」
友達から慰めの言葉を笑って誤魔化しながらも、周りの点数の良さに少し羨んでいた。
考査明けの授業で私はしっかりと授業を聞くようにした。それが当たり前だろって言われたら言い返す言葉もないが普段から絵のことを考えていた私にとっては珍しいことだった。でも、三日坊主で集中力は切れてしまった。その結果2回目の定期考査も散々な点数だった。私に勉強は向いてないのではないかと思い始めてきた。
夏休みに入り皆がテンションが鰻登りになり始めている。そんな中私はテストの点に落ち込みながらも時間に余裕ができてネットの人達と交流する様になった。そして、自分では気づかないうちにそんな人達から技術を盗むようになっていた。ネットの人と話しているうちに、私も世界の何処かにいる誰かに自分の絵を見てもらいたいという気持ちが出てき始めた。SNSを始めて、それに絵を載せるようにした。でも、私の絵を褒めてくれるようなコメントやいいねも殆どない。クラスの中でも得意な方だったから、貶されるとは思ってもいなかった。でもこのアプリには自分と同じくらいの年齢でも、プロの様に綺麗なイラストを描く人が山ほどいることを知った。私は、アプリを消し自分は劣等生だということに絶望を抱いた。
それ以来学校で私の絵を褒められても何の嬉しさも感じなくなった。「井の中の蛙大海を知らず」という諺はこの為に作られたのではないのかと思う。でも私は諦めなかった。皆から尊敬される様なイラストレーターになる為に。私はSNSを再び始め、いろいろな方のイラストを参考することにした。よくよく絵を観察すると、私の描いたものとは違い、細かいところまで綺麗に色が塗られていて光の表現もとても美しかった。いかに自分に自惚れていたのかよく分かった。だから自分ができる範囲で絵を真似で技術を得ようと思った。
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