第1章 摩天楼の光

10まんぼると

その先に……

 夜の帷が降りるころ、私は喧騒に包まれた街の中を歩いていた。何処に行っても人だらけ。独りになりたい。周りの目を掻い潜るように私は生きてきた。


 降り出す雨。人が疎らになるこの天気は私にとって都合がいい。誰からも蔑みの目で見られる事無くこの廃れきった世界を独り占めできるからだ。周りの目を気にしながら大通りの脇道に建っている古けたビルへと足を踏み入れた。煤けた床に所々剥がれている壁紙。私は電球のつかないエレベーターにのり屋上まで上った。道路の反対側を見ると大きな川が流れている。私はこのビルは2つの世界を繋ぐ建物のように感じた。錆びたフェンスを跨ぐ。もう後悔なんてない。もう恐怖なんてない。私は川へと身を投げ出した。


「今までありがとう。そして…」



 「初めまして。水沢麗(みずさわうらら)です。これからよろしくお願いします」


高校の入学式の日、私は期待を膨らませていた。中学校の時とは違い、家から電車で行くような少し遠い所。でも夢を叶えるためにこの高校にきた。私の夢はイラストレーターとして成功すること。だから芸術大学への進学率のいいこの高校に来た。中学校のころ頭がいい方ではなく、生徒指導の先生にも諦めたほうが自分の為になると言われていたが、心骨削って必死に勉強した努力の結果無事報われた。諦めなければ夢は叶うとそう信じていた。


 授業が始まって1週間程が経った。私には仲の良い友達と言えるような存在が何人かできた。休み時間に話したり、放課後に遊びに行ったりと充実した日々を送っている。進学率の事もあり、イラスト関係の話も盛り上がった。誰からも見放されていた中学校時代とは違い高校生活はまるで桃源郷に来たかの様だった。


「今度皆で一緒に渋谷の画廊に行かない?」


私を誘ってくれたのは雪谷呉葉(ゆきたにくれは)。クラスのムードメーカーで皆から人気がある。


「うん。もちろん!」


私は二つ返事で答えた。毎日しているイラストの練習の息抜きとして丁度いい。昂る感情を胸に留めながら、その日を待った。


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