第17話

 「そう思ったら、あなた達はどうしてここにいるの?」

 息子たちに聞いてみる。

 すると、

 「儀式典長さんに、ここに連れてってもらったの」

 という、衝撃的な内容だった。

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 『サシラスでトーナラ国皇子暗殺!』

 『犯人は行方不明』

 『トーナラ国皇子ロウ様、暗殺される』

 『トーナラ国激震! 犯人はいづこに』

 『ロウ皇子に哀愁の意を』

 わたしは今朝の新聞を読んで衝撃を受ける。ロウ皇子が暗殺されたという情報は嘘だと信じたかった。しかし、すぐにそれは事実だと知らされる。

 防犯をしていた軍の幹部の一人からすぐに宮殿で情報が知らされたからである。

 皇帝陛下はそれを聞いて、すぐに膝から崩れ落ちたらしい。長男はあまりの衝撃に業務を欠席なさった。

 民衆は早速、焼身自殺、飛び降り自殺、デモと一瞬で乱れてしまった。このままだと、再び民衆が宮殿を破壊しかねない。私は皇帝陛下のところにいって、沈静するための手段、葬儀の執り行いを発表するよう促す要準備をした。すると、こんな忙しいときに私に用がある、と言って入ってくるものがいた。後にしてほしいところだが、陸軍の最高幹部の妻が用事があると言われたら付き合うしかない。

 「入りたまえ」

 すると、扉が開いて軽く挨拶をされる。努力をした人間にふさわしいパートナーとも言える存在感がある女性だ。

 「私の旦那よりご要望です。ロウ様の息子を何処か別の場所に避難させたく参りました」

 そして、わたしがその話を聞いた瞬間、とんでもないことに気づく。

 しかし、一旦はふりをして建前を伝える。

 「暗殺されたからっといって、子どもを別の場所に避難させることは帝王学的によろしくない。また、あの屋敷はかなり丈夫ですよ」

 しかし、この言葉を聞いても彼女は全く微動だにせず、目線も鋭い。

 「夫から聞きました情報も合わせてお伝えします。サシラスで行われたパレード。皇帝陛下は警備不要、と命令されてたそうです」

 軍の警護を不要にした? いよいよ皇帝陛下の本性が現れたということか。私は周りに盗聴器があるかを確認する。・・・あったが、すでに破壊されている。

 「私の夫の防犯を無くすとは明らかにおかしいです。私もそのことを聞いた瞬間このままでは危ないと感じております。どうか、私の話しを」

 「もう、偽らなくても良い。なにか不備があったか」

 私は彼女がすでに演技だと理解した。正確には私もだが。

 「旦那を愛していることは本当ですけどね。儀式典長カッレ」

 彼女はほほえみながら、本性を顕す。

 「なるほど、コードネームか。33・・・ミミとでも呼べばいいのか」

 私は彼女のAIをよんで名前を確認する。

 「呼ぶのはお好きに。でも女性の心に侵入するのは良くないんじゃない」

 彼女は微笑んだまま崩さない。

 「箱庭のルールをそういうときに使わないでもらいたい。本題を教えてくれ」

 儀式典長カッレもミミも『観測者側』の人間なのだ。

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 「第一次世界大戦のきっかけ、オーストリア=ハンガリー帝国の皇太子フランツ・フェルディナントがセルビアの首都ベオグラードで暗殺されたときの再現になってない、ということですか」

 カッレはミミからの説明を聞いて、おおよそ理解する。

 「そういうこと。なので、ジアって人はAIを2つ内蔵した特殊人間。まして子どもは急成長させてAIを内蔵させた英才教育。これだけの人材となれば、こっち側で生かすべき、と判断された。だから、さっさと許可しなさい」

 ミミはカッレに詰め寄る。

 「まあ、許可は出しますよ。どうせ車や飛行機はありそうですし。ただ、その後はどうするんですか。こっちの国には住めなくなるでしょ」

 カッレは外出許可証を作成して、印を押し、尋ねる。

 「第一次世界大戦の形をもって不死身達による独裁化はまずいから、彼らを滅ぼすことになるそうよ。私は子供と一緒に逃げるけど、あなたもさっさと逃げなさいよ」

 ミミはそう言いながら、許可証を受け取る。

 「夫を愛している、は嘘だったんですか」

 カッレは苦笑するが、彼女は否定する。

 「大丈夫よ。夫のコピーはもう造ったし。わざわざ本物に拘る必要はないでしょ」

 ミミはその言葉を最後に「じゃあ、いくわよ」といって扉を開けようとする。

 「いきなり、あなたが中に入っても混乱するでしょう。私の映像メッセージも一緒にAIから出力させてください」

 そういって、カッレはAIに即座に映像を作成させて、ミミのAIにロードする。

 「ん、どうもです。じゃあ、お先に」

 そう言って、ついに出ていった。

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 ロウとジアの住まいに到着し、扉用ノックを叩く。

 「どちら様ですか?」

 「陸軍最高幹部の妻です。開けてもらえますか?」

 すると、扉にちょっと開いている穴から確認をする。・・・なるほど警護の人も雇ってたと聞いたのに誰もいなくなってる。皇帝陛下の命令で見張れなくなったな。

 「大変おまたせしました」

 メイド姿の使用人が扉を開ける。脳からはとても不安がってる。

 「じつは、夫から頼まれて全員別の場所に移動ということになりました。恐れ入りますが、お子さんをお願いします」

 警備がいないので、あまり猶予はないと判断して、使用人には悪いが、操ることにした。ついでに記憶操作して、今日付の退任にもする。

 「かしこまりました。ほんと、誰も警備がいなくて不安になったんです」

 そう言うと、玄関まで入れていただき、他の使用人とともに子どもを連れてきた。

 どの子もまあ、将来有望な美青年になりそうな男女だ。そう思いながら、庭に思いきり侵入させて車を止めさせた。

 「お姉さん、どうしたの?」

 子どもたちには使用人から家族の情報を教えてもらってないのか。とにかくのんびりした様子だった。まあ、混乱するししょうがない。

 「いまから、今別のところにいるお父さんとお母さんのところに一緒になってもらうことになったの」

 すると、子どもたちは笑顔がいっぱいになった。

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 車の中では、AIでどれだけのことができるかを聞いた。

 「ええっとね、計算とか、分かんない字とか教えてもらってる」

 基礎的なことが中心でできるみたいだ。果たして、映像は見せて良いものか。もし、狂いだしても私は直せないんだよな・・・

 「お姉さん、どこでお父さんとお母さんが待ってるの?」

 純粋に私を信頼しているし、今はそのままでいこう。

 「これからね、お空の旅に出かけるんだよ、鳥さんみたいに」

 そう言うと、また子どもたちが喜んだ。

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 飛行機に乗っている間に子どもが長時間で少し飽きてしまう。私の頭のAIは運転で使ってて少しきつい。致し方ないので、さっきの映像を飛行機にあるミニシアターで流してみた。

 すると・・・

 「あっ、いつも様子見てきてくれる儀式典長様だ」

 わあ、ウキウキしながら子どもはみる。内容は実際真面目なものなのに理解が急激的に・・・いやAIが進化しているのか。子どもたちが適応しているのがわかる。

 実はあのおじさん、結構すごいのか。いや立場は上の方で着いてたし相当か。

 「つまり、私たちはあそこで暮らせないんだね」

 理解した子どもたちが少ししょんぼりとしている。

 「でも大丈夫だよ、お父さんとお母さんがいるし」

 すると子どもが、

 「ありがとう、お姉ちゃん。でも僕たちまだ若いから。新しい場所でもお願いします」

 以前の幼さが、少しなくなっていた。

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