第16話
「よく耐えましたね。終わりましたよ」
マザーの声が聞こえ、私は目を開ける。舌下にあった違和感がなくなった以外に特に身体の異常は見られない。
『ん、ここは・・・』
私のAIとは別に明らかな人間らしい声が聞こえる。
「もしかして、ロウ?」
私はその声に尋ねる。
『えっ、ジアン? これは・・・ンj地お。l;、bfsz¥。gん、sr』l;ん、。¥fd」SV>]*yp5-』
私だと認識したようだが、また狂ってしまった。
「だんだんと、狂うこともなくなります。今はまだいろいろな情報を整理しているところです」
マザーが補足してくれる。
『んkじえrご:bdfl;、ghbそうか、ジア。やはり君が私を救ってくれたんだね』
ソアは涙を流せてないだろうが、まるで嬉し涙を流す熱さで喜んでいる。
「ええ、私もあえて嬉しいわ。ロウ」
「これからは、わざわざ口に出さなくてもロウという名のAIとは会話できるようになります。また、ロウ側の感情表現がジア側の脳で行うことはありません。これからは2つのAIに意見を聞きながら、多くの物事で対応をすることになります」
マザーは現在の状況を説明してくれる。
「うわー、すごいすごい。試しになんか質問してみよう。この後何が食べたい?」
フォークルちゃんは終わった様子を見て、面白がり、早速質問をする。・・・それAIに質問して意味ある?
「私は肉料理が食べたいかな」
『魚料理が食べたいな」
・・・そう思えば、私とロウの食の趣味は全然違うんだ。ゆえに間違いなく、彼はロウだ。
フォークルちゃんは爆笑している。
「あはははは、ホントだ。2つの意見が出てる。すごいすごい。あはははは」
いきなり、意見がまっ2つに割れてしまった。
2つ意見を得られるということはだいぶメリットが多いはずなのだが。いきなりデメリットを出されてしまっては困ってしまう。
「意見が割れたときは好きなようにしなさい」
マザーは割れたときの対処法については雑だった。そもそも2つのAIを入れてる人が観測側にはいないのだろうか。
フォークルちゃんは、私が困ってる様子を一通りみてから、話を進める。
「時間もだいぶ立ってるから食事部屋を案内しようと思うんだけど、今日はこれで大丈夫だよね、マザー?」
フォークルちゃんはお開きにしようか、とマザーに伝える。
「今日は構いませんが、明日からはジアにも私たちのメンバーとして働いていただきます、よろしいですね?」
マザーから再度の確認がくる。おそらくこれは、ロウにも同意を得るようにするためだ。
「はい、仰せのままに」
『私はジアのそばに仕える身。ジアの望みが私の望みです。そして、私を救っていただきありがとうございます』
ロウもマザーに対して忠誠を誓う。
この瞬間をもって、私は観測者側の人間となった。今までの箱庭と呼ばれる核融合爆弾の投下後に起きた、人類の発展。それにより中世レベルまでたどり着いた。しかし、実際はそれはアメリカ側で観測用に作られた箱庭。明日からは全く違う世界で生きることに不安はあるが、ロウと一緒なら大丈夫だろう。
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フォークルちゃんに食事の場所を案内される。ビルの最上階20階だという。エレバーターでは、フォークルちゃんに新しい技を教えてもらった。
「20階だと、こちら側の景色とかも見れるからいいんじゃない。まあ、何かあったときはAIを別の場所に移動保存するから覚えといて」
そうは言われても私は、AIを別の場所に完全転移する方法を知らない。転移さえすればまた別の人間の形代に乗り移ればいい、ということなんだけど。
そのことを正直に伝えると
「そうか、じゃあこの機械に移りたいと念じてみて」
すると、ポケットからカードキーみたいなものが出てくる。念じてみると
『ふえ、なんか私がいる!』
鏡でしか見たことのない自分の姿がそこにあった。そして、
「え、私がジアになってる」
私の身体をジアが持っている。
フォークルちゃんは目を丸くした後、大爆笑。
「あははは、本当に面白い。そうか、AIが2つあるからそれぞれが念じないと片方残っちゃうんだ。でも、すごい便利!」
ちなみに、マザーという人がアップグレードしてAIが内蔵されてる物に転移できるようにしてくれたそうだ。このあたりはだいたいAIが入っているのでどこでも移動できるらしい。
「AIに自動操縦とかをお願いすれば、飛行機を無人で操れたりするよ。おかげで、アメリカは一切の犠牲者出さずに核融合爆弾の被害も防げた、というわけ」
はあ、観測者側の世界は怖いわ。ここまで差がついているとは。
その後、ロウもカードキーに一緒に移動ができた。容量とかの問題も記憶を圧縮すればなんとかなるみたいだ。私の身体の方はその間、AIが自動操縦している。人間の本能、生活リズム、癖などもAI[に入っているためまるで私の魂がないのに私以上に私を演じてくれるそうだ。いやこれはだいぶ洒落にならないスペックを得たことになるな。
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20階に着き、エレベータが開くとものすごい広い食堂が見えた。よく見ると、私とロウの子どもたちがいた。
「おかあさまー」
子どもたちも私を見て三人駆け寄ってくる。
「無事だったのね。良かったわ」
私は嬉しさで涙が出てくる。
「お父様は?」
子どもたちは父親のことも心配そうに聞く。彼らの成長速度の増進は今は行っていないため、あくまで思考は3歳。AIもその年令に合わせるように調整しているため、まだ父の死を理解はしてないのか。それなら、私の説明も理解ができるのだろうか。
「親は親なりに考えるか・・・こちら側だとそういうのないからなぁ」
フォークルちゃんは私を見ながらどうするのか観察している。
『お父さんは、ジアと一緒にいると伝えてほしい。大丈夫、私とジアの子どもだ。ちゃんと理解するよ』
ロウは私に説明してくれと、促す。
「この子たち、かなり優秀よ。私たちがここに避難させた時、どんなところかすぐに理科した。AIの移動技術なんかもできるようになったわ」
私はフォークルちゃんの言葉に驚く。私は覚悟を決めて、伝える。
「お父さんは、ここにいるわ」
そう言って、舌下を見せる。
すると子どもたちは「すごい、さすがはお父様とお母様」といって、尊敬の眼差しをする。AIというものを認識しているらしい。
『ロウ、入れ替わってくれる?』
私はロウにお願いをする。移動もできるんだから、入れ替わることもできるはず。
『hjたbdfsvf.;:r・てあ¥lhb,mんkrfsl;:、dxlrg.t;』
ロウのAIが少し狂い出したが、すぐに。
『hみbdkf;ぞl;f.;。;b:fd.b;d:f↑対応可能。少々お待ちください』
「いま、お母さんとお父さんが入れ替わるからちょっと待っててね」
一回目をつむり、また開いたときには
『私はAIの中になったね』
「子どもたちの熱を感じるよ」
ロウとの入れ替わりに成功した。
「我が息子よ、よく我慢できたね」
そう言うと、子どもたちは大喜びで騒ぎ出す。「すごい、もう一回」などの声がもれてくる。まあ、流石に違和感出るからもう一度やるけど。
ロウが目を閉じてくれて、目を開くと
『もとに戻ったね』
「普段は私の方だからよろしくね」
と、ちゃんと元に戻った。
その様子を見ていたフォークルちゃんは
「わお、世の中いろいろなことがあるものね。私の想像できないことがまた起こるなんて」
と、ただただ驚くばかりだった。
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