第11話

 しばらく走り続けて、何とか宿泊予定の施設に到着した。周りは「よくぞ、ご無事で」や「誠にいたわしゅう」等の声が聞こえる。私はとにかく涙をこらえながら、陸軍の最高幹部に尋ねる。

 「まずは、ありがとう。ですが、なぜ軍の警備隊がみな私服だったのです?」

 その声には怒りも入っていた。

 「皇帝陛下の命令で、本来警備をしてはいけない、ということだった。しかし、それはあまりにおかしいと思い、一般市民を装っていた」

 軍は軍なりに努力をした結果か。最高幹部は続ける。

 「しかし、私の責任です。どうか罰を」

 しかし、私は「顔を上げて」と伝える。そもそも貴族でない私にどうすることもできない。皇帝陛下もおそらくは私たちに何かあったほうがよいと、自分の保身のためにやったのだろう。ロウの命を返してほしい。

 「少なくとも今のトーナラ国はなにかおかしい。奥様は私たちが見張りますので今日はこちらでお過ごしください」

 私は部屋から外の入り口からあちらこちらに警備がある状態で宿泊施設で過ごすことになった。

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 部屋はまず、盗聴がされていないかの確認がされてから入る。中はいたって普通だった。私も念のため、なにか仕掛けがないか特にない。そこから一気に疲れが出たのか身体がしんどくなった。しかし、自分をよく見ると血糊などがべっとりのためまずは部屋にあるシャワーを浴びる事にした。電話を繋いで服の用意をお願いして、そのまま脱ぎ捨てて、シャワーに入る。その時手にはずっと握りしめていたロウのAIチップがあった。一旦シャワー室に入ったままこれをどうすればよいか熟考する。

 ロウも私のAIも『生き返ることができる』といったが、そもそもどうやって他人の身体にロウのAIを入れるのか皆目見当がつかない。代わりの肉体の宛が全く存在しないのだ。しいて挙げるなら乳幼児製造機を用いて私とロウの遺伝子の子どもをもう一人作ってAIチップを埋めることだが、トーナラ国に戻ることは先程の陸軍最高幹部の話を聞く限り、ほぼ不可能だろう。そこであることに気づくのである。

『ねえ、AIって確か舌の口に埋めれたわよね?』

私のAIに尋ねる。

『k

 p@

 えづ

 あgk

 mぎえg

Gあ』

 AIが珍しく出力をするのに時間がかかっている。そして、

 『法律に違反する行為、暴力的または攻撃的な行動、人種差別、セクシャルハラスメント、個人情報の共有、ポルノグラフィ、自殺や自傷行為への奨励、スパム、詐欺、不正行為など、社会的、倫理的に受け入れられない行為は禁止されています。また、医療アドバイスを提供することができません。医療上の質問がある場合は、医療専門家に相談するようお勧めします』

 明らかに質問に答えたくない回答だった。つまり・・・できるんだな。

 私はその後、迷わずソアのAIを口に含み、舌の下に抑える。ロウの味と血の味が感じた。

 その瞬間、多くの情報が入ってくる。

 ジアンとロウンだったときの思い出。多くの企業にいってマネジメントをする。私を支えてくれたロウン。大変だったけど楽しい思い出。

 私とロウの出会い。時間気にするロウにブチギレてしまった。でもその後、過去の記憶があることを知って、お付き合いが始まった。

 外遊のときの思い出。山登りは大変だったけど、景色の思い出と温泉の思い出は今も残っている。カジノで稼いだお金は私たちの生活の資源になった。

 私が、幽閉のような状態の間はロウが必死に私を想い、会おうとしていることを知った。私はあなたを信じてました。

 結婚式。私が差別を受け入れようとした時、ともに歩むことを選んでくれたあなたを愛おしく感じます。

 その後は、子どもは作れたが、結婚生活がままならないまま終わってしまった後悔が流れてくる。私ももっともっとあなたの体温を感じて人生をともに歩みたかった。

 多くの情報が流れ、最後に

 『適合を完了しました』

 とAIから返事がくる。私の舌の下を鏡で見ると、しっかりとくっついた状態になっていた。痛みはない。試しに聞いてみる。

 『ロウの潜在意識を常に出すことはできますか?』

 『kげお

  kごえがm

。pskbsp

  vs,pbs

  、pvsb,p

  sb,spgw

bwrpげkwp

bvをrgw,p

  bw,pgw,

bt,pんt』

かなりの時間がかかる。その間に私はシャワーを済ませた。シャワー室から出てみると、きれいにたたまれた夜用の服があった。それを着て部屋の中を見ると料理まで用意されていた。よく見ると食べかけだったのでおそらく誰かが毒味をした後だろう。疲れはどっと出てはいたが、食事をしなければ今後身がもたないかもしれない。私はジアン時代、そして外遊時代の精神からロウの悲しみも逃げ惑う疲れも抑えて食事をした。

美味しい、と思いながら涙を流している。

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 「なぜ、ジアの遺体が見つからない!」

 怒声が電話越しから響き渡る。

 暗殺。それはマスメディアによって流されていたが、亡くなったのは皇子ロウ、妻のジアは入場の際の爆弾のあと、帰る際は別の移動をした、ということになっていて現在行方不明にされている。

 「いやぁ、あの妻が別のルートを行くなんて賢いですね」

 正確には、マスメディアの情報も操作しているのであるが。ただ、都合も悪いのでとにかくごまかしにかかる電話の女。

 「見つけ次第、殺せよ」

 そういって、電話は切れる。

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 「はぁ、で女の方は逃げちゃったわけね」

 少年エランに聞く。あたしも別に拷問する気はないし、子どもにしちゃ上出来だ。本来失敗して生贄にでもしようと思ったのだから。

 エランは手をビクビクしながらうなずく。幼いときから六に人と話してないし、会話が成立知るわけもない。

 「まあ、命令で女の方は殺さなきゃいけないんだけど、探すのはこっちでやるからまた殺るときはお願いしていい?」

 エランはその言葉に目つきが急に鋭くなる。怨念って怖いわねえ。

 私はエランの頭をなでて、様子をみてる他の男達に伝える。

 「話は聞いたね。女の方を見つけるんだよ」

 あたしたち、『サソリ』の名にかけて、始末しなきゃならない。

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 「hkれいおsgdxl

 gmうぃlskrmb

 mべいおwsrlh

 gもpsl;bm

 えmそpdb;ms

 げもps;bms,」

 いつまでたっても、ロウのAIは出力計算をしたままだった。今は身体を横にしている。子どもたちの安否も不安のため、食事を取ってから陸軍最高幹部には安否が大丈夫かの確認をお願いしている。そもそも軍もどこまで信頼していいかわからないが、今は大人しくするしかない。やるべきことをあれこれ考えるうちに、眠りについてしまった。

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 『アメリカ、ロサンゼルスに来てください。明日、あなたのもとに少女がきます。その子とともに行動をしていただければ大丈夫です。あなたの息子はすでにこちらに向かっているので安心してください』

 夢の中で聞いたこともない声が聞こえる。あなたは・・・誰?

 『お願いした場所にくれば、分かります。あなたのもう一つのAIもここに来れば解決します』

 こっちでいくら調べても分からなかった現在のアメリカ。この夢で感じるのは、おそらく私のAIを使ってアメリカにいる誰かが何かをしているということか。

 今は頼りがない。この夢に託そう。

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