第10話
皇太子ロウの株はますます上がる。兄のほうがいるので本来はそちらのはずだが、皇帝陛下側についてしまっているからだ。国民人気は圧倒的に皇太子ロウのほうが上である。これだけ多くの国を巡ってきたのだから当然である。そして、連邦制度こそ、昨今の世界情勢的に事実なのである。奴隷制度のままでキョウナラ国に責められれば、現在の連携の取れない状態で一瞬で滅ぶのが目に見えている。今後もこの流れで勧めていけば国はきっと良い方向になるだろう。
私達の子どもについては乳幼児製造機で3歳までは急成長する形で生まれるように調整し、すでに3人目だ。時期としては軍に連れ戻されてからの夜に3人分の製造を対応した。おそらく、忙しくなり、これから子どもを見る暇はないだろうと予測できたからだ。
隣国への出発前に3人の子どもたちには、3歳の記念に国で一番の医者を呼んで、脳にAIを埋め込んでもらった。AIは若いうちに入れてしまったほうがIQと精神年齢が乱れにくいからである。3人は手術を無事に終え、私たちのお見送りをしてくれる。
「あなた達はこの国のルール上7歳までは名前をつけれない。申し訳ないけど、好きな名前で対応してちょうだいね」
名前については7歳から、国に仕えるための名前を持つ。それまではAIの適応度に合わせて自分で名前を決めるのである。もちろん、その名前のままで人生を歩んでもいい。
「君たちには、立派にトーナラ連邦に仕えるんだよ」
ちょっ・・・と言ってロウをなだめる。まだこれからの話しをしてはならない。現在における正しい認識を理解させないと。
「では、お願いしますね」
子どもを3人育てるための使用人はすでに9人ほど永久就職してもらっている。私たちが育てることはできないが、これから大きな人生を歩んでくれるだろうと心から祈るのである。
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出発の挨拶を皇帝陛下にしようと宮殿に入った時、儀典長が現れた。
「皇帝陛下に挨拶はしなくていいよ。あの方は取り込み中なので。別れの挨拶は私が変わりに伝えるよ」
つまりは、皇帝陛下は私達には会いたくない、ということか。それならしょうがないので最後に儀典長に聞きたいことを聞く。
「あの時、なぜ笑ったのですか?」
「おや、気づかれてましたか」
私の質問にちょっとドジ踏んだな、という顔をして、こう答えられた。
「私もただ闇雲に秩序を守っているわけではないのですよ。この国にとって一番正しい方向性を考えている、という回答だけで今はどうでしょうか」
その言葉を聞いて、ああ私達の味方なのだと理解した。
「今まで、ありがとう。議案の作成も手伝ってくださり、感謝しています」
ロウは儀典長に対してお礼を言う。なんだ、この方にも協力してもらってたのね。
私たちは、儀典長との会話を最後に、トーナラ国を後にした。
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「まさか、皇帝陛下から直々で依頼とはねえ」
明らかにガラの悪い3人組が一人の子どもに銃の撃ち方を指導している。
その指導は大変うまく、あっという間に人間の的の頭を命中し続けている。
「おう、なかなか筋が良いなガキ。これが成功したら安泰で暮らせるぞ」
この少年の父は前皇帝の侵略戦争によって、殺害され、母は大虐殺のときにレイプされ、子を産む痛みに耐えきれず、死んだ。
銃を撃ち続ける子はとにかく生きるために修道院から脱出し、物を盗んで過ごしていた。そんな彼に声をかけた三人組は「俺たちに従えば、復讐できるぞ」とだけ伝えると、みるみる今回の作戦の準備に率先して協力した。
彼の目には復讐の炎が燃えているのである。
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隣国で準備をしている最中、陸軍にある命令が皇帝陛下から下った。
『行列の警護は行わないこと!』
あまりにもおかしい命令のため、すぐに陸軍の最高責任者は宮廷に連絡をする。
「これは、皇帝からの命令だ。頼むから守ってくれ」
陸軍の最高責任者は兵に伝える。
「みな聞いていると思うが、皇帝陛下の命令で警護ができなくなった。しかしこれは後々陸軍の汚点になることは目に見えている。変装して民衆に紛れて警護してくれ」
兵たちは同意の敬礼をする。これを機に皇帝陛下の対応を怪しむ陸軍なのである。
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民衆はお祭り騒ぎだった。車での移動中皆、他国であるにも関わらず、トーナラ国の国旗を振って出迎える。アーチにも『ようこそ、ロウ様、ジア様』と書かれ、バルーンにも似たようなことが書かれている。
皇太子ロウと私のことを最高のおもてなしをしてくれているのだ。
車はどんどん進み街の中心を進む。そこにはより人だかりが増えていく。
すると、後ろから突然爆発音がした。
「何!」
私は振り返ると、後ろの方で煙が立ち込める。・・・後ろの車が無惨な姿になっていた。
しかし、止まればさらなる追撃を受けるかもしれない。私達が乗る車は進むしかない状態である。あの爆撃で車にいた警備の人は全員亡くなった。そして、犯人は捕まらず、である。
なんとか無事に式典の会場に着いた。到着して定位置につくと、すぐに式典が始まる。
「始める前に、なにかいうことはないのか」
ロウが怒りを込めた発言をする。
しかし、この国の儀式典長は式典を続ける。
「我が国との友好関係を喜び申し上げます」
「爆撃が祝砲というのか!?」
先程より強い口調でロウは遮る。私は、肘でコツンして宥めた。
私たちは歓迎の式辞をほぼ無視して、終わるとすぐに記者会見の場所に立った。
「私は宣言する。我が国もまた我々とともに歩んでくれることを。いつか連邦としてともに歩めることを祈ろう。そして、他国でありながら母国以上のあたたかい出迎えをしていただき、感謝する」
私が、ロウの手を握っている間、ずっと震えていた。
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「君は車に乗らず、別のルートで出た方がいい」
ロウは、私を気遣い使用人とともに別ルートを提案してくれた。
「いいえ、私はどんな事があっても一緒よ」
しかし、私は彼の心遣いに感謝しつつも、あくまでともに歩みたい気持ちを伝える。
ロウは涙を浮かべながら、「ありがとう」とだけ言って、肘を私に手をかけるようにした。
先ほどと同じ、扉から出て、車に乗り込む。
出発しようと瞬間に・・・
「恨みを晴らす時―――!」
突然、目の前に少年が現れる。手には銃を持ち発泡していた。私の隣りにいたロウを見ると血を流して倒れている。
「ロウ!」
介抱する暇もなく、次に2発目。今度は運転手に当たる。運転手は頭を撃ち抜かれて即死していた。
「早く逃げろ! 君には子どもたちがいるんだ」
「いやよ! あなたとともに」
私のいる席近くまで少年は移動し、発泡。私はとっさに伏しつつ持っていたセンスで風を作ると運良く弾は別の方角いった。
「なるほどね。わたしのAIが言っている。私の頭からAIを抜くんだ・・・そうすれば潜在意識が残るから死なない」
まだ、軍の人らしき者が一般人にもみくちゃにされている。少年も2発目の準備をしている。
私のAIからも『復活できる。だから脳から回収して』とささやく。
「あなたのことを愛しているわ」
そう言って、銃で打たれ、中身がでている脳に無理やり手をつっこみAIチップを取り出す。私は。そのまま反対側のドアから抜け出す。
すると一般服を着た陸軍の最高司令官が人混みの中で手招きしているのがわかった。
彼の手を掴み、そのまま人混みを避けて安全な場所を目指した。
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