第9話

 隠居生活は案外うまくいくものである。ジアは形式はどうあれ貴族なのに貧相な格好、ロウも本当に慌ててきたのかパジャマ同然の格好である。二人してくすくすしながら降りた駅のすぐ近くのボロアパートの一室を借りて現在住み込んでいる。

 「まるで、起業したての頃を思い出すわ」

 このホコリ臭さやところどころに生えてるカビなんかを見ると、私が起業すると決め、ロウンを連れ出して一緒に住んだ時の部屋を思い出した。あのときは楽しくも忙しい毎日だった。最初は動画配信などで自分を売り込み、その能力の高さから後に多くの企業に呼ばれて、それ以降はホテルぐらしになったのだから。ロウも「そうだね」と言いながら哀愁が漂っている。

 正直普段は、貴族なんかのふりをしているようなもので自分たちは本来生きていた世界とは別物だ。できれば、国に縛られることがないようなところに住んで気ままにビジネスをしたいものである。

 「そうおもったら、『アメリカ』って情報がないよね」

 ロウは急に私達がいた時代の話をする。そう思ったら・・・科学博物館の歴史も主に西洋である。かろうじてシルクロードの時代があったようで中国までは何とか、といった感じだった。沈んでしまったという情報もないし、現状どうなっているのかわからない。

 「思い切って、米を目指してみない?」

 ロウは私にとんでもない相談をしたが、せっかくなら未来がありそうなところを選びたい。私は、それに縦に首をふって同意した。すると、突然銃声がなる。

 「何かしら」

 カーテンの裾を少し開き、見ると一般人がトーナラ服の軍服を着た人に撃たれていた。この国はトーナラ国の支配国なのだ。

 「これは・・・」

 ロウは驚きを隠せないでいた。

 「これがあなたの国の支配の仕方なのよ。とはいえ、あの皇帝陛下をどうにかしない限り無理でしょうけど。あの方、不死身なんでしょ?」

 彼は驚いた目で私を見る。

 「なにか見たのかい?」

 どうやら、家族間のことはあまり情報として手に入れてなかったらしい。

 「あの、皇帝陛下から何故か侵入できる経路をAIが見つけたのよ。やってみたら、あの方は人造人間だったわ」

 私はただ事実を述べる。彼は何かを悟ったように

 「つまり、王位継承なんてする気はなかったんだね」

 とだけ言った。製造機のことも今回の流れで伝えてしまったが、それは理解しているらしい。まあ、私たちが本来生きていた時代の話でもあるしね。

 その後は他愛のない会話をしていたが、突然扉が開く。

 「誰だ?」

 ロウは私を後ろにしてかばう状態で扉を開けた人と対峙する。

 トーナラ国の軍の人だ。

 「皇子、大変心苦しいですが、結婚式を行うよう皇帝からの命令です。すぐに帰宅させます」

 すると、ぞろぞろ軍の人たちが中に入ってくる。これは逃げれそうにない。私たちはそのままトーナラ国に戻されたのである。

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 「私たちは皇帝陛下の条件をすべて呑みます」

 二人は戻ってきてすぐに宮殿の演説台で皇帝陛下の面前で膝を落として誓いを述べさせられた。これですべての継承権を失うことになる。

その後はすぐに結婚式が始まる。

 まるで準備していたかのような黄色ドレスを用意される。明らかに伝統とそぐわないが、身分の違う結婚のときはこの衣装なのだそうだ。

 「すごく綺麗だよ」

 ロウは試着を終えた私に対して、褒めてくれる。そしてどこか暗い顔だ。

 「ありがとう。そして心配しないで。私は何もいらないわ。あなたと暮らせるなら」

 私は笑顔を見せて返答した。

 ロウは私を後ろから抱きつき、「本当に済まないね」と謝り続けている。

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 「皇位継承者ロウ

  奥方ジア

  刀礼!」

 私達二人が入口から入ると、音楽とともに式場に迎え入れられた。儀式典長が階段下で待っている。しかし、それには理由があった。

 「ジア様はここまでです」

 私は貴族という扱いではないため、階段を登ってはいけず、下で見ているしかないそうだ。

 それを聞いた瞬間、ロウは怒りをあらわにする。

 「結婚式で花嫁がいない儀礼なんて聞いたことがない!」

 私はロウの怒りをすぐに制した。

 「いけません。ここまで来たのです。今まで多くのことに耐えてきました。道が違くてもまた会えますよ」

 私は、そのまま彼の手を離し、待つことを決めた。

 しかし、ロウはすぐに渡しの手を持ち、手に口づけし、

 「君がいないのは意味がない。そのまま帰ろう」

 そう言って私と一緒に扉から出てくれた。

 その瞬間、周りの貴族から拍手喝采、外にすぐに出た市民たちも大きな拍手で迎えてくれた。儀式典長もその姿を見て、何故か微笑んでいた。

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 その様子はマスメディアでも報道され、一瞬にして、皇帝陛下の人気は地に落ちた。周りの皇帝陛下派は何とか自分に火の粉が来ないようにと必死である。

 「全く、いつか絶対後悔させてやる」

 怒りを見え切らせながら、そこに使用人が現れた。

 「皇帝陛下、一読していただきたい書類がございます」

 その言葉を聞いて、皇帝は自室に戻り、資料を受け取る。

 「中身は何だ?」

 「殿下からの議会へのご提案です」

 そのまま資料を皇帝は落とした。

 使用人は話を続ける。

 「弁護会に提出可能な文章にした模様です。また、議会ではこれは明日取り上げられ可決の可能性がかなり高いです」

 皇帝はそのまま彼をにらみ、代わりに読ませようとしている。使用人は拾って中身を広げる。

 ・・・中身はトーナラ連邦の建国であった。

 中身を聞く途中でそのまま皇帝陛下は特権を発動した。

 「議会でこれを議論することは中止とす。そして、二人を各駐屯地へ回らせるように。あいつらは国を滅ぼす気か」

 使用人はその言葉を聞いて、それを議会長に伝えに行った。

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 使用人がいなくなって、皇帝陛下はある方に電話をした。受話器はすぐに取られた。

 「おや、これはまた特大のお客さんですね。我々を使うほどのことがあるのですか?」

 「貴様らは、電話の相手が誰かすぐに分かるのかね?」

 「ええ、特殊な方法を使って。で、どのような依頼ですか」

 皇帝は声を小さめにして、内容を詳細に伝える。場所、時間、タイミング、方法を根絶丁寧に電話の相手に伝えるのである。

 「おうおう、怖い怖い。我々より優秀な作戦だ。さすがは皇帝陛下」

 「黙って、やってくれるよな?」

 皇帝陛下は額に汗を流しつつ、電話の相手にちゃんとやってくれるか尋ねる。

 「当然ですよ。あなたレベルともなればあえてお安くし、今後も情報を頂いたりしたいと思います」

 金額などをその後も提出される。その中にはトーナラ国の機密情報等も流すように記されていた。

 機密情報など、後でいくらでもすり替えることができる。むしろ値段の安さが気に入った。そう考え、内容を承諾した。

 「かしこまりました。皇帝陛下。我々の完璧な対応にご期待ください」

 その日、議会の案が特権によって秘訣になったニュースを受け、市民が怒りを爆発し、宮殿に侵入する事態となった。侵入してきた市民はすべて発泡、火炎放射、強制逮捕の後、拷問による聞き取り調査後に殺害、と次々と恐怖によって支配する対応を行い、事態は収束した。

 事態は収束したため、皇太子ロウとその妻ジアは隣国の新皇帝就任式に出席以降、様々なところへの外遊に行くことになったのである。

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