第8話

 マスメディアに報道されて以降、ジアは正式な皇子の婚約者と認めざるを得ない状況となった。帝は嘆いていたが、宮殿内の貴族には喜ばしいことであると祝福されている。

 しかし、問題はここからである。

 ジアは次期、皇太子后となるはずなのにものすごい偏見を受けるのである。伝統的に皇太子の婚約発表後はその恋人とのツーショットを撮り、世間の方々に知らせるのが慣例となっている。しかし、その時の写真は一切撮ることがなく、ジアを除いた家族写真を変わりにメディアに提出した。暮らす場所もかつて旧邸園があったところで別居させられている。修繕も行っておらず、致し方なくジアの自費で行った。皇太子の業務の様子も見ることが許されず、もし見るのであれば自身のマネーからの消費、そして下々と見ることとなった。そして、最高女官でありながら、業務は一切与えられず、給料も支払われない。当然マスメディアはそのことを報じ、人々も帝の対応に疑問視している。

 そして何よりも辛いのが、ロウとジアの面会が一切行ってはいけない、というものだった。すでに外遊をしていた時期を遥かに超える期間、話していない。ロウはそのことが気がかりでついにはどんな式典でも笑顔を見せなくなった。これをマスメディアは連日報道し続け、それが連鎖し、人々の声を聞こうとしない貴族たちに対する怒りをAIから感知されるようになっている。

 ジアはこのままでは革命が起きる、そう感じていた。ジアは、「マネジメント力」が発揮され、その中でも最終対応を行わざるを得ないと決意した。

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 『私はでていくことにしました。お力になれず、申し訳ありません』

 私は、今汽車に乗り、故郷に帰るところである。この約半年間、私は生活に耐えることができなかったのである。AIによってトーナラ国の現状を知ることができた。

 まず、皇帝陛下は80代だが後1000年は生きることがわかった。次々と身体を機械化し、頭にはAIがある。AIを見抜く力は劣る弱点はあるが、身体が機械になってしまったらほぼ不死身だ。永遠の独裁政権をしようと企んでいるのがわかる。なにせ、皇子や后にその手術を施さないのだから。

 第二にこの国の貴族は乳幼児成長機から誕生している。旧邸園の地下を覗くと、植民地などで強制連行した女性の卵巣を根こそぎ奪い、それでありとあらゆる種類の遺伝子を持つ卵子を提供している。たまたまロウとお義母様が似ていたのは、あえて「青い血」と呼ばれる同じ遺伝子同士で製造する対応をしたからである。これを踏まえると、永遠に帝で有り続けながら自分の血と繋がった生産者を無限に生成できる。機械だけでなく、臓器提供できる者も作り放題でもうすでに人権なんてあったものじゃない。

 第三に、私の結婚の条件は「皇帝が亡くなるまで」ということになっている。つまり、私はあの邸園で住み続け、精神が弱ったら卵巣だけくり抜いて消し去ることも目に見えてわかる。

 私はロウを愛している。しかし、このままではせっかく生まれ変わった命が無駄になってしまう。私は悲しみに暮れながら、汽笛の音を聞いた。

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 私は使用人から極秘である手紙を受け取った。

 『私はでていくことにしました。お力になれず、申し訳ありません』

 私はその手紙を見た瞬間、その場で車を走らせた。まだ汽車の出発まで間に合う。トルの道は人通りが一切なく、とても静かだったそして誰もいないため全速力で車が飛ばせたのである。いつもなら、運転手にやらせることをAI使って機械を動かすことになるとはね・・・

そう考えつつも、あっという間に駅に到着したのである。

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 汽車が動きしばらくすると、駅員が部屋に入ってきて、

 「お客様にお愛したい、という方がいます」

 と伝えられる。私は誰にも会いたくない、と言ったが、駅員が「それを許可してしまうと私はここから飛び降りなければなりません」と言われたので、渋々承諾した。

 入ってきたのはロウだった。

 「どうして、あなたがここに」

 私は驚いて声を上げる。

 「君のいない世界なんていらないよ」

 その言葉を聞いた瞬間に涙が溢れる。しかし・・・

 「あなたには、国としての役割を果たさなければなりません。次の駅で降りてください」

 しかし、そこまで行ったところで私を抱きしめ、

 「私は君のいない世界なんていらないんだよ。さあ、明日はどこ行きたい」

 その瞬間に私はもう何も言えなくなってしまった。

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 「私の話をきいて」

 ロウの母は車いすで移動して、皇帝陛下に直接会いに行く。

 「ロウとジアの結婚を許したらどう?」

 しかし、そのことを聞いた瞬間、皇帝陛下は心底嫌そうに

 「またか」

 と答える。

 「彼らがふたりとも疾走しました。わかるでしょ。もうロウの弟も駆け落ちをしていなくなってる。このままだと誰もいなくなるわよ」

 ロウの母は懸命に説得をする。

 「ふざけるな。それはもう言ってはならないことだ!」

 皇帝陛下が怒鳴る。そう、これは言ってはいけないことなのだ。ロウの弟はロウよりも早い段階で結婚を前提とした女性とお付き合いしていた。しかし、その女性もまた、トーナラ国の植民地国家だったのである。結局二人は駆け落ちをし、現在でも行方不明である。

 「いいえ、言いますとも。このままだと、国民が黙っていないわ。もう力だけじゃ封じ込められないもの」

 その時、皇帝陛下に対する疑念が起こり、植民地国から暴動が起こったりもした。また、同じ顛末が起きれば、ただでさえ、人気の二人である。今度は自国の国でさえ怪しくなる。

 「帝には幸せがいらないのだよ」

 「あなたは不老不死になろうとしているでしょ」

 あくまで、「皇帝陛下」の跡継ぎという役割の人形扱いをしようとしているのは、ロウの母は理解している。だからこそ、皇帝陛下の意見はもう意味がないのだ。

 そこに使用人が現れる。

 「お二人の所在は明らかになりました。そして、マスメディアも取り上げ、現在宮殿はデモで埋め尽くされています」

 その知らせを聞いた二人は、驚きのあまり、言葉を失う。

 「早急に対策しないとなだれ込みますよ」

 皇帝陛下は渋々とした顔で瞼を閉じ、そしてすぐに目を開け答えた。

 「すぐに演説を行う。準備を」

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 デモをしている周りの群衆を見ながら人々に対して演説が始まる。周りは何かあったときのために厳重体制である。

 「私は、ロウとジアに対する結婚を民衆の声に同意し、許すことにする。しかし、以下の条件である。

1, 貴賤結婚であることを認める

2, それは将来変わらないものとなる

3, 二人の妻子も王族としての権利、称号、紋章など子々孫々に受け継ぐべきものは無くすこととする

4, いかなる特権も排除する。子孫に対しても同様である」

周りの人々は、人権放棄ではないか、と言ってさらなる激昂を買うことになったのである。しかし、皇帝陛下はこの内容で強制的に戸籍を決定し、逃げた二人を見つけ次第、即刻国に戻らせる措置を取ったのである。

この状況から半ば二人の逃避行生活が始まることになった。


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