第7話
朝になり朝食に向かうと船内が騒がしい。周りの人たちがみんなコソコソ話をしているのだ。昨日のカジノのことだろうか。
席について、なぜ貴族のような人たちがこれだけコソコソしているのか理由がわかった。
「こちら、昨日の落とし物です。他の方にも申し訳ありませんが確認を取ってしましました」
ロウがしまった、という顔をしている。ロウは昨日どこかで懐中時計を落としてしまったんだ。懐中時計の蓋の後ろには私の顔写真がある。私の国のシンボルマークの獅子を王冠とペンダンドに装飾されたものを着用した私の顔写真が。懐中時計がトーナラコクのシンボルである鷲のマークである。
私はあくまで教育係という名目で一緒に過ごしていたが、ここに来て完全に関係がバレてしまったのである。
周りの様子から見てロウはもう隠せない、明日の朝には民衆に情報が伝わるだろうと悟った。
使用人を呼んで
「トーナラ国に着いたらすぐに帝と皇后に合わせてほしい。ジアとは剣魂することを伝えてくれ。細かい点は色々交渉した上で判断だ」
使用人は黙って「かしこまりました。本日の予定の埋め合わせについてはお任せください」
とだけ言って、すぐに定位置に戻った。
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船内を降りる際は帰国の祝が行われるそうで、すでに周りには民衆がたくさんいる。
「私は後ろになったほうが良いですか」
ロウに尋ねる。ロウは首を横に振り、
「私のひじに手をかけて一緒に歩こう。どっちにしてもバレるのだから民衆に見せたほうが誠意だ」
私は黙って彼に従う。
船内の外では多くの観衆から声が上がっている。私達二人が船から降りて港に向かう橋を歩くと旗は振られ、チリ紙が舞う。しかし、同時にどよめく声も聞こえる。
「皇子の隣の女性は誰だろう」
「ついに、女房を手に入れたのか、あの御方は」
AIに声を聞き取らせると、案外祝いの声が多いのがわかった。民衆から愛されているのだろう。むしろ、なんでもっと早く結婚しないんだと言う声のほうが多い。
『全く、民衆は』
ロウはAIを介して、ぼやきを私に伝える。
『いいじゃないの、祝福の声があることはそれだけ国民から愛されている、ということよ』
民衆の信頼はまず、勝ち取ることができたのである。
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「どこの女なんじゃい。あいつは!!」
帝に会えば早々の説教である。外交での成果の報告も私に対する労りもまったくない。ジアを紹介したかったが、これでは話し合いにならないだろう。
ロウがジアを紹介したい趣旨を伝えると、ジアのことを知らない父親が反対意見を述べました。
「彼女の名前はジアといいます。彼女はとても女性的で、知的で、優しく、美しいです。彼女と一緒にいると、とても幸せになれます。私はあの方と結婚したいです。」
まずは、ストレートに帝に伝える。
「彼女とはどの国で会った? そして、身分はどうなんだ」
帝が知りたいのは彼女の貴族的な立ち位置である。
私は、彼女の家系が、プーノ国建国に関わった大貴族で、代々プーノ国の女帝の最高女官として使えていた超名門の家系だったこと。しかし、我が国の前皇帝が起こした侵略戦争で女帝の家系は途絶え、現在は我が国との最重要外交を担当しているということを伝えた。
「そうか。つまり我が国の植民地国だ。とてもじゃないが身分に合わん」
それを聞いて、反対意見を表明した。
「しかし、皇帝。私はジアと一緒にいたいという気持ちは変わりませんし、すでに国民からも結婚願望を望まれている年齢。その上、トーナラ国にはすでに我が貴族以上の身分の者はいません」
はっきり言ってしまえば、私は皇后の子ではない。我が国の皇帝貴族は伝統上、下の身分との結婚は許されなかったため、同じ血族で結婚せざるを得なかった。AIを持つ者のため青い血の者同士の末路は知っており、結果的に製造機を用いて、皇后とは別の卵子を使用しての後継者誕生を行っていたのである。しかし、今までは何とか男女比がほぼうまく分けれるように生まれてきてくれたが、皇帝の代で重婚でもしないかぎり男女比が男のほうが多くなってしまった。完全利用の状態なら男女も遺伝子操作できるのだが、まだそこまでの技術が発展していない以上、こればかりはしょうがない。
「民衆も馬鹿じゃありませんよ。もうこの伝統を私の代で断ち切らなければ、間違いなく滅びに行く原因になってしまいます」
帝自身もわかっているはずだ。しかし、どうしても縦に振ろうとしない帝であった。
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私はロウの母親に、自宅に招待された。控室で待っていると、使用人に呼ばれる。扉が開き、部屋の中に入るとベッドで横になっている女性の方がいた。私は片膝をついて挨拶をする。
「どうぞ、もっと近づきなさい」
年老いた女性の声が聞こえる。
私がベットまで近づくとロウの趣があったため、すぐにロウの母親だとわかった。
「朝早くてすみません。朝食の間だけ会話ができるわ」
彼女は食事を取っている。ちなみに私の分は特に用意されていない。それはなぜかというと
「今は何時かしら」
「正午よ」
ロウの母は、重いな病気を患い、ほぼ寝たきりの状態だ。上半身はまだ動くため食事は問題ないが、起きたら食事、という毎日を繰り返している。
「時間は早いものね・・・なるほど美人な方ね」
彼女は私を吟味する。
「私は賛成よ。だけど法や慣習は容赦しないわ。ただ、もう民衆には知れ渡っている。そうなったらもう私があなたを保護するのが役目よ」
そう言って、彼女は書いておいたであろうメモを捨て
「あなたにはこれから大きな試練があるわ。覚悟はできてる?」
鋭い視線で尋ねる。
「承知しております。もし何か合ったときは責任をもって」
「馬鹿なことは考えないことね」
何かあったときは責任を持って消えることを伝えようとして、遮られた。
「私はあなたに感謝している。近ごろの彼は外の仕事が多すぎた。幸せを一番員願っているわ」
彼女は続けざまに感謝の言葉を伝えた。
「逃げないでね」
「はい、分かりました」
その言葉を持って、母親からの許可をもらったことになる。
ジアは、心からロウとの結婚を望んでいることを伝える。
「はい、私はロウと一緒に幸せになりたいと思っています」
その後ロウの母親は、昔のロウの写真を見せたり、思い出話を聞く。
そして、
「あなたに役職を与えます。本来は女官の家系だったわね。我が国の最高女官として」
ジアは、顔を横に振る。しかし、彼女はそれを制する。
「昔の何処かの国の有名な言葉で郷に従え、という言葉があります。もし従わないのなら、私は今この場で試練が乗り越えられなかったこととして、あなたを殺さなければなりません」
私は涙を浮かべた。これなら故郷のことを知らないほうが良かった。私は多くのことを耐え、
「私はロウを愛しています。そのためならどんな試練も乗り越えましょう」
そう伝えて、トーナラ国に忠誠を誓う。そして、最後に手に口づけをしようとしたところで、
「そういうのはやめてちょうだいね。身分をわきまえて」
私は、たしかにロウの母に認められたのであろう。しかし、それは新たしい国に忠誠を誓う、ということだ。
この日から私のブレスレットは獅子のマークから鷲のマークへと変わり、服装も全てトーナラ国の女官にふさわしいカビでない服装となった。
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