第3話

「君のモーラでの活躍は嬉しく思うよ」

言葉は建前、表情は怒りに満ちて、帝は式典前にほんとうの意味での本題に入った。

帝は、帝国がより強大となり、支配している他国をより強い法をもって支配することが大切であると考えている。だから、「帝王学」のスキルを持つ兄を後継者に選んだのだが。しかし、世界は大きく変わろうとしている。

明らかに世界の情勢は不安定なのだ。今まではAIを内蔵して治すことができた人間はごく僅かだったが、マスメディアの登場により、多くの情報を一般人が得られるようになったこと、キョウルナラ国の人類AI化計画によって、別に病気でなくてもAIを内蔵できて、数々の発展を遂げようとしていること、それにより他国への侵攻が激しくなっていることを。現在、こちらの国が実効支配している国もいつ他国に取られるかわからない状態である。

そういった点をふまえ、私は逆に連合国を作ることが大切であると判断した。しかし、モーラでの私の政情の報告を受けている帝にはそれが納得できない。人間老いるとAIの正しい判断も思考できなくなり、正しい行動に移せなくなってくるのだ。

会場に伝達を終えたチプサが遅れてやってきた私の使いから得た業績をもって報告してくる。

「キョウルナラ国の国民に対するAI導入によって得られた利益」

「ツーチャン国の新たな国の発展と我が国の今後の対応についてー経済的取引についてー」

「ブルートゥース国の一員になるための外交」

「マルボル国家建国を祝い・・・」

「もう、良い! 結構だ。この裏切り者が」

報告書の途中で帝はブチギレてしまった。

「いつまでも自国だけで行うのは無理があります。どうか考えを改めてください」

私の主張を強く主張したが、完全に聞く耳持たずだ。

「お前は、そんなに外の世界を知りたいなら、この生誕祭後は世界14カ国を回ってこい。」

 外遊命令が下った。というより停泊のない左遷となってしまった。

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皇子の生誕祭は、国中で盛大に祝われた。

準備は無事に間に合ったため、宮殿の中庭に特別な装飾が施されて、花火が打ち上げられる。皇子の生誕祭のために訪れた外交官や海外の貴族たちには、美味しい料理や菓子が振り舞われる。誕生ケーキの本数は間違いがなく、一発で日を消すことにも成功した。音楽や舞踊の演奏も行われる。皇子を祝福するために、国中の役員から贈り物が贈られる。まさに、世界を中心としたお祭り騒ぎ状態だった。

そして、皇子は国中の人物に向けて、自分の健康と幸福を祈願する挨拶する。そこには、帝も隣に合わされた。最後には、民衆全てに手を振り、大成功に収められたのである。しかし、皇子の心は全く華やかではない。明日になれば多くの国へと旅立たなければならず、帝の説得にも失敗してしまったのだから。多くの人々から行為を井田たかれていようとも、真に皇子を理解するものなど全くいないのである。

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 『太公殿下、23歩兵連隊を閲兵』

 『カール国にて、新たな噴水式の除幕に参加』

 『先の戦争を退役した軍人が殿下の御前で行進』

 『太公殿下、商船トリニティ号の進水式へ』

 『豚のペストの子どもたちへのAI導入の成功者たちを太公殿下、歓迎する』

 『太公殿下、陛下記念館の開館式へ。統治国家ブーノ国代表外交官ジアンに賛辞を述べられる』

 明らかに過密スケジュールすぎる。ほぼ毎日毎日どこかの国に行って賛辞を述べに言っている有様だ。しかも、それをこなすためにはまだ私の時代まで追いついていない自動車での移動ときた。のり午後地最悪なのに、時間がかかるため、式以外はほぼ移動時間だ。そしてそこで睡眠を取る有様だ。

 「本日 大公殿下をお招きできたこと光栄に思います」

 いつもみなみなからいただく賛辞の言葉が始まる。もう正直聞き飽きてしまってつらすぎる。

「我が国、プーノ国が忠誠と愛情を込めたことは初めてではありません」

 この国は、トーナラ国がいわば実効支配している国である。強制支配を行ったのは現在の帝の前の時代である。そもそもこの国はブドウの名産として外交をしていたのにそれを暴力で強制的に支配してしまったのである。私はできれば連合国の一員として、外交における大きな資産として対応してもらいたいところなのだが。

 と、そんな事を考えつつも手袋を外して、時計をチラチラ見るようにしている。実際、開会式は時間が押しており、このままいくと明日の他国との外交に遅れてしまうのである。

 「この国の歴史は・・・代より、歩んでいき、○世紀についにトーナラ国」

 もう流石に、まずいので付添人に車の手配をした。

 ペラッ・・・ペラッ・・・ペラッ・・・。

 すると、外交官の女性は次々と原稿を落としていく。なんだか、ものすごい速さで賛辞を読み上げている。というより省略していく。

 気づけば最後の一枚となり、

 「省略いたします。この国とさらなる発展をお祈りいたします」

 そう言って、怒りの表情をあらわにしながらそそくさと出ていってしまった。

 私はこの瞬間に大変失礼なことをしてしまった事に気づいた。たとえどこも同じような賛辞であってもその国ご戸に感謝の言葉があるのである。それにもかかわらず、私は次の予定を気にするあまり、懐中時計を見たことはあまりに失礼だ。

 「彼女の名前はなんというのか?」

 使用人は答える。

 「ジア、というお方です。しかし、こちらに責任にならず時間が早く終わるのはありがたいことですね」

 使用人は国の関係から明らかに失礼な対応をしようとしている。たしかに今は彼女の首を自国の責任で斬首すれば良いかもしれないが、今後の歴史において恥ず対応をしたのは私だ。

 「私は、彼女に対して大変失礼なことをした。悪いが、出発時間を送らせても良いから、彼女との面会の時間を作らなければならない。将来、大きな溝になる問題だぞ」

 使用人が驚いた顔をする。

 「バカを申し上げないでください、どうか。これからの予定もありますから・・・」

 そう言いかけたところ、私は静止し、

 「ならば、新しい使用人を雇うしかない。これからの外交の予定は全部君のせいでパアになるんだろうな」

 それを聞いて、使用人は青ざめながら、「失礼いたしました。どうか、それだけは」と宣った後、そそくさと近くにいる人に情報を聞きに行った。

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 彼女の家系は、プーノ国建国に関わった大貴族で、代々プーノ国の女帝の最高女官として使えていた超名門の家系だった。しかし、我が国、前皇帝が起こした侵略戦争で女帝の家系は途絶え、現在は我が国との最重要外交を担当しているということがわかった。だからこそ、あれだけ自分の国について詳しいのか。そして、自国の誇りをかけて賛辞を述べていったのだろう。私はなんてことをしてしまったのだろう。現在は父と二人暮らし、しかも老いが進み、最近は歩くのも困難だというからまた悲劇である。この時代の大転換の時期に、これほどの重役な仕事をしながら、看病にも明け暮れているなんて。これは一度でも良いから、ちゃんと会い、謝罪をしなければならない。

 必ず国家をかけるようなレベルの謝罪をしなければならないと誓い、約束の夜の噴水広場に向かうロウだったのである。

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