第2話

ジアンの彼、ロウンのAIは拉致された後、その国の様々な貴族の後継者にAIで利用されることになった。彼の才能は「リーダーシップ」。これを経験させ続けたAIは後継者が後継者たる知識を得るためにまさしく重要となっていった。しかし、どの貴族も地頭はよいが才能があまりに相性が悪い人しか出会わなかった。「侵略者」だの「収集家」だの・・・基本的には欲望に忠実なものばかりである。彼のAIにはロウンのデータも潜在的に保管されていた。それが出てくること皆無で、単純に宴会の席や議場で立派な振る舞いをするのにデータが使われる程度である。

何度も何度も生まれ変わりを続け、ある日大きな戦争が起こったのである。AIを駆使して核融合の技術が実用的となった。しかし、その技術を後進国に盗まれ、そのまま兵器として使用されてしまったのである。その後、その兵器は使用され、第三次世界対戦は人類のは7割を失い、自然終戦したのである。

AIの内蔵されたチップは非常に小型で頑丈に作られており、核融合爆弾が投下され続ける世界でも生き残ることができた。しかし、技術は人類の減少のため利用が難しくなり、多くの技術がロストテクノロジー化した。当然AIを脳に入れることもなくなってしまっていたのだが、一つだけ例外があり、重度の病気にかかったときにAIを脳に入れることで助かることがあった。それは手術が奇跡的に成功しただけでなく、AIが適合したことを指す。そういった人がロストテクノロジーを駆使して人々を救済し、少しずつだが文明を発達させていった。

そして、産業革命の技術も取り戻されるようになり、18世紀くらいの風景となった時、ロウンのAIは現在トーナラ帝国の皇子、ロウの脳に内蔵され、そして潜在意識に残されていた魂と言われる部分も復活していた。

****************************************

 今日は、トーナラ帝国皇子ロウの生誕祭であった。

 式典には大きな行事のために重要な鷲のマークを中心にした巨大な絨毯をひき、使節団のそれぞれの立ち位置、我が国の王族の立ち位置も確認していた。新米はメモなんかも取っている。しかし、立ち位置を指示している者、この人は責任者でもなんでもなく、ただ祭のときの記録を指示しているだけなのだが・・・何故か責任者がいないため当日に用意する巨大なケーキが会場に運ばれてしまい、「頼むから食事室に置いとけ。ろうそくの数は年齢と同じな。去年何故か一本足りなかった」と疲れ気味に指示を出していた。

 「会見はどこですか?」

記者の方が準備中なのに式典の中に入ってきた。

「儀式典長室で会見を行う。式典はその1時間後だ」

素早く指示を出して、追い出した。

「陛下は昨日夕方5時に、陸軍に赴き、今年度の褒章者へ労いのお言葉をかけられた」

儀式典長室では、昨日の陛下のご様子等を最高執事チプサが記者に報告していた。

儀式典長室の別室にある衣装室で儀式典長カッレは、記者会見の様子を見ていた。

「あまり貴族のことで余計なことを口出さないようにしてほしいものだがね」

カッレは現在の帝国における市民の貴族の関心に関して、怪訝している。トーナラ帝国を築き上げた歴代皇帝は身体が必ず病弱で黒箱を頭に入れる事で神の教示を受け、国を発展させることに成功してきた。しかし、国を発展させていけばいくほど人々が愚かになっていき、気づけば貴族のゴシップにしか興味を示さないようになってきた。こっちでは常に国の安泰のために努力しているというのに・・・と常に嘆きつつ、国の発展の成果、功績を称えるために日々務めている厳格な人間である。

着替えを済ませると、伝達係が手紙を持って急いで儀式典長に駆け寄る。

「緊急事態で、こちらを」

冷や汗をダラダラ流している伝達係の様子を見るにいい報せではないようだ。

渡された手紙を読んでみると、こう記されていた。

『トーナラ帝国第十七皇子ロウ、モーラ国での外務行事後、帰宅中体調を崩す』

読んで即座に、記者会見で質問を受けているチプサに報告しに行く。

報告を受けたチプサは質問責めする記者たちに手でとめる合図をし、制止する。しかし、納得しない記者たちは儀式典長室から出ていこうとするチプサと移動しながら質問しているのである。

何とか記者を押し切って、チプサは準備がすっかり終わり、いつでも大丈夫です、と言わんばかりに待ち構える職員を無視して、立ち位置を指示していた者の前に現れて、耳打ちする。

「主役が体調を崩した」

その言葉を聞いて、立ち位置を指示した人は青ざめだして怒鳴る。

「私の給料はどうなるんですか!?」

その言葉が式典に響き渡り、職員全員ががっかりした様子になる。チプサはその場にいる全員に目を向けず、帝専用の控室へと向かうのである。


****************************************

 『全く、帝の私への試練はどうしてこう、遠方ばかり与えるのだ。確かに私が生きたより発展した社会の時代であっても、せいぜい国々内だし、外交官であっても遠くに行くことなんてなかった。とにかく効率が悪い。そして、みんな私のようにAIが脳に入ってないし、即座に連絡できる文化はまだロストテクノロジーで復活もできない。おかげで、帰宅途中に水当たりしてしまえば、次の予定も念のため欠席と連絡しなきゃいけなくなる。

 ただ、今は元気ハツラツだ。即座に私の生誕祭を人々の喜びのために行うようにしなければ国の信用問題になる。』

 そんな事も考えながら、車から降り、急いで宮殿に早足で向かう。執事その他は全く追いついていないようであるが、そんなことはどうでも良い。

 おかげで、宮殿廊下に開始30分前に何とか到着できた。というか、式典開始10分前に到着するようにしているスケジュールもおかしすぎてひどいのだが。

 廊下を歩いている途中、慌ただしそうで、かなり不機嫌な最高執事チプサに会う。私の目を見るなり、死人にあったかのような驚きの顔を見せた。

 「皇子、ご無事なのですか!」

 「私は手紙で『死んだ』という報告を受けたのですか?」

 チプサのあまりの反応にちょっと冗談を言ってみた。

 「失礼いたしました。すぐに式の中止の連絡を無効にしてきます」

チプサは貴族とは思えない猛ダッシュで式典会場に向かった。

 私は帝のいる控室に無事に戻ってきたことを報告する。

 「ずいぶんと早く戻ってきたじゃないか」

 帝は怪訝そうに見ている。帝にもAIが宿っているがそれは「後継力」と呼ばれる少し特殊な能力を身に付けている。その能力はうまい具合に次への引き継ぎが行える者、という能力で引き継ぐためには必然的に多種多様な能力に特化できるというAIが出力する最高能力に当たる「全能」に匹敵する能力の持ち主だ。この「後継」のスキルを使うことで私と兄ヒョーと天秤を掛けて、兄のほうが優れていると判断した。兄のAIが判断した能力は「帝王学」と、また確かに納得できる能力だが。ただ私の「リーダーシップ」の能力は帝国が支配する国々をまとめ上げるには非常に優れていると判断して、基本的に私に外交を行っているのが現在の状況である。しかし、後継者は兄にしたいと考えているが、時代の流れは人々の指示する側に傾いている。つまり、外交をしまくるため常にマスメディアに私が取り上げられることが多く、周りは次期後継者を私にしたい、というご要望になってしまった。今回の式典は帝にとってはできるだけ失敗してもらい、「故に真の後継者はヒョーにある」と示したかったのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る