第3話

   3-1.


「どうしよう……」

 目のまえでそう呟く少女に気づき、ボクも目を覚ます。そこは暗く、狭く、それに相手の息遣いがとどくほど近くにいるけれど、見ることはできない。

 ボクも思いだした。それはジュニア・スクールの二回生のときのこと。同じクラスのユファから、二人きりで話をしたい、と誘われた。

 理科準備室にきたところ、誰かが入ってくるのに気づき、訳もわからぬまま二人でロッカーに隠れたときだ。カギがかかってしまい、このまま一時間近く、ずっと閉じ込められた。

 ボクの右足は彼女の足の間にあり、ほとんど抱き合うような形になっている。足元にあるスリットでぼんやりと明るいけれど、互いの存在はふれることで確認する状況だ。

「カギがかかっているみたいだ。ボクが解除するよ」

 そういって、彼女の背後に手をまわす。

「ひゃッ⁉」

 狭くて、ちょうどカギのある位置が、彼女のお尻の裏になるため、少し油断するとさわってしまう……。


 ボクも変な気分になってきた。ボクの記憶では、一時間かけてカギを内側から開けて、脱出した。ただ、それでこの一件は終わり。その後、彼女とは何もないまま学校を卒業した。

 彼女とはほとんど身長も同じ、顔も息遣いが分かるほど、近くにある。

 むしろ、ボクの右足が彼女の股の間にあり、また時おりお尻にふれることで、彼女の息遣いが荒くなっており、ボクにも彼女の顔の位置が分かるほどだ。

 ボクはすっと唇を重ねた。彼女はハッとして、顔を退かせる。

 何も言わずにキスをしたのは、失敗だったか……。「ごめん」

「う、ううん。いいの」

 あれ? 怒られるか、拒絶されると思っていたので、その反応は意外だった。そして、ボクの心に火を点けていた。


 お尻にふれる手を、すーっとその溝に添って走らせる。

「あぁ……」

 小さく呟いた彼女に、その開いた口をふさぐよう、もう一度唇を重ねた。ぐっと唇を押しつけ、彼女との粘膜接触をより強固に、より面積が広くなるように……。

 今度は、彼女も口を放さなかった。狭くて体が動かせないからではない。ボクもそう確信する。

 ボクの左手は彼女の脇を通して、背中へとまわされ、その首を支える。彼女は息を止め、ボクがそうするのを黙って受け入れている。

 唇を放すと、やっと息ができると思ったのか、はぁ~ッと大きく息をはきだす。

 その唇に、ふたたび唇を重ねた。今度は大きく口を開いているので、ボクはそこに舌をねじりこむ。

 歯で咬まれたら大変……。でも、彼女の舌にボクのそれを絡めると、彼女も微かに反応してくれる。


 閉じこめられ、こうして密着した状態で、さらに唇を接着させる。その中では舌を絡ませ、互いの唾液を化学反応を起こしそうなぐらい交わらせ、まるで口の中が溶けてくっつくのではないか? というぐらいにこすり合わせる。

 彼女もボクの肩から首にかけて、手をまわしてきて、しっかりと互いが離れないようにする。

 ボクの右手は、もう彼女のお尻にずっとふれ、その柔らかさやスジを確認するよう指を走らす。

 それがくすぐったいのか、彼女は腰を揺するのだけれど、そうすると股にはさまれたボクの右の太ももに、彼女の大切なところが微妙にこすられ、それもまた彼女を反応させる。

「んん……はぁ…………ん!」

 彼女はそう唸ると、少し力が抜けたように、ボクにもたれかかってきた。

 キスだけでイッたのか……?

 否、お尻も、股も、彼女にとっては初体験のはずで、そうした初めてのことずくめで、しかも内からあふれてくる頂へと向かうその感情に、身を委ねてしまったのかもしれない。

 ただここで、意外なことが起きた。

 彼女がボクの耳元に口をよせると「おトイレに行きたい……」



   3-2.


 それからが大変だった。カギを開けるためには、ボクの右手でしかそこに届かないので、ボクが必死でカギを開けた。

 彼女はロッカーから飛びだすと、顔を隠すように、俯いて走っていった。

 ボクの右の太ももが少し濡れているけれど、彼女がお漏らしした……わけではないだろう。

 彼女は初めてで分からなかったから、おトイレだと思ったのかもしれない。彼女は濡れたのだ。

 それは一時間近くも、ずっとキスをしていた。唇がひりひりし、舌には今日のお昼に彼女が何を食べたか? それが分かるぐらいに彼女の唾液がたっぷりと沁みこんでいる。

 お尻も、そしてまたぐらも、ボクにずっと触られていたのだ。

 そんな経験、女の子として初めてだったろう。そして彼女は感じて、濡れてしまった。それをボクに知られそうになり、気恥ずかしくなった。この薄っすらとついた染みは、そういうことだ。

 しかし、ボクに話って何だったんだろう? 前回は何もなく、ボクが必死でカギを開けるだけで終わった体験が、とんでもないことになった。

 でも、これがミチュウの望みなのだ。

 ボクもそう思うことにした。


 目を覚ます。まだ夜の帳が下りてすぐ……。数時間、転寝をした感じだ。

 そこにはミチュウもいた。

「過去にもどるのは、ランダムなんだ?」

「あれ? 言ってなかったっけ? 時系列とか関係ない。重要度に応じて、択ばれているのよ」

 重要度? ミチュウはそれ以上の説明をする気もなさそうだし、オレにすべてを話すつもりもないのだろう。

 世界を変えたい……。そんな目的のために、オレの過去を変える? オレの過去を変えたところで、何が変わるというのか……?

 彼女はオレが適任だといったけれど、ナゼそうなのか? については説明をしていない。彼女にとって、オレはそういう存在なのだ。

 つまり、利用する。

 でも、オレだってバカじゃない。

 オレが利用する。ミチュウはオレの「望みに叶う」といった。その望みが何なのかも聞かずに……。だからオレも利用するのだ。

 この過去改変の力を――。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る