現代的な思想が入った作品だと思った。
楽しい旅行が一転し、命の選択を迫られる究極の場面に出くわす主人公。一昔前の日本なら、お涙頂戴の自己犠牲モノが流行ったが、今はもうそういうことではなく、どうやったら両方が助かるかを考えなければならない時代にあり、作者は、そういう時代の風を吸い込み、それをそのまま無自覚のうちに吐き出している、と感じた。作中には時代の風が吹いている。
そもそも、誰が生き残るかという窮地は、そのほとんどが競争社会が生み出した公害に過ぎず、そうしたものに追い詰められた人が、シュウライであり人魚なのだ。
だからこそ、シュウライの決断には、非常に深いものを感じる。
文体は、ポップな感じで読みやすいが、描かれている思想は、けっしてライトではない。そのバランスも、なかなか良いと思った。