第33話魔剣と奏多
激しく燃えて、全てを焼き付くそうとする業火。
でも、それはあまりにも美しすぎた。
激しく燃えて散る花火は、儚げで、美しくて。
思わず笑ってしまった。
「...、笑ってくれたか」
奏多がそう言って笑う。
「どうしてですか?」
「ん?この前の食事会の時怒って出てったしさ、それからも暗かったし。...アテネと凪の事でなんかあったんだろ?俺いつも空気読めねーやつって言われてるけどそれは何となくわかったから。綺麗なものを見たら元気になれるかなって思ったんだ。」
「...そうなんですか」
そういうと、奏多は頬を掻きながら、
「まぁ、喜んでくれて良かったぜ。そうだ、花火の作り方も教えるから、今度凪に見せてやれば良いんじゃね?」
なんていってくれた。
奏多は意外と良い奴だ。
凄い強いけど。
あとたまに馬鹿だけど。
魔王って嫌な奴ばかりだと思っていた。
昔から人類の敵だなんて言われていたから。
だけど、奏多は別にそう言うわけではない。
思いやったりも出来るし、全然敵対しようとしない。
優しい奴なのだ。
魔王だからって嫌な奴ではないんだから、もしかして魔物にも良い奴はいるのかもしれない。
それなら、どうして勇者と魔王はずっと争う運命にあるんだろう?
「さて、それじゃあ練習に戻るか」
奏多はそう言う。
「その剣って一体なんなんですか?」
僕がそういうと、あぁ、お前は知らないもんな、と言われた。
「この剣は俺の宝物みたいなものだ。元々は、魔界にいた極悪人イフリートの持つ豪華な刀だったんだが、俺が自らの手でイフリート自身を溶かして、刀に混ぜたんだ。そしたら、インフェルノが完成した、というわけだ」
「...、人を、混ぜてるんですか...?」
「正確には魔人、だ。かなりの魔力を持っていたが、村を焼きつくしたり、理久を殺そうとしたから処分が決定した」
一応、最初は投獄って形にしてたんだけどな、なんて奏多が付け足す。
「俺があいつを捕まえたんだ。そしたらあいつ、牢獄で一生を終えるよりも、貴様と最後まで殺しあって死にたい、なんて言い出してさ」
そう言って、刀を撫でる。
炎がブワァ、と飛ぶ。
イフリート。
その魔人の事は正直良く知らないけど。
でも、良い最後だったんじゃないかと思う。
最後は自分が認めた奴に刺してもらえたんだから。
「良く戦り合えたんだ。俺が初めて負けるかもしれないと思えた相手でもあったから。...、少し残念だった」
そう言って寂しげに笑った後、こちらを向く。
「それじゃあ、実践形式にするか?それとも俺の真似をする感じか?」
「真似の方でお願いします」
さすがに実践では奏多の足元にも及ばない。
戦力差が激しすぎて手加減されそうだ。
手加減されるのも嫌だから、断った。
分かった、と言うと、木剣を取り出す。
「じゃあ、まずは魔剣の作り方だ。普通の剣ではそこまで威力が出ないからな」
「魔剣?」
そう言うと、魔剣も知らないのか、と驚かれてしまった。
「魔剣って言うのは魔力を込めた剣の事だ。普通の加工もない剣では素材以上の力は出せない。分かるよな?木剣じゃあ、鉄を切ろうとしても逆に折れてしまうように」
まぁ、剣を持つ人の技量が高いなら切れるだろうよ、なんて付け足す。
「魔剣は魔力を込める事でその剣の性能を上げた剣の事を言う。まぁ、見てみろよ」
そう言って、木剣の柄から手を剣先まで滑らせる。
指先からなにかが溢れる。
これは、魔力だ。
魔力は剣に馴染んでいき、徐々に吸い込まれていく。
魔力を纏い、剣が金属のような光沢を帯びる。
なんだか、とても神秘的なものを見ている気分になった。
「よし、これで出来た。後は...、流石に今作れって言うのも難しいと思うし、この剣の威力を実感してもらおうか。どれくらい強いのか試して貰った方がやる気もでるからな。よし、あの岩を切ってみてくれ」
そう言って剣を渡される。
重さは木剣と変わらなかった。
質感も木剣と変わらないのに、刀身に触れたら切れてしまいそう。
なんだか、見た目だけ弱くなっているみたい。
これは木剣なのに、そんな事を思ってしまった。
そっと構えて、岩に向き合う。
元が木剣なのに切れるのか?と思いつつ、剣先を当てる。
すると、岩に剣先が埋まった。
引き抜くと、その部分だけに穴が空いている。
勢い良く切ってみると、綺麗に真っ二つとなった。
まるで、発砲スチロールに熱した鉄線を当てるように。
なんて武器だ。
そんな感想しか出てこなかった。
本当に凄い武器だ。
この武器があれば、重量級の装備をつけた武装兵達も簡単に殺せてしまう。
魔物達が最近強いという報告を良く聞くが、そりゃそうだ。
こんな武器を作れるなら、強いのも当然だろう。
「よし、成功だな。慣れればこのくらいの物を簡単に作る事が出来るぞ。よし、まずは木剣で木が切れるくらいのものを...」
「いやいや、どうしてこんな物が作れるんですか!!これ、もしかして魔王軍全員持ってるんですか?」
「そんな訳ないだろ。みんな自分で作ったものを持ってる。ま、それも争うのが好きな一部の奴だけだけどな」
「...詳しい事は教えてあげらんねーけど、全員争うのが大好きっつー訳でもないんだぞ。まぁ、つまりそういうこと」
「...、そうなんですね」
そう言うと、奏多は僕の剣を指差す。
「ま、魔剣の説明するけど、魔力を材質に纏わせる事で、物質を強化出来るんだって...理久がいってた。仕組みはそんな感じらしい。あとは...、感覚?コツは全体に魔力を行き渡らせる事。やってみなきゃイマイチ良くわかんないだろうし、まぁ、やってみろよ」
そう言って木剣を何本か渡されたけど、こんな魔剣何本も作れるなら、魔王軍が強いのも納得だし。
でも、人類にこんな技術教えても良いのだろうか?
魔王軍にとって不利に働きそうだけど。
「あぁ、お前がどれだけ作っても大丈夫だぞ。俺の魔剣だけ特殊で、普通は他人が持つと、変化前の物質より少し下のスペックになるようだから。それに人間は基本呪い持ちじゃないからな。魔力量が多いわけでもないし、魔術に関する知識も浅い。魔剣を教えようとしても習得には何十年もかかるだろうから」
「なら、僕も同じくらい掛かるんじゃないですか?」
「大丈夫さ。お前は呪い持ちだろ?呪い持ちは生まれながらに魔力の操作方法を理解しているからな」
ほら、早くこめてしまえと奏多が言うので、込めてみる。
魔力操作なんて始めてするけれど。
「指先に魔力溜めるイメージでやりな。そうするとうまくいくぜ」
そう言われて、指先に集中する。
「颯太、体の中に魔力回路ってものがあるんですよ。血流みたいに身体中に流れている奴です。それを指先に集めるイメージで」
少しずつ、少しずつ、そう思いながら込める。
指先が少し光って、剣へと流れていく。
「お、良い感じじゃん」
徐々に輝き初めて、外見だけは奏多のものにそっくりとなった。
質量と質感は木剣と変わらないし、本当に上手く出来ているのか少し不安だけど。
これで良いのかな、なんて思って、剣先に少し指を当ててみようとする。
けれど、変化していたら僕の手なんて簡単に切れてしまう。
なんなら、指が無くなるかもしれない、なんて思ったのでやめておく事にした。
奏多の方を見ると、頷いてから、木を指差し、切ってみろと言う。
「岩じゃなくて良いんですか?」
「最初はどの位の出来なのかを確かめる為に木から始めるんだ。木が切れたら次は岩...と言う感じでな」
そういわれたので木の前に立って、構える。
そして、岩と同じように勢い良く切る。
一気に決めようとしたから。
見かけだけじゃないと思っていた。
しかし、幹に傷をつけるだけだった。
木は切れないし、弾き返されている。
一歩間違えたら木剣が折れる所だった。
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