第32話強くなりたい

言う必要なんてなくて、言わなくたって良いけれど。

いってしまおうか、なんて思ってしまった。

「そうですね...。瞳の色と髪の色はあなたそっくりですが、あの人は自分の信じる方へ進めて、残酷な運命にも必死に立ち向かって」

でもって、それで。

先輩の凄い所を頭のなか沢山思い浮かべて。

「僕の本当の姿を見つけてくれて、僕を救ってくれた人なんです」

僕だけの先輩。

僕だけの『王子様』。

僕だけの特別な人。

あぁ、ようやくこの感情の名前が分かった。

きっとこれは独占欲。

先輩を自分のものにしたい、他人のものにしたくないという独占欲。

他人になんて一度も抱いたことの無い感情だ。

大好き、大好き、大好き。

そんな思いで一杯になる。

「だから僕、絶対に結ばれるんですよ。だって僕と先輩は運命なんですから」

そう言って笑ってみせると、ナナは少し震えながら、

「そ、そうなんですね。私はこれで」

と言って去ってしまった。

少し怯えているようだった。

怯える必要なんていないのに。

ナナの席にひらりと写真が落ちる。

そこに映っているのは、水色の髪に、緑色の瞳を持ち、どこか退屈そうに外を眺めている少年だった。

ピントの合ってない所をみると隠し撮りのようだった。

これがナナの好きな人なのだろうか。

なんだか、この人とはどこかで会いそうな気がした。

持ち主の所に戻るように魔法をかける。

写真が舞う様を確認したあと、僕は歩き始めた。

午後の授業なんて、受けない。

あの優秀な兄に渡さないためにもっと努力しなければ。

先輩の元へ向かうのはやめて、城へ向かう。

もっと知識を得たくて。

自分の部屋に戻って、荷物を急いで片付けた。

図書館へと走る。

知識をもっと得なきゃ。

そう思っていると、曲がり角で誰かとぶつかった。

思わずよろけて倒れそうになるけれど、誰かが支えてくれた。

「廊下を走ったら危険と教えてもらわなかったのか。俺は理久に教わったぞ」

呆れた目でこちらを見下ろすのは、奏多だった。

アーモンド型の赤い瞳。

やれやれ、と言うと僕を元の体制に戻す。

「颯太っ!!この人は危険です!!この人は...っ!!」

「魔王、だって言いたいんでしょ?知ってるから大丈夫。てか、あいつが敵対する気無いの知ってるし」

そう言うとアテネはそうですか、と言って黙った。

アテネがいないときには世話になった。

いつも何処にいるのかわからないけれど。

今目の前にいるなら丁度いい。

「...、奏多。お願いがあるのですが」

「ん?なんだ?あぁ、上級生を締めたいのか?任せろ」

「そう言う事ではなくて」

「なら、最近金を横領している大臣の奴等を処刑すれば良いのか?」

「それは今初めて知りました。後で名簿送ってください。そうではなく」

「これも違うのか。なら...」

「あーもうっ!!強くなりたいので武術を教えてください!!」

「そう言う事か。...でも、難しいと思うぞ?」

教えてほしい、と言うまでにかなり長い会話の応酬があった。

と言うか、今の会話は必要だったのか?

どうしてって言おうとしたら、近くの枯れ木が粉となった。

「こういう感じだから。すぐに俺級になりたいって言うなら、相当苦労しないとキツいぞ」

魔王の最強の剣である神崎奏多は戦闘面では化け物らしい。

そういう噂は聞いていたが。

まさかここまでだなんて。

やっぱり人間じゃない。

こんなのが人間だなんて言われてしまったら、奏多や理久は新人類だ。

「おいおい、お前の考えている事は分かるぜ?どうせ俺達みたいになれないって言いたいんだろ?」

その言葉に頷く。

「確かに俺と理久は強い。それももの凄く。多分あんま俺達と対等に渡り合えるやつはいないだろうな...けど、俺達みたいになれるぜ?颯太だって」

「...気休めの励ましは要りませんよ」

そういうと、奏多はやれやれ、と言いたげに肩を竦める。

「俺は出来ない事は言わない。本当に出来るんだよ」

そう言って笑った。

それを聞いて、少しは納得している自分がいた。

僕は呪い保持者だから、一般人とは体の造りは違うし。

それに奏多は正直者だ。

というか嘘がつけない。

だから奏多を信じてみることにした。

「ここじゃ危ないし...、外に出るか。庭に集合な。あ、図書館に用事があるなら先に済ましてきても良いぞ」

奏多に言われて、庭にテレポートした。

奏多に教えてもらえるのなら、図書館で学ぶ必要なんてない。

それよりも少しでも多く教えて貰った方が僕のためだ。

そこで、奏多は移動系の魔法が苦手だった事を思い出す。

「俺、ワープとか使うと、ミスって違う場所に飛ばされるんだよな。だから出来る限り使わないようにしている」

「じゃあ基本、移動はどうしているんですか?」

「そりゃあ走ってるだけだけど?」

そう聞いてこいつ脳筋か?なんて感想を抱いた。

連れてこなければと慌てて展開するが、

「よっ。遅かったな。俺もう着いてたぞ」

「いつのまに!!ワープ使えたんですか?」

突然目の前に出現した奏多に対して思わずそう言ってしまった。

ワープを何回も連続で使用したのだろうか?

それなら数打ちゃ当たる論でなんとかなるだろうけど。

そう言うと、ん?と首を傾げてこう言った。

「いや?俺ワープ系苦手で、使うより走った方が良いんだよな。今回も普通に走っただけだぞ」

いや、どんな身体能力しているんだよ。

あの時の走ってるだけってのは本当だったんだ、なんて思った。

それなら本当に廊下を走ったら危ないな。

こいつの場合は弾丸に体当たりするようなものだもの。

魔王城にいるであろう理久に心のなかでほんの少し感謝をしてから、奏多に言う。

「一応どういう事が得意なのか教えて貰っても良いですか?」

教えて貰う時に何を教わるのか予想出来るように先に聞いておくことにした。

そうやって予想出来るようにすれば予習も出来るから。

「主に戦闘系。攻撃系であれば理久程では無いが魔法も使える。とは言っても理久程の火力は出ないぞ?理久が特殊なだけだ。まぁ、一番得意なのは何かって聞かれたら剣って答える」

まぁ、魔法まで使えたらこいつ無敵になってしまうからな。

そう言うと、刀身が燃えるように赤い刀を取り出した。

まるで、炎を閉じ込めたような剣。

周囲に火の粉が舞っているように見える。

「触ってみるか?」

そう言われて、手を伸ばす。

指先で刀身に触れると、燃えるように熱かった。

あまりの熱さに手をすぐに離してしまった。

目立つような装飾は無く、シンプルな物だった。

「この刀...、インフェルノは特殊で、俺の魔力を流し込めば炎を纏う事が出来るんだ」

そう言って刀を振るうと、炎が舞った。

なんだか、美しかった。

それは、ただの赤い炎じゃなかった。

色とりどりに輝いて、虹のような色をしていた。

「温度も調節出来るぞ。少し腕を出してみろ。...心配するな。絶対に火傷しないから」

そう言って、奏多自身の腕にインフェルノから出た炎を纏わせて、消した。

その腕には火傷の跡なんてなかった。

腕を出してみると、炎を纏わせてくれた。

色とりどりに輝くそれは、全く熱くなかった。

冷たくもないし、むしろ少し温いくらいだった。

「な?言ったろ?だけど普通の炎に触れちゃダメだぞ。インフェルノが特殊なだけで、普通の炎は火傷するから」

「普通の炎には触れませんよ」

「そうなのか。理久の時は俺のインフェルノ経験した後すぐ炎触れに行ったからそれが普通なのかと思ってたぞ」

「それが異常なんですよ!!」

「まぁ、今からこの剣の凄い性能を見せてやるからそこで見てろよ」

そして、地面に突き刺し、

「燃えよ」

と言うと、刀から一メートル程離れた場所に、火柱が立った。

そして火柱はそのまま円を描く。

「どうせだから綺麗なの見せてやるよ」

そう言って空に綺麗な花火を打ち上げた。

空を瞬時に暗くして。

色とりどりの花火が燃えて、散っていく。

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