第28話魔界への入り口

寝言は寝て言うべきだ。

何ふざけた事をいっているんだ。

あぁ、血流が頭に集中してくらくらする。

「ふざけるのも大概にしろよ、美空。僕の呪いが羨ましい?そりゃあ、何でも持ってる美空様からしたら羨ましいだろうね。分かんないけどさ」

そう吐き捨てるように言い捨てた。

言い過ぎた、とかそういうのは一切考えなかった。

僕の怒りは正しいとも思う。

だって、そんなのないじゃないか。

僕の呪いが、違うものだったら、なんて考えたことがある。

そしたらもっとまともな人生を歩めていただろうって。

アテネがいないから、普通に先輩と結ばれるって。

でも、呪いがない僕と先輩は出会う事が出来るのかな、なんて。

そう想像するくらいには呪いが嫌いだった。

美空は目を逸らした。

美空のデメリットが何かは知らないけど、良いじゃないか。

きっと僕のよりもましでしょう?

僕のは、一歩間違えれば命が脅かされるレベルなのに。

そんなの。

あぁ、ずるいよ。

そんな事言えるくらいに余裕なんて。

「今、僕が幸せそうに見えるのなら、それは呪いが解けたからです。だから、初めからこんな風だったわけでは無いんです」

「そんな事知ってるよ。お前が醜いと言われ続けたのは呪いのせいだって。そんなの分かった上で提案したかっただけだ」

つまり、お前の呪いのデメリットの方が上回っていると?

天下の美空様はそうおっしゃりたいようで。

お前の呪いなんて余裕だよ。

そう言いたいのか?

ほら、馬鹿な事を言うのは止めなよ。

ただでさえ嫌いなお前の事が更に嫌いになりそうで。

兄弟なんて括りに入っているだけの他人だけど。

「俺はずっと玉座にすがる事しか出来ないだろうな。権力を得て、それで守る事しか。だけどさ、お前はどこにでも行けるだろ?なら、手を引いてくれよ」

「なら、得意の歌で何とかすれば良いじゃないですか。何もかも傀儡へと変えて」

「俺の歌にそんな効果は無い」

そう言いきってから、目を逸らす。

それでも、美空の歌は使い方を変えればいくらでも可能性がありそうで。

人だってたくさん集まっているんだから。

僕にはないものをたくさん持っているじゃないか。

僕さ、正直言って美空と双子じゃなきゃよかった、なんて思うときがあるんだ。

だって、美空と双子だから美空とよく比べられるんだ。

よくいわれるんだよ。

「美空様と颯太様の二人のお陰で我が国は安泰ですな」

「最高の双子だよ。あの二人がいれば最強だ」

「でも颯太様は...」

僕はずっとずっと嫌だったよ。

きっとお前にはわからないだろうけど。

それなりに苦労もしたよ。

きっとおまえが一生味会わないレベルで。

それでも僕の呪いが欲しいの?

だとしたら、相当変わってるね。

「俺には時間がないんだよ。ずっと一緒にいられるお前と違ってさ」

そのまま美空は去っていった。

その言葉の意味はわからなかった。

いや、なんとなくはわかっていたんだ。

美空の呪いのデメリットはきっと寿命。

短命になると言うもの。

だとしたら、美空はタイムリミットが来るまであと何年?

いや、僕にこんな話をするくらいだから意外と近いのかもしれない。

美空が死んだら、僕はどうなるのだろうか。


凪先輩に誘われて、魔王城へと行った。

「美空、今日は少し遠くにいこうか」

「凪先輩がつれていってくれるならどこでも良いですよ」

「随分と僕、信用されているなぁ」

朝から会いに来た俺に、凪先輩はそういった。

笑いながらそう言って俺の頭を撫でる。

「そうやってなんでも信じていると悪い大人に騙されちゃうよ?」

「信用しているのは凪先輩だけですし。それに凪先輩は俺の事裏切らないでしょ?」

「そうだけどさぁ」

そう言って凪先輩は照れ臭そうな顔をして、

「...ありがと」

なんて言った。

実際、俺は比喩でもなんでもなく凪先輩のみを信頼していた。

理由なんて沢山あるけど。

凪先輩は俺が嫌なことは絶対にしないから。

だから信じて傍にいる。

俺が傷つきそうなときは俺の事を優先して守ってくれる事も知っているから。

だから安心して傍にいられる。

俺ね、普段から大人達に混ざって行動しているんだ。

だから騙されそうになることも沢山あるよ?

それでもちゃんと騙されてない。

俺が王族だという事は凪先輩に隠している。

俺の呪いの事を話す時もそこを伏せた。

それでも話がこじれないのは凪先輩が外に出たことがないから。

俺以外の他人とあまり関わっていないから。

そういう純粋無垢なところも好きだ。

王族だという事を知られたら嫌われるかもしれない。

そう考えると話したくなくなった。

凪先輩と一緒に出掛ける準備を進める。

大荷物になりそうだったけど、凪先輩が魔法でなんとか出来るから、という事だったので、ある程度は減らせた。

食料を幾つも積めて、準備は完了した。

鞄片手に外に出る。

家族には連絡をした。

そこまで騒ぎにもならないしたまには良いだろうということになった。

普段、俺は結構働いていたから許された。

こういう時、普段はめんどくさい交流が役に立つ。

凪先輩が先頭になって、あるきだす。

普段過ごしている森の奥深くまで進む。

同じ景色がずっと続いていて、途中で俺は道を暗記するのを諦めた。

覚えきれない気がしたから。

「ここの道すごい複雑でしょ。僕も最初は迷っちゃった」

凪先輩がそう語る。

「はじめは王宮に行こうとしたんだ。メイサイ王国の」

俺の国の名前が出た事に、少し驚いて目を見開き、歩みを止めてしまった。

そんな俺を見てどうしたの?なんて聞くから。

「あ...俺の住んでる国なんです」

何て言ったら、一緒だね!なんて喜んでくれた。

少し、嫌な予感がする。

「僕ね、はじめからこんなだった訳じゃないんだ。元々はただの子供だったの。なんの力も持たない普通の子供」

凪先輩が淡々と語る。

「ある日ね、お母さんとお父さんと一緒に旅に出てたときかな...馬車に揺られながらどこかへ向かってたの。そしたら、急に岩が落ちてきて、そのまま爆発しちゃったんだ」

...、凪先輩はやっぱり。

「気がついたら、僕は無傷で体も大きくなっててさ。混乱したけど家に帰るために必死に歩いたんだ。そのときにたどり着いたんだ」

目の前には大きな扉があった。

扉の中心には大きな鏡が設置されている。

その鏡の前で凪先輩は恭しくお辞儀をして言った。

「ようこそ魔界へ。僕の第二の故郷へ」

凪先輩は王族だった。

そして、魔界へと迷い混んだ。

そこからなにかがあって、父は凪先輩を幽閉した。

一番の理由は、凪先輩が一番の王権の持ち主だから。

そして、凪先輩がいると、前王が復活してしまうから。

すべてが繋がってしまった。

でも、凪先輩には教えない。

だって、今の王国は汚いし。

凪先輩にはここにいて欲しいから。

他人を知って、あり得ないような恋なんて落ちてほしくない。

だから、秘密にした。

「どうしたの?震えてる?...やっぱやめよっか」

「いえ、大丈夫です。いきましょう」

怖くて震えていると思われたそれは、恐怖ではなくて。

凪先輩の重大な秘密に気づいてしまった興奮からくるものだった。

凪先輩のてをとって歩きだす。

さぁ、早く進もう。

凪先輩の気が変わらぬうちに。

扉を潜って入ったそこは、魔界のくせしてとてもお洒落だった。

そこはまさに魔族の根城。

寿命を何とかするために魔族の元へ。

そう意気込んで進んだのに。

思ったよりもお洒落だった。

町中の街頭がランタンになっている。

空中にフヨフヨ浮いて色とりどりに光っている。

建物はレンガ造りの建物がメインで、基本黒をベースにした洋館風の建物がちらほら見える。

ドレスやスーツで着飾っており、お洒落な洋服が沢山売られている。

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