第26話
けど、凪先輩結婚しないんだ。
なら、誰のものにもならないんだね。
少し、ほの暗い感情が俺の心に生まれた。
誰のものにもならない凪先輩。
本に書いてあった。
結婚すると言うことは、パートナーに生涯を捧げるという事だと。
つまり、パートナーの物になるという事でしょう?
俺は嫌だよ。
誰かのものになんてならないで。
ずっと俺の傍にいてよ。
そうじゃないと死んでしまいそう。
それくらい愛しているの。
おかしいのかな。
俺の感情って。
きっと普通の人間は抱かない感情だと思う。
けれど、俺は普通じゃないみたいだから。
こんな感情を抱くことも許してほしい。
でも、凪先輩には知られたくないな。
誰かの物になんてならないで欲しいから。
出来たら俺のものになって欲しい。
なんて、叶わない願い事を心のそこに押し込めた。
「出来たら俺と結婚して欲しいです」
そういうと、凪先輩は目を見開いた。
驚いているのかな。
それとも、引いているのかな。
言わなきゃ良かった、なんて後悔した。
慌てて弁解しようと口を開く。
「あ...、そういう事じゃなくて。凪先輩と一緒にいると安心するから、ずっと一緒にいて欲しいなって言う...、その、あれです...」
あぁ、そういう事ね、凪先輩はいった。
ごまかすのは成功したという認識であっていると思う。
「一瞬、結婚して欲しいって言うプロポーズなのかと思ってびっくりしちゃった」
そう言って笑う凪先輩に本当はそういう意味なんだ、なんて言える訳がなくて。
変な間が空いてしまった。
微妙な沈黙のあとで、
「「あの」」
なんて声がシンクロしてしまう。
それに二人そろって顔を見合わせて、笑ってしまった。
なんだ、タイミング合うなんて運命みたいじゃないか。
「なんかタイミングあっちゃったね。美空から言ってよ」
「いえいえ、凪先輩からどうぞ」
そう言って譲り合った結果、凪先輩から言うことになった。
えー、なんて声を出して、俺を見る。
また、タイミングが合うかも、なんて期待したのだろうか。
かわいいな、なんて思う。
男にかわいいなんて、多分一生先輩だけに抱くだろうけど。
「まず、結婚の件だけどさ、男同士だから無理だよ。それにさ、美空はこんなに良い子だからきっと良い相手が見つかって結婚することになるよ。だから僕ともずっと一緒にはいられないと思う」
凪先輩の意見は凄くまともなんだと思う。
でもって普通なんだと思う。
だってそうだもの。
男と女が結婚するのは生物的にまともで。
男同士、だとか女同士、だとかそういうのは生物学的にはまともではなくて。
そんなこと、分かってるよ。
世間からも認められないってことも。
でもさ、男同士が駄目なんだ。
凪先輩が言いたいのは、俺たちが男同士だから結婚できないって事なんでしょ?
それって、俺が嫌いだから、好きじゃないから結婚できないって意味じゃないんでしょ?
俺が結婚するからずっと一緒にいれないんだもんね。
凪先輩が拒絶するから一緒にいれない、じゃないもんね。
それってさ、男同士で結婚できるなら、俺と結婚したって良いって事でしょ?
...、それとさ、良い相手が見つかって結婚することになるなんて言うけどさ。
それってどこのどいつだよ。
この世の絶世の美女だとかそういう女?
でも、俺は凪先輩以上に好きになれる存在なんていないと思う。
そう言い切れるくらいに好きだから。
愛してしまっているから。
もうあなた以上に愛せる存在なんていないんだよ?
それくらい俺の事を狂わせているって自覚して欲しいな。
でも、わかんないんだろうね。
これから先、色んな人に会うだろうけどさ。
その度に色んな事を経験するんだろうけどさ。
それでも凪先輩以上に愛せる人間なんていないよ。
というか、凪先輩以上に愛せる存在なんてできない。
いつだって愛すし、恥ずかしいくらい愛の言葉なんていったって良いよ。
それで満足するならいくらでも愛の証明するよ。
それくらい愛しているんだ。
歪んだ愛情だって自覚してしまうくらいに。
でも、そんな事を言って、困らせたく無かったから、だと良いですねとだけ言った。
どことなく卑怯な気がした。
それでも良かった。
ただ、隣にさえいられればそれで。
その後、母が俺を性的な意味合いで好きだと言うことを知った。
召使い達の話を聞いてしまったのだ。
「美空さまに新しい洋服を届けなくちゃね」
「どうして美空さまばかりこんなにプレゼントがあるの?」
「あぁ、あなた新人だからまだ知らないのね。女王様は美空さまを愛しているのよ。異性としてね」
「え...?でも、美空さまって女王様と王様の子なのよね?」
「厳密には違うの。美空さまって女王様が浮気した時に出来た子で、その浮気相手にそっくりらしいの」
「えぇ!」
「だから女王様も溺愛していて、将来、無理矢理でも結婚しようとしているのよ」
「...、美空さま、可哀想ね」
純粋に気持ち悪いと思った。
母親のその行動も、召使い達の話も。
王は好きな相手と結婚出来るから、俺が母を相手として選ぶように仕向けるつもりだったのだろう。
吐き気がした。
どうして自分ばかりこんな目に遭わなければいけないのだろうと、死にたくなった。
けれど、以前のように死のうとはしなかった。
死んだら凪先輩に会えなくなるから。
それは嫌だ。
だからちゃんと生きた。
表面上だけ取り繕うのは、意外と簡単だった。
なれてしまえば、一種のルーティンのように感じた。
俺はなにも知りませんよ、というスタンスを貫き通した。
母の態度も変わらなかった。
もし、仮に俺が知っていると明かしたらどうなるのだろうか、なんて一度考えた。
けど、結局なにも変わらない気がした。
きっと、少し驚いて、泣き真似をして。
俺を悪者にして。
俺が要求を飲むまで冷たくされるのだろう。
それでも構わないけど。
しかし、冷静になって考えてみれば、これは一種のチャンスだった。
だって、俺がなにもしなくても母が目的の為に動いてくれる。
勝手に王にしてくれるという訳なのだから。
それはとても簡単な話なのだ。
好きな相手、というのは、凪先輩も含んでいるのだから。
凪先輩を選んでも許されるのだ。
男同士では結婚出来ない、なんて言われたけど。
出来るんだよ。
周りにも非難されないよ。
仮に凪先輩の事を悪く言う奴がいたとしても。
俺が王なのだから。
いくらでも対策が出来るんだ。
俺が王様になってしまえば全て解決するんだ。
他の兄弟を蹴落として。
俺が王になるから、その時は結婚してね。
いつかちゃんと本人に宣言出来たら良いな、なんて思った。
学校は退屈だ。
欠伸を噛み殺しながらそんな事を思う。
落ちこぼれクラスから卒業したのは良いけれど、それはそれで退屈だった。
授業のレベルは確かに上がった。
最上級クラスに入ったから。
それでも、毎日アテネに教わるあれこれに比べると温いのだ。
アテネに頼んで実践を見てもらう。
教養なんてものは本を読めば大抵の事は頭に入った。
それよりも、読むだけでは身に付かない実践の方を強化する必要があったから。
単純な暗記であれば、呪いの影響もあり、すぐ終わってしまうし。
先輩は命を大事にしないから。
この場合の命というのは自分自身のことだ。
先輩は他の人が助かるなら、自分はどうなっても良いと思っている所がある。
そこが一番心配だ。
いくら先輩が死なないといえども、痛みはきちんと感じてしまう。
それこそ、普通の人間なら死ぬことで味合わなくて済むような痛みも。
痛み、というのは段々慣れてくるものだけど、僕は先輩に痛みに慣れて欲しくなかった。
ずっと苦しめだとかそういう意味ではなくて。
痛い思いをしてほしくないのだ。
そのためには強くならなければいけない。
だからアテネに教えてもらうことにした。
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