第24話王としての覚悟
本当に自分勝手で嫌になる。
こんな自分知られたくないよ。
ごめんね。
先輩の事が心の底から大好きなんだよ。
純粋にそれだけなんだ。
男同士だから叶わないって分かってるけど諦めきれないんだ。
もしなにも無かったら諦められたかもしれないけど。
アテネの事もあったから。
至って普通の思考回路なんだよ。
男と女で置き換えてしまえば。
ただ、僕の恋心は気づかぬうちにかなり大きくなってしまったんだ。
苦しいくらいに。
アテネは何も言わなかった。
なにも言わずに僕をみつめていた。
あぁ、颯太は落ち着いて凪の話を最後まで聞けば良いのに。
早とちりとか勘違いって一番嫌われるんですよ?
そんな事を思いました。
まぁ、余計なお節介だと怒られてしまうのでしょうけど。
けれど、そのお陰で助かった、と言っても過言ではありません。
ありがとうございます、なんて言いましょうか。
とても皮肉じみてますね。
でも、生きてるんだから。
もはや存在しない僕にとっては、颯太の存在なんて皮肉でしかありませんよ。
もしも、颯太が最後まで話を聞いていたら、アテネの代わりと思ってくれ、なんて言葉は出てきませんから。
だって、凪は颯太を必要としていたから。
きっと、颯太がいいなら、望むなら。
僕の事を完全に忘れてもいいよ、なんて言うつもりだったのでしょう?
そんなの。
「あぁ、でも酷いですね。僕の事を忘れてしまうなんて」
忘れないで欲しかった。
ずっとずっと。
それは無理だとしても。
忘れたのは仕方無くても、僕の事を過去にしないで欲しかった。
...、僕を、消そうとしないでほしかった。
僕の事をなかった事にしないでほしかった。
それってとっても寂しい事じゃないですか。
僕は今でも愛しているというのに。
一方通行の愛になってしまったじゃないですか。
両思いだったはずなのに。
なんだかバラバラになってしまって。
颯太と凪が一緒になるのが正しい形だなんて事はとうの昔に何となく理解していました。
それでも、僕を選んでくれた。
颯太ではなくて、僕と一緒にいることを選んでくれた。
それだけでも十分だったのに。
死んだって別に良かった。
初めから諦めがついていたから。
けれど。
僕のために色々してくれる愛しいあなたが。
僕以外の人...、颯太だろうと。
結ばれるのを黙ってみていなければならないと思うと。
胸がどうしようもなく苦しくなるんです。
苦しくて、痛くて、堪らなくなるんです。
この痛みの制御方法はわからなくて。
ただ、愛してるって、好きって事だけがわかるんです。
それに、愛していなければ、生き返るなんて方法をとろうとしませんよ。
僕は、死んだままでも良いんですから。
むしろそれが僕の本来の形なんですから。
けれど、あなたと出会って生きたいと思ってしまった。
あなたともっと生きたいと願ってしまった。
あなたの隣に生涯立つのは僕が良いと思ってしまった。
でも、忘れてしまったのなら、仕方ないですよね。
それなら、思い出させてあげないといけませんよね。
とてもとても痛い胸が、その事実を刻み込む。
苦しいな。
こんなに大好きなのはきっと僕だけで。
本当は凪は僕の事を愛していないのでは、なんて思ってしまうのです。
そんな事ない、と否定したって、ネガティブ思考は止まらない。
早く生き返りたいなぁ、という思いが強まりました。
生き返ったら、嫌でも僕の事を思い出すでしょ?
どうせ颯太は、これからもっと強くなります。
強くなればなるほど、魔力量は高まり、僕の復活は早まります。
そうなれば、あとは僕が颯太の中から出るだけ。
なんだか僕、卵から生まれる鳥のようですね。
そう考えると笑えてきます。
なんだかおかしいですね。
あぁ、楽しみだなぁ。
久しぶりに会ったらなんていってくれるのでしょう。
会いたかったっていってくれますかね?
むしろいってくれないと悲しくて泣いてしまいそうです。
あぁ、でも、二度と忘れないように刻み付けなきゃ。
僕はそんな風に期待しながら、颯太の中に巣くうのでした。
凪先輩は物知りだった。
どうして、と聞くと、塔の中にある本を一つ残らず読んでしまったから、と答えてくれた。
ふぅん、と返事をして、俺も読んだら凪先輩とのお話が楽しくなるかと思って。
一生懸命読もうとしたけど読めなかった。
読めたのは童話位だった。
あとから知ったことなのだが、あの塔にしまってある本は、魔族由来のものが多いらしい。
だから魔族の文字でかかれている。
さらに、古代文明の本を適当においているらしい。
きちんと管理するよりも塔のなかにおいておいた方が安心なんだと。
確かに、そうかもしれない。
俺よりも遥かに知識が豊富な凪先輩。
俺が聞けば、何でも答えてくれた。
凪先輩の住む石の塔は、昔、罪を犯した王族を閉じ込めていた所だった。
そう、お父さんが教えてくれた。
だから近づいてはいけないと。
今はなかにとてもなつきにくい猛獣を飼っているからといっていた。
それに対して俺は、その猛獣はいつになったら出して貰えるの、と聞いた。
すると、従順になるか、利用出来る年齢になったらとお父さんは答えた。
その猛獣が凪先輩と知った意味では父親は軽蔑対象としてみている。
王族の罪人、というのは魔力の多い人である可能性が高い。
まず、王族事態が魔力の高い人間が生まれやすい血筋だから。
だからとても丈夫に作られている。
簡単に外に出れないようにと、塔の内部には魔力の使用を制限されている。
魔法を使うには呪文を唱える必要があるため、脱出者は中で餓死するか、処刑されるか、転落死するかの未来しかない。
出口は空気口として開けられた窓のみ。
その窓も、今や自殺用の窓、と言われている。
扉は鍵があれば開くけど、開いた瞬間を見たことがないらしい。
そもそも兵士達は不気味がって近づこうとしないから。
だからみんな少し離れたところから不気味がっている。
...、俺もその一人だからそこまで強く言えないけど。
でも、この塔は、王族の血が通っていないと部屋に入った瞬間死ぬんじゃなかったっけ。
それも兵士達が近寄らない理由だったはずだ。
だって、ここは王族専用の処刑塔。
誇りある王族が、平民やら部外者をほいほい中に入れたりしない。
だから罪人が罠を仕掛けた。
そのせいで、王族の髪やら何やらを装備することが絶対条件となっていたはず。
凪先輩は罪人だし、そういうものももらっていないようだ。
あり得る可能性としては、父の兄の子供が事故で死亡したという事。
その子供が死んでいなくて、今目の前にいる凪先輩だとしたら。
(いやいや、あり得ない。そしたら父は身内を、しかも自分の兄の子供って言う一番地位の高い人物を牢屋に入れて猛獣として育てているってことだろう?)
そんな事をしたら、首を跳ねるどころの騒ぎではない。
そもそも、兄王は自分の子供をとても大事にしていた。
それこそ、事故で失ってしまったあとに心神喪失状態になるほどに。
しかし、父と母の王座へのこだわりを小さい頃から見てきた俺としてはその可能性もあるんじゃないかと思った。
それでも否定したかった。
だって、それはいやだから。
この事をみんながわかったら凪先輩と一緒にいられなくなってしまう。
凪先輩は探求心がとても高いから、城での生活もすぐになれて、それどころかきっと満喫するだろう。
この塔よりも遥かに良い暮らしなのは間違いないのだから。
そして、凪先輩は美しいから。
きっと人もたくさん集まるんだろう。
そうしたら、俺と一緒に過ごす時間はどうなる?
今みたいに一緒にいてくれる?
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