愛かどうかわからないよ
「何だか、恥ずかしいね。」
「ふふふ、そうですね。でも、幸せな気持ちです。」
なんて笑い合う。
綺麗な星空の下で、仲良く二人で。
あぁ、ずっと続いたら良いのに.....
けれど、その願いは多分叶わない。
何故か、そんな気がした。
二人が塔へ向かった頃、それは動き始めた。
「うぅ......我は、我は魔王を殺したもの。我こそが最強、あの小僧だけでも.....」
「ふぅーん。ちなみにどっち?」
「黒髪の方だ.....昔あったことのあるような気がする.....」
「そうなんだー。」
「って、誰だ貴様は!!」
再生し、凪を殺そうとしていた。
その事実だけで十分だろう。
そう。
処刑する人物として。
「ま、魔王様....なぜ?」
「あはは、君が殺したのは僕の偽物だよー。それよりもさぁ.....君、処刑の対象にしたから.....覚悟しといたほうがいいよ?」
「そ、そんな!?何故そんなことを!?」
まぁ、そうだろうね。
普段なら、別にこんなにすぐ処刑しないし。
別に魔王より強いって豪語するくらい許しているわけだし?
所詮口だけなんだもの。
僕の魔法に勝てるのは誰もいない。
凪はそもそも魔法当てようとか考えないから対象外だけどね。
「僕の大好きな子を狙ったから....かな?それとねぇ、僕今とーっても気が立っているんだぁ。」
凪が僕以外に興味を持った。
別に不満だったけど、まだイラつかない。
けど、
(あの野郎凪とキスしやがった)
その事実は確かにわかるのだ。
何故か、強く心の中に溶け込んでくるし。
「僕の魔法、見せてあげるね。まぁ、覚えたとしても、君は死ぬだけだけど。」
あはは、なんて笑ってみせる。
手をかざして、逃げたって無駄だ。
だって僕は.....
「一つだけ、選択肢をあげよっか。直接と間接、どっちがいい?」
ちなみに長く生きることが出来るのは間接。
短いのは直接。
「ち.....直接で.....」
ふむ、思い切りはいいようだ。
僕はオークに近づく。
すると.....
「油断したな!!この魔法と武器で仕留めて......」
「だと思った。間接に変更してあげる。」
魔法も武器も僕の前では無意味だ。
「時を奪え.....Death is equal to life」
愚かなオークを一匹ご招待。
「僕の栄養になってね。」
僕は、凪と同じ時間を共有したい。
その為なら、いくらでも他人を犠牲にするさ。
彼は天然の不死身。
僕は人工の不死身。
それくらいはきっと、いるか分からない神様だって、許してくれるはずだ。
それから、二人でお花畑に行った。
美しい花が咲き乱れる花園には、毒を持った花だって、少しは分布している。
「綺麗ですね。」
「うん。僕はこんな感じのところで死にたいなぁ、なんて思ってたんだよねぇ。」
「先輩は死にませんよ?」
「まぁ、信じているよ。彼氏のアテネの言うことだし。」
「...改めて彼氏って言われると、照れますね。」
「本当のことなのに?」
「まぁ...それにしても先輩は彼氏と彼女....どっちに当たるんでしょうか?」
「僕は彼氏がいいかなぁ....出来たら、だけどね。」
なんて会話を交わす。
ゆったりとした時間の流れに身を任せながら、好きな人と過ごす。
これこそが真の幸せってやつなのかもしれない。
そろそろお腹も減ってきたなぁ.......
「ねぇ、アテネ。お昼にしない?」
「材料取ってきましょうか?」
「まだ塔に前のやつ残ってるから大丈夫。何か希望とかある?」
「先輩の作ったものなら何でも...あ、せっかくなら先輩の好きなもの食べてみたいです。」
「わかった。それよりも先輩呼びやめて欲しいかなぁ。」
「こっちの方が呼びやすいんですもん。」
「じゃあ、名前で呼んで。僕だってアテネのこと名前で呼んでるし。」
「えぇ.......」
「名前で呼んでくれないと無視するから。」
そういうと、アテネはショックを受けたような顔になる。
そんな顔しないで欲しいかなぁ.........
「.......凪。」
顔を真っ赤にしながら、俯いて、そうアテネがいう。
「どうしたの?アテネ。」
名前で呼ばれるのって何だか恥ずかしいな、なんて思った。
それを誤魔化すようにアテネに問いかける。
「........名前で呼ぶのって、結構緊張します。」
「そっかぁ.....僕も何か恥ずかしい気がするけど、良い感じするから固定で。」
「ムゥ.....凪は意地悪です。」
「...僕の彼氏は凄い可愛いって今思った....」
「?」
怒った時にほっぺを膨らませるなんて、今時なかなか見られないもので、しかも大好きな彼氏のものである。
最高じゃない?
僕はアテネと一緒に塔に戻り、調理の支度を始めることにした。
材料は獣の肉(なるべく上質なやつ)、薬草などのハーブ(香りを引き立たせるのと、栄養や、スパイスとして)、
野菜と卵(これまたこだわり抜いたものを)。
さて、諸君もわかると思うが、僕は結構こだわるタイプである。
だって、上質なやつ使った方が百倍美味しいし.....
別に普通のやつとか、粗悪品使っても、そこそこ美味しくなるっちゃ美味しくなるけど....
やっぱり食事って大切だと思うからね。
こう見えても、世界一の料理人目指しているから。
アテネのために腕を振るって作った料理の数々。
どれも美味しいと言って食べてくれた。
永遠に続けばいいなんて思っているこの時間が、いつか終わりを告げるなんて、知っている。
僕の呪いをアテネに移せたらなぁ....
「僕、アテネとずっと一緒にいたいんだ。」
「ふふ、僕もですよ、凪。」
「僕の呪いをアテネに移せたらなぁ...って。そしたら一緒に生きていられるのに。」
「僕ら二人で呪いを分け合うってことですか?」
「うん...出来ないけどね。でもさ、せめて心中くらいはさせて欲しいなんて思うのはダメかなぁ。」
「.....心中、ですか。そこまで僕のこと好きなんですか?」
「うん、愛しているよ。てか、多分アテネが死んじゃったらさ、僕廃人になっちゃいそう。」
「....なんか本当のような気がして、結構怖いですね、それ。」
「僕は本気だけどね。」
「まぁ、僕は止めますよ?凪には最後まで笑って生きてほしいですし。」
「僕の最後はアテネで終わりたい。」
「あはは、そしたら笑顔で死んでくれます?」
なんて軽口を叩く。
ブラックジョーク。
少しでも楽しい時を刻みつけたい。
僕の寿命を分けられるなら分けてしまいたい。
ずっと、ずっと、二人で入れたら、どんなに幸せなことだろう?
なんて考えてしまうほど、僕はアテネを愛している。
それがどんな形だろうが構わない。
狂気だろうが、依存だろうが、僕はアテネを愛しているんだ。
だから、僕はどうせならアテネと一緒に死ねたらいいのに、なんて思う。
永遠の命は、愛によって終わりを告げる。
....少しロマンチックすぎるか。
「アテネ、大好き、愛してる。言葉なんかじゃ足りないくらい。」
「僕も凪が好きです。どんな言葉を使ったってこの気持ちを表せないくらい。」
僕らは愛し合っているんだ。
神だとか、そういうのに邪魔なんてされたくはない。
もし、僕からアテネを奪おうというのなら....
僕は神様を殺したって構わない。
むしろ喜んでこの手を汚してあげよう、なんて思った。
「ずっと一緒にいようね、アテネ。」
僕の愛しい人。
ずっと、幸福しか感じない。
だって、だって、ずっと欲しかった人が、僕の恋人で、相思相愛だなんて。
きっと僕はこの世で一番の幸福ものだ。
僕の凪に対する想いは歪み切っている。
ずっと僕だけを考えていればいい。
他の人間のことなんて考えずに。
なんて、颯太は思っていた。
僕は、それとは違くて、どうせなら凪と一つになりたい、なんて思うのだ。
だって、僕はいつか消えてしまう。
少ししか一緒に入れないのなら、少しでも刻みつけさせて。
消えない傷を頂戴。
僕に許されるなら。
僕も凪に刻みつけるから。
互いに束縛しあって、どこまでも堕ちていきたい。
きっと、凪とならどんな地獄だろうが、一瞬で天国に変わってしまうだろうから。
だからこそ、離れたくない。
ねぇ、僕の愛しい人。
僕が消える瞬間、あなたは僕と同じくらいの痛みを負ってくれる?
僕以上の痛みを。
その痛みはきっとあなたの中の僕の存在の大きさだと思うんだ。
僕の家に、新しい兄さんがやってきた。
一応、基本僕と他の奴らはあまり関わらない。
それがルール、みたいにもなっていたから。
唯一の話し相手となる美空は最近引きこもっているから、あまり会話することもない。
ちなみに、美空が引きこもっているのは、学校側から通うなと通達を受けたからだ。
別に、ルール違反だとか、問題行動を起こしたわけではない。
美空が何かしら異常で、先生だとか、学校のメンツに関わるようなことをしたんだと思う。
とりあえず、新しく出来た兄と言うのは、
「神城 奏多だ。今日からよろしく頼む。まぁ、颯太は俺のこと知っているよな?学校であったわけだし。」
何で来たんだろう。
「奏多くんは、イザベラの遠縁のようだ。最近現れたのだが、魔力も、姿もイザベラにどこか似ているので、家に来ることとなった。」
言われてみれば、先輩にほんの少し似ているような気がする。
食事会が始まる。
夕食の時間。
マナーが問われる地獄の様な時間。
奏多はテーブルマナーが完璧だった。
多分、席についている者の中で一番だったと思う。
「ごちそうさまでした。...じゃあ、俺部屋に戻るから。」
そういうと、音もなく立ち去った。
学校は嫌いだ。
ちやほやしてくる奴はうるさいし、相変わらず上手くできないし。
あれから、時々奏多は僕に稽古をつけてきた。
「いいか、はっきり言うと、魔法は魔力を大量に流せば流すほど無理やりでも発動できる。あくまで、術式や魔法陣は魔力が足らなくとも発動できる様にした、いわゆるサポートアイテムだ。颯太はかなり魔力がある。あとはどう捻り出すかを考えればいいだけだ。」
そう言って、いくつもの魔法を僕に使わせる。
確かに、魔法を使えば使うほど、僕の扱える魔力の量が高まるのを感じるが、あの塔の魔法を破くことができる様になるまで、かなり時間がかかるだろう。
「僕は、早く先輩の元に行きたいんです!このままじゃ、多分.....」
「そうやって焦ってばっかだと、何も見えない。それに、破ったからといって...」
僕は奏多と言い争った。
仕方ないじゃないか。
だって、僕は.....
取られてしまうのが怖い。
そばにいてくれなくなるのが嫌だ。
はっきり言って僕は先輩に依存している。
それが分からないほど僕は馬鹿ではない。
それでも構わないなんて思えてしまう。
夜、部屋に一人。
今日も敵わない。
塔に行って破こうとしても、破れない。
僕じゃ、だめなのかもしれない。
「ねぇ、先輩。どうしたらいいんですか.....」
なんて呟けば、
「凪に求めちゃってんの?まぁ、奏多遅いもんねぇ。特別に僕が教えてやろうか?」
目の前には、赤く輝く瞳を持って、どこか怪しげに微笑む男がいた。
「何驚いてんの?凪のこと知ってるんだし、僕のこともどっかで聞いてきたかなぁ、なんて思ってたんだけど。」
「....先輩の友人かなんかですか?」
「ううん、違うよ、まぁ、『元』婚約者ってやつかな。」
まぁ、近いうちに婚約者なんかよりも深い関係になれそうだけど。
目の前の男は、頭に王冠をつけている。
僕のとは違う種類の王冠。
「もしかして、あなた魔王ですか?」
「さぁ、どうだろ。あぁでも、魔王が攫うっていう物語も結構良いかもね。」
「その答えは正解ってことで良いでしょうか。だったら今ここで殺しますね、僕勇者ですし。」
剣を抜く。
奏多に稽古をつけて貰うつもりだったから丁度いい。
斬りかかろうとすれば、
「やめろ、颯太。お前じゃこいつに勝てない。」
「なんで止めるのかな、奏多。せっかくのチャンスなのにさ。」
奏多が、僕の剣を弾き、バリアを形成したらしい。
あまりの速さで見えなかった。
対して、さっきの男は箱を出していた。
扉は開き、中から無数の針が飛び出している。
「せっかく僕の#Death is equal to life__甘く苦しい牢獄__#で、ずーっと死んでてもらおうと思ったのに。」
「別に今すぐじゃなくてもいいだろ、というか、お前は凪に嫌われたくないんだろ?身近の人間を殺したらお前嫌われるぞ。」
「うっ、それはやだよぉ.....」
箱は消滅した。
「それで、そこにいるやつはさ、凪のもとに行きたいんでしょ?全く凪も凪だよねぇ、あんないつ消えるかわからない呪いと一緒にいるとかさぁ。」
「呪いって、もしかして、アテネとかって名前じゃないですか?」
「そうだよ、君の呪いでしょ。あいつね、今凪と絶賛交際中、しかもキスまでしてるしさ。」
僕の中で、何かが渦巻く。
アテネが、先輩にキスをした。
なんで、どうして、なんて思いがグルグル回る。
それはどんどん腹の中に溜まっていき、吐き出せない思いへと姿を変えていく。
「ん、もしかして嫉妬しちゃったりしてんの?全くこれだから人間は...」
「雪と闇奈を自殺まで追い込むまで嫉妬に狂い、町ひとつ破壊した奴が言えたセリフじゃないな。」
「奏多、余計な事言わないでくれない!!」
....
「ねぇ、僕のこと強くしてくれるとか言ってましたっけ。」
「まぁ、してあげても別にいいけど?」
「アテネぐらい余裕で殺せますか?それって。」
「まぁ、それくらいだったらできるんじゃない?手負の獣一匹くらい簡単に殺せるでしょ。」
頭の中で、ある考えが浮かんだ。
「きっと、アテネを僕が取り込めば、僕はアテネと同じですよね、そしたら、先輩の彼氏は僕ってことになるんじゃないですか?」
あぁ、考えただけでもうっとりしてしまう。
アテネなんて、忘れて、僕だけを見てくれればいい。
「..ねぇ奏多、ひょっとしなくてもこいつってやばいやつなんじゃないかなぁ。」
「多分そうだと思う。でもお前と同類じゃないか?」
「一言余計!!」
「どこまでも逃げませんか?二人で、どこまでも。」
そう言ったのはどっちだったか。
でもまぁ、どっちだったか何て今はどうでも良い。
そんなくだらないことなんて。
僕はアテネを愛してた。
最後の最後まで、ずっと。
それはアテネも同じだった。
真実なんてそれで充分だ。
それ以外は、なにも要らない。
だから、だから、アテネは今も…
「僕、そろそろ消えるみたいです。」
穏やかな、特に何も無さそうな昼下がり。
そんなことをアテネは突然呟いた。
「…そんなの、冗談でしょ?たちの悪い冗談。」
「残念ながら本当です。僕の読みが正しければ、あと二日の命ですかね。」
結構持った方だと思いますよ、呪いにしては。
なんて一言を呟いて。
「寿命を伸ばす方法は無いの?」
「あることにはありますけど……凪が辛くなるだけですよ?」
「それでもいいよ。僕はかまわない。」
アテネは言う。
「先輩の呪いを発動させてください。あれは人を殺すものなんですけど、穴があるんです。それは、呪われたら、あの呪いに殺される以外に死ぬ方法が消えるということです。だから、どこまでも逃げれば、その分生きることは可能です。」
僕の呪い。
「じゃあ、僕とアテネは結婚することになるね。」
「そうなりますね。」
結婚。
人生の大きな契り。
契約。
一生をかけて愛するという一種の呪い。
「ねぇ、アテネ。じゃあさ、結婚指輪買いに行かない?確か二日残っているんだよね?」
「良いですけど…辛くなるだけですよ?物を残したって。」
そう言いながらも、出掛ける支度を始めたアテネはどうやら乗り気のようだ。
ねぇ、アテネ。
僕はアテネのことを愛してるよ。
だからさ、死んでほしくないんだよ。
それとね、僕の呪いの発動条件だからって、アテネと結婚出来るの結構嬉しいんだよ?
ショーケースに並んだ指輪を眺める。
どの指輪もとても綺麗で。
「凪、この指輪とかどうです?」
そう言ってアテネが指差したのは、ルビーの指輪。
「凪の目の色と同じですから。」
「だったらアテネの目の色の方が綺麗だよ!」
蒼い蒼いサファイアのような瞳。
「でも、僕は凪の目の色の宝石が良いなぁ…なんて。」
そう言われたら、そうするしかない。
指輪を買う。
丁度ピッタリの物があったから。
「いつか、オーダーメイドで買おっか。」
「………そうですね。」
帰り道。
すっかりあたりは暗くなっていた。
結婚式の衣装とか悩んだけれど、結局いつもの衣装にすることにした。
「綺麗な夕日ですね。」
「そうだね。」
「ねぇ、凪。無理しなくてもいいんですよ?結婚とか、もうちょっと考えたって.....」
「やだよ。僕はアテネがいいんだ。アテネじゃなきゃ嫌なんだよ。アテネが好き、愛してる。ずっと一緒にいたいって思えるくらいに。」
「凪....」
いつの間にか夕日が落ちきっていた。
「...そろそろ、帰ろっか。」
「ええ、そうですね。」
手と手を堅く結んで、帰り道を歩いた。
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