呪いなしで成立する関係なのか

なので、知らなかった知識ばかりで困るのみ。

そんなこんなで何故か僕が配属されたのは俗に言う『底辺クラス』

しかも習うのは魔物の使う魔術ばかり………

ちなみに僕の双子の兄はもう単位を取り終えているので自主休学中である。

まぁ、それも特別処置だ。

だって、兄は15歳には死んでしまう運命なのだから。

だからみんな兄に優しい。

まぁ、僕は醜いだけですからねぇ………

搭の階段を登り、ドアを開けて

「先輩!僕です颯太ですよ!元気にしてましたか……ってあれ?」

凪さんもとい先輩は眠っていた。

ぐっすりと。

「起きてくださーい!っていうか無防備過ぎじゃない………?」

仮にも自分に好きだといった人間が来るのに眠ってるとか。

……少しイタズラしようかな?

魔法を詠唱する。

といっても心のなかで唱えるだけで僕は出せるけど。

普通の人間は声に出さないとダメらしい。

風が空間を舞う。

さぁ、初めよっと。

これが最底辺の僕の実力だ。

「えいっ」

空間を変化させた。

風の魔法のかなり上級者の使い方。

風の魔力で空間を満たすことで発生する魔力に満ちた空間。

通称『ゲート』。

この中で、この空間外と風で断絶させることでゲートに完全に入る事が出来る。

まぁ、中の魔力をすべて使えば破壊されるけれど。

「ん…あれ?颯太じゃん。久し振りぃ、元気にしてたぁ?」

ん?風のゲート?閉じ込めたのか……まぁ、邪魔だから消すね。

辺りを暗闇が包み込むと同時に、元の部屋に戻っていた。

さすが先輩……というか……

「今の闇の魔法ですよね?しかもかなり上級の。なんでそんなの先輩がしってるんですか!?」

「先輩って僕のこと?まぁ、気づいたら知ってた。使ったの随分久しぶりみたいだけど。」

「じゃあ、初歩的なのも使えますかね?よかったら教えて欲しいのですが……」

「別にいいよ?」

「やったぁ!」

たくさん教えてもらおう。

泊まり掛けで。

「そんなことよりさ……ねぇ颯太。」

「なんです先輩。お金でも借りたいのですか?」

「いつ僕がそんなこと言ったのさ………あのね見つかったの。」

「何がですか?」

すると先輩は悪い顔をしていった。

「呪いを解呪する方法だよ。」

呪いが解ける。

その事実は僕をとても喜ばせて、幸せにするための物なのに、なぜか僕は恐怖を感じていた。

「それって……本当ですか?」

「うん、本当だよ。なんだかねぇ、魔界ではよくあることみたいなんだよね。」

「………なにがですか?」

「僕らみたいな体質の子供が生まれること。」

魔界。

かつて魔王『エリザベッタ』が存在した世界。

魔王は勇者の手により滅びているけれど。

「そんな情報信用しちゃダメです!何かあったらどうする気なんですか!」

「うーん、まぁ多分大丈夫じゃない?」

「そんな感じでいいんですか………」

「だって僕強いしぃ………」

ですよね~。

先輩は最強ですもんね~。

なんでも出来ちゃいそうですもんね~。

死んだとしても生き返っちゃいますもんね~。

「って、死ぬのだけはなしですからね!」

「まぁ………善処するよ。」

「ほんとですか………」

絶対嘘だろ。

だってさそんな怪しい賭けに出る気なんだから。

いくら僕の呪いを解くためだといったって………

それに正直に言うと、呪いを解かないでほしい。

だってこれが……

これが僕と先輩の唯一のつながりでしょう?

僕らを繋げてくれたものでしょう?

「まぁ解呪といっても、デメリットのみ取り除く方法みたいだけどね。」

それだけでも、十分だ。

もしも、呪いのお陰で先輩に僕が綺麗にみえているのなら、呪いが解けてしまったら、先輩に醜いって見られてしまうって事でしょう?

そんなことは、ないって思いたいけど、思い切れないよ。

世界中の誰に醜いって思われたって構わない。

けれど、先輩にだけには………

「多分、颯太が心配しているであろうことについて話すけど………僕に君の呪いは効かないよ?」

「確証はあるんですか?」

「ほら、写真にとってみたのと、実物を比べても、どちらも一緒に見えるけど。」

そんなに心配なら他の人にも試してみれば?

先輩から受け取った写真は、確かに僕の写真だけど…

「こんなの、いつ撮りましたっけ?」

「勝手に撮っちゃった☆」

それって盗撮っていうんじゃ………

まぁ、確かに写真になると変わるとかほざいて盗撮してきた奴らには、きちんと制裁しちゃったけど……

(先輩にやられたら喜んでるとか、ちょっと僕、どんだけ好きなんだよ…………)

「どうかした?あ、もしかして駄目だったりし……」

「全然ダメじゃないですというか先輩と一緒に撮りたいです。というか先輩の写真欲しいです。」

「う、うん。別にいいけど………」

パシャ、パシャ。

シャッター音が鳴り響く。

先輩の写真………

って、

「結局呪いはどうする気なんですか!」

「解呪するに決まってるでしょ。」

写真で忘れる所だった。

先輩が僕に本を見せる。

『正しいよゐこのための解呪の仕方~』

馬鹿っぽい文章出てきちゃいましたけど?

なになに………

『解呪の方法はいたってシンプル!呪いを実体化させて、ボコしちゃえばいいだけ。そのときの呪いの姿は、対象者の心、性格、何もかもを写しとり、欲望に忠実な存在になるよ!………だから気をつけてね?本当に。あと、自分に使おうと思わないこと!凪の呪いは強力過ぎるから。』

使ったら、冗談抜きで死ぬよ?

先輩は解呪出来ない。

無理矢理やろうとすれば出来るかも知れないけど、先輩は多分死ぬ。

「さぁ、早く始めよ?早い方がやっぱり良いと思うんだよね。」

「でも………先輩は良いんですか?」

「何が?」

「呪いが解けないことですよ!」

「解けなくて良いよ、僕は。」

じゃあ、術式発動するね。

会話はここまでと言いたげに、描きあげた魔方陣に血を一滴垂らした。

途端に、呼吸すらきつくなって、僕の視界は赤く………


成功したら良いなぁ………

あと、人型なら尚更良し。

人型なら、楽に殺してあげられるから。

「永久から続く呪いよ。我の血にて目覚めたまえ…」

呪文を唱える。

何かが、段々形作られる。

颯太は苦しそう。

(ごめんね。変わってあげられたら良かったんだけど………)

無理だ、それは。

鎖が出てくる。

鍵、手錠、斧…………

より集まり、赤く染まり、やがて…………

「こんにちはぁ!先輩!僕と二人きりで暮らしましょう?」

颯太瓜二つ。

でも、それは。

鎖が巻き付き、鍵が音を鳴らす。

目は虚ろで、でも、僕を真っ直ぐ見つめている。

所々黒い靄が纏わりついている。

(全然違うでしょ………これ)

「ほらぁっ!つかまえた。」

気づけば隣まで接近してきて、僕に抱きついてくる。

それはそれは優しく。

そこで、僕は思った。

(あれ、別に特に害はないんじゃない?)

「僕と二人でいましょ?あいつを追い出して。」

鎖が颯太に巻き付くと、外にポイッと投げ捨てる。

「いやいや、もうちょっと優しくしてあげてよ!」

僕と扱い大違いだなぁ………

本をめくる。

退治するしか解呪出来ないのかなぁ………?

『ちなみに、実体化した時点で呪いは解けてるからね~。倒さなきゃいけないのは大抵の場合は術者を殺しにかかるからだよ~。』

じゃあ、別にいっか。

僕に害はないし。

「というか、君のことなんて呼べばいいの?颯太……はやめたいとこなんだけど。」

「先輩の呼びたいようで良いですよ。」

「じゃあ…………アテネ!」

「アテネ?」

「勉強とか、器用とかを司る、とにかく凄い神様の名前だよ!」

そういうとアテネは笑った。

「えへへ、先輩に名前貰えて嬉しいです!」

やばい、可愛いんですけど。

どうしよ。

感情の整理が出来ない………

目をつぶる。

「困ってるみたいだね、凪。よかったら私に相談してみない?」

「……名前言おうと思ったけど、わからないから無理。」

「私の名前は月!ルナでもるーちゃんでも好きに呼んで!」

「じゃあ、るーちゃん。」

「可愛い!」

「呪いを実体化させた奴にもさ、僕の呪いって効くの?」

先輩大好き。

一生そばにいてほしい。

そう願ってはいけないの?

僕の願いは可笑しな物なの?

ねぇ、先輩。

僕はどうしたらいいかな?


制服、というものを買ってみた。

ネクタイやら何やら色々………

「えっと………これで良いですかね?」

「似合ってる!多分大丈夫だと思うよ?」

なぜそんなの手にしてるのかと聞かれれば、アテネが学校にいってる気分を味わいたいと言ったからだ。

僕と同級生になりたかったとかなんとか。

「ねぇ、アテネ。」

「何ですか先輩?」

「いや、同級生だから先輩呼びはやめてほしいかな?というか……先生いなくない?」

「そういえばそうですね。」

「………どうすんの?」

「先輩が先生になればいいと思いますよ?」

「それもそうか………ってなるわけないでしょ!」

数分後………

「ということで授業を始めまーす。」

僕は先生になっていた。

仕方ない。

僕教えんの上手くないのに…………

「凪先生お願いしまーす!」

とりあえず基礎中の基礎と言われてるらしいやつから頑張って教えていくか………

「まず初めに闇の魔法の基礎から………」

そういえば、誰かに教えるのって初めてかもなぁ………

今まで本を読むか………

「ねぇ凪!魔法はこうやって使うんだよ!」

「そんなんじゃわかりづらいっつーの!」

「ほんまに教えんの下手やなぁ………」

………

え?なにこの記憶。

まぁいいや。

魔法は一度使えてしまえばあとは一生使えるからかなり便利な物だよねぇ……

「どうしたのです?」

「別に何でもないよ。それよりも…………」

指示したところがすでにおわってる?

まえには知らなかったって言ってたのに?

しかも術式もきちんと組み換えてるし。

「ねぇ颯太……どうゆうこと?」

「僕にもわからないのですが、気づいたら使えるようになってました。」

一度聞いただけで普通そこまで理解出来るわけではない。

よっぽどの天才か、もしくは………

「初めから知ってた………とか?」

「多分そう………です。」

アテネと颯太は多分違う。

根本的な所が。

外見や内面は鏡写しのようにそっくりでも、素質が全く違ってる。

そもそも颯太は多分風の魔法が得意だと思うし。

アテネはこの様子なら闇の魔法が得意なのかも知れない。


僕の呪いは優秀みたいだ。

いまの僕では解除不可能な術式仕掛けて、二人きりで搭のなか…………

そして僕は…………

「颯太君凄い綺麗ね~!今までとは別人みたい!」

「付き合って!」

「嫌です、お断りします。」

モテてた。

全く嬉しくないけど。

寧ろ悲しい。

モテるなら先輩にモテたかった。

『颯太大好きだよ!大嫌いなんていってごめんね…こんな僕でもよければずっと一緒に居て欲しいな?』

『もちろんです先輩!』

頭のなかでこうでもないあぁでもないなんて考えていれば。

「おーい、みんな席につけーい!今日は特別な講師を連れてきたぞ~。」

ザワザワ

「なんと、入学初日に卒業するという異例の事態を引き起こした生徒が今日お前たちに特別講師をしてくれるみたいだぞ。」

そんな奴いるんだなぁ…………

「つーことで紹介されたので自己紹介するが神城 奏多だ。別に天才って訳じゃないしハッキリいえば……まぁいいや。」

この国では珍しい黒い髪に赤い瞳。

「とりあえず、魔術というのは元々は魔王が使っていたものを人間が使えるように調整したのが始まりだ。」

へぇ………そうだったんだぁ………それは知らなかった。

「当然、オリジナルよりは劣ってしまう。別に無理すればオリジナルも使えるっちゃあ使えるんだが、魔力が足りなかったり、また、神に反する等々。」

神なんて本当にいるの?

僕はいないと思ってる。

神様がいるのならばなぜ僕らに呪いをかけたの?

「まぁ、神は実在する………というか実在してしまった。俺らの信じるような奴ではないがな。」

じゃあ狂ってる。

神様なんて狂った存在だ。

「今回お前らに教えるのはオリジナル……そのなかでも古代から伝わる物だ。それが使えればトップクラスへの移動とこの学園の生徒会への編入を可能とする。まぁ、結構難しいが、お前らのなかでも扱う事が出来る奴が出てくると思う。」

「…………あの、奏多先輩、質問です。」

「どうした?」

「僕は生徒会とか興味ないので出来たら学校に来なくていいってことにしてくれませんか?」

「別にいいと思うぞ。先生、それで良いよな?」

「奏多君が言うならいいと思う。」

先生は奏多先輩の言うことに従うみたいだ。

ホームルームは終わる。

実践をするようで、グラウンドに出るように指示が出る。

すれ違い様、奏多先輩は僕にしか聞こえない声で告げる。

「魔法を完全にマスターすれば塔に仕掛けられた魔法も簡単に解けるから。そしたら凪に会える……まぁ、凪をよろしくな。」

あぁ………こいつも先輩のこと狙ってるんだ………

塔から抜け出して森のなか。

アテネと二人で魔法で遊ぶ。

あぁ、楽しいなぁ、いつまでも遊んでたい。

僕は死なない。

でもアテネは?

きっといつか消えてしまう。

颯太だって、誰だって。

アァ、ナンデコンナニカナシイノ?

ハジメカラシッテタクセニ?

「先輩?どうかしました?」

「別に何でもなーい。というか先輩って呼ぶのやめてほしいかな?どうせなら名前で呼んだら?」

思考を振り払う。

「そうですねぇ………」

後ろでガサガサと音がなる。

大方、動物かなんかだろうなぁ………

何が襲いかかっても僕は死なないし、生き続ける。

なんて考えていれば、

「先輩!危ないです!」

なにかに突き飛ばされて、金属音がなる。

目の前で火花が飛び散る。

「ヌゥ……外シタカ。」

「先輩、逃げてください。こいつ………多分四天王かなんかです。」

突き飛ばしたのは颯太だった。

上を見上げれば…………

豚の怪物オーク。

そのなかでも特に上位種なのだろう。

頭に王冠を乗せている。

手に持った剣は赤く染まっている。

颯太も無傷みたいだから、きっと、僕らを襲うまえに誰か襲ってきたんだろう。

「魔王ナンテ奴倒シタンダ。オデハ強イ。強者デアル。」

そういうと、生首を掲げた。

生首の顔を見た瞬間、身体中が強い怒りに支配された。

なんで?

わからない。

「先輩、逃げてください。僕がこいつを倒します。」

「無理だよアテネ。危険だ。僕がやる。僕なら死なないから。」

「だめです。」

「なんでだよ!僕よりアテネは弱いでしょ!消える気なの………?」

「消える気なんて無いですが?というかいい加減にしてください。僕はあなたを守れる。それぐらい強いんですよ。ねぇ先輩、僕を頼れよ。あなたに守ってもらうほど子供じゃないので。」

僕は強い。

先輩よりも。

『颯太のまま』なら、違ったと思うけど、今の僕は『アテネ』だ。

目の前の生首に先輩が怒ってる。

多分、知り合いかなんかだったのだろう。

でも、

(僕には関係ない)

今一緒に居るのは僕で、他人はそこにはいらない。

他人のために怒ってる先輩なんてみたくない。

どうせならその視線も全て僕が支配してしまいたい。

そう思えるのも先輩がはじめてで、どうしたら良いのかもわからない。

他人に興味や感情が奪われているのを見るととても苛ついて。

だから、今は目の前の敵を倒す。

僕の感情におおいに関係してるからだ。

「なのでさよならしましょう。『#束縛の意思__バインド・チェーン__#』」

鎖が踊るように巻き付く。

目の前の敵を縛り付けていく。

息がきっと出来ないだろう。

まぁ、別にいいけど。

剣を作り出す。

剣を片手に首を切る。

最後の言葉とかどうでもいい。

「ねぇ、先輩。僕、とっても強いでしょ?」

だからもう傷つかないで。

仮に傷つくことがあったとしても、それは僕の為だけにして。


昔々、アテネという神がおりました。

誰とも恋することなく、純潔を守り続けました。

アテネは美しく、多くの人が彼女に言い寄ります。

ですが、彼女は誰も教興味がありませんでした。

勇敢な人間の手助けをしたりして過ごす日々。

何百年、何千年と続いた頃のこと。

神様の中の誰かが言いました。

「私達今まで耐えてきたけど、人間たちは欲求に正直すぎだと思うのよ。」

「たまには好き勝手したい。」

そして、神々の娯楽が始まりました。

(くだらない)

アテネはそれをつまらなそうに見つめていました。

一方、新たに神様の卵が生まれていました。

アテネを含む古くからいる神は、ゼウスなどから生まれましたが、今は卵から生まれてきます。

アテネは卵を育てることにしたのです。

そして、

アテネは恋を知りました。

どうしようもない感情を知りました。

自らの戒律に違反することは、その存在の消失を意味します。

(こんなことなら人間に生まれたかった)

戒律何かに縛られず、ただ、束縛することが許される人間に……………

アテネは戒律を破ることにしました。

今のままでいるには辛すぎて、何も手がつかなくて。

両思いでなければ消失しません。

アテネは賭けにでることにしました。


アテネが勝った。

それは当然の事実のような、そんな気がして僕は首をかしげる。

「アテネっ、大丈夫?」

「~~~先輩っ!怖かったですよ!」

さっき果敢に立ち向かってたの誰でしたっけ?

アテネが僕に思いっきり抱きつく。

鎖がカシャンと音を立てた。

その拍子に僕は後ろに倒れる。

もう、日は沈み、夜となっていた。

「わぁ………先輩!とっても綺麗な星空ですよ!」

アテネの言う通り、綺麗な星空だ。

「本当だね。」

アテネに返事をしながら、僕は、さっきの生首が誰のものなのかを考えていた。

多分あれは偽物だと思う。

そんな気がする。

(だとしたら誰が何のために……)

「せーっんぱい?」

「どうしたの?アテネ。」

アテネが僕に覆い被さる。

「先輩は僕のこと好きですか?」

「知らない。」

嘘。

好きだよ。

でもそれは………

「颯太のことは好きなんですよね。………自分なのに、嫉妬します。」

「アテネは僕のこと、好きなの?颯太のこと抜きにして。」

聞いてみたかった。

ただ、それだけ。

「大好きですよ?颯太のことなんて抜きにしても。そもそも僕は僕。アテネです。颯太と一緒にしないで。僕だけで判断してください。」

アテネは怒ったように言う。

「僕はあなたが大好きです。その感情全部僕にむいてくれないと辛くて、泣きそうで。……先輩にも呪い、かかってますよね。多分それが僕を殺すかもしれないって物で。」

「………そうだよ。」

だから嫌いっていったの。

思い込もうとしたの。

「僕、先輩になら殺されたって良いですよ。寧ろ先輩だからです。もう、そんなことで苦しまないで。大丈夫。」

アテネが微笑む。

「一緒にいます。」

安心させようとしているのか、僕の頭を優しく撫でる。

親が子供をあやすように。

頬に何かが伝う。

「え……先輩どうかしましたか!!」

視界がぼやける。

「わかんないよぉ!僕だって泣きたいわけじゃないし!勝手に出てくるのぉ!」

安心したから?

それとも……

僕は自分で自分がよくわかんない。

今まで他人を避けてきた訳じゃない。

皆冷たくて、優しくしてくれたのなんて、アテネと颯太くらいだ。

………頭のなかを掠める思い出。

「もう、いいや。飽きちゃった、死んでよ。」

冷たくこちらを見下ろす瞳。

「お前のせいなんだよぉぉぉぉお!」

血走った瞳をこちらに向け、人間とは思えないような叫び声をあげる人。

僕のまわりにはいつだって悪意が蔓延していて、でも。

「…アテネと颯太だけは違うよ……」

僕のことを大事にしてくれる。

兵器だとか、そういう扱いをしない。

「ねぇ、アテネ。」

視界がぼやける。

いつの間にか、アテネは僕の頭を撫でていた。

「好き、大好きだよ。ずっと一緒にいて。」

心からの本心だ。

断られたって構わない。

ただ、離れないでほしいかな。

そんなことを思いながら。

「えっと……これって両思いってことですか………?」

「……多分……」

「言い切ってほしいですよ、そこは。」

アテネは笑う。

「ねぇ、せんぱい。」

「なぁに?」

「キス、したいです。」

「さすがに早すぎない?付き合ってすぐじゃん。」

照れ隠しに意地悪を言う。

「そうですね……」

少し悲しげにアテネは眉を下げる。

…………これじゃ、僕が悪いみたいだ………

「仕方ない。特別にキスさせてあげよう。」

いつの間にか空は満天の星空に彩られていた。

そっと唇同士を合わせる。

なんだか変にドキドキするこの気持ちも含めてきっと恋なんだろう。

本にはよくレモンの味だとか言っているけれど。

この時にしたキスの味は、ほんのりと血の味がした。

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