第8話 新たな銃

 ゴブリン討伐の最中、マイがゴブリンの奇襲を受けるも、大事には至らなかった。だが、そのことを気にして落ち込むミラ。俺はマイ、ミラと話し合い、二人の過去を知り、そしてミラを宥め、流れで改めて俺たち3人でパーティーを組む事を決めた。



 あの川辺での話し合いから数時間後。俺たちは今町に戻る道を歩いていた。


 あの後、マイは程度が軽いとはいえ負傷したので、マイとミラに川辺で待っていてもらい、俺は1人でゴブリンを10匹ほど仕留めた。流石に依頼を受けて森に行ったってのに手ぶらでは帰れないからな。


「マイ、大丈夫?」

「うん。もう大丈夫だよミラちゃん。まだちょっと触ると痛いけど、歩いたりする分には大丈夫」

「そう。なら良かったわ」

 相変わらずミラはマイを心配しているなぁ。


「心配性だなぁミラは。本人が大丈夫だって言ってるんだし、大丈夫だろ?」

「うっさいわねカイト。マイはアタシの親友なのよ?これくらい心配して当然でしょ?ってかアンタこそマイが心配じゃないわけ?正式にパーティー組んだって言うのにさぁ」

「お前がマイを心配し過ぎてるせいでかえって冷静になってるんだよ、俺は」

「何それ?まぁ良いけど」


 そう言って息をつくミラ。しかし、彼女も俺を少しは認めてくれたのだろう。この前までは名前で呼ばず、アンタ呼ばわりだったが。名前を呼んでくれているのがその証だと思いたい。そう思うと少しばかり笑みがこぼれた。


 そんな時。

「あの~、ミラちゃん。カイトさん。少し良いですか?」

「ん?どしたのマイ?」

「うん。実はちょっと気になった事があってね」

「何よそれ?」

「ん?」

 俺が先頭を歩いていたのだが、後ろの2人が何やら話し合いながら足を止めたので、俺も足を止め振り返った。


「えっと、私たちって今まで正式にパーティーを組むかどうかで、仮のパーティーでやってたでしょ?」

「あぁ」

「えぇそうね」

「じゃあ、今日から正式なパーティーになった訳だけど、この後ってどうするのかな~って思って。2人とも、この後の事って何か考えがあるのかな~って思って」

「あ~~。成程」

 ミラはマイの言葉に頷くと、俺の方を見つめてきた。


「ねぇ。カイトは今後の予定とか展望みたいなのはあるの?」

「俺か?そうだなぁ。正直な所を言えば、俺の展望はミラの夢に似て冒険者としての上を目指す事だな。俺にも今すぐ行きたい場所や手に入れたい物なんかは無いし、大雑把になっちまうがミラ、マイの2人と冒険者活動やりながら地道にランク上げをしていこうかなぁ、って考えてたくらいだな」

「そう。じゃあアタシと大して変わらないわね。アタシとしても、今の所の目標はランク上げだし、そこまで急いでる事も無いわね」

「そっかぁ。でも2人とも、ランク上げをするって言うけど、どんな風に?」

 

 俺たちの話を聞いたマイはそう言って首を傾げた。

「とりあえず地道に依頼をこなしていくしか無いんじゃないか?確か、登録の時に聞いた説明だと、冒険者ランクって言うのはギルド側が決めてあげるらしいし。今はとにかく依頼をこなして『上のランクに相応しい』ってギルド側に理解させるしかないんじゃないか?」

「そうね。カイトの言う通り、今の所は地道に依頼をこなしながら、一つ上のランクでも目指そうかしらね」

「そっか。じゃあそれが今の目標って事だね」

「えぇっ」


 マイの言葉にミラは笑みを浮かべながら頷く。

「とりあえず、当面はランクアップを目指しつつ以前にもまして銃の練習ねっ!」

「うんっ!」


 2人とも、明確な目標が出来たからか、やる気に満ちた表情をしている。っと、そうだ。『あれ』に関して、どうせだから今伝えておくか。

「なぁ2人とも。そんな銃のトレーニングに励もうという2人に朗報があるんだが、聞くか?」

「「朗報??」」

 コテン、と小首をかしげる2人。


「あぁ。2人もそろそろAR-7には慣れてきただろ?AR-7も良い銃だ。扱いやすい上に反動なども軽い。だが、威力や弾数という点ではもっと強い銃もある。それにAR-7は全長が長い分、木々が生い茂る森の中では取り回しの点でもあまり良くない。そこで、2人には新しい銃に慣れて貰おうって考えたのさ」

「って事は、新しい銃を使えるって事ねっ!面白そうじゃないっ!」

「で、でもどんな銃なんですか?私たちが使ってる、このAR-7と違う所とかあるんですか?」

「あぁ。と言っても、それは明後日のお楽しみだ」

 興味津々な笑みを浮かべるミラと、少し緊張した様子のマイ。しかし、そういうお楽しみのネタバレは良くないからな。


「明後日?明日じゃないの?」

「あぁ。明後日だ。明日はとりあえず休みにする。今日は色々あって2人も疲れただろ?ってか俺も実際問題疲れたし」

「た、確かに」

 俺の言葉にマイが苦笑しながら頷く。


「と言う訳で明日は休み。明後日の朝、ギルドで合流して前みたいに森で射撃訓練ののちにゴブリン討伐、って事でどうだ?」

「そうね。それが良いわね。マイも良い?」

「うん。大丈夫だよ」

「うっし。じゃあ決定だな」


 と、言うわけで予定を決めた俺たちはギルドで依頼達成を報告し、報酬を貰うとその日はこれで解散となった。幸いな事のあの5人連中はギルドに居なかった。昨日の今日で遭遇するのは避けたかったから助かったぁ。



 って事で、翌日。俺は休みを適当に満喫しつつ、明日2人に渡す新たな銃を『兵器工廠』で呼び出そう、としていたんだけど。

「う~ん」

 俺は部屋で1人、腕を組んで悩んでいた。


 実の所、2人に渡す銃をそれぞれ『2丁』用意しようとしていた。一つはAR-7に代わる2人の新たなメインアーム。もう一つは護身目的のサイドアームだ。


 サイドアームに関しては既に当たりを付け弾やホルスター、予備マガジン込みで召喚して、動作確認を軽くしてからリュックに入れてある。


 問題はもう一つ、メインアームの方を決めかねていたのだ。いや、正確に言うのであれば、『どの種類の銃を渡すか』、という所は決めていた。しかし銃は一つの種類に絞ったとしても、その数は100を軽く超えていく。


 ハンドガンしかり、ライフルしかり。ジャンル1つとっても数が多すぎて逆に悩んでしまうのだ。

「ハァ、何か良いの無いかな~」

 俺は『兵器工廠』のモニターを見つめながら画面をスクロールしていく。


「ん?」

 その時、ふと目に留まった一つの銃。そしてその銃を見た時、俺は閃いたっ!こいつだっ!こいつしかないっ!と。


 そう考えた俺はすぐさまその銃を2丁と、予備のマガジンや弾などを召喚し机に並べていく。


「ふふふっ!明日が楽しみだなぁ!」

 俺はテーブルの上に並んだその銃を見下ろしながら笑みを浮かべていた。


 『サソリ』の異名を持つその銃こそ、俺が2人の新たなメインアームとして見出した物だった。  


 翌朝。俺は食事を取って宿を出て、ギルドに向かった。

「あっ、カイトさんっ!おはようございますっ!」

 っと、どうやら今日は俺の方が遅れちまったみたいだな。先についていたマイが俺に気づいて元気よく挨拶してきた。

「おはよ、カイト」

「おはよっ!ってか悪い2人ともっ!待たせちまったかっ!」

「良いわよ別に。アタシ達も今来たところだし。ね?」

「はいっ」

 遅れたので小言の一つでも言われると思ったんだが、2人とも別段気にしている様子は無い。


「と言うか、ミラちゃん新しい銃って聞いて、昨日の夜から興味津々だったみたいですよ?」

「ちょっ!?マイッ!?」

「へ~」

 マイの口から語られる事にミラは顔を赤くしている。なんだそうだったのか。

「今朝だって早く行こうって楽しそうに言いだして。ミラちゃん朝は苦手な方なのにね~」

「あ、アンタは~!そういう余計な事は言わなくて良いの~!」

「ご、ごめんなひゃい~~!」

 どうやら秘密にしてほしい類の話だったらしい。ミラは顔を真っ赤にしてマイのほっぺをムニムニしている。

「あははははっ!!」 

 その姿が面白くて、俺は思わず声を上げながら笑ってしまった。ホント、この2人と居ると飽きないなぁ、なんて思いながら。



 その後、俺たちはいつも通りギルドでゴブリン討伐の依頼を受注し森へと向かった。まずは森に入り、適当な開けた場所までやってきた。


「さてさてお待ちかね。本日より2人のお供になる武器を紹介しま……」

「もったいぶってないでさっさと出しなさいよ」

「……さーせん」


 ニヤリと笑みを浮かべながら銃を取り出そうとしたのだが、呆れた様子で急かすミラには勝てず、俺は肩を落としながら、リュックより銃を2丁取り出した。


「ん?これが新しい銃なの?」

「何て言うか、小さいですねぇ」

 取り出された2丁を見ながら、2人は少し期待外れ、と言いたげな残念そうな表情を浮かべた。

「おいおい、言っておくがこいつは前座みたいなもんだぜ?メインは、こっちだよ」

 俺は残念そうな反応の2人を見て、しかしニヤリと笑みを浮かべながら、更に追加で2丁の銃を取り出した。


「えっ!?2個ッ!?」

「って事はもしかして、2つくれるの?!」

 驚くマイとミラの反応が楽しくて、自然と頬が緩んでしまう。


「おうともさっ!今日俺が2人に用意したのは、メインアームとサイドアームだからなっ!」

「め、メインアームとサイドアームって、どういう事?」

 疑問符を浮かべながらミラが首を傾げている。


「メインアームって言うのは、今の俺たちに当てはめるならMP7やAR-7と同じさ。つまり戦闘で主に使う武装だな。一方のサイドアームは、言わば補助だ。銃だって完璧じゃない。戦闘の際に攻撃を受けて壊れる事だってあるし、繊細な分、何かの拍子に撃てなくなる可能性もある。そして万が一メインアームが使用不可能になった時の予備が、サイドアームって訳さ」

「成程。予備の武器って事ね」


「そういうことっ!」

 ミラの言葉に俺は笑みを浮かべながら頷いた。

「とはいえ、だ。サイドアームは所詮補助のための武器だ。使用目的はメインアームが壊れた時、万が一の場合の自衛目的だって事を覚えておいてくれ」

「どうしてですか?サイドアーム、って言っても立派な銃なんですよね?」

「まぁな。銃には違いないんだが。……そうだな。ここで軽く、銃の種類について2人に教えておくよ」

「「銃の、種類?」」

 2人そろって小首をかしげている。さぁて、こっからはガンマニアの本領発揮、って所かなぁ。



「そうだ。まぁ説明すると言っても、今回は2種類だ。一つ、ハンドガン。二つ、サブマシンガン。この2種類についてこれから、実物を交えながら説明していく」

 俺は一つ一つ、指を立てながら話す。

「まず最初に説明するのは、ハンドガンだ。まずは、こいつを見てくれ」


 そう言って俺が二人に見せた銃。それは、AR-7と同じく22LR弾を使用するハンドガンであり、傑作拳銃と名高い物だ。


「こいつの名は、『スタームルガーMkⅢ』。22LR弾を使用するハンドガンの内の一つだ」

 俺は2人にMkⅢを見せると、1丁ずつ差し出した。

「持ってみるか?」

「え、えぇ」

「はいっ」

 おずおずと言った様子で2人はMkⅢを手に取り、マジマジとあちこちを確認している。

「あ、改めて見てもAR-7より更に小さいわね。これ、銃としてはどんな風に使うの?」

「良い質問だぜミラ。って事で、こっからは軽く拳銃について話しておくか。拳銃って言うのはな、その見た目の通り小型である事が最大のメリットなんだ」

「た、確かに小さいですね。これなら服のポケットなんかにも隠せそう、ですよね」

 MkⅢを握ったりしてみながらマイが呟く。

「その通りだマイ。拳銃は小さい分、他の銃に比べて装弾数や威力、有効射程では劣るが、小さい分持ち運びがしやすい。それが拳銃、ハンドガンの最大のメリットと言っても良い。とはいえ、今話した通り威力など諸々で他の銃に劣る所があるから、ハンドガンはもっぱら自衛目的で使われる事が多いんだ」


「自衛。という事はこのまーくすりー、ですか?これは先ほどカイトさんが言っていたサイドアームの銃になるんですか?」

「あぁ。その通りさ。それに、AR-7や俺のMP7と違って小さいから身に付けていても目立ちにくいからな。て事で、2人にはこれを渡しておく」

 そう言って俺がカバンから取り出したのは、ベルト一体型のホルスターだ。


「これは?」

「そいつはホルスター。まぁ一言で言えば銃をしまっておく装飾品だな。どうだ?試しに着けてみるか?」

「そ、そうね。じゃあ、試してみようかしら?」

 俺の提案にミラは頷くと、服の上から腰元辺りにベルトを巻き、俺からマガジンと弾の入っていないMkⅢを受け取るとそこに差し込んでみた。そこから何度か出し入れする動きを試している。


「確かに。これなら持ち運びも便利ね。AR-7みたいにリュックに入れる必要も無いし、すぐに取り出せるから良いわね」

「だろ~」

 ミラの感想に俺は思わず笑みを浮かべながら頷いた。

「そこがハンドガンの良さなのさ。それに小さい分取り回しが簡単だから、接近戦で使う事も出来る。室内での戦いなんかがあった場合でも、ハンドガンは小さくて取り回しが効くから便利なんだぞ」

「「へ~~」」

 俺の説明を聞き、ミラとマイは感心したように声を上げている。


 その後、マイもホルスターを身に付け、MkⅢの感触を確かめている。その後、MkⅢの扱い方を教えてから、何回か射撃練習をさせた。


 とはいえ、すっかり銃に慣れている2人はこれと言って危ない様子も無く、すぐさまMkⅢに慣れていった。


 その後、予備のマガジンに2人とも弾を入れていた時だった。

「それにしても、この銃もAR-7と同じ弾を使うのね。他の弾はまだアタシ達に使わせないつもりなの?」

「ん?いや。決してそんなつもりは無いんだが、やっぱり慣れって言うのは怖いからなぁ。AR-7やMkⅢで慣れたつもりで、22LR弾より大きい弾とか撃つと、絶対反動や銃声にビビるぞ?」

「そんなに違うもんなの?」

「あぁ。大違いだ。特にハンドガンの場合だと、ライフルみたいなストックが無い分、射撃の反動を腕力や握力で制御するしかないんだ。初心者が遊び半分で大口径の銃なんて撃った場合、反動を抑えきれず銃が手からすっぽ抜ける恐れもあって危ないんだよ」

「へ~~」

 俺の説明を聞き、声を漏らすミラ。

「やっぱり段階的に慣れていく方が良い、という事ですね。カイトさん」

「あぁ。とはいえ、俺としては2人とも銃の扱いには慣れてきたし、今後は新しい銃で戦いながら、2人に合った銃を模索していこうと思ってる」

「私たちに合った銃、ですか?」


「そうだ。銃にはまだまだ種類があってな。連射は出来ないが正確な射撃で数百メートル離れた相手を撃ちぬける物もあれば、近距離で絶大な威力と制圧力を持った物もある。扱う銃の種類によって得意な事、苦手な事がガラリと変わるんだ。例えば、遠距離からの狙撃が得意なのに接近戦用の銃じゃうまく戦えないだろ?なので、今の2人には銃の扱いに慣れて貰って、今後段階的に2人に合った銃を探していこう、ってのが俺の考えなんだが、どうだ?」


 それが俺の考えだったのだが、こういうのはやはり2人の同意を得た方が良いのか?と思わず考えてしまい俺は2人に問いかけた。


「そう。それがカイトの考えならアタシは従うわ」

「うん。私もです、カイトさん」

「え?い、良いのか。これから銃に慣れて行って、その後で二人の適正を見極めて更に新しい銃を割り振るって、結構時間の掛かる感じだけど。それでも良いのか?」

「えぇ。アタシは構わないわ」

「はい。私もです」


 2人は俺の言葉に迷わず頷いた。

「銃に関してはカイトの方がアタシ達より何倍も知識があるのは当然だしね」

「それに、その方が安心できますよ。いきなりすごい銃を貰っても、私たちが扱いきれる保証はありません」

「そうそう。マイの言う通りよ。カイトはその点、ちゃんと私たちを見て判断してくれそうだし。期待、してるわよ?アタシ達に相応しい銃を選んでくれる、ってね」

「ッ!」

 不意に笑みを浮かべながらウィンクをするミラッ!?畜生思わず息を飲む程可愛いじゃねぇかぁっ!


「あら?な~に~?顔赤くしちゃってさぁ。もしかして照れてるの~?」

 ッ!?し、しまったミラに見られたっ!こいつ何やら面白そうにニヤニヤと笑みを浮かべやがってっ!

「う、うううるせぇっ!関係ないだろぉっ!?」

「あははっ!更に顔赤くしてやんの~!」

「うぅっ!!」

 畜生ッ!ミラの奴楽しそうに笑いやがってっ!うぅ、顔が熱くて仕方ないっ


「み、ミラちゃんっ、そんなに笑ったら可哀そうだよ?そ、それにほら、まだ他にも銃の事教えてくれるみたいだしっ。ですよね?カイトさんっ」

「えっ?あ、あぁそうだったっ!」

 咄嗟に助け舟を出してくれたマイ。その助け舟に感謝しながら俺は取り出していたMkⅢとは異なる2丁を手に取った。


「え~っと、それじゃあ次はサイドアームのMkⅢとは別の、これからの2人のメインアームになる武器の説明とかだ。よく聞いてくれよ」

 俺は手にしていた新たな銃を2人に手渡した。2人とも、それを受け取ると、MkⅢと同じように興味深々と言った様子であちこちを見ている。


「こっちの銃も、まぁ小さいわね。重さは、持ってみた感じAR-7とそこまで違わないわね」

「そうだねミラちゃん。でも、見た目からしてハンドガンよりそこまで大きくないですね。これも分類はハンドガン、なんですか?」

「いや。確かにその銃は小さい。実際、その銃と同じくらいの大きさのハンドガンはあるが、そいつはハンドガンじゃないんだ」

 マイの言葉も最もだ。こいつはハンドガン並みに小さいから、ハンドガンと勘違いしても可笑しくはない。


「ハンドガンじゃないのね。で?こいつの名前は?もったいぶってないで教えなさいよ」

 早く教えなさい、と急かすように不敵な笑みを浮かべながら促すミラ。

「OK。じゃあ、改めて紹介しよう。こいつの名は、『Vz61』、通称『スコーピオン』。32ACP弾という弾を使う、『サブマシンガン』だ」

「サブ、マシンガン?って、どういう意味?」

 未知なる単語の連続だからか、ミラもマイも大量の疑問符を浮かべている。

「まぁ焦るな。一つずつ説明していくから」

 そう前置きをして俺は話し始めた。


「サブマシンガンって言うのはな、速い話、近距離で弾をばら撒く事で敵を制圧する事を目的とした銃なんだ」

「制圧、ねぇ」

「そっ。まぁサブマシンガンという銃がなぜ必要とされたのかを話し始めると余裕で1時間を超えるから、今回は割愛するぞ」

「ぜひお願いするわ。この後ゴブリン討伐だってあるのに、延々とカイトの銃談義を聞いてたら日が暮れちゃうから」

「はは、分かったよ」


 ミラの呆れた様子の言葉に苦笑しつつ俺は頷く。


「サブマシンガン、或いは短機関銃って呼ばれる武器は、フルオートで弾を発射するんだ。ちなみに、AR-7みたいに1発撃つごとに引き金を引く必要がある銃の事セミオートマチックライフル、なんて言ったりする。セミオートは、まぁフルオートの反対って覚えておけばいい」

「え~っと?セミオートが1発ずつ引き金を引く必要があるのなら、フルオートは違うの?」

「あぁ」

 頭に手を当て、眉間にしわを寄せながら問いかけてむるミラ。まぁ聞きなれない単語ばかりだから仕方ないか。そんな彼女の言葉に頷きつつ、説明を続ける。


「フルオートって言うのは、引き金を引き続ける限り、マガジンの弾が無くなるまで弾を連続して発射する事が出来るんだ」

「へ~~。あっ、じゃあこのスコーピオンはどれくらいの数の弾を撃てるんですか?」

「マガジンにもよるが、標準サイズのマガジンなら20発だな」

「に、20ッ!?」

 マイの問いかけに答えると彼女は驚いた様子だった。


「単純にAR-7の倍以上じゃないですかっ!」

「まぁ弾をばら撒いて敵を制圧したりするのが目的だから、これくらいは弾数が無いとな。それにフルオートで撃ちまくったら20発1マガジンなんてあっという間に使い切っちまうし、実戦でそんなに短時間で何十発と撃ちまくる事はしないぞ」

「で、でも頼もしいです。弾の数が多ければ、それだけ同時に多くのゴブリンを相手に出来るって事ですよねっ」

「まぁ確かにな」

 少し興奮した様子のマイ。うんうん、彼女も段々銃の魅力に気付いて来たみたいで俺は嬉しいぞっ!


 そう思うとニヤニヤが止まらんなぁ。

「ちょっと、変な笑みを浮かべてないで説明しなさいっ!」

「あてっ!?」

 い、いかん。ニヤニヤしてたらミラの手刀で頭を軽く叩かれたっ!?

「このスコーピオンって銃がそのサブマシンガンって部類に入る事、サブマシンガンが短距離での制圧に向いてる事は分かったわ。でも、なんでアタシ達にこのサブマシンガンのスコーピオンを持たせたの?その辺りの説明、まだ聞いてないわよ」

「あ、あぁ。そうだったな」


 俺は頷き、軽く咳払いをしてから話し始めた。

「サブマシンガンは今まで話した通り、近距離で弾をばら撒く事による制圧能力に特化している。更に言えば、小型で取り回しの良いサブマシンガンはこういった森の中での戦いに有利なんだ」

「どうして、森の中の戦いが有利なんですか?」

 小首を傾げながら問いかけてくるマイ。


「それについてはサブマシンガンの欠点に触れる必要があるな。まず、サブマシンガンは弾をばら撒くという性質上、中距離以上の精密射撃には向かないんだ。近距離では圧倒的な力を発揮する反面、それ以上の距離になると力を発揮できない、と言うべきかな。しかしこういった木々に覆われた森の中だと、必然的に戦闘は近距離での物になるんだ。加えて障害物も多いから、中距離から相手に弾を当てるのも難しい」

「まぁ、確かにね」

 ミラは周囲の鬱蒼とした森を見回しながら呟く。


「それに、セミオートで銃身の長いAR-7は咄嗟の遭遇戦の時なんか、取り回しも悪いし長いという事は物に引っかかりやすい。幸い、今までそう言った事も無いようにしてきたし、実際大丈夫だったけど。今後そうならないという保証はないからね。その点、スコーピオンは小型で取り回しも良いからね。こういった森の中での戦闘を考えるなら、向いてると思ったんだよ」

「成程ねぇ。それでこのスコーピオンを?」

「まぁね」

 手にしたスコーピオンを見せてくるミラに頷き返す。


「それに、スコーピオンの使う32ACP弾は22LR弾と同じく反動も小さいから命中精度も高いし、フルオート射撃時のリコイル、反動のコントロールもしやすいんだ。それにセレクターで選択してフルオートとセミオートの切り替えも出来るからね。軽い、扱いやすい、取り回しも良い。その3点でスコーピオンを2人のために選んだんだよ」

「「へ~~」」

 2人は俺の説明を聞き、声を漏らすと改めてスコーピオンの各部を見ている。ミラはスコーピオンを片手で持って構え、感触を確かめている。マイは、前後に動くワイヤーストックに最初は驚きながらも、それを稼働させミラと同じように構えた時の感触を確かめている。


「うん、確かに悪くないわね。AR-7と重さを大して変わらないから、その辺りも問題ないわね」

「そうだねミラちゃん。それに小さいから、確かにすぐに動けるのも良いねっ」

 

 2人の感想と表情を見る限り、どうやら2人のお眼鏡にかなったようだ。


 その後、2人に20連発マガジンを数個と32ACP弾の箱を数個渡し、マガジンに弾を込めてから扱い方、セレクターの操作方法、ストックの展開方法、マガジンキャッチボタンの位置、コッキングレバーの位置、装填後のマガジンがフォアグリップ替わりになる事などを教え、2マガジン分ほど射撃練習をさせた。


 2人とも、初めてフルオートで銃を撃った時は驚きつつも、驚嘆の笑みを浮かべていた。


 その後はリグに入れていたマガジンをAR-7の物と取り換え、AR-7はストック内部にしまい、マガジンと共に2人のリュックの中へ。最初は俺の方で回収しようか?と提案したのだが……。

「良いわ。リュックに入れておけばがさばる物でも無いし」

「はい。折角カイトさんに頂いた物ですから。大事に持たせていただきます」

 との事だった。


「OK分かった」

 2人がそうしたいのなら別に構わないか、という事で俺も納得し、リュックからMP7を取り出し、マガジンを抜いて弾をチェック、マガジンを戻す。そんな俺の隣で、ミラとマイもスコーピオンのマガジンを確認し、それを戻す。

 

「それじゃあ、行きますか」

「えぇっ」

「はいっ」


 俺の言葉に2人は頷き、そして3人揃って、それぞれの得物のコッキングハンドルを引く。


 カシュッ、という音が3つ、重なり森の中へと響く。さて、こっからはゴブリン狩りの時間だ。


     第8話 END

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