第5話 練習の始まり
突如として冒険者パーティーを組まないか、と誘われた俺は、二人組の少女、ミラ。マイと共にお互いを知るため、まずは臨時でパーティーを組む事に。そして翌日。俺は二人に銃、AR-7を貸し与えて銃の練習をし、その後ゴブリン討伐に向かった。
ゴブリンを探して森の中を歩く俺たち。先頭がMP7を装備した俺。それにAR-7を装備したミラ。同じくAR-7を装備したマイが続く。
バーチカルグリップも展開し、両手でMP7を保持しつつ、前方を警戒しながら進んでいく。すると……。
「ッ。あ、あの、今何か聞こえませんでした?」
「えっ?」
不意に一番後ろを歩いていたメイが小さく声を上げた。それに足を止めるミラ。俺もそれに続くように足を止め、聞き耳を立てる。
「……気のせいじゃ?」
「しっ」
声を上げるミラに、俺は左手人差し指を立てて口元に当てる。『静かにして』という合図に、ミラは若干不服そうながらも押し黙った。
しばし俺たち3人は、その場に留まり周囲を見回した。見える範囲で怪しい影は無い。だが鬱蒼とした森の中。ゴブリンくらいなら隠れられそうな茂みはいくらでもある。
だが、何かが動く気配や音はしない。風に揺れる枝の音。時折聞こえる鳥の声。それ以外には特に聞こえず、俺も『マイの空耳か?』と疑い出した時。
『……ッ、ッ……』
「っ!」
微かにだが聞こえた。木の枝が揺れる音に交じって、何かの声らしき物が。俺はすぐに二人の方に目を向けたが、どうやら二人も聞こえたようだ。ミラは表情を引き締め、マイは少し怯えた様子で周囲に銃口を向けている。
「聞こえた?」
「えぇ。微かに、だけど」
「や、やっぱり近くに何かいるんですか……っ!?」
俺たちはそれぞれ、周囲を警戒する。音がしたのは、こっちか?
「どうするの?」
「……音のする方に近づいてみよう。場合によっては、戦闘になるから二人ともそのつもりで」
「OK」
「わ、分かりましたっ」
「よし、行くぞっ」
MP7を構えた俺を先頭に、俺たち3人は音がした方へと向かった。
ゆっくりと音を立てないように移動していく。木で体を隠しつつ、姿勢を低くし周囲を警戒しながら進んでいくと。
「っ、居たっ」
茂みから前方を覗き込むと、離れた距離にゴブリンが居た。俺は即座に茂みの方へと体を戻す。
「前方にゴブリン。数は4匹。こっちに背を向けながら、何かしてたみたいだ」
俺は振り返り、二人に手短に報告を行う。
「何か、って何です?」
「今からもう一度確認する。二人は念のため周囲を警戒してて」
「……分かった」
「は、はいっ」
二人が周囲を警戒してくれている。その間に、俺は茂みからゆっくりと顔を出し、前方の様子を伺った。
「俺たちの方向に背を向けてるゴブリンが4匹。……鹿か何か仕留めたみたいだな?奴らそれを貪ってる」
「そう。それで、どうするの?」
周囲を警戒しつつ問いかけてくるミラ。ここは、せっかく見つけた標的だ。しかも食事に夢中で動く気配は無い。……練習にはもってこいだな。
「よしっ。もう少し接近して、そこから二人のAR-7でやれるか試してみよう。良いな、二人とも?」
「いよいよ、って訳ね」
「が、がんばりますっ」
初めての銃を使った本物の実戦、という事もあってかミラは待ってましたと言わんばかりに獰猛な笑みを浮かべ、マイの方は緊張した様子だ。
「よしっ、二人とも、出来るだけ姿勢を低くして、茂みや木の影で体を隠しながら付いて来てくれ。もう少し接近する。出来るだけ、音を立てないようにな」
俺の言葉に二人は無言で頷く。俺もそれに頷き返し、出来るだけ姿勢を低くして歩き出した。
出来るだけ音を立てないようにゆっくりと進みつつ、周囲も警戒する。そして徐々に距離を詰めていく。幸い奴らは食事に夢中だ。おかげで10メートルほどの所まで近づいた。
「よしっ、二人とも。ここからゴブリンを狙えるか?」
「大丈夫よ」
「は、はいっ」
ミラが俺から少し離れると静かにAR-7を構え、マイもそれに続いた。
「よしっ。じゃあ、ミラは一番左を。マイは一番右を狙ってくれ。……撃ち漏らしてこっちに向かってきたら、俺のMP7で対処する」
「OK。やるわよ、マイ」
「う、うんっ」
二人は慎重に狙いを合わせる。
「タイミングは任せる」
「えぇ」
ミラは、サイト越しに狙いを定めながら小さく頷いた。マイの方は、緊張しているのか額に汗を浮かべている。
何か言ってやるべきか?と思いながらも周囲を警戒していると……。不意に銃声が響いた。ミラが撃ったのだ。すると一瞬の間を置き、次の銃声が。どうやらミラの発砲音につられる形でマイも引き金を引いたようだ。
俺はすぐに前方、ゴブリンの方へ目を向けた。見ると……。
『ッ!?ギアァァァァァッ!!?』
『『『ッ!?』』』
1番左に居た個体が腹から血を流しながらその場に倒れこんだっ。ミラの射撃が当たった訳かっ!
「あ、当たったっ!」
「ミラちゃん凄いっ!」
ミラは笑みを浮かべ、マイは驚いていた。だがゴブリンはまだ3体いるっ!
「ミラッ!マイッ!そのまま射撃を続けろっ!接近してきたら俺がフォローするっ!今は銃で敵に弾を当てる練習だっ!弾切れも恐れずとにかく撃てっ!」
「分かってるっ!」
「は、はいっ!」
俺が指示を飛ばすと、浮つきかけていた二人の表情が引き締まり、再びAR-7を構える。そして、まずミラが引き金を引いた。再び放たれた弾丸だが、しかしそれはゴブリンの近くにあった動物の骸に命中しただけだ。
「ちっ!?外したっ!?」
「構うな撃てっ!」
「分かってるっ!」
舌打ちをする彼女に対して指示を飛ばす。彼女は怒鳴り返しながらももう一度狙いをつける。
『ギャァッ!』
『ギャギャァッ!』
だがあれだけ銃声をならせば気づかれても無理はない。現に残ったゴブリン3匹が俺たちに気づいた。奴らは手にしたこん棒を手に取り、走り出そうとした。
「あ、当たってぇっ!」
マイが神頼みのような叫びながら第2射を放った。そしてそれは、今まさに走り出そうとしていたゴブリンの腹部を貫いた。
『ギアァァァッ!?』
腹部を抑え転げまわるゴブリン。
「あ、当たったっ!?」
マイは喜びの笑みを浮かべ、思わず銃口を下げてしまう。
「まだだマイッ!まだ来るぞっ!次だ次っ!」
「あっ!は、はいっ!」
俺が声を上げると、マイは体を震わせながら再び銃を構える。
「今度こそっ!」
さらに続くミラの射撃。すると、放たれた弾が3匹目のゴブリンの頭を撃ちぬいた。ヘッドショットだ。
「やったっ!」
「よしラスト1匹だっ!二人で仕留めて見ろっ!」
ここまでくれば俺のフォローは必要ないかもしれない。そう判断した俺は叫んだ。が……。
『ギィィィィッ!!!』
「あっ!?こら待ちなさいっ!!」
残った最後の1匹が逃げ出したっ!?ミラはすぐに何発もゴブリンに向けて撃つ。
「あ、当たってっ!」
マイも同様に引き金を引き銃弾を放つのだが、元々ゴブリンが小さい事や二人の腕前がまだまだとあって、命中弾は出ず、ゴブリンは茂みの奥へと逃げていき、姿は見えなくなった。
「あぁクソっ!逃がしたっ!」
悔しそうに表情を歪めるミラ。その横では、マイが申し訳なさそうにミラの表情を伺っている。が、俺からしてみればこれは十分な戦果だ。
「落ち着けよミラ。言っとくが、移動してる相手に当てるって結構難しいんだぞ?それに、初めての実戦で2発当てて2匹も仕留めたんだ。むしろ上出来だぞ?」
「……そうなの?」
「そうだよ。むしろ、練習した後とはいえ、初めての実戦でミラは2匹。マイも1匹仕留めてる。初陣にしちゃ十分な戦果だろ」
周囲を見回し警戒しつつも、二人を褒める。ほめて伸ばす。という訳でもないが、初陣でばっちり弾を当てた事は十分凄い。何しろ、俺と違って銃の予備知識は0なんだし、俺は今まで村でひっそり練習していた。
それに比べて二人の練習時間は1時間にも満たない。それが初陣で二人合わせて3匹も仕留めれば、上出来だ。
「それよか、さっさと耳を回収しようぜ。お前たちの銃を使っての初戦果だ」
「っと、そうだったわねっ!行くわよマイッ!」
「あわわっ、ま、待ってよミラちゃ~んっ!」
ミラはAR-7を抱えたまま足早に走り出し、マイも慌てて続いた。俺も周囲を警戒しつつ、二人の後を追った。
その後、討伐した耳を回収する。そんな最中。
「それにしても、凄いよねぇミラちゃん。銃ってこんなにすごいんだね」
二人が耳を回収している傍で周囲をMP7を手にしながら警戒していたんだが、ふと聞こえてきたマイの言葉。
それは銃に対する驚嘆の言葉であり、誉め言葉だ。ふふっ、ガンマニアとしては聞いていて耳が嬉しい言葉だ。自然と顔がにやけてしまう。
「そうねぇ。あれだけの距離からほぼ1発で仕留められる上に、矢よりも真っすぐ飛ぶ。それに矢を何個も放つよりも先に何発も撃てる。音が大きいのとかは欠点だけど。……それを差し引いても、確かに銃ってすごいわよねぇ」
おぉっ!ミラの方も銃を凄いと評しているっ!むふふっ、ガンマニアとしては嬉しい限りだぜっ!とはいえ、さっきも変な笑みを浮かべてミラに気持ち悪い、とか言われたからなぁ。今のニヤついた顔はどうあっても二人に見せられないなぁ。
まっ!ガンマニアとして銃を褒められるのはやっぱ嬉しいけどなっ!
なんて思いながら周囲を警戒している内に、二人は耳を回収し終えた。さて……。
「この後はどうする?ここから更に別のゴブリンを討伐するか?」
「当たり前でしょ?これっぽっちじゃ儲けなんて出ないわ。そうね。3人も居るから、最低でも10匹くらいは狩りたいかも」
「OK。分かった」
ミラの提案もあって、そこから更に俺たちは森の中を探索し、ゴブリンを探し、3~4匹の群れを見つけると、再び戦い、一方的に射殺しては耳を回収してを繰り返していった。
「ふぅ。これで11匹。こんだけ集めればとりあえず大丈夫でしょう」
「うんっ!」
どうやら二人とも、結構な数を狩ったからこれで満足なようだ。耳を回収し、後は森を出るだけだが。
「二人とも。念のためマガジンを交換しておいた方が良いぞ。後は森を出るだけ、って言ったってゴブリンや他の魔物と遭遇する可能性もあるからな」
「分かってるわよ」
「は、はいっ」
二人は、今さっきの戦闘で弾を消費したマガジンを抜き、新しい物を差し込むと、まだ慣れない手つきでチャンバーチェックを行った。
「よし。じゃあ帰るか。そろそろ日も暮れだすころだしな」
「そうね。早く戻って報酬受け取りましょ」
俺たちは森を出るために歩き出した。幸い、森を出るまでの間にゴブリンや魔物に遭遇することは無く、無事に森を出た。
で、町に戻る前に。
「二人とも。今のうちにAR-7を分解しといてくれ」
「「え?」」
突然の俺の言葉に、二人は首を傾げた。
「なんで分解するのよ?その必要ないでしょ?」
「いやいや、大いにあるぞ?二人とも、そんな風変わりな武器を町中まで持っていく気か?すげぇ目立つぞ?」
「「あっ」」
二人とも気づいたようだな。
「銃は今の所俺以外用意出来ない武器だ。見た目だって普通の武器とは違う。その身そのまま持ち歩いてたら確実に悪目立ちするからな。その点、ストックに分解収納しとけば、そこまで目立たないからな。実際、俺のMP7もリュックにしまっておけるサイズだから好んで使ってる、って感じだしさ。リグとかなら、まぁ変な防具って事で良いかもしれないが、銃は流石にな」
「確かに。変な奴に目をつけられても事よね。アンタ、分解方法教えないよね。マイも」
「う、うんっ」
二人とも俺の話を聞いて納得したのか、俺に教えてもらいながらAR-7を分解し、ストックに収納した。が……。
「……って言っても、こんな変な物持ってても十分怪しいわね」
「う、うん」
二人ともストックだけになったAR-7を見つつ難しい顔をしている。
「あ~~。やっぱりそうか~」
銃そのものを持ち歩くよりはマシかな?とは思っていたが、確かに改めて実際の姿を見てみても、まだ違和感があるなぁ。仕方ない。
「ちょっと待って。今リュックか何か用意するから」
「「え?」」
俺の言葉にまた二人が首を傾げた。俺は周囲を見回し、近くに俺たち以外の人が居ない事を確認すると、俺は目を閉じ、意識を集中してスキル、兵器工廠のモニターを呼び出した。
「「えぇっ!?」」
突如現れたモニターに二人は驚いて声を上げている。まぁ無理もない。俺としても、まだまだ二人とやっていくと決めた訳じゃないが、銃や銃弾の供給元について、いずれ聞かれるか興味を持たれる可能性は大いにある。なので、先にこっちからネタバラシだ。
俺はモニターにリュックと単語をイメージ入力し、リストが表示された。思念操作で画面をスクロールし、二人用にちょうどよさそうな、小さな肩掛けリュック2つを召喚した。
「よし。さっ、使ってくれ」
と、俺は笑顔を浮かべながらミリタリーリュックを二人に差し出したのだが……。
「えぇぇぇぇっ!?ななな、何ですか今のぉっ!?」
「ちょっ!?アンタ今何したのっ!?ってかそれ、どっから出てきたのっ!?」
お~~お~~、二人とも面白いくらいべたな反応で驚いてくれてるなぁ。うんうん、王道的反応は見ていて実に楽しいが、今はそれは置いといて。
「実をいうとだな、これが俺の力なんだよ」
「力?」
「あぁ」
俺はとりあえず、二人に俺の力、兵器工廠の内容をざっくりと説明した。
「成程。つまりアンタやアタシ達が使う銃や弾、道具とかは全部アンタがその兵器工廠、って言うスキルで取り寄せてた物、って訳ね?」
「その通りだ。って事で、どうぞ。使ってくれ。これなら収納状態のAR-7も普通に入るだろう」
「わ、分かったわ」
「あ、ありがとうございますっ」
二人は少し戸惑いながらも持っていたAR-7をミリタリーリュックに仕舞い、それを背負った。
「あぁそうだ。それと、今日渡した予備のマガジンや今着てるリグ、ヘッドセットやゴーグルなんかは、そのまま持ってていいからな」
「えっ?良いの?」
「あぁ。どうせしばらくは銃を使って依頼受けるだろ?それで依頼の時にいちいち俺に道具や銃を返されてもな。まだパーティーを正式に組んだ訳じゃないから、まぁ貸し与えるとか、そんな所だ。どうだ?」
「それはまぁこっちに断る理由は無いけど」
ミラは確かに、と言わんばかりの表情で頷いた。
「よし。決まりだな。それじゃあ町に戻ろうぜ」
「え、えぇ。行くわよ、マイ」
「うんっ」
リュックも渡した事で、俺たちは改めて町に戻るために歩き出した。その後、ギルドへと行き、報酬を貰うと、とりあえず取り分を俺が4、ミラ達が6になるくらいに金を分けて、その日はギルド前で解散する運びとなった。
「んじゃまた明日。ギルド前で集合だな」
「えぇ。また明日」
「おやすみなさいカイトさんっ」
軽い挨拶をして離れていくミラと、俺に一礼をしてからその後を追っていくマイ。そんな二人を見送ると、俺も自分の宿に向けて歩き出した。
宿に戻る途中で夕食を済ませてから宿に戻った俺は、部屋のベッドで横になるなり笑みを浮かべていた。
あぁ、今思い出しても二人が銃を褒めていた事を思い出すだけでニヤニヤが止まらない。そこから更に、俺は考えた。
『もし将来、あいつらと正式にパーティーを組んで冒険をする事になったら、あいつらにはどんな銃が合うのかな?』、なんて事を考えて、色々な妄想をしながら、その日は気持ちよく眠りについた。
第5話 END
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