第4話 パーティー結成(仮)

 ゴブリン討伐のために森を訪れた俺は、無事にゴブリンを討伐する事が出来た。それから冒険者生活を始めゴブリン討伐で日銭を稼いでいたある日、俺は森の中でゴブリンに襲われていた二人の女性冒険者を助けたのだが、助けて森を出て直後、その一人からパーティーに参加しないか?と勧誘を受けたのだった。


「いやいやいや、ちょっと待て待ってくれ。俺たち会ってまだ数時間だよな?そもそもお互いの自己紹介すらしてないのにパーティー加入って。可笑しくないか?」

「むっ。何よ、こんな美少女二人とパーティー組むのが嫌だっての?」

「いやそういう訳じゃなくてだな」


 ムスッと不機嫌そうな表情を浮かべるミラだが、そういう問題じゃない。

「問題はそこじゃない。いや俺も正直仲間は欲しい。けど俺たちは会ってまだ数時間だぞ?即決なんて出来るかっ。絶対何か裏があるって勘ぐるだろ普通」

「あっそ。なら聞くけど、どうしたら私たちを信用するのかしら?」


 いきなりそれを聞くのかよ。お互い名前も知らないのに。……まぁ良い。聞くだけ聞いてみるか。

「俺とパーティーを組もうと思った訳を話してくれ。無論、嘘は無しだ。理由は、この際何でもいい。だから正直に話してくれ」

「……」

 ミラは少し迷うように視線を泳がせる仕草をしてから、隣にいたマイへと視線を向けた。


「どうしよっか、マイ?」

「こ、ここは正直に話した方が良いんじゃないかな?あぁ言ってる事だし」

「……そうね、分かったわ。正直に話す」


 彼女はマイの話を聞くと、改めて俺の方へと向き直った。

「単刀直入に言えば、アンタの持ってるその武器が欲しい。もしくは一時的でも良いから貸してほしい、或いは何か購入できるものならその方法と金額を教えてほしい、って所ね」

「成程。つまり俺からこいつみたいな銃が欲しいと」

「銃?それ、銃って言う武器なの?」

「ん?あぁそうだ。まぁ詳しくはここで話すと長くなるが、俺が持ってるこのMP7みたいな武器の総称として、銃って言うんだ」

「成程ね。それで?アタシ達の目的は聞いたんだから。返事が欲しいんだけど?アタシ達と一緒にパーティー組む気、あるの?」

「そうだな。……正直に言えば、今の所『可も無く不可も無く』、と言った所だ」

「何よそれ?歯切れが悪いわねぇ」


 俺の言葉に、ミラは呆れた様子で息をついている。

「お互い初対面なんだから仕方ないだろ?とにかく、俺の意見を言わせてもらうとな。正直な所、俺も仲間は欲しい。俺の持つ銃は凄い武器だが、戦闘となるとやっぱり頭数が欲しい。人が多ければ周囲を警戒する目も増えるし、銃が扱える奴が増えれば、単純に火力も上がる。そこで一つ提案なんだが、お試し期間みたいなものを作らないか?」

「「お試し期間?」」


 2人は揃って首を傾げている。

「そうだ。俺がお前たちのパーティーに加わり、一緒に依頼を受ける。その間に俺たち3人で上手くやれるのか試すんだよ。正式にパーティーを組むのなら、その後でも俺は構わない。それに、そのお試し期間の間に、銃を試したいって言うのならこっちでお前たち二人分の銃を用意しよう」


 これは、言葉通りのお試し期間だ。まだお互いの名前すら知らない俺たち3人がパーティーとしてやっていけるのか?こいつらはどんな人間なのか?更に言えば彼女達にも俺と言う人間を知ってもらう。そう言ったお互いを見極めるためのものだ。

「ホントに?」

「あぁ。何なら手取り足取り扱い方だって教える。どうだ?」


 俺が問いかけると、二人は顔を見合わせた。

「ど、どうしようミラちゃん。わ、私は、試しにパーティー組んでからでも、良いと思うけど」

「……そうね。分かったわ」

 マイの話を聞いたミラは少し何かを考えた様子の後、頷いた。


「アンタの提案に乗るわ。確かにいきなり正式にパーティーを組んでも、やって行けるかどうかは分からないし。良いわ、それなら一時的な仮加入って事でどう?」

「構わない。俺はそれで大丈夫だ。ただ、一つだけ先に伝えておきたい事がある」

「ん?何?」


 首を傾げるミラを一瞥しつつ、俺はリグからマガジンを一本取り出した。

「先に言っておくと、銃って言う武器は銃弾を放って敵を攻撃する武器だ。そうだな、銃を弓に例えるのなら、銃は弓本体。銃弾は矢だ。そして、銃弾は街の店で矢を買って補充するのとはわけが違う。詳しくは後日話す事になるだろうが、銃弾を用意できるのは恐らく俺だけだ。つまり銃を武器にして今後戦っていくのなら、銃弾の補給の関係上、俺と離れる事が不可能になる」

「つまり、銃を武器として扱うのなら、今後銃を使い続ける限りアンタとアタシ達は一蓮托生になる、って訳?」

「あぁ。そう取ってもらって構わない。前提条件として、もし俺たちがパーティーを組み、銃をメインに戦うのなら必ずそうなる。これだけは先に知っておいてほしい」

「そ、そうなんですね。わ、私は別にミラちゃんが一緒なら構いませんけど」

 マイはそう言ってミラの方にチラチラと視線を送っている。

「……それに関してもお試し期間に試すって訳ね。今後一緒にやっていけるかどうか」

「あぁ。そんなところだ」


 俺の言葉を聞くと、ミラは小さく息をついてから何かを決心したような目で俺を見つめてきた。

「OK。分かったわ。だったらアンタの言う通り、このお試し期間の間に色々試させてもらうし、見せてもらうわ。アンタが持つ銃の事とか、アンタの事をね」

「分かった。そんじゃま、正式にパーティーを組むかはお試し期間の後で、という事で構わないな?」

「えぇ。マイもそれで良いわね?」

「う、うんっ。私は大丈夫だよ」

 俺の言葉にミラが頷き、彼女に問われたマイも頷く。


「そうか。ならまずは自己紹介だな。改めて、俺はカイト。ランクはGの新人だ」

「アタシは『ミラ』よ。ランクはアンタと同じG。こっちは幼馴染で……」

「お、同じGランクの『マイ』と言いますっ!よよ、よろしくお願いしますっ!」


 ミラは俺に対して人見知りする様子など一切見せない一方、マイの方は人見知りが激しいのかまだ緊張した様子だ。

「ミラとマイだな。ともかくよろしく頼むよ」



 こうして俺は二人のパーティーに仮加入する事になった。その後、町まで戻る道中で今後の事を二人と話し合った。


 とりあえず、明日の朝ギルドで落ち合い、ゴブリン討伐の依頼を3人で受注。森へきて、ゴブリンを狩る前に俺が用意した銃を二人に試してもらう。もしそこで銃の扱いが少しでも出来れば、テストという事でゴブリン相手に戦ってみたい、というのがミラの提案だった。


 正直、最初は依頼とか関係無しに練習の日を作りたかったのだが……。

「あのねぇ。こっちは安い報酬で日々を食つなぐのがやっとなのよ?のんきに練習なんてしてる時間無いわ。それに、実戦で慣れちゃった方が早いでしょ?10匹のゴブリンを簡単に屠るアンタも居るんだし、大きな問題はないでしょ?」

「う、うぅんまぁ、あまり森の奥まで深入りしなければ大丈夫だろうが」

「なら大丈夫よ。明日、ゴブリン討伐と一緒に銃の扱い方とか、教えてもらうからね」


 というミラの意思に押される形で、俺は納得するしかなかった。その後、俺たちはギルドでそれぞれの依頼を報告し、報酬を貰うと念のためにとお互いの宿泊している宿の名前を教え合い、その日は分かれた。


 ミラ達と別れた後、道中で早めの夕食を取ってから宿に戻った俺は、明日二人に与えるちょうどいい銃が無いかどうか、頭の中で色々リストアップしていた。



 あの二人は銃を握った事が無い。つまり反動も銃声も知らず、銃に、いや銃の形をしたものに触れた事すらない。全てが初体験。銃に関する予備知識も0に近い。

 

 となると、初心者入門用みたいな、そんな銃が良い。俺は頭の中にある銃の知識を総動員して、二人のための銃を考えた。


 初心者が使うんだから、ライフルだな。ライフルなら手で持つハンドガンと比べ、ストックを肩付け出来るから両手で保持するだけのハンドガンより制御しやすいだろう。とはいえ、だからと言っていきなりM4やHK416、AKシリーズのようなライフルを持たせるべきじゃない。もっと小口径の、反動の小さい弾を使うライフルの方が良いが、何かないか?


「あっ、そういえば……」


 ベッドでゴロゴロしていた所、ふと昔読んだ雑誌に載っていた、サバイバル用に開発されたライフルがあった事を思い出した。俺はすぐに兵器工廠の力を使った。


 意識を集中させ、スキルの発動を意識する。すると、俺の眼前に突如としてモニターのような物が浮かび上がった。


 これが俺の持つ兵器工廠だ。このモニターはいわゆるPCやスマホの検索画面のような物で、大まかに銃や武器、弾薬、食料、物資などと検索すると、それに該当する物が表示されるし、何か特定の名称、M1911A1と入力するとそれに該当する物や、近しい物が表示される。


 検索コマンドは、ただ単に頭の中で文字をイメージすると勝手に入力され、検索、と念じれば勝手に検索が掛かり、瞬時に表示される。そして俺は思いついたライフルの名前を検索してみると、ヒットしたっ!よしっ!これならあの二人でもすぐに慣れるだろうっ!


 そう考えた俺はその日のうちに、二人用のとあるライフルを2丁、対応する弾が30発ほど入った箱を数箱、予備のマガジン、耳を守るために電池式のヘッドセット、目を守るゴーグル、念のためタクティカルリグを取り寄せておいた。


 そして翌日。俺は二人のための装備とMP7をリュックに詰め込み、宿を出てギルドに向かった。待ち合わせはギルドの入り口前。俺が着いた時、二人の姿はまだ見えなかった。仕方ない、と入り口の近くでしばらく待っていると。


「あら?もう来てたのね」

「ん?あぁおはよう」

 二人に銃について教える手順を考えていると、声が聞こえた。顔を上げて声がした方を向くと、そこにはマイを連れたミラがいた。

「お、おはようございますカイトさんっ!」

「おはようさん」

 緊張した様子のマイ。一方でミラはそれほど緊張しているようには見えない。


「ほら、さっさと依頼を受けて森に行きましょ?時間は有限よ。今日はアンタの言う銃の練習とゴブリン討伐両方やるんだから」

「はいよ」

 そう言って急かすミラ。その後俺たちは受付で3人揃ってゴブリン討伐の依頼を受け、その足で森に向かった。


「それで、まずは森の中でアンタが持ってきた銃のテストをする。って事で良いのよね?」

「あぁ。銃に関して初心者の二人が扱いやすい物を選んできた。反動も小さく、銃声も出来るだけ小さい、まさに初心者向けの銃だ」

 ミラの問いに俺は自信たっぷりに頷いた。


「初心者向けって、それでゴブリンを倒せるの?」

 ミラが怪訝そうな表情で俺を見つけてみる。

「おいおい、初心者用ったって立派な殺傷力があるもんだぞ?確かに俺のMP7と比べたら威力とかは見劣りするかもしれないが、実際に俺が選んだのは緊急時、サバイバルを余儀なくされたような環境で自衛目的に開発された銃だ。大型の熊とかならともかく、ゴブリン程度なら十分倒せる威力があるから心配するなって」

「……だと良いけど」


 ミラはまだどこか懐疑的、と言った感じだ。まぁ銃について予備知識0だから仕方ないかもしれないが。


 ふっ。だがそれでこそよ。それでこそ、銃の魅力という物をたっぷりと教えてやる事が出来るだろう。俺はそう考えながら笑みを浮かべていたのだが……。

「何気色悪い笑み浮かべてるのよ、気持ち悪い」

「……さーせん」

 ミラに気持ち悪いと言われメンタルにダメージを負う結果となった。前世込みで女性と付き合った事も無かったんだが、ストレートに気持ち悪いと言われるとマジで心が痛いっ!


 うぅ、今からもうこいつらとやっていけるか心配だぁ。


 その後、歩いていた俺たちは森の前に到着。そこから少し中へと入り、開けた場所を見つけとりあえずそこに向かった。


「さて、と」

 俺はとりあえず、すぐに敵が来ても良いようにMP7を取り出し、マガジンを抜いてマガジンチェック。チャンバーチェックも行い、弾が入ってない事を確認してから、マガジンを再装填しチャージングハンドルを引いて初弾を装填。セイフティは掛けたままにしておく。そしてリュックから、二人のための道具とライフルを取り出そうとしたのだが……。


 その時。。

「ん?」

 ふと気づくと、ミラとマイが興味深々と言った様子で俺の手元を覗き込んでいた。

「な、何だよ?」

 何を見てるんだ?と思って思わず問いかけてしまった。が、しかし美少女二人に近距離から見つめられると、交際経験0のチェリーボーイとして滅茶苦茶恥ずかしいっ。


「アンタ、今凄い手際よく扱ってたけど、何してたの?」

「は、はいっ!手慣れてる感じでしたっ!」

 ミラは興味深そうに、マイは少し興奮した様子で問いかけてくる。


「あ、あぁ。今のは銃の確認だよ。銃って言うのは弓矢なんかよりず~っと複雑だからな。その点、色々チェックしないといけないんだ。銃弾が入ってるこの箱、マガジンにどれだけ弾が入ってるか。銃の中に既に弾が入ってないか、とかな。じゃないと事故に繋がりかねないし、万が一事故になったとして、下手したら命を落とす恐れもあるからな。チェックは大事なんだよ」

「「へ~~~」」


「へ~って、おいおい返事が軽いなぁ。もしかしたら二人だって今後銃を扱うかもしれないんだぞ?」

「そんなこと言われたって、ねぇ?」

「う、うん。自覚持てない、です」

「……そうか。だが今後はそれじゃ困る」


 俺はMP7を手に立ち上がり、二人と向き合う。

「良いか。銃って言うのは、殆ど加減が効かない。頭や心臓に当たれば死ぬ事は免れないと言ってもいい。更に腹部や胸を貫通して相手を死に至らしめる可能性だってある。……それに、最悪の状況として万が一仲間に向かって弾をぶっ放したら。自分の手で大切な仲間の命を奪う可能性だってあるんだ」

「「ッ」」


 二人は息を飲んだ。その表情には、緊張と怯えが見て取れるが、これくらいで良い。

「良いか?銃って言うのは危険なんだ。まぁ他の武器が安全って訳じゃないが。とにかくっ!絶対に守ってほしい事が一つだけあるっ!それは『絶対仲間に銃口を向けるな』っ!ただこの一点だけだ。良いな?」

「は、はいっ!」

「……分かったわ」


 マイは緊張した様子で。ミラは、マイ程ではないがやはり緊張感で表情が強張っていたようだった。……ここまで言えば、良いか。


「よし。じゃあ、早速銃についてのレクチャーを始めよう。実物を触りながらな」

 そう言って俺は、リュックの中からヘッドセットとゴーグルを取り出し、二人に手渡した。

「まずはこっちを耳に着けてくれ。こっちは目だ。銃声は大きいし、念のため目も守るためだ」

「わ、分かったわ。マイ」

「う、うんっ」


 二人とも、やっぱり慣れない様子でヘッドセットとゴーグルを身に付けていく。それを確認すると、俺はリュックの中から『ある物』を取り出した。


 それは一見するとただの木製のストックだった。それを二つ取り出す。

「え?こ、これが銃、なんですか?」

「何よこれっ!?アンタの持ってるのと全然違うじゃないっ!」

 キョトン、とした表情でストックを見つめるマイ。一方のミラは期待外れ、とでも言いたげに怒っている。


「まぁまぁ落ち着けよ。銃にも色々種類があるんだ。例えばこいつは……」


 俺はストックの後部にあった『蓋』を外し、中を二人に見せた。

「ッ。これって……」

「何か、入ってる?」

「そういうこと。まぁ見てな」

 少し驚いた様子の二人を前に、俺はその表情と反応が楽しくて、笑みを浮かべながらストックの中に入っていたパーツ、機関部とバレルを取り出した。


 ストック前方にあった部分に機関部を差し込み、ストック内部を通っている長いネジを締めて機関部とストックを固定。次に機関部にバレルを差し込み、ネジを締めてバレルも固定する。最後に、ストック中に残っていた空のマガジンを取り出して、一応装填。最後に蓋を戻せば、『こいつ』は完成だ。


「す、凄いっ、あっという間に銃になった……っ!?」

「わ~~~!」

 組みあがった現物を持て驚いているミラと目を輝かせているマイ。うんうん、良いねぇその反応っ!俺は湧き上がる笑みを堪えつつ、咳ばらいを挟む。


「さてさて、それじゃあ改めて。俺が君たち二人の為に用意した訓練用の銃の発表と行こうか」

 あぁダメだ。やっぱり堪えられない。俺はニヤリ、と笑みを浮かべながら二人にその銃を見せつけるように抱えた。


「『アーマライト社製セミオートライフル、≪AR-7≫』。これが俺の用意したライフル銃だ」

「AR、7。これが、銃」

 ミラは、ただじっとAR-7を見つめていた。その表情には、興味と興奮の色が見て取れた。さて、時間をかける意味も無いし。早速練習と行くか。

「持ってみるか?」

「えっ!?い、いきなりっ!?良いのっ!?」

「あぁ。まだ弾は入ってないから安全だ。俺はもう1丁のAR-7を組み立てるから、とりあえず持ってみな」

 そう言って俺はミラにAR-7を差し出した。


「ッ」

 ミラは息を飲み、次いで固唾をのむとゆっくりとAR-7に手を伸ばし、そしてゆっくりと手に取った。ミラは戸惑いながらも銃のあちこちを見つめ、確かめている。


「い、意外と軽いのね?」

「だろうな。AR-7はライフルの中でもかなり軽量な部類の銃だ。ちなみに俺の持ってるこの銃、MP7が約2キロ。AR-7は約1.2キロ。まぁ弾とかマガジンも込みだともう少し重くなるが、大体それくらいだ」

「これ、アンタの物より軽いのね?」

「まぁ初心者用だからな」


 なんて話をしていると、マイの分のAR-7も組みあがった。

「ほらマイ、君の分のAR-7だ」

「あ、ありがとうございますっ!」


 マイも俺からAR-7を受け取ると、あちこちを眺めたりしている。

「さて、それじゃあまずは実物を交えながらAR-7の扱い方を教えていくからね」

「えぇ、お願い」

「よろしくお願いしますッ!」

 二人とも程度の差はあれどやる気は十分な様子だ。という事で、早速俺は二人に色々指導を始めた。


 まずはパーツの名前、パーツの意味、銃の構え方、セイフティーの掛け方、マガジンを取り外すための操作方法。マガジンに弾を込める方法などなど。とにかく色々教え、今は実際に彼女達の手で8連装マガジンにAR-7の弾。『22LR弾』を装填している。


「意外とこれ、小さいのね」

 ポツリと、ミラが1発の22LR弾を手に持ちながらつぶやいた。

「22LR弾は銃弾の中でも特に小さい方だからな。威力は他の銃弾と比べて小さいが、その分反動も少ないし銃声も小さい。銃に慣れてない人間がいきなり銃を撃つと反動や銃声に驚いたりすることがあって、間違って銃を離したりすると危ない。だから少しでもそうならないように、銃声も反動も小さい22LR弾を訓練に使うんだよ。実際、この弾は銃の初心者の訓練によく使われてるんだ。銃に触れる事自体初めての二人にはピッタリの銃弾なのさ」

「ふ~ん」

 ミラはあまり興味なさげに頷きながらもマガジンに弾を込めていく。


 さて、二人とも準備をしてるし、その間に俺は近くの木にナイフでバツ印を刻む。とりあえず、まずは銃に慣れるのが目的だから、木から5~6メートルの所から撃ってもらうか。適当な所に目印となる石を数個置き、これで俺の方は準備OK。さて。


「二人とも、マガジンに弾込めるの終わったか?」

「えぇ。アタシは大丈夫よ」

「わ、私もですっ!」

「よ~し。それじゃ早速、あの木を狙って撃ってもらおう。まずは銃の反動や銃声を体感して慣れる所からだから、当てる事を考えなくていい。それじゃあ、どっちからやる?」

「アタシから行くわ」

 問いかけるとすぐさまミラが反応した。

「良いわね?マイ」

「う、うんっ」

「分かった」

 マイも文句はないようだし、俺も頷いた。


「じゃあ指示するからその通りにやってみてくれ。まずはボルトを引いてチャンバーチェック」

「ボルト、これよね?」

 ミラは右側にあるハンドルを引いて、中を確認する。

「中は空よ」

「よし。じゃあ次。マガジンを音が鳴るまで挿入して」

「ここね」

 ミラは近くに置かれていたマガジンを取り、それを差し込む。

「次は、もう一回ボルトを引いて初弾を装填し、ボルトを軽く引いてもう一度チャンバーチェック」


 俺が指示する通り、ミラはボルトを引いて初弾を装填。更に軽くボルトを引いて、弾が入っている事を確認する。

「OKよ」

「よし。じゃあ最後、セイフティを前に倒して、いよいよ射撃準備完了だ」

「……OK」


 ミラは、少しばかり緊張した様子でセイフティを外すと、ゆっくりと前方の木に向かって、俺が教えた通りの構えでAR-7を構えた。


「撃つタイミングは任せる。好きに撃ってくれ」

「えぇ」


 ミラはAR-7を構えたまま、しばらく動かなかった。ただじっと、深く呼吸を数回繰り返した。そして……。

「ッ!」

 次の瞬間、彼女は引き金を引いた。

「きゃっ!?」

 短く響いた銃声にマイが俺の後ろで戸惑っている。そして放たれた銃弾はと言うと、音を立てて木に命中した。目印のバツ印こそ少し逸れたけど、至近弾ではある。


「ッ!当たったっ!」

「凄いよミラちゃんっ!」

「へ~。初弾をいきなり当てるかぁ」

 銃口を下げて喜ぶミラと後ろで歓声を上げるマイ。俺としてもまさか初弾で木に当てるとは思っていなかった。

「これが、銃……っ!」


 ミラは興奮した様子でAR-7を見つめている。

「ねぇっ!もっと撃ってみても良いでしょっ!?」

「あぁ。とりあえず1マガジン分な。終わったらマイと交代だ」

「分かったわっ!」


 ミラは興奮を隠しきれない様子で頷くと、再び木に向かってAR-7を撃ち始めた。しばし彼女の持つAR-7の銃声だけが森の中に響いた。


 が、数秒もすれば彼女は1マガジン8発を撃ち切った。

「ッ、弾切れね」

 彼女は少し残念そうにつぶやいた。

「よぉし。じゃあミラはセイフティを掛けて下がれ。マイと交代だ」

「は~い」

 ミラはAR-7のセイフティを掛けると戻って来た。まだ少し撃ち足りない、と言った様子だが、彼女ばかり撃っていても仕方ない。


「次はマイ、君の番だ」

「わ、分かりましたっ!」


 続いてマイにも俺が指示を出し、ミラと同じ手順を踏んでから練習を始めさせた。

「い、行きますっ!」

 彼女はミラと違っておっかなびっくりと言った感じで射撃を始めた。緊張のせいで体が強張っているのか、ミラとは対照的に命中弾は少ない。8発中2発だけ。ミラは2発外しただけだ。……見た目と態度からマイは少し臆病な所があるし、その辺りはミラ以上に練習をして慣れてもらうしかない、か。


 その後も入れ替わり立ち代わり、二人はAR-7に慣れるために射撃練習を繰り返した。22LR弾も1箱分以上は撃ったか。よし。


「二人とも、とりあえず射撃練習はこれまでだ」

 俺はちょうどミラが1マガジン撃ち切ったタイミングで声を掛けた。

「あら?まだ出来るけど、良いの?」

「あぁ。とりあえず初日だからな。それに俺たちは依頼も受けて来ている。……という訳で、こっからは実戦込みの訓練になるぞ」

「ッ!そうね。いよいよ本物相手に使う訳ねっ!」

「うぅ、大丈夫かな私」


 ミラは好戦的な笑みを浮かべ、一方でマイはまだ不安そうだ。

「心配するなマイ。傍に俺だっているし、マイだってちょっとずつ慣れて来てる。それに昨日みたいな10匹以上の群れは積極的には狙わないさ。今日の目的は、あくまでも銃に慣れる事。そして実戦での銃の性能や威力を経験するためなんだからな。という事で……」


 俺は一旦リュックの方へと歩み寄り、中からタクティカルリグを取り出す。

「二人はとりあえず、これを身に着けてくれ」

「これは?」

 俺がリグを差し出すと、ミラが首を傾げながら一つを受け取った。

「タクティカルリグとか、チェストリグって言う道具だ。マガジンを予め入れて置いたりするのに使うんだ」

「へ~。分かったわ。ほらマイ」

「う、うんっ」

 

 二人は慣れない様子で俺に手伝ってもらいながら何とかリグを身に付けると、適当な所に22LR弾を装填した8連マガジン数本を差し込む。

「よし。準備は出来たな」

「えぇっ。いつでも良いわよっ」

「わ、私もですっ!」


 二人とも準備が出来たみたいだ。俺もMP7を手にし、セイフティを外す。

「よしっ。じゃあこっからは実戦だっ。ゴブリン狩りと行こうじゃないかっ!」


 

 俺たちは、それぞれの武器を手に歩き出した。先頭を行く俺、その後ろに続き、笑みを浮かべているミラ。まだ不安そうに周囲を見回すマイ。


 これが、俺たち3人の初依頼、その始まりとなった。


     第4話 END

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