第3話 出会い
冒険者となるため、育った村を出た俺は、隣町のギレットへとやってきた。そこで宿を取り、冒険者ギルドで登録を行った俺は早速依頼を受注し、ゴブリンを討伐するため、ギレットの町の郊外にある森へとやってきた。
MP7を構えながら、今俺は森の中を進んでいた。右手はグリップ。左手は銃身下部にある折り畳み式のバーチカルグリップを握っている。ゲームやアニメ、そしてリアルな軍人のように、周囲を警戒しつつ、時折木陰で立ち止まり、周囲を見回す。もちろん後方への警戒も怠らない。
そして森の中に入って、10分ほどした時だった。
「ッ!」
不意に、俺の耳が何か、小枝を踏み砕いた時のような乾いた音を拾った。今俺が身に付けているヘッドセットという物は、銃声のような大きな音から耳を守り、逆に小さな音を増幅して耳に伝える機能がある。だからこそ小さな音でも聞こえる訳だが、問題は今の音だ。
枝を踏み砕く、なんてのは人間やゴブリン、動物でもありえる。ここはギレットの町から近いし冒険者の可能性もあるが、念のため確認に向かうか。
俺はもう一度、前後左右を確認してから、ゆっくりとMP7を構えたまま歩き出した。そしてしばらく歩くと……。
「ッ!」
見つけた。前方にゴブリンが居た。数は3匹。
俺が見つけたのは、緑色の体に、人間の子供程度の大きさ。醜悪な顔をしていて、腰布を身に付けこん棒などで武装する、魔物の王道的存在だ。
どうやら奴らは食事中らしく、動物の死骸らしきものに群がって死肉を貪っていた。だが、それなら好都合だ。俺は周囲を警戒しながらも、MP7のリトラクタブルストックを引き出す。それを肩に押し当てるようにして、しっかりとMP7を支える。
俺とゴブリンの距離は、精々30メートルかそこら。だが、MP7には200メートルだって命中させられる高い命中精度があるっ!加えて今まで散々MP7で射撃練習をしていたっ!これくらいなら……っ!
「余裕だっ」
ポツリと、笑みを浮かべながら俺は引き金を引いた。直後、体に伝わる振動。ヘッドセットをしていても僅かに聞こえる銃声。直後。
『ギッ!?アァァァァァッ!?!?』
MP7から放たれた銃弾は、食事中のゴブリン、その1匹の胴体を貫いたっ。ボディアーマーだって貫通する威力があるんだっ!これくらい、訳ないっ!とはいえ、まだ2匹もいるからなっ!
「次っ!」
銃口をスライドするように移動させ、仲間が悲鳴を上げた事に驚いて戸惑っている2匹目に狙いを定め、セミオートで2連射。間隔を開けて放たれた銃弾の内、1発が2匹目の頭部を撃ちぬくのが見えた。
「次っ!」
更に最後、3匹目っ!奴は近くにあったこん棒を手に周囲を警戒しているが、こちらを見つけられない様子だっ!しかも混乱し、足を止めてるっ!
「最後……っ!」
2回引き金を引き、放たれた銃弾が空を裂いて飛ぶ。放たれた銃弾2発は、3匹目のゴブリンの腹部に命中した。その場でよろけ、他の2匹と同じように倒れこむゴブリン。
が、倒れた事で俺の位置からはその後どうなったか、茂みが邪魔で分からない。確認に向かうか。
俺は一度、周囲を見回してからMP7を構えたまま、ゴブリンたちが倒れているであろう地点に向かって進んだ。どこに敵がいるか分からない以上、警戒は怠れない。そして目標地点にたどり着いたが、ゴブリンどもは確かにくたばっていた。
念のため、俺はゴブリンに近づき、傍にあったこん棒を足で蹴って全て遠くに転がすと、1匹ずつ胸に1発、ぶち込んでいった。幸い、弾はコスト無しで取り寄せる事が出来るから、こういう贅沢な使い方も出来る。
が、弾を撃ちこんでも反応しない。どうやら確実に仕留めたようだ。それを確認した俺は、MP7にセイフティを掛けると出来るだけ汚れない場所に置き、タクティカルリグからナイフを取り出してゴブリンの耳を1匹ずつ切り落とした。
切り落とした耳は、同じくタクティカルリグのポーチの一つに、布に包んで入れておく。周囲を警戒しつつMP7を手に取り、セイフティを解除する。
さて、これで耳は3つ集まったが、まだまだ欲しいな。もう少し探索を続けるか。
それから俺は、追加で小一時間ほど森の中を歩き、ゴブリンの集団を見つけるとこれを奇襲し撃退。更に耳を4つ程集めると、森を出るために歩き出した。
幸い帰路の最中にもゴブリンや他の魔物による襲撃は無く、無事に森を出る事に成功した俺はそのままギルドへと向かった。そして窓口へと行き、依頼達成の証であるゴブリンの耳を提出した。
「はい。確認しました。ゴブリンの耳7つですね。では、報酬はこちらになります」
窓口のお姉さんは、耳の数を確認するとトレーの上に報酬である小銅貨4枚と大銅貨1枚が置かれ、俺の前に差し出された。
「ありがとうございますっ!」
俺はそれをほくほく顔で受け取ると、満面の笑みを浮かべながらギルドを出た。いや~、人生初の冒険者仕事、見事に完了して報酬も貰ったっ!初めて一人で仕事して、初めて報酬を貰ったっ!ふふっ、嬉しいもんだなぁ。なんかこう、自分の頑張りを認められた~!って気がして。
よ~し、この調子で明日からも頑張るか~!
初めての仕事を成し遂げた事でやる気も増していた俺は、それから精力的にギルドでゴブリン討伐の依頼を受けて、日銭を稼ぐ日々を送っていた。
俺の取り寄せる銃はこの世界でも有効だ。ゴブリン程度なら、仮に出合い頭に遭遇したとしても、MP7の取り回しの良さもあって問題なく倒せたし、ある程度距離が離れていても簡単に倒す事が出来た。
う~んやっぱり銃は凄いなぁ。なんて思いながら、俺はゴブリン討伐の依頼を受けていた。幸いな事に、ゴブリンは数が多い。俺が1日大体8匹前後殺した所で絶滅する、なんて事にはならず毎日のようにゴブリン討伐依頼は張り出されていた。
そんなある日。
「ふぅ。これで4匹目、と」
俺はいつも通りゴブリン討伐の依頼をこなしていた。森に入ってしばらくして、4匹のゴブリンの集団を見つけ、これをMP7による射撃で撃退。耳も無事回収した。
とはいえ……。
「もう少し狩ってから帰るか」
幸い弾数にはまだ余裕があるし、狩れば狩った数だけ報酬も貰える。という事で次なる標的を探し歩き出したのだが……。
「んっ?」
不意に、何か音、いや、声が聞こえてきたような気がした。俺は即座に足を止めMP7を構える。どこからした?方角は?
周囲を見回すが、見える範囲に動く者はいない。気のせいか?と思いかけた時。
「……ッ!……ッ……!」
「ッ!?」
いや気のせいじゃないっ!今微かにだが聞こえたっ!人の声だっ!
「状況は、分からないが行くしかないかっ!」
こんな森の中で声が聞こえている。しかもただ誰かとおしゃべりしてる、って訳でも無さそうだっ!となれば、襲われているのか、戦闘中だろうっ。知っていて見て見ぬふりをするのも後味が悪いっ!
様子を見に行って何事も無ければ徒労だけで終わるっ!とにかく俺は声がした方へと走り出した。そして数秒も走れば……。
「この……ッ!このっ!来るなぁっ!」
声がよりはっきり聞こえてきたっ!しかも内容からして、かなり不味い状況かっ!
「くそっ!間に合いませんでしただけはシャレにならねぇぞっ!」
悪態をつく。間に合ってくれと、心の中で祈りながら、MP7を手に走った。肩で草木をかき分け走る。
と、その時不意に視界が開け、俺は開けた場所に飛び出した。
「ッ!?誰っ!?」
「ひ、人っ!?」
『ギッ!?』
『ギギィッ!!』
そこで俺が目にしたのは、二人の少女と、二人に今まさに襲い掛かろうとしていたゴブリン数匹だった。
俺は素早く周囲を見回し状況を確認する。
少女二人は、服の上に申し訳程度に古びた皮の胸当てを装備し、一人は手に弓と矢を持っている。もう一人、尻もちをついている少女の傍には、折れて壊れた弓が落ちている。
対して、ゴブリンの数は6匹。全員こん棒や粗雑な槍で武装していた。よしっ、状況確認は終わりだっ!
「そこの2人っ!今すぐ伏せろぉっ!」
俺はMP7でゴブリンどもを狙いながら叫んだ。
「ッ!マイごめんっ!」
「きゃっ!?」
すると、弓を構えていた方が、尻もちをついていた方に覆いかぶさるようにして伏せたっ!よしっ!少しでもあの二人に当たる確率を減らすっ!次は、ゴブリンどもを撃ちぬくっ!
「当たれっ!」
半ば願いじみた叫びをしながら引き金を引いた。タンッ、タンッとセミオートでリズミカルに引き金を引く。銃声が響き、放たれた銃弾はゴブリンの頭を撃ちぬき、腹を貫き、次々と撃ちぬいて行った。
ゴブリンを6匹も撃ちぬくのに、10秒も掛からなかった。6匹が全部地に倒れ伏したのを確認すると、俺は素早く周囲を見回す。
ほかに敵は、いないか?いや、隠れているだけの可能性もあるか。とにかく目の前の敵は片付けた。俺はMP7を構え、周囲を警戒しながら二人の傍に歩み寄った。
「おいっ、もう大丈夫だっ。立てるかっ?」
「う、うぅ。耳、痛い」
「た、助かった、の?」
周囲を警戒しつつ声を掛けると、覆いかぶさっていた方が耳を抑えながら立ち上がり、もう一人も戸惑った様子のまま周囲を見回している。
「あ、あなたが、助けてくれたんですか?」
「まぁな」
尻もちをついていた子、茶髪のボブカットへアが特徴的な子がまだ戸惑っている表情のまま俺を見上げ問いかけてくる。それに答えつつ、彼女と、未だに耳を抑えながら表情を歪めているもう一人の様子を軽く観察する。
もう一人、金髪のショートヘアが特徴的なこっちの子と茶髪の子は、どちらも俺とあまり年齢が変わらないようにも見える。それに申し訳程度とはいえ防具を纏い、弓矢を持っている事から察するに……。
「君ら、冒険者か?」
「えぇ、そうよ。そういうアンタは?」
銃声がよほど堪えたのか、金髪の子は恨めしそうに俺を睨みつけるような視線を送ってきながらも問いかけてくる。
「同業者だよ。俺も冒険者だ。たまたま近くでゴブリン狩りをしてたら、声がしたから飛んできたって訳。それより動けるか?」
「えぇ、何とかね。マイは大丈夫?」
「う、うん。大丈夫だよミラちゃん」
『ミラ』、と呼ばれた金髪の子は茶髪の子、『マイ』を気遣い、彼女は頷くと立ち上がった。
チラリと彼女達の様子を伺うが、目立った傷や出血は無さそうだ。だが、マイと呼ばれた子は『あっ』と声を漏らし、足元にあった弓矢の残骸を拾い上げた。
「ど、どうしようミラちゃんっ、弓、壊れちゃったっ」
「……しょうがないわよ。元々オンボロだったのを何とか値切って買ったんだし」
武器が壊れた事で、マイは怯え混乱し、今にも泣きそうな表情を浮かべ、対するミラも、そうはいっているが『どうしよう』と言わんばかりに眉を顰め、悩んでいるような表情を浮かべている。が……。
「おい、君らは何の依頼でここに来てるんだ?」
「え?」
俺が問いかけるとミラが疑問符を口にしながら俺の方に振り返った。
「な、何よ急に。そんなのアンタに関係ないでしょ?」
「確かにな。だがここにはゴブリンの死体が転がってる。長居すると、血の臭いに引かれて狼や他の魔物が来るかもしれないぞ?」
「っ」
ミラは俺を警戒した様子で半ば睨みつけながら言ってくるが、俺の言葉を聞けばマイと揃って、『あっ』、みたいな表情を浮かべすぐに周囲を見回す。
「で?もう一度聞くが君たちは何の依頼で森に?ゴブリンの討伐依頼なら、さっさと耳を切り落としてここを離れた方が良いぞ?」
武器が壊れた彼女らの戸惑いは分かるが、ここに留まるのも決して安全とは言えない。血の臭いに誘われて何が来るかも分からないからな。
「良いの?これ、倒したのはアンタなのに。確かに、こいつらの耳は欲しいけど」
「元々君らの得物だったんでしょ?それを後から横取りする気はないよ。トラブルの元になりかねないし」
「そ、そう。なら遠慮なく。マイ、耳の切り取りお願い。私は周りを見ておくから」
「う、うんっ」
俺の言葉が予想外だったのか、少し驚いた様子ながらもミラはマイに指示を出し、自分も弓をつがえて周囲を警戒している。
マイはと言うと、腰に装備していたボロボロのナイフを取り出してゴブリンの耳を切ろう、としたのだが……。
「んっ、この……っ!」
彼女はゴブリンの耳を切るのにも四苦八苦していた。見ると、彼女が握っているナイフは柄に巻かれた布もボロボロ、刃こぼれも酷い物だった。あれじゃあ耳一つ切り落とすのだって時間が掛かるなぁ。
仕方ない。俺は周囲を警戒しながらも彼女の方へと歩み寄る。
「え?あ、あの?何か?」
「これ、使って良いよ」
俺はタクティカルリグからナイフを抜き、刃の方を持って柄を彼女へと差し出した。
「え?い、良いんですか?」
「まぁね。そのボロいナイフじゃ時間もかかるだろうし、良いよ」
「あ、ありがとうございます」
お礼こそ言っているけど、彼女はまだ俺を警戒しているようだった。まぁ初対面だ。いきなり仲良くできるとは俺も思ってないが。
マイはナイフを手にゴブリンの耳を切っていく。
「わっ!凄いっ、簡単に切れるっ!」
彼女は、俺が渡したナイフの切れ味に驚きながらもゴブリンの耳を切っていた。まぁ、現代技術で作られたナイフとこの世界のナイフじゃな。切れ味とかも違うだろう。
彼女の驚きっぷりが面白くて、俺が小さく笑みを浮かべていたその時。
『……ガサ……ッ』
「ッ!?」
不意に、何か音が聞こえた気がした。すぐに表情を引き締め、MP7を腰だめで構える。……周囲を見回すが、今の所敵らしき影は見えないが……。
「二人とも、気をつけろよ」
「は?何よあんた、いきなり仕切ってるんじゃ……」
「なんか聞こえたっ。……それだけじゃダメか?」
「ッ!」
俺の言葉が気に入らなかったのか、ミラはムスッとした表情で聞いてくるが、続く言葉を聞けば彼女はすぐにハッとなって弓を構えた。
「方向は?」
「分かんねぇ。音も小さかったし。……けど、ここは魔物潜む森の中だ。気のせいかで気を抜ける程、甘くはないだろ?」
「……」
彼女は無言で矢を構えたまま周囲を見回している。少なくとも、俺の言ってる事には同意してくれてる、のか?まぁ良い。
「マイ、ゴブリンの耳は?」
「う、うん。6匹全部取ったけど、ど、どうするの?」
「……とにかく今は、様子を見る。こいつが聞いたって音が確かなら、近くに……」
と、その時。
『『『『『ギギャァァァァッ!!!』』』』』
「「ッ!?」」
突如として茂みからゴブリンが飛び出してきたっ!ミラがマイの方に振り返った動作を見て、チャンスだとでも思ったのかっ!
「来るっ!?」
咄嗟にミラが矢を放つが、矢はゴブリンたちの頭上を通過しただけだっ!不味いっ!接近戦になる前に、片をつけるっ!
セレクター操作でセミオートから、フルオートへっ!ストックを肩に押し当てサイトを覗き込むっ!
「二人ともっ!今すぐ耳をふさげっ!爆音が響くぞっ!」
「はっ!?何言ってっ!?」
ミラの抗議じみた声を、フルオートの銃声がかき消した。連続した反動と銃声。放たれた銃弾。俺は右から左へ流れるように銃弾を連射した。結果。
『ギギャァッ!?』
『ギィッ!?』
ゴブリンどもが次々と倒れていく。現れたゴブリンは、全部で10匹。6匹はこれで倒せたんだが、弾が切れた。
「ッ!」
俺は息こそ飲んだが、すぐに表情を引き締めマガジンキャッチボタンを押した。左手で素早く空になったマガジンを投げ捨て、リグから新しいマガジンを抜き出し、装填。ボルトリリースレバーを押し、ボルトを前進させて初弾を装填。
リロードしながらもゴブリンどもの様子を見ていたが、どうやら最初のフルオート射撃にビビッて足が止まっているっ!ならチャンスだっ!
「これでトドメっ!」
もう一度、フルオートで薙ぎ払うように銃弾を放った。放たれた銃弾は、残っていたゴブリン4匹を続けざまに撃ちぬいた。悲鳴を上げ後ろに倒れたゴブリンたちは、動かなくなった。
これで今現れた10匹は倒したが、他にいないか周囲を見回す。が、数秒しても追加の敵は来ない。ひとまず、片付いたか。
「おいっ、大丈夫か?」
とりあえずMP7の銃口を下げ、振り返る。
「だ、大丈夫、じゃないわよっ!あぁ耳痛いっ!」
「み、耳が~~~」
二人とも耳を抑え、ミラは涙目で俺を睨みつけ、マイも殆ど泣きながら耳を抑えている。
「咄嗟の襲撃だったんだ。悪く思わないでくれ」
「うぅ~~!」
ミラは俺の言葉に納得していないようだ。頬を膨らませ、俺に抗議の視線を送り続けている。……うぅん。どうしたもんか? と周囲を見回すと、今しがた襲撃してきたゴブリンの骸が見えた。そうだっ!
「悪かったって。謝罪の証、って訳じゃないが。今襲ってきたゴブリン10匹の耳、半分にしないか?」
「えっ!?い、良いんですかっ?」
俺の提案にマイは驚いたように目を見開いている。
「あぁ。俺は半分貰えればそれでいい。どうする?」
「た、確かに貰えるのなら嬉しいですけど。ど、どうしようミラちゃん?」
「……そうね。貰えるのなら貰うわ。お金になるし。あっ、でもこれでアンタに貸しが出来た、とかじゃないからねっ!」
「分かってるよ。銃声で驚かせたお詫びだよ」
ミラは未だに俺の事を少し警戒しているようだった。
その後、俺は彼女達と共に10匹分のゴブリンの耳を回収し、半分に分けた。
「よし。これで目標数までは届いたな」
二人と遭遇する前の戦闘で数匹分は確保してあるから、これで十分だ。
「なぁ、俺はそろそろ町に戻るが、二人はどうする?」
「えっ?わ、私たち、ですか?」
マイは聞かれ、少し迷うような様子で隣にいたミラへと目を向けた。それに気づいたミラは少し考え込んだ後。
「そうね。私たちももう引き上げるわ。マイの弓も、壊れちゃったし」
「分かった。だったら森を出るまで一緒に行こうぜ。どうせ目的地は一緒なんだし」
「……そうね。分かったわ」
見ず知らずの男が一緒、と聞いてミラは少し迷ったような表情を見せたが、すぐに頷いた。
それから俺は二人と共に森を出るために歩き出した。先頭をMP7を構えた俺が務め、真ん中に武器を無くしたマイ。一番後ろをミラが歩きつつ、後方を警戒している。
そんな道中。
「よ、良かったねミラちゃんっ。優しい人に助けてもらえてっ。耳も分けてもらえたしっ」
「な~にのんきに言ってるのよマイ。あんたの武器壊れたでしょ?町に戻ったら安い武器探さないと」
「うっ。そ、そうだよね。ごめんね、ミラちゃん」
後ろから二人の会話が聞こえてきた。話を聞いている限りだと、ミラの方がリーダー、って感じだな。それにマイが付いて行っている、って所だろうか?
なんて思っていると。
「……あの人の武器凄いなぁ。ゴブリンだってあんな簡単にやっつけちゃうし」
何やら小声で聞こえるマイの声。当人は小声で話しているつもりなのだろうが、ヘッドセットのおかげで聞こえるんだよなぁ。
「私たちにも、あんな武器があったら、もっと楽に稼げるのかなぁ?」
「……っ。ふふっ、そうね。そのアイデア、使えそうねミラ」
「えっ?」
何やら聞こえる二人の会話。そこから先は二人がもっと小声で話しているから聞こえないが、なんとな~く嫌な予感がしていた。
そして森を出た所で。
「そんじゃ。俺はこれで」
そう言って二人と別れようとした。しかし。
「待ちなさいっ!」
俺をミラが呼び止めた。
「アンタ、私たちのパーティーに入らないっ!?」
「……はい?」
何か言われるかも、とは思っていた矢先。俺は出会って数時間の彼女に勧誘を受けるのだった。
これが、俺とミラ・マイとの最初の出会いだった。
第3話 END
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます