第2話 冒険者登録

 元日本人のミリオタだった俺は、ある日子供を庇って異世界へ転生する事になった。神様よりチート能力を与えられて転生した俺は、育った農村を離れ、冒険者になるために旅に出た。



 生まれ育った村を出た俺は今、隣町へと続く街道を歩いていた。今俺が目指しているのは、隣町ギレット。正確にはギレットにある冒険者ギルドだ。


 『冒険者』、という職業は端的に言って、前世の俺がよく読んでいたラノベに登場する冒険者と大差ない。というか、殆ど同じだ。


 冒険者たちはギルドと呼ばれる組織に自らを登録し、ギルドに張り出されている依頼を受注。これをこなし、成功報酬として金を得る。その依頼にも様々な物があり、以前村で元冒険者をしていたおっちゃんに話を聞く事が出来た。


 おっちゃん曰く、単純なお使いとして離れた所で暮らす家族の元に手紙を届け、様子を見てきてほしい、みたいな物から隊商などの護衛依頼。『魔物』と呼ばれる化け物たちの討伐依頼などなど。『色々あるから誰でも何かしら出来る仕事はある』、というのはおっちゃんの弁だったな。


 幸い、ギレットの町には親父たちと一緒に野菜を売るために何度も訪れているから、町までの道や町の様子、どこに何があるのかは大体わかっていた。徒歩だと半日以上歩く事になるから、結構キツイが、まぁそうも言ってられない。


 日が暮れる前にたどり着かないと野宿確定だ。折り畳み式のテントとかもあるにはあるが、夜、獣や魔物に襲われるリスクを考えると野宿は避けたい。


 なのでとにかく歩き続けた。そして、何とか空が夕焼けに染まる前に、ギレットの町にたどり着く事が出来た。


「はぁ~~。ようやっと着いたぁ~」

 何とか町の中に入った俺は、そこから更に疲れた足に鞭打って歩いた。向かう先は多くの安宿が軒を連ねる地区だ。


 ギレットの町は初めてではないし、こういう時のために親父たちと来た時に何度か下見をした事があるから、場所は分かる。表の大通りから少し中に入った所に、あるその地区にたどり着くと、すぐに俺は宿に入っては空き部屋と料金を確認する。


 安宿が店を連ねる通りというだけあって店は多く値段も大差ないのだが、大体の宿は既に冒険者でいっぱいという状況だった。


 こういう安い宿は冒険者の仮の住まいとして使われてる事が多い、と元冒険者のおっちゃんの話を聞いていたが、その通りだった。


 何軒も回って、ようやく12件目。

「部屋かい?あぁ、空いてるよ」

「マジッ!?じゃあすぐ取りますっ!」

 受付に居た女将らしいおばちゃんに声をかけ、空室の有無を聞くと、あるというので俺は即決で部屋を取った。


 こういうのは早い者勝ちだからな。一旦保留にして、他に良いの無くて戻ってきたら別の客に取られてた、なんてのもありそうだったので、俺は部屋を取った。

「あいよ。それで、滞在期間は?」

「じゃあ、とりあえず2週間で。場合によってはそこから延長って出来ます?」

「あぁ。特に問題でも起こさなけりゃね。で、料金だけど前払いかい?ウチは後払いも出来るけど?」

「じゃあ前払いで。2週間でいくらになります?」

「2週間なら大銅貨1枚か小銅貨10枚だね。どっちでもいいよ」

「え~っと、じゃあこれで」


 俺は腰に巻いたベルトのポーチの中から硬貨の入った袋を取り出し、中から1枚の銅貨を取り出して女将さんに手渡した。


 この世界のお金は硬貨が使われている。銅貨、銀貨、金貨。さらに上には白金貨とかあるらしいが、生憎今の今までお目にかかった事は無い。更にこれらの硬貨には小と大の二つに分けられる。一番小さい値が小銅貨、そこから大銅貨、小銀貨、大銀貨、小金貨、大金貨、という風に上がっていく。


「はいよ。それじゃあ、とりあえず説明するけど……」

 そう前置きして話始めた女将さん。俺はその説明を聞いた。


 宿では朝食と夕食は、別途お金を貰えば用意してやるとの事。どちらも値段は小銅貨2枚。それと服を洗ったり体を洗いたい場合は桶や布なんかを貸してくれて、宿の裏にある井戸を使って良いらしい。ただし、こちらも別途料金がかかるそうだ。


「さて、説明はこんなもんだけど、他に何かあるかい?」

「いや。今の所は大丈夫だ。分からない事があったらその時聞くよ」

「そうかい。んじゃ、部屋に案内するかね」


 その後、俺は立ち上がり鍵を持った女将さんに続いて受付の近くにあった階段を上って2階へ。そして部屋の一つに案内され、部屋の前で鍵を受け取った。

「それじゃ、今日からここがアンタの部屋だよ」

「どうも」


 部屋を渡すと下に戻っていく女将さん。それを見送ってから、俺は鍵を使って自分の部屋の扉を開け、中に足を踏み入れた。


「ふふっ、今日からここが俺の部屋かぁ」

 安宿の部屋だけあって質素な作りだが、それでも今日から一人暮らしが始まる。不安はあるが、それ以上に今俺は興奮していた。初めての一人暮らし、これから始まるであろう冒険に、俺は心躍らせていた。



 とはいえ、既に外も暗くなっている。その日は夕食を宿で取ると、すぐに部屋に戻って休んだ。もう日も落ちてるから、冒険者登録と依頼を受けるのは明日以降だ。



 って事で、翌日。俺は朝起きると宿で朝食を取り、身支度を整えると宿を出てギルドに向かった。今日中に冒険者登録をして、出来る事なら依頼も受けよう。お金は村で仕事をしながらコツコツ貯めていたが、それでも既に色々心もとない。武器類や防具、更に軍用食糧はいざとなれば俺の『兵器工廠』で取り寄せられるが、それでも所持金0は流石にキツ過ぎる。



 宿を出て、大通りに出て、そこから歩く事数分。

「着いたっ」

 俺は一つの大きな建物の前に立っていた。周囲の建物と比較しても大きい木造の建物。その入り口の上にはデカデカと看板が掲げられ、『冒険者ギルド・ギレット支部』と書かれていた。


 前に下見で来た時に見ているのだが、それでも冒険者になるために来た以上、下見の時とは興奮の度合いが違う。そして周囲を見回せば、武器や防具を装備した冒険者たちがギルドに入ったり、或いはやる気に満ちた表情でギルドから出てきてどこかへと向かう。


 これがリアルな冒険者かっ!と感動しつつも、俺も今日からその仲間入りだっ!と意気込みギルドの中へと足を踏み入れた。


 外を行く冒険者たちのやる気も凄かったが、中も凄かった。冒険者たちは依頼が張り出されたボードの前で依頼を吟味し、入り口近くにあるテーブルを囲って何やら作戦会議しているらしい冒険者パーティーも居る。やる気に満ちた表情で、俺の横を通り過ぎて出ていく連中も居る。ははっ、分かってたけど、ギルドの中の活気に気おされそうになってしまう。


 っと、いかんいかん。気圧されてる場合じゃないな。俺はすぐに気持ちを切り替え、周囲を見回し、見つけた。『冒険者登録用窓口』、という看板を掲げた窓口だ。その窓口の前には、俺と同い年くらいの子たちが数人並んでいる。ってこりゃ早く並ばないと混むかなっ!?


 俺はすぐにその窓口の列に並んだ。改めて、並んでる人たちを見るが、皆俺とそんなに歳が変わらないみたいだなぁ。なんとなく見たら分かるんだが、俺みたいな農家の三男坊らしい、日焼けした腕などが特徴的な奴も居る。俺と同じく成人して育った村を出てきた、とかそんな所だろう。 


 なんて考えながら待っていると。

「次の人~」

「あ、は~い」

 窓口のお姉さんに呼ばれ、俺はそちらに向かった。


「こんにちは。冒険者ギルド、ギレット支部へようこそ。今日は冒険者登録に?」

「はいっ!」

 お姉さんの言葉に俺はすぐさま返事を返す。

「分かりました。では、これから手続きを始めます」


 そう言って用紙らしきものを取り出したお姉さん。そこから俺はお姉さんの言葉に答えていき、冒険者登録は驚くほど簡単に進んだ。


 窓口でいくつか質疑応答をすると、数分して冒険者の証、ドッグタグのような形をした『冒険者プレート』なる物が発行され、後はいくつか説明を受けて終わりとなった。


「それでは、これからあなたは冒険者です。良い冒険者ライフを」

「あ、はいっ!ありがとうございましたっ!」


 こうして、俺は特に問題も無く冒険者の1人となった。俺は一度、壁際の方まで移動しそこで冒険者プレートを見つめる。


 冒険者プレートには、シンプルに名前、年齢、性別、登録地。そして冒険者のランクが記載されているだけだった。ランクの方はG。つまり最底辺からのスタートだ。


 冒険者には、SSSから始まり、S、A、B、C、D、E、F、Gと。九つのランクが存在する。お姉さん曰く、Eでようやく1人前。Cで中堅。B以上が一流。S以上となれば国が大金を出して雇い入れるという英雄レベルらしい。そして冒険者が受ける依頼も、これと同じ9つのランク分けがされている。冒険者は基本的に自分のランクより上の依頼は受けられないらしい。まぁ、ラノベを読んでればよくある話だからなぁ。その辺りは概ね予想通りだった。


「さて」

 いつまでも冒険者プレート見てても仕方ない。俺は依頼書があるボードの方へと向かった。幸い、朝のラッシュは終わっているようなので、さっきよりはボード前の人数も減った。


「何か良い依頼は~っと」

 ボードの前に立ち、Gランクの依頼を探す。ボードに張り出されていた依頼は……。

「ま、まともなの少ないなぁ」

 大半がはっきり言って、アルバイトみたいな内容だった。農作業の人手募集とか、町の下水掃除。冒険者らしい依頼となると、荷物を指定の場所まで配達する運搬系や、薬草を近くの森で採取してくる採取系。後は、魔物のド定番、『ゴブリン』の討伐依頼だ。


「う~ん、これにするか」

 しばらく悩んだ末、俺はゴブリン討伐の依頼書類を引っぺがし、受付に持って行って依頼を受注した。その時。


「あっ、すいません、一つだけ質問良いですか?」

「はい、何でしょう?」

 受付で対応してくれたお兄さんに、俺は一つ質問した。

「さっきボードの所見てて気になったんですけど、なんでゴブリン討伐の依頼書が『複数張り出されてる』んですか?」


 実は今さっき、ボードを見ているとゴブリン討伐依頼の依頼書が複数張り出されているのを見つけていた。確認してみたが報酬は同じだったので気になってたんだよねぇ。

「あぁ、あれですか。あれはまぁゴブリンが一番身近な脅威だからですよ」

「ん?どゆこと?」

「ゴブリンという魔物は、他の魔物よりも数がとにかく多いんですが、ご存じですか?」

「まぁはい。一応」

 ゴブリンという魔物は、魔物の中でも一際数が多い事で有名だ。そのため、農村などでは気を付ける存在として農作物や家畜を食い荒らす鹿やイノシシ、狼などに次いで気を付けなければならない存在、として認知されている。


「ゴブリンも1匹の力は大した事はないんですが、群れを作ると農村部を襲撃したりして大変なんですよ。そうならないよう、ゴブリンの数を少しでも多く間引くために、あぁしてゴブリン討伐の依頼を複数出しているんです」

「へ~。成程」


 説明を聞いて納得した俺は、お兄さんにお礼を言うとギルドを出た。そしてギルドを出た俺は、そのままギレットの町を出て、町の郊外にある森へと向かった。無論、ゴブリン討伐のためだ。


 ギルドで受注したゴブリン討伐依頼は、討伐したゴブリンの耳を持ち帰り、討伐数に応じて報酬を渡すという物だった。つまりゴブリンを倒せば倒す程、お金が貰えるって訳だ。

 そんなことを考えつつ歩く事数十分。森の手前まで来た所で、俺は一度リュックを地面に下ろし中からMP7を取り出した。


 とりあえず、今の俺が使っているMP7はこれと言ったオプション、光学サイトなどは搭載していない。言わば『素のMP7』だ。MP7にはピカティニーレール、つまり各部に光学サイトやレーザーサイト、フラッシュライトを搭載できるレールが付いているんだが、今の俺としては『素のMP7でどこまでやれるのか知りたい』、という考えもあって、そのままにしている。


 マガジンも標準の20連発マガジン。既にMP7に装填している物と、タクティカルリグに4本。合計5本、100発の計算だ。最初だし、とりあえず5匹も倒せばいいだろう、と俺は考えていた。


 セイフティを掛けたまま一旦刺さっていたマガジンを抜いて、チャージングハンドルを軽く引いてチャンバーチェック。弾が入ってない事を確認すると、マガジンを戻し、再びチャージングハンドルを引いて初弾を装填。セイフティを解除し、セミオートの所までセレクターを移動させる。これで準備はOKだ。


「よしっ!行くか」


 こうして、俺の初めての依頼が開始された。


     第2話 END

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