第2話 約30年前追憶

歩道橋の上からふと見上げると、僕の目に遠い日のある光景が映っていた。それは弧を描いて飛んでいく一つの 包み やがて海に溶け込んでいく・☆僕の口元に懐かしさと共に浮かんだ微笑みが、今年の春の日差しを受けて、下を通る車の輝きと共に光っていた。


あれはもう三十数年も前の話しになる。まだ、いわゆる 青春 と呼んでいい頃の、とてつもなく辛い想い出、だがそれも、ただ懐かしく思い起こせることを今更のように不思議に思いながら、僕は眼下に見える雑踏の向こうに、昔の自分の姿を映し出していた。


と、その時、僕は携帯電話の着信音で現実に引き戻されていた。ポケットを探り、取り出した端末に向き合う。証券会社の久留米支店の担当者からだった。思いがけず時間が空いた。




歩道橋の上からエレベーターで下に降り、近くのコンビニでタバコとライター、携帯灰皿セットを買って、もう一度歩道橋の上に戻り、タバコを取り出し辺りを見回しふと気が付いた、あの頃の自分には、今こうして現実世界で生きている自分の姿など、想像することも出来なかった。そう他人事のように思いながら、僕は現在の空に今一度 あの包み を、過去の空と当てはめてみることにした。

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