中
今は一人になりたくないと言ったイオと一緒にコンビニに行き、消毒液と大きい絆創膏と45リットルのゴミ袋と、それからアイスクリームをふたつ買った。アイスクリームを冷凍庫に放り込み、イオの傷の手当てをしてから作業に取りかかる。
なにしろ、死体を埋めるのなんて初めてだ。バラバラにした方が運びやすいとドラマか漫画で見た気もするが、人間ひとりを切り分けるのにどのくらいの時間がかかるかわからない。下手なことをして今以上に汚れが広がるのも嫌だし、あまり時間をかけて死体が
キッチンとの間の扉は閉めきり、イオはそちらで待たせている。喧嘩別れになったとはいえ、ついこの間まで惚れて一緒に暮らしていた男の死体の始末など、あまりに酷だろう。
男の体を覆うようにラグを折りたたむ。血はラグの裏からフローリングまで染み通って乾き始めていた。水拭きで取れるだろうか。それとも、上からビニールシートでも敷いていつか引っ越すまでに何とかするか。ともかく後で考えることにしてラグの端をガムテープで留める。しばらく春巻は食べたくないな、とぼんやり思った。
45リットルのゴミ袋を頭側と足側から被せても真ん中のところに隙間が空いたのでゴミ袋を巻き付けてガムテープで留める。一重ではなんとなく心もとない気がして頭側、足側、真ん中、それぞれもう一枚ずつゴミ袋を重ねた。ゴミ袋とガムテープでぐるぐる巻きになった死体は不格好な芋虫のようだった。ラグを捨てるには大げさだが、少なくとも死体には見えない――と、思いたい。
キッチンへの扉を開けると膝を抱えていたイオがびくりと顔を上げた。
「悪い、おどかした?」
なるべく柔らかく声をかけたつもりだったが、イオはぎゅっと唇を結んでうつむいてしまった。継げる言葉も思いつかず、俺はシンクで手を洗う。
「……終わったの?」
「うん」
「どうするの、これから」
「山の方まで行って、どっか穴掘って……まあ、俺がどうにかするから、大丈夫」
イオには先に寝ていてもらってもいいが、一部屋しかないリビングは血で汚れている。いつまでもキッチンに座っているのもつらいだろう。どこか24時間営業の店まで送るか、いっそビジネスホテルにでも泊まらせるか。どちらがいいか聞こうと振り向いた視線が思いのほか強いまなざしとぶつかり、戸惑う。
「――俺も行く」
「……イオは、別に無理しなくても、」
「ううん、行くよ。俺も行く」
当人にそう言われては断る理由も探せず、しんどくなったら車で待ってていいからな、という言葉で消極的に同行を認めるほか無かった。
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