1-4:「超常的激突」

 大扉が蹴破られて勢いよく開かれ、制刻と敢日はその向こうへと踏み出た。

 それまでの薄暗い環境から一転し、視線の向こうに太陽光に照らされた明るく開けた空間が広がる。推察道理、大扉の向こうは外へと通じていた。

 繰り出た先は、テニスコート四面分程の広さの、寂れた庭園のような空間が広がっていた。どうやらこの場が、この遺跡の正面入り口施設であるようだ。

 そして丁度踏み出た制刻等の耳に、バタバタという音が届き聞こえる。

 その次の瞬間、背後遺跡施設の死角より、KV-107が現れ、轟音を響かせながら、制刻等の真上を飛び抜けて行った。

 KV-107はそこから庭園上空で旋回を開始する。そしてその直下の庭園の各所では、そんなKV-107の姿に驚き蠢く、いくつもの姿があった。

 庭園の各所に見えたのは、いずれもオーク達であった。

 庭園内に展開していたのであろうオーク達は、しかし突然に現れたKV-107に動揺する様子を見せている。そして慌てクロスボウを向け、旋回するKV-107に向けて矢を放つ姿を見せる。

 一方のKV-107からは、そのキャビンドアに設置搭載されている74式7.62mm車載機関銃を持っての、オーク達に向けての機銃掃射が開始された。


「歓迎が、いちいち手厚いな」


 その光景を眺めながら、制刻は待ち構えていた多数のオークの姿に対しての、そんな感想を淡々と零す。

 そして零しながらも制刻と敢日は、近場にあった壁や、朽ち倒れた石の柱等に身を隠してカバー。そして二人はそれぞれ小銃とネイルガンを突き出し構え、オーク達に向けて発砲を開始した。


《――ステイシス、こちらラインガン3。こちらにもオークの群れが流れてきて、交戦状態にある。あまり長居はできない、合流までどれくらいかかりそうだ?》


 遺跡の外で待機している第77戦闘団の部隊より、無線通信が来たのはそのタイミングであった。どうやら向こうもオーク達との交戦が始まったらしい。合流を急かす言葉が寄越される。


「ラインガン3、こっちは外の庭園に出たが、そこで多数のオークと鉢合わせた。現在交戦中、合流にはまだ少しかかる」


 通信には敢日が応じ、こちらの状況を説明する声を返す。


「ちょっと待てよ――トランス822。そっちで、俺達を回収できないか?」


 続いて敢日は、上空を旋回飛行するKV-107に向けて、そんな要請の言葉を送る。


《822よりステイシス。地上の敵をいくらか片づけてくれれば、隙をついての回収は可能だ》


 KV-107からは、要請に対して条件付きではあるが肯定の言葉を返して来た。


「よし――ラインガン3、俺達はヘリに拾ってもらう。そっちは先に離脱してくれ」


 ヘリコプターによる回収収容である事の確認が取れると、敢日は先の第77戦闘団の部隊に向けて、先んじての離脱を促した。


《了解、ステイシス。すまないが、先に離脱させてもらう》


 第77戦闘団の部隊からは、了承の言葉が返された。

 それを聞き届けた後に、敢日はネイルガンを構え直して、戦闘行動を再開する。


「三匹」


 そこへちょうど、何体目かのオークを射撃で仕留めた制刻が、声を上げた。


「ヤツら、崩れて来た」


 射撃体勢から一度カバー体勢に戻りながら、制刻は呟く。

 その言葉通り、制刻等の攻撃と上空KV-107からの機銃掃射により、オーク達はその数を減らして、態勢を崩しつつあった。


「押し上げるぞ」

「あぁ」


 制刻が発し、敢日が呼応する。

 そして二人とGONGは、遮蔽物を飛び出して正面に向けて駆けだした。目指すは、庭園の中央にある噴水。

 姿勢を低くして駆け抜け、制刻等は程なくして噴水に到達。そして制刻は駆ける速度のまま、噴水の縁に足を掛けて、勢いよくその向こう側へと飛び乗り越えた。

 噴水は枯れており、その内側にはそこに身を隠していた、複数のオークの姿があった。

 オーク達は突っ込んで来た制刻に、驚き目を剥いている。

 制刻は、そんなオーク達の内の一番近くにいた一体に、飛び込んだ勢いのまま飛び蹴りを入れた。


「ごぁッ!?」


 オークは蹴とばされ、悲鳴を上げる。

 そして噴水の床面に、踏まれて叩き付けられるオーク。制刻はそこから連続動作で、オークの頭部を片足を突き出し、思い切り踏みつけた。


「ギュェッ」


 オークの首はあってはならない方向に曲がり、そしてその口からおかしな悲鳴が上がった。それはオークの断末魔であった。


「な!?――こいつ!」


 その光景に、近くにいたオークは驚愕し目を剥くが、しかし同時に斧を振りかぶって、制刻へ対応しようとした。


「ごぉッ!?」


 しかしそのオークは、次の瞬間に頭を何かに鷲掴みにされた。

 GONGだ。

 制刻に続いて噴水内に踏み込んだGONGが、そのアーム先の大きな五指で、オークの頭を捕まえたのだ。


「もぼ!?――こきょッ」


 そしてGONGは、藻掻くオークを両アームで掴み、まるで雑巾でも絞るようにオークの頭を捻じって折った。

 オークからの口からは音とも悲鳴ともつかないものが上がる。そしてGONGは、死体となったオークを放って捨てた。


「な、なんだこいつ等!?」


 踏み込んで来た異質な存在等。そして瞬く間に無惨に屠られた仲間の姿に、残るオーク達は大きく狼狽える。


「糞ッ――ぎゃッ!?」

「ひ、引け――ぎぇぁ!?」


 残ったオーク達は、狼狽えつつも斧を手に掛かってこようとする。または逃げようとするなど、それぞれの反応を見せた。

 しかしそんな彼等は、次の瞬間には次々に言葉を悲鳴に変えて、打ち倒れ崩れていった。


「ダウンッ」


 それは敢日の手による物であった。

 最後に噴水に到達した敢日が、ネイルガンでオーク達の身を撃ち抜き無力化したのであった。

 噴水内のオーク達を一掃した制刻等は、しかしそこで息を着く事はせず、すかさず噴水内に散らばり、各所にカバーする。


「後どんなモンだ?」

「各方に、1~2匹づつってトコだな」


 制刻の尋ねる言葉に、敢日は周辺を観察しながら返す。庭園内に展開していたオーク達は、大分その数を減らしていた。


「これならいけそうか――822。敵はいくらか減らした、着陸できるか?」

《ステイシス、行けそうだ。庭園の出入り口に着陸する》


 敢日の呼びかけ尋ねる言葉に、ヘリコプターからはそれを肯定する言葉が返される。

 そしてKV-107は、庭園の出入り口の真上で、ホバリングに移行する様子を見せた。


「よし――自由、行くぞ」


 その様子を見てから、敢日は制刻に促す。


「――いや、後ろを見ろ」


 しかし、制刻はその言葉に呼応せず、背後を促す視線と言葉を発した。

 制刻の視線を追い、敢日が見たのは、先程自分等も出て来た遺跡の玄関口。そこから、複数体のオークが駆け出て姿を現す様子が見えた。


「チッ、新手か!」


 新たに増えたオークの姿に、忌々しく発し上げる敢日。


「――あん?」


 しかし、続き制刻が、訝しむ声を発した。

 その理由は、新手のオーク達の様子にあった。オーク達の注意は制刻等には向いておらず、遺跡の玄関口に向いてる。そしてオーク達の様子は、よく見れば何かから逃げているように見えた。


「なんか変だぞ――」


 敢日もそれに気づき、声を零しかける。

 ――次の瞬間であった。遺跡の玄関口に隣り合う壁が、まるで爆破でもしたかのように吹き飛び崩壊したのは。


「おあッ!?」


 突然のそれに、敢日は思わず声を零す。

 壁の崩壊により、玄関口付近には砂埃が舞い上がる。その直後、砂埃の向こうから――〝それ〟は現れた。


「――クォオオオオオオオギャァアアアアアアアアアッ!!!」


 そして響いたのは、まるで機械音と聞き違うような、歪な鳴き声――否、咆哮。

 ――現れたのは、歪な姿の怪物であった。

それは、全高が3mはあろうかという、巨大な存在であった。

 四肢を持ち、二足歩行をするその姿は、大雑把には人に似ている。

 しかし、その全身を覆う表面肌は赤黒く、まるで固まった溶岩のように荒々しい。胴と四肢は残らず太く分厚く、嫌でも強靭である事が予想できる。頭部、その顔の造形は、名状しがたい程、歪で険しく恐ろしい。

 これまでのオーク達ですら、かわいく虚弱に見える程の、怪物であった。


「なんだありゃぁッ!?」


 明らかな脅威と分かる、しかし正体不明のモンスターの登場に、敢日は思わず声を荒げ発する。


「また、ヤバそうなのが出て来たな」


 対する制刻は、淡々と呟く。


「ッ――822、タンマだ!なんかヤバそうなのが出て来たッ!」


 敢日は顔を顰めながら、慌てヘリコプターに向けて、着陸を中止するよう要請の通信を送る。


「ベイルサーク!」

「ベイルサークだッ!」


 そんな制刻等の一方。逃げ出して来たオーク達や、庭園に残っていたオーク達から、そんな声が上がり聞こえてくる。

 どうやら現れた怪物の名は、ベイルサークと言うらしい。


「ギィイイイイイイイイギャァアアアアアアアアッ!!!」


 そのベイルサークは、再び機械音にも似た咆哮を、その禍々しい口より上げる。

 そして、身構えたかと思った次の瞬間。その場から、爆発的なまでの加速でその巨体を飛び出した。

 その巨体でなぜそこまでの物が可能なのか。ベイルサークは凄まじい速度勢いで、その巨体を直進させる。

 そしてその先に居た、逃げようとしていた二体のオークへと、その巨体を突貫させた。


「――ヴェォ!?」

「ノ゛ォ!?」


 二体のオークは、ベイルサークの巨体に轢き飛ばされた。

 妙な悲鳴とも音ともつかないそれが上がり、その身体は一直線に飛ぶ。そして先にあった庭園を囲う石壁に、二体仲良く叩きつけられた。

 嫌な音と共に砂煙が上がり、そしてそれが晴れたその場には、壊れた人形よりも酷い状態となった、二体のオークの歪な死体が出来上がっていた。


「おおおッ!」


 直後、別方向から雄たけびが上がる。見れば、一体のオークが斧を振りかぶりながら、果敢にベイルサークに切りかかっていた。

 ベイルサークの懐に踏み込み、振り上げられた斧がその肌に叩きつけられる。

 ――しかし上がったのは、カキンという、頼りない音であった。

 オークが叩き下ろした斧は、しかしベイルサークの信じがたい強靭な肌の前には文字通り歯が立たず、傷一つ付ける事なく受け止められ、そして刃こぼれを起こしていた。


「な!」


 果敢にベイルサークに挑んだオークは、しかしその結果に目を剥く。

 ――そのオークの身を、あまりにも巨大すぎる暴力が襲った。


「――きぇぼッ!」


 次の瞬間、オークから何かひしゃげるような音が上がり聞こえる。いや、それはひしゃげる音で正しかった。見ればオークの頭部と肩が、ひしゃげあるいは凹んでいたのだ。

 ベイルサークの振り下ろしたその巨大な拳が、オークの身体をそうさせたのだ。


「――ぺでゅッ!あ゛げッ!ヴぇぇ゛ッ!?」


 そこから連続的に振るわれる、ベイルサークの拳。それを受けるオークの身から、本能的に恐怖感を煽るような、耳を塞ぎたくなるような、歪な悲鳴が立て続けに上がる。

 そして程なくしてベイルサークが拳を振り下ろすのをやめた時、その足元にあったのは、比喩ではなくミンチとなった、オークだった物であった。


「わぁぁ!?」

「に、にげロッ!」


 仲間の末路に、残るオーク達は戦意を失ったのか、逃げ出し始める。


「――」


 そして、オーク達の末路を見てしまった敢日は、思わず言葉を失い、目を剥いてベイルサークを見つめていた。


「激しいヤツだな」


 制刻だけは、また淡々とそんな呟きを発する。

 ベイルサークの顔が、制刻等の方を見たのはその直後であった。


「ッ――まずいッ!」


 ベイルサークがこちらに気付いた事に、敢日は驚愕から意識を取り直して発する。


「解放、さがれ――俺がやる」


 そんな敢日に対して、制刻が促し発したのはその時であった。


「はぁ!?やる、って――」


 その言葉が何を意味するかは、さすがに分かった。しかしそれが本気の発言かを疑い、敢日は荒んだ声を上げかける。


「――ギュィイイイイイイイイイイアアアアアアアアアアッ!!!」


 しかしそれよりも早く、ベイルサークがまたしてもの咆哮を上げた。そしてベイルサークは次の瞬間、再び爆発的な加速で、制刻目がけて突貫して来た。

 凄まじい速度で制刻に迫るベイルサーク。

 そして――ドゴンッ――という鈍い音が響きあがった。


「ッ――!?」


 一瞬、それが制刻が吹き飛ばされた音である事を覚悟する敢日。しかし直後に飛び込んで来た光景に、敢日はまた別の理由で目を剥いた。


「――とぉ」


 制刻は無事であった。そして制刻は、片足を前方に突き出す姿勢を取っている。その足の履く戦闘靴の底が、なんと突貫して来たベイルサークの巨体を、受け止め押し留めていたのだ。


「ギェアアアアアアッ!!」


 制刻の超常的ムーヴで受け止められた、ベイルサークの巨体。

 しかし突貫を止められた事がベイルサークの気を害したのか、ベイルサークは咆哮を上げて制刻に浴びせる。


「チッ」


 それを不快に感じ、制刻は舌打ちを打つ。


「ッ――冗談が過ぎてるぜ!――GONGッ!」


 一方、そんな光景に目を奪われていた敢日は、そこで再び意識を取り直すと、GONGに向けて促す声を発する。

 GONGはそれに電子音を上げて呼応。

 飛び出し、そして制刻と競り合うベイルサークに、その真横より全身を持って掴みかかり、取り付いた。両アームでベイルサークの頭を掴み、片腕を抑えるGONG。ベイルサークを羽交い絞めにする算段だ。


「ギェアアアアアッ!!」


 しかしベイルサークは激しく暴れてそれに抵抗。そして腕を振り回す。

 そのすさまじい腕力は、GONGの巨体をいとも容易く引きはがし、そしてGONGの身は振り払われ、放り投げられた。


「GONGッ!」


 放り投げられたGONGは、弧を描いて飛び地面に落ちた。幸い、先のオーク達のように無残な姿になる事は無かったが、降り飛ばされ落ちたその姿に、敢日は思わず声を上げる。


「ギェィアアアアッ!!」


 一方、ベイルサークはまたも叫びあげる。そして、先にオークをミンチに変えた拳を、制刻に向けて振り下ろした。


「チィッ」


 制刻の口から零れる舌打ち。

 直後――ドッ――という衝撃音が、両者の間で上がった。

 見れば、ベイルサークの振り下ろした拳を、制刻は片腕で掴み受け止めていた。


「ギュィィィィェアアアアアッ!!!」


 拳を受け止められた事が不満なのか、再び不快そうな叫び声を上げるベイルサーク。


「うるせぇヤツだな、そんなに悔しいか?」


 対する制刻は、競り合いながらもベイルサークを煽る言葉を発する。

 ――ガギ、と。ベイルサークの頭部を何かが襲い、金属音が上がったのはその時であった。


「自由、飛べッ!」


 同時に、制刻に促す言葉が届く。

 そして立て続く、ベイルサークを襲う衝撃と金属音。

 見れば、敢日がネイルガンをフルオートで撃ち、ベイルサークの頭部に五寸釘の雨を注いでいた。


「!」


 制刻は、すぐさま敢日の要請に呼応。

 五寸釘の雨に注意の逸れたベイルサークの拳を離し、そしてその胴を蹴って後ろへと飛び、退避した。

 一方、ネイルガンの撃ち出した五寸釘の雨は、ベイルサークの注意を一瞬反らしたものの、ダメージはまったく通っていなかった。

 そしてネイルガンが釘切れを起こして五寸釘の雨が止むと、ベイルサークはその凶悪な顔で敢日を向き睨む。


「GONG、やれッ!」


 しかし瞬間、敢日は声を張り上げた。

 ――何か異質な音が一瞬、一体に響き渡ったのは、それと同時であった。


「――ギュェィァアアアアアアアアアアッ!!!」


 そして直後、ベイルサークが強烈な叫び声を上げた。

 それはこれまでの咆哮とは異なる物。――明確な、悲鳴。

 その理由は、ベイルサークの左肩にある。――そこには、大穴が空いていた。


「通った!ナイスだGONG!」


 ベイルサークに明確なダメージが通った様子に、敢日は発し上げ、そして庭園の一角へと振り向く。

 そこには、先に投げ飛ばされたGONGの、立ち構える姿があった。

 そしてGONGは構える姿勢で左アームを突き出している。そのアーム先からは、さらに円柱状の何かが突き出ていた。

 それは、GONGの搭載火器であるリニアガンであった。

 このリニアガンより撃ち出された弾が、ベイルサークの身に大穴を開けたのであった。


「ギェアアアアッ!!!」


 ダメージに痛みを覚えているのか、その場で暴れ狂うベイルサーク。その注意は、制刻等から反れていた。


「よし、今のうちに離脱だ!」


 それをチャンスと見た敢日は、飛び退いた先で丁度体勢を取り直した制刻の元へ駆け寄り、その肩を掴んで促す。


「離脱?ヤツを仕留めないのか?」


 しかし制刻は、敢日のその言葉に疑問と意義の声を返す。


「危険だ!リニアガンはすぐに二発目は撃てない、無理に相手をするより、離脱すべきだ!」


 そんな制刻に、敢日は説明と説得の言葉を発する。


「ッ、しゃぁねぇ」


 制刻は、ベイルサークを仕留めずに離脱する事に抵抗があったが、しかし敢日の言葉を受け入れる。


「822、今そっちに行く、拾ってくれ!」


 敢日がヘリコプターに回収要請の一報を送る。そして制刻と敢日は身を翻し、庭園の出入り口に向けて駆けだした。

 庭園を突っ切り駆ける二人。途中で、GONGも合流して来る。程なく制刻等は庭園出入り口に到達。その向こうに、機体後部をこちらに向けて、高度を地上ギリギリまで下げたKV-107の姿が見えた。


「――ギャァアアアアアアアアアアッ!!!」


 背後より、咆哮が聞こえ来たのはその時であった。

 振り返れば、ベイルサークがこちらを見て叫び上げる姿が見える。そして直後、ベイルサークは爆発的に身を撃ち出し、制刻等を追い猛ダッシュを仕掛けて来た。


「来やがったッ!」


 発し零す敢日。

 制刻等は庭園出入り口の門を潜り抜け、遺跡の敷地外へと脱出。そしてホバリング姿勢で待つ、KV-107の元へと辿り着いた。


「急げッ!」

「早く!」


 開かれ降ろされた後部ランプドアには、河義や鳳藤の姿があった。河義等は、急ぎ機に飛び乗るよう促し、そして手を差し出してくる。


「GONGを先に!」

「え、うわ!」


 制刻と敢日は、先にGONGを収容させるべく、その巨体をランプドアに上らせた。河義等はまだGONGの事は知らなかったのか、真っ先に乗り込んで来た巨大なロボットに、驚く声を上げる。

 どうにかGONGの身体を乗せて機体貨物室に押し込ませ、そして制刻と敢日もランプドアに足を掛けて踏み、機上へと乗り込む。

 そして振り向けば、向こうよりベイルサークが凄まじい速度で駆け、迫ってくる姿が見えた。


「乗ったぞ!離脱だーッ!」


 敢日はコックピットに向けて張り上げ叫ぶ。


《了解》


 対して機長からの返答が無線上に上がり聞こえ、そして機体はエンジン出力を上げる。

 ベイルサークは庭園入口を体当たりで破壊し、ヘリコプターの元へと突貫して来る。

 あとわずかな距離で、ベイルサークがヘリコプターへと到達しようと言う所で、ヘリコプターはホバリングから上昇に転じ、空へと舞い上がった。

 KV-107が上昇離脱した直後、先まで機体があった場所に、ベイルサークの身が突っ込んで来た。ベイルサークはまるで機械のような体の軋む音を立てて、急停止する。

 まさに間一髪の所であった。


「――ギュァアアアアアアアアアッ!ギャァアアアアアアアアアッ!!!」


 ベイルサークはその場で天を仰ぎ、ヘリコプターに向けて咆哮を発し上げる。自らを傷つけた存在を仕留められなかった事を悔やみ、去ってゆくその姿に怒りと憎しみをぶつけるかのように。


「ひとまず、お預けだ」


 制刻はランプドア上から眼下を見下ろし、機体の上昇離脱に伴い小さくなってゆくベイルサークに向けて、そんな言葉を投げて発した――

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