1-3:「脱出」
先のホール空間を出て、制刻と敢日の二人、そしてGONGは、遺跡内を通る通路を進み、遺跡からの脱出を目指す。そして足を進めながらも、二人は互いの身に起こった事、これまでの経緯などの情報を交換し合った。
聞く所によると、敢日は仕事中に超常現象に遭遇し、GONG共々この異世界に転移して来たとの事だ。ちなみに補足すると、彼の職業はエンジニアである。
そしてこの異世界の地に降り立ってすぐに、これより合流予定である第77戦闘団の部隊と遭遇合流。そのまま保護回収されたとの事であった。
しかし、この敢日 解放という男は、ただ保護に甘んじてじっとしているような男ではなかった。異世界に飛ばされ混乱状態にありながらも調査を余儀なくされた部隊に、敢日は遠慮なしに首を突っ込み、それに半ば無理やり協力。部隊と行動を共にしてきたとの事であった。
そして今回制刻の前に現れた理由も、合流を試みる部隊が制刻の所属する54普連である事を知った事。作業服と白衣の人物の言から、制刻が来る可能性が高いと踏んだ事。それらの事から、半ば無理やり合流のための部隊に同行して来た結果だとの事であった。
「ラインガン3、こちらステイシス。分断孤立していた隊員と、発見合流した。現在遺跡より脱出中」
遺跡の外では第77戦闘団より出向いてきた一部隊が、すでに到着し待機しているらしい。敢日は今は、インカムを用いて、その部隊へ報告の通信を行っている。
《了解ステイシス。こちらもヘリコプター及び向こうの部隊と合流した。敢日さん、なるべく急いで下さい》
無線の向こうからは、そんな言葉が返り送られてくる。どうやら外でも、河義等とKV-107が、第77戦闘団の部隊と合流を果たしたようだ。
「了解、急ぐ。ステイシス、終ワリ」
「何をそんなに急いてる?」
通信が終わった所で、制刻は敢日に尋ねる。
無線のやり取りを聞くに、第77戦闘団の部隊も、敢日も、何かこの遺跡からの脱出を急いているようだった。
「あぁ、そっちはまだ遭遇してないのか。ここには、厄介なヤツ等がいるのさ」
「何?」
敢日のその言葉を訝しむ制刻。しかし詳細を聞くより前に、歩んでいた通路に終わりが見え、前方に開けた空間が見えた。二人は一度会話を中断。意識を切り替え警戒の姿勢へ移行。そして見えた空間へと踏み込んだ。
出た先は、長方形のホール空間であった。高い天井には明り取りの窓が見え、これまでよりも視界がいくらか明瞭になる。
「クリアだ」
「あぁ」
その空間の確保へ視線を向け、互いに異常無しの言葉を発し合う二人。
――ドゴン、と。何かを叩くような鈍い音が響いたのは、その直後であった。
二人は同時に音の発生源へ視線を送る。音の発生源は、空間の奥側にある両開きの扉。瞬間、再びドゴンと音が響くと同時に、その両扉が向こう側よりたわみ変形した。
「チッ」
「おいでなすった」
悪態を吐く制刻と、呟く敢日。
そして二人はそれぞれ、近くに散らばり倒れていた長椅子や机に飛び込み、それらを遮蔽物としカバー体勢を取る。その後ろでは、GONGも身構える姿勢を取る。
――直後に、たわんだ両扉は向こう側より音を立てて吹き飛び、破られた。そしてその開口部から、複数の存在が姿を現した。
現れ踏み込んで来たのは、2m近くの身長と、見るからに強靭そうな体躯を持つ、緑色の肌をした者達。――オークであった。
「見つけたゾ!」
「殺せ!」
オークの数は計3体。いずれもその手に斧を獲物として持っている。
そんなオーク達は、まず真っ先に大きなGONGの姿を見つけると、そんな明らかに敵意に満ちた言葉を発して寄越した。
「さぁ、始めるぞ!」
敢日が景気の良い口調で発したのは、その瞬間だ。
彼は同時に、遮蔽物としていた長机より最低限身を出すと、手にしていた何かを突き出し構えた。一見銃のようにも見える何らかの機械。それは、ネイルガン――釘打ち機であった。
それも一般に流通している物のようには見えず、かなり武骨な外観をしていた。それもそのはず、そのネイルガンは、敢日が一から自分で作成した物であった。
敢須は、そのネイルガンを突き出すと同時に、トリガーに駆けていた指を引く。瞬間、ガンガン――という衝撃音が鳴り響いた。
「――ギェァっ!?」
音が鳴り響いたとほぼ同時に、オークの内の先頭にいた一体が、悲鳴を上げて打ち倒れる。
ネイルガンの発した音は、装填されていた五寸釘を撃ち出す音――。その撃ち出された数本の五寸釘が、オークの頭部を打ち貫き、倒したのだ。
「ゴォッ!?」
そこから間髪入れずに、別のオークが悲鳴を上げ、打ち倒れる。
制刻が敢日に続き、遮蔽物より小銃を構え突き出し発砲。二体目のオークを仕留めたのだ。
「ギョッ!?」
制刻はそのまま流れるように再照準し、三体目のオークを狙い発砲。ヘッドショットを決め、三体目のオークを仕留めて見せた。
踏み込んで来た三体のオークは、制刻等に接近することもままならないまま、残らず撃ち倒された。
「クリア」
踏み込んで来た三体のオークの無力化。そしてそれ以上の敵の存在は無い事を確認し、敢日が声を上げる。
そして二人はカバー状態を解除し、死体となり倒れたオーク達へと近づく。
「あぁ。緑のモンスターか」
制刻は、襲撃者の正体を改めて確認し、そう一言呟く。
「お前も、もう遭遇した事があるのか?」
その呟きを聞き、敢日が尋ねる言葉を寄越す。
「あぁ、前の戦いで一度。――ただ、そん時ぶつかったモンスターのおっさんは、話の通じるヤツだったがな」
制刻は、先日の邦人回収作戦の際に相対交戦した、オークの警備兵ヴェイノの存在を思い返しながら、そんな説明の言葉を発する。
「ほぉ、そんなヤツもいるのか。こっちが遭遇したのは、見れば襲ってくるような、血気盛んなヤツばかりだぜ」
その説明を聞いた敢日は、意外そうな反応を示し、そして続けて足元のオーク達の死体を一瞥しながらそう説明する。
「違いが気になる所だな。まぁ、襲ってくる以上は、押し退けるしかあるめぇ」
敢日のその言葉に対して、制刻は淡々とそんな旨を発して見せた。
そこから切り替え、二人は先にオーク達が破った扉の方向を見る。破られた廊下の向こうには、長い通路が伸びている様子が見えた。
「行くぞ」
制刻は促し、そして歩み、先に破られた開口部より通路へ踏み込もうとした。
「――うぉおおッ!」
開口部の向こう側。死角より大きな影が飛び出して来たのは、その時であった。
オークが一体潜んでいたのだ。
現れたオークの振り上げられた腕には、斧が握られている。そしてオークは、雄たけびを上げながら制刻に、その斧を叩き下ろそうとした。
――しかし、パシ――と、オークの振り下ろした腕は、何かの音と共に動きを急に止めた。
「!?」
それはそのオークにとっても予想外の出来事であり、オークは目を剥く。見れば、オークの腕は、制刻の右手に掴まれ止められていた。
「――ごぅッ!?」
そして次の瞬間、オークの巨体がくの字に曲がって宙に浮かび、オークの口から苦し気な声が零れた。
オークの腹部に、自由の繰り出した左腕の拳が入り、めり込んでいた。
叩き込まれた制刻の拳により、一度勢いにより宙に浮かんだオークの身体。しかし得物を握る方の腕を制刻に捕まえられているため、すぐに勢いを殺されだらりとぶら下がる。
そして腹を打たれた事により脱力したオークの手から、得物の斧が落ちた。
「相変わらず、怪物じみてるな」
襲撃を易々と回避し、そしてオークを無力化して捕まえて見せた制刻に、背後の敢日が感心と呆れの混じった声を寄越す。
「――おい、前ッ!」
しかし直後、敢日の口から警告の声が上がった。
「――っと」
瞬間、それに呼応した制刻は、捕まえていたオークの身体を、通路の先に向けて突き出し翳す。
「ぎゃぁ……ッ!?」
直後、身体を突き出されたオークは悲鳴を上げた。
見れば、オークの身体には複数本の矢が突き刺さっていた。
そして通路の先に視線を向ければ、通路の奥に、また別の数体のオークが現れていた。そのオーク達は、その手にクロスボウを持つ姿を見せている。襲い来た矢は、そのオーク達が放った物であった。
「ッ――新手、クロスボウ持ちか――GONGに先行させる!」
敢日は身を隠し、そして新手のオーク達のステータスを推察分析。今の一本道という環境と、相手が飛び道具持ちという状況から、通路をGONGに先行突破させる案を言葉にする。
「いや、いい。俺が行く」
しかし制刻は、敢日の発したその案を取り下げた。
そして捕まえていたオークを持ち直し、その頭部を左手で鷲掴みにして、そのオークの身体をまるで盾にするように突き出した。
それはオークの巨体を利用した、肉の盾であった。
オークの身体を盾として構えた制刻は、そこから通路をヅカヅカと歩み始めた。
通路の先に現れたオーク達からは、再びクロスボウにより矢が放たれ襲い来る。しかし飛来した矢は制刻に届く事は無く、肉の盾とされたオークに阻まれ、その身体にドスドスと突き刺さる。
「やべ……やべてくで……」
肉の盾とされたオークからは、濁った苦し気な声で、懇願の言葉が寄越される。それが仲間であるオーク達に向けられた物か、制刻に向けられた物でるかは不明であったが、制刻は構わず通路を突き進む。
程なくして制刻は通路を進み切る。その向こうに布陣していたオーク達には、迫る制刻の姿に動揺する様子が見える。制刻は、空いていた右手で弾帯に差していた鉈を抜くと、歩む速度を上げ、そしてそんなオーク達の元へと踏み込んだ。
通路の先に布陣していたオークは二体。内の一体が、慌てて得物をクロスボウから斧に取り換え、制刻にそれを振るおうとする。
「――ゲェッ!?」
しかしそれよりも前に、そのオークから歪な悲鳴が上がった。見れば、制刻の叩き下ろした鉈が、オークの頭に叩き下ろされてその脳天を真っ二つに割っていた。
「なぁ!?こいつッ!」
残るもう一体のオークが、声を上げながら、手にしていた斧を振り下ろす。――その斧は次の瞬間、肉を割く感触をオークの手に伝えた。
「やっ――」
それが敵の身体を割いた感触だと確信し、オークは声を上げかける。しかしそのオークは、次の瞬間に驚愕し目を見た。
「ぁが――」
オークの目の前にあったのは、首に斧を突き立てられた、同胞であるオークの姿。それは肉の盾とされていたオークだ。
制刻は、肉の盾としていたオークの身体を突き出し、襲い来た斧撃を防いで見せたのだ。
「そんな――ぎゃげッ!?」
驚愕の声を上げかけた、斧を振るったオーク。しかしそんなオークの声は、次に悲鳴へと変わった。見れば、鉈を掴んだまま降ろされた制刻の右手拳が、オークの頭頂部に落ちて、叩き潰していた。
オークの頭頂部は割れ、眼球が飛び出す。そしてオークは真下にストンと崩れ落ち、しばらくピクピクと痙攣した後に、動かなくなった。
「これだけか」
制刻は、それ以上敵がいない事を確認して発する。
「ぁ――びょッ」
そして、最早虫の息であった肉盾としていたオークの頭部を、それを掴んでいた右手に力を込めて、破砕。オークは頭部を構成するパーツを飛び散らせ、絶命。
制刻は最後に、絶命したオークの身体を放って退け、そして血と脳漿で汚れた自身の右手を、ピッピと払った。
「自由。――また、頼もしい限りだな……」
通路の突破、及びオーク達の無力化が終わった所へ、敢日とGONGが追い付いてきた。そして敢日は、常識外れな手段での突破劇を見せた制刻に対して、再び感心と呆れの混じった台詞を発して見せた。
「どうやら、出口のようだ」
そんな敢日の台詞を意にも介さず、制刻は到達した通路奥の、さらに向こうを視線で示しながら発する。
通路を抜けきった先には、そこそこの広さの空間が広がっており、正面の壁には大扉が設けられている様子が確認できる。大扉からは微かに光が漏れている事から、そこが出口――玄関口であろう事が推察できた。
「やっとか」
ため息交じりに発する敢日。
二人は正面大扉へと駆け寄り、そして蹴りを叩き込んで大扉をこじ開けた――
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