異世界人は死すべき存在である。
碾貽 恆晟
プロローグ
異世界人は死すべき存在である。
「ここは、どこなんだ。どうして俺はこんな不当な扱いを受けてるんだ」
目の前で、縛られてなお騒ぐ異世界人を見ると、その思いはより強くなる。
かつて、世界に旧神どもが我が物顔で闊歩していた時代。あの悪神どもは己の欲望のままに従い、異世界から人を召喚した。その多くの異世界人どもは、まるでこの世界をおもちゃ箱だとでも言わんばかりに扱っていた。為したいことを為し、嫌なことにはとことん忌避し、唾棄し、弾圧した。その愚かな行いで我が国だけでも何億もの命が失われた。
だが、今はそんなことは起きない。
起こしてはならない。
異世界人どもが作り出した拳銃などというものに頼るのは甚だ遺憾だが、これの有用性は認めうるしかない。
腰から拳銃を取り出し、安全装置を外す。
「な、何するんだ」
喚く異世界人の頭に銃身を向ける。
「安心しろ。痛みはない」
目の前の異世界人に恨みがあるわけではない。
しかし、こいつが生きているだけで、この世界に悪影響が及ぶ。こいつは旧神どもの、未だかつての栄光に未だに縋る悪神どもの先兵だ。
引き金に指をかける。
いつまで経っても慣れない指に触れる感触。
それらの感情を振り払い、勢いのままに指を引く。
打ち出された弾丸は旧神の力を無効化し、異世界人に絶対の死を与える。
予想通り、弾丸が頭を打ち抜き、異世界人は物言わぬ死体となる。
「死体を処理しておけ」
部下にそう命じ、建物から出る。
外に出れば満点の星空が目に入った。
王国のこんな辺鄙な場所では当たり前かもしれないが、夜になれば皆家に入り、明日早く起きるためにすぐ寝る。
例外は、自分のような夜間にしか行えないような仕事をしているものだけだ。
そこでふと、先ほどまであの異世界人を拘束していた若い男たちは起きていたことに気づいた。
実際のところはわからないが、この村の大人たちはまだ起きているのかもしれない。
この、時代遅れの煉瓦造りの建物の中で、あれやこれやと話し合っているのかもしれない。
「ふぅ……」
疲労からか、思わず溜め息が漏れ出た。
それと同時に、あの異世界人の死に顔が頭に浮かんでくる。
椅子に縄で縛られていた異世界人。そいつの顔は焦燥しており、未だに己の置かれた立場を認識していなさそうだった。
いや、認識していなかったのだろう。
かつて、異世界人の起こしたあの暴挙に恨みを持っているのは全人類の共通項と行っても良い。
扱いも相当ひどいものだったのだろう。
異世界人を見つけた場合、国に報告する義務が発生する。また、異世界人が滞在している街では逐一監視をする。万が一、監視にバレた場合は可能な限り取り押さえるべし。そして、国から派遣される『異世界人処理部隊』、つまり私のようなものが来るまでは異世界人を処してはいけない。
素人が処分を行なってしまうと、異世界人が生き残っている可能性を排除できないことから、処したもの、その命令をしたものは斬首系になる。法律で決まっている。
私はこの仕事に誇りを持っている。
しかし、異世界人を殺せば殺すほど、達成感と共に、どす黒い感情が心に横たわっていく。
己の行いは正しかったのかと。
あの悲痛な表情が頭をよぎる。
「はぁ……」
再び、溜め息が漏れ出る。
どうやら私は疲れているらしい。
こんなことを考えてしまうとは。
「死体の処理が終わりました」
部下がそう告げてくる。
異世界人の肉体は高温で灰も残さぬように、神の炎で燃やし尽くす。
これで、生きていた異世界人はいない。少なくとも今までは。
一仕事をした。
そんな感慨深い感情が湧き上がってくる。
「メリスに異世界人が現れたようです」
メリスはこの街の二つ隣の街だ。
唯一、この職場に文句があるとすればこの人出のなさから来る忙しさだろう。
口から出そうになった文句を押し込み、次の目的地に行くため私は歩き出した。
なんで……
なんで……
なにも、
悪いことなんて、
してないのに、
どうして……
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