第2話 撃退と再会


 男がペロリと舌を出し、伊与木さんに手を伸ばしたその瞬間。

 俺はガムテープを力づくで引きちぎり、男を蹴り飛ばした。


「っ?! なんでお前、自由に動けて……」


 確かに普通の奴ならガムテープで身動きが取れなくなる。

 普通の奴なら、の話だが。


 キリっと男が俺を睨みつける。

 背後からわらわらと男たちが集まり、下卑た笑みを浮かべて俺を見下してきた。


「お前ら、やっちまいな」


「黙って見てればいいものを。後悔させてやるよッ!!!」


「逃げてっ!!!」


 男が俺に殴りかかってくる。

 大振りの右拳。


「――遅い」 


「っ?!」


 それを避けると、ガラ空きなみぞおちに一撃入れる。

 うぐっ、と男が倒れると連中の目の色が変わった。


「この野郎ッ!!」


 またしても殴りかかってくる。

 動きを見極め、避けてそのまま腕を掴み男を投げ飛ばした。


「ぐはっ!!」


「な、なんだこいつ……!」


「び、ビビってんじゃねぇ! 数でかかればいけんだろ!」


 余裕さを取り戻した連中が今度は俺を囲んでくる。

 しかし、俺は顔色一つ変えず構えた。


 ――こんな状況、父さんの鍛錬に比べれば優しいもんだ。


「クソがああっ!!!」


 俺にとびついてくる奴を躱し、背中を蹴り飛ばす。

 その調子で攻撃をよけ続け、カウンターで一発ずつそれぞれにお見舞いすると、ものの数分で周りに立っている奴は俺しかいなかった。


「う、嘘でしょ……」


「ど、どうなってやがんだ」


 唖然とする伊与木さんにボスの鏑木。

 そりゃそうだ。

 こんな無害そうな奴が一発も攻撃を受けずに何人も倒したのだから。


「もう降参しろ」


「……なめんなよ。ただのガキのお前が、少し倒したからって思いあがるなッ!!!」


 鏑木が襲い掛かる。

 ステップを踏んで避け、顔面に一発叩き込んだ。


 よろめく鏑木は頬を押さえ、激しく激高する。


「クソがぁぁぁぁぁッ!!!! チッ、こうなったら仕方ねぇ」


 後ろポケットからナイフを取り出し、俺に向けてくる。

 キラリと輝く鋭利な刃物を見て、伊与木さんは叫んだ。


「逃げてください! 刃物はさすがのあなたでも……!」


 興奮状態の鏑木が、俺の返事を待たず突っ込んでくる。


「死ねぇええええええ!!!!!!!」


 まっすぐに俺に向かう刃物。

 ギリギリのところで避け、鏑木の手ごと蹴り上げる。


「ぐっ!!」


 腕を抑える鏑木に間髪入れず詰め寄り、みぞおちに一撃。

 その流れで蹴りをもう一度叩き込み、鏑木は後方に吹き飛んだ。


「がはっ!」


 そしてそのまま気絶。

 他に誰も残っていないことを確認すると、俺は伊与木さんの拘束を解いた。


「あ、あなたは……」


 状況が呑み込めていない伊与木さん。

 俺は黙って着ていたブレザーを羽織らせた。


「もう大丈夫です」


 すると遠くからパトカーの音が聞こえてきた。

 どうやら誰かが通報してくれたようだ。

 

 ……ふぅ。これで、何とかなりそうだな。


 ほっと胸を撫でおろし、安堵した俺はその場に腰を下ろした。




    ♦ ♦ ♦




 その後。


 駆けつけた警察によって俺たちは保護され、無事家に送り届けられた。

 連中は身柄を拘束され、その後は……まぁ興味はない。


 被害を受けた伊与木さんはというと、相当なショックを受けていただろうに警察の事情聴取の際は受け答えがはっきりしていた。

 さすがは伊与木さんと言ったところか。

 おそらく、すぐに日常生活に復帰するだろう。


 そして俺は、新聞の記事になっていた。


 ……ほんと、なんで?


「女子高校生を救った正義のヒーロー、ね」


 実名は晒されていないものの、俺が連中をボコボコにしたことや、伊与木さんを助けたことが書かれていた。

 しまいには表彰されそうになる始末である。

 大事になるのは嫌だから辞退したけど。


 ただ、学校では事件の被害者である女子高校生が伊与木さんだということはバレているようだった。


「ねぇ、あのヒーロー誰だと思う?」


「うちの学校の生徒って噂だよ!」


「十人以上を一人で倒したんでしょ!」


「そうそう! しかも名前名乗らなかったらしいよ!」


「かっこいいよね~!」


 そして、伊与木さんを助けたヒーローが誰なのかという話題で、ここ最近は持ちきりだった。

 まぁ、一週間も経てばまた別の話題に移り変わるだろう。


 ともあれ、色々あったが普段通りの日々。

 少し寂しいぼっちライフの帰還だ。


 さてと、いつも通り漫画でも読みますかね。

 

「え、え? 紗江様?」


「なんで紗江様がこのクラスに?」


 やけに外が騒がしい。

 だが気にするな。今は漫画に集中だ。


「なんか教室入っていくぞ」


「誰だ? 誰が目当てなんだ?!」


 こつ、こつと靴の音が近づいてくる。

 そして俺の席の前で止まった。


「――入明友成」


「……へ?」


 見上げてみると、そこには仁王立ちした伊与木さんがいた。

 困惑していると、伊与木さんがにへら、とだらしない笑みを俺にだけ見せてきた。



「ふふっ、やっと見つけました♡」


 

 

 

 

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