学園のアイドルと誘拐され助けた俺。普通の日々に戻ったはずが病んだ彼女が常に隣にいます

本町かまくら

第1話 アイドルと誘拐

 俺、入明友成(いりあけともなり)は友達がいない。


 部活動に属しているわけでもなく、有り余る時間を勉強につぎ込んで学年一位ではあるもののそれだけで。

 運動もできないしコミュ力もない。おまけに容姿もパッとしないただの根暗。

 つまり、俺は陰キャなのだ。


 別にそれが嫌ってわけじゃない。

 なんなら一人万歳! とまで思うわけで。

 でも、たまに寂しいななんて思ってしまうのは俺が人間である証拠だろう。


「おい見ろよ! 紗江様だ!」


「今日も美しいな……」


 廊下を歩くだけで注目される彼女。

 

 伊与木紗江(いよきさえ)。

 腰まで伸びる長い黒髪と銀のインナーカラーが特徴的で、切れ長な目と整った顔立ちは見る人を魅了する。

 おまけにスタイルまでよく、すらりと伸びる足を年中包む黒タイツはもはや彼女のために作られたものと言ってもいいほどに似合っていた。

 

 いわゆる学園アイドルというやつで、交友関係のない俺でさえ知っている有名人だ。


「声かけてみるか?」


「何言ってんだよ! あの紗江様が男と話すわけないだろ?」


「だ、だよな。こないだサッカー部のエースの告白をバッサリ切ったくらいだし、俺らみたいな平凡な奴らは出る幕ないよな」


 どうやら彼女は高嶺の花すぎて話すことすらできないらしい。

 ま、俺には関係のない話だ。


 早く家に帰って、アニメでも見るとしよう。




   ♦ ♦ ♦




 帰り道。

 

 なんという偶然か。

 俺の少し前を学園のアイドル、伊与木さんが歩いていた。


 まぁ歩いているだけで別に何かあるわけじゃないけど。

 ただやはり、伊与木さんは別格に美人だ。


 後ろ姿だけで美人だと分かるし、放つオーラは芸能人並みだ。

 俺なんかが後ろを歩いていいのかと思うほどである。

 ストーカーと思われるかもしれないと思い、反対の道に移って歩くことにした。


 あいにくここは住宅街で人通りが少なく、勘違いされても言い訳がしづらそうだからな。

 その調子で歩くこと数分。


 そろそろ家に着くな、なんて思っていたその時。

 向かってくる車が伊与木さんの目の前で止まり、中からガラの悪い男たちが出てきた。


「お前、伊与木紗江だな?」


「っ?! な、何ですかあななたちは」


「へへっ、ちょっとついてきてもらおうか」


 男が伊与木さんの手を掴む。


「きゃっ! 離してください!」


「少し静かにしてな!」


「ん~っ!!!!」


 ハンカチで伊与木さんの口を塞ぎ、そのまま車に強引に乗せていく。

 その一部始終をばっちりと見ていた俺は、連中の一人と完全に目が合ってしまった。


「ちくしょう! 人がいやがった!」


「おい! そいつも連れて来い!」


 男三人が俺のところにやってくる。

 

「多少手荒だが、許せよ?」


 そう言われ、俺は鈍器で頭を殴られた。

 そして意識は途絶えた。




   ♦ ♦ ♦




 意識が目覚める。

 

 瞬きを数回するとぼやけていた視界がクリアになった。

 ひとまず周りを確認すると、どうやら広い倉庫のようだった。


 手と足をガムテープで縛られて身動きを取れない状態。

 隣には同じような状態で気絶している伊与木さんがいた。

 そこでようやく状況を理解する。

 

 ――なるほど、どうやら俺と伊与木さんは誘拐されたらしい。


「鏑木さん! こちらです!」


 キィーっと音を立てて扉が開き、数人の男と明らかにガタイのいいフェードの男が入ってくる。

 

「おぉ、よくやった。会いたかったんだよ、この子に」


 ボス、と呼ばれていたことから察するに首謀者はこいつか。

 それも目的は、隣の伊与木さんみたいだ。


「おい、起きろ」


「ん、ん……」


「起きろって言ってんだよ!」


 バチンっ、という音が響く。

 男に平手打ちをされた伊与木さんが、顔をしかめながら目を開いた。


「んっ。こ、ここは……って、な、何これ! なんで私、こんなところに縛られて……!」


「やっと起きたか。久しぶりだな、伊与木紗江」


「あなたは……」


「覚えてないか? 前に会って告白したらこっぴどくフラれた男だよ」


「っ! あのときのしつこかった……!」


「そんなこと言うなよ? 俺はお前が好きなんだ。どうしようもなくな」


 汚物でも見るかのような目で伊与木さんが男を睨む。

 しかし、男は怯むどころかニヤリと笑みを浮かべ、伊与木さんの髪を舐めるように触った。


「なぁ、紗江。俺の女になれよ」


「っ! い、嫌です! あの時もそう言ったじゃないですか!」


「まっ、そう言うと思ってたよ」


「なら早くこれを解いてください! あなた自分のやってることが分かってるんですか? これは立派な犯罪ですよ!」


「まぁそう喚くなよ、紗江。お楽しみはこれからなんだから」


 男の手が伊与木さんに伸びる。


「嫌っ! ちょっと触らないで!」


「言葉で言っても分からねぇみたいだから、分からせてやるよ。体でなッ!!!」


 伊与木さんのシャツのボタンがはじけ飛ぶ。

 さらされたのは、水色の下着と真っ白な肌。

 

「ひゃっひゃっひゃっ!!! やっと見れたぜ! お前のありのままの姿がな!」


「やめ、やめて……」


 目に大粒の涙を浮かべる伊与木さん。

 その瞳が横にいる俺に向けられた。

 

「そういや、お前がいたな」


 男も俺の存在に気付き、ニヤリと笑う。


「お前はついてるぜ。なぜって? それはな――今から俺と紗江がヤるのを特等席で見れるんだからな!」


「お願い、たす、けて……っ!」


 男が伊与木さんにとびかかる。

 伊与木さんは諦めたようにグッと下唇を噛み、そして瞳を閉じた。


 ――さて、もういいよな。

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