第8話 お世話係の初仕事1

 次の日……トビーはゆっくりと目を開けた。

目の前には、大きくて高い天井が広がっている。


「んっん〜! なんだか久しぶりにゆっくり寝た気がする。おかげでスッキリ起きれたよ。さて、早く着替えないとね」


 と、普通ならさっさと起き上がるのだが……。


「――――広っ!」


 そう、ここはトビーの自宅ではない。

女神デーメーテールが暮らしている豪邸である。

『豪邸』という言葉が似合うほど、今トビーがいる寝室は豪華な装飾と、首を動かさないと全体を見渡すことが出来ないほどの広さを持っている。

前に住んでいた家とは、全く比較にならない。


(本当に……僕は今、デーメーテール様の家にいるんだ……)


 洗礼儀式が終わった後、トビーは女神デーメーテールについて行き、彼女の自宅へとお邪魔することに。

お邪魔したと言っても、これからは『女神デーメーテールのお世話役』として暮らしていくことになる。

ということは、今いるこの場所はトビーの新しい住処なのだ。


コンコン……。


「――――!」


 改めてすごいと感慨深くなっていると、突然扉からノックオンが聞こえた。

トビーはベットから降りると、扉へと向かう。

まだ寝起きで、いつもよりも歩く速さが遅い。


(いつもなら仕事があるから、さっさと動くけど……。こんなに体が堕落してるって感じるの、いつぶりだろう)


 そんなことを考えながら、トビーは扉の目の前まで歩み寄った。

そして、巨大で重い扉のドアノブに両手をかけ、ゆっくりとドアを押した。


「はーい、今開けますよ〜」


 トビーがそう言いながら扉を開けると……。

小さな少女が、扉の前でちょこんと立っていた。


(おや、随分と可愛らしい女の子がいらっしゃった)


 そう思っていると、少女はすぅっと大きく息を吸った。

そして……。


「おはようございます!」


「――――っ!? お、おはようございます!」


 元気の良い挨拶をしてきた少女に驚き、思わずトビーもいつもよりも大きな声で挨拶をした。

そんな彼は、一体何が起こっているのか分かっていない。

 それはそうだ。

何故なら、見ず知らずの少女が、いきなりこの部屋に来てはいきなり挨拶をしてくるのだから。


「――――えっとぉ……。ものすごく申し訳ないけど、どなた様ですか?」


「はっ! は、初めまして!」


 ペコペコと何度も頭を下げる少女。

頭が取れてしまいそうなほどお辞儀をする少女を見て、トビーは逆に心配になってしまうほどだった。


「は、初めまして……。えっと、大丈夫?」


「えっと、ええっとぉ……」


 少女は目をキョロキョロさせながら、段々と慌ただしくなっていく。

トビーは本当に大丈夫なのだろうかと、さらに心配になった。

 そしてついに、少女は限界を超えてしまったようで……。


「ごご、ご……ごめんなさーーーい!」


「えっ? あっ、ちょっとぉ!?」


 少女は目を回し始め、あっという間に部屋から去ってしまった。

トビーが思わず伸ばした右手も、自然と虚しく見えてしまう。


(け、結局なんだったんだろう……)


 よく分からないまま、とりあえずトビーはベットから出ることにした。

パジャマから着替え、服を着る。

服はというと、まあ良くあるパターンで、貴族など位の高い人が着そうな高貴なもの……ではない。

トビーがいつも着ている服だ。

 実はこれ、最初はデーメーテールに勧められ、本当に高貴な服を着る予定だった。

しかし、トビーは何度も彼女に、いつもの服で過ごしたいと頼んだのだ。

自分は、この家に過ごさせてくれるだけでも充分なのだと。

 必死に答えるトビーに、デーメーテールは、


『ふふっ、そこまで言われちゃったら仕方ないわねぇ。分かったわ、トビーは普段着で過ごして頂戴。でも、流石に部屋着は持ってないだろうから、それは後で渡すわね』


 ということがあり、今に至っている。


「やっぱり、この服が一番安心する。ん〜! さて、今日から頑張るぞぉ!」


 着替え終わったトビーは、背伸びをして気合を入れた。

今日から、正式な世話係としての仕事が始まった。








◇◇◇








 部屋を出て右側、広い廊下を歩くとすぐ見えてくる。


(ここがデーメーテール様のお部屋。昨日も見たけど、やっぱり違うなぁ)


 明らかに重厚感と華麗さが際立って見える扉。

この場所が、まさに女神デーメーテールが過ごしている部屋である。

世話係としての役目、まず最初は彼女を起こす事。


コンコン


「失礼します〜。あれ、意外と軽かった」


 ノックをして、トビーはそっと扉を開ける。

重厚感がある見た目に反して、扉は軽い力で静かに開いた。

そして目の前には――――。


(うわっ、すごい部屋!)


 流石というべきか、部屋の雰囲気が全く違うことを感じさせられるトビー。

家具から装飾品まで、何もかもが豪華なものばかり。

そんな中で特に目立つのが、天井から吊り下がっている巨大なシャンデリアだ。


(こ、これシャンデリア……? こんなに大きいの、初めて見た……)


 そう、今までずっと質素な家で過ごしてきたトビーにとって、シャンデリアを見たのはごく僅か。

それに加えて、彼が見たシャンデリアは、レストランで見かける小さいもののみ。

 しかし、女神デーメーテールの部屋に吊るされているシャンデリアは、それとは比べ物にならないほどの大きさだ。

3段になっており、そこから多くの装飾品がシャンデリアを着飾っている。

まるで高級ホテルのスイートルーム、いや、それ以上のものだ。


(――――はっ! いけないいけない、デーメーテール様を起こさないと!)


 シャンデリアに魅了されてかけたトビーは、はっと我に返り、女神デーメーテールが静かに寝ているベットへと近づいた。

ベットも、周りにカーテンが付いた豪華なものが付けられている。


「デーメーテール様。朝ですよ、起きてくださ〜い」


「――――」


 まあこの距離では当然起きないだろうと、予想はしていたトビー。

意を決して、トビーはそっとカーテンの中を覗く。


「デーメーテールさ――――」


「――――」


 中を覗いたトビーは、思わず息を飲んだ。

ベットの上で寝ていたのは、まさしく美しい女性――――そう、女神デーメーテールである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

神様のお世話役(構い役)になった うまチャン @issu18

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ