第4話 神様
「えっと、ひとまず先に……あなたのお名前はトビー・マフバフで間違いない?」
「あ、はい。間違いないですけど……」
「良かった! 間違ってなくて!」
女性は胸に手を当て、安堵の溜め息を漏らした。
しかし、トビーはまだ状況を理解できず、何故女性が安心しているのかがよく分からない。
茶髪で高身長、スタイルは抜群でまさに母親といった雰囲気を持つ。
そして服装も色は白のみという素朴な色だが、その代わり地味とは思わせないようなデザインだ。
「あ、わたしの名前をまだ名乗っていなかったわね。初めまして、わたしはデーメーテール。農耕・大地の神様よ」
「の、農耕!? 大地の神様!? 」
トビーは驚いた。
神様の名前を使って自分を名乗るお馬鹿さんがこの世にいたことを。
「あのねぇ……。わたしのこと馬鹿にしたらとんでもないことになるわよ……?」
「こ、心の中を読み取った!? どんな手品を使ってるんだ……?」
「いい加減にしなさぁぁぁぁぁああい!」
「はひっ! すいません! あなたは大地の神様、デーメーテール様ですね!」
「だから最初からそう言ってるじゃないの! わたしは正真正銘のデーメーテールよ! まあ良いわ、いきなり現れてすぐに信じる者なんていないと思うから。いきなりで申し訳なかったね……」
女神デーメーテールは頬をポリポリと掻きながらそう言った。
この時、トビーはすぐに理解した。
彼女を怒らせると本当にとんでもないことになるということを。
そのため、女神デーメーテールが今この場にいることを信じることにした。
「えっとぉ……デーメーテール様、僕はなんでこの場所にいるのでしょうか?」
「そう! そこが本題なのよ!」
「――――!?」
いきなり表情が変わり、ビシッとトビーに向かって指を差した。
トビーはまた何かをされるのかと、ビクリと体を跳ね上がらせた。
「あ、もう何もしないから安心してちょうだい。そう、本題はそこなのよトビー・マフバフ。実は、あなたをここに連れてきたのはわたしなのよ」
「えっ、デーメーテール様なんですか?」
「そう、いきなりだししばらくここに居させたのも全部わたしの責任なの。そこは本当に申し訳ないって思ってるわ。ごめんなさい」
深々と頭を下げて謝罪をする女神デーメーテール。
トビーは慌てて両手を振った。
「ぼ、僕は大丈夫ですよ! そんなに畏まらないでください!」
「いいえ、神というものは礼儀もきちんとしなきゃいけない決まりがあるの。今回はあなたを混乱させてしまった責任がある。だから、この謝罪はきちんと受け取って欲しいの」
「わ、分かりました。僕は本当に大丈夫なので、頭を上げてもらって大丈夫です」
「ありがとう。それで、何故あなたをここに連れて来た理由なんだけど……」
女神デーメーテールは咳払いを1つした。
咳払いをして間を置くということは、相当重要な理由なのだろうと考えたトビーは、しっかりと一言一句聞くようにした。
「それはね……。わたしの世話係をしてほしいのよ!」
「――――はい? せ、世話係……ですか……?」
「そうなのよ!」
連れてきた理由がまさかの『自分の世話係になってほしい』だったのだ。
意外過ぎる理由を聞いたトビーは、頭が真っ白になってしまった。
「わたしには子どもがいるんだけど、わたしまぁ子どもの数が多いから、四六時中子どもの世話をしているのももう疲れてしまったのよ……。だからね、わたしの傍にいて、わたしが疲れてダメになってしまったら癒やしてほしいのよ!」
胸の前で手を合わせながらそう言う、女神デーメーテール。
トビーはさらに訳が分からなくなってしまった。
「は、はあ……。えっとぉ1つ質問してもいいですか?」
「ん? 良いわよ、質問なら遠慮せずにいくらでもしてくださいな」
「では……えっと、デーメーテール様にはお子さんは何人いるんですか?」
「3人いるわ」
「3人ですか。お子さんみんな幼い感じですか?」
「そうなのよ。 全く……少しは手伝ってくれる女神もいて欲しいんだけどねぇ……。これがまったくいないのよ……」
「なるほど……それは随分と大変でしたね……」
神の世界だから全ては分からないが、女神デーメーテールの話を聞く限りだと、子育ては人間と変わらないことが分かった。
もちろん、トビーは若いこともあり家族を持ったことがないし、一人っ子のため兄弟もいない。
しかし、子どもを育てることはどれだけ大変なのか……それはトビーでも理解できる。
分からないことは多いが、少しでも彼女の負担を減らすことが出来たら……。
「――――分かりました。デーメーテール様のお世話係、是非とも承ります!」
「――――! ほ、本当に!?」
「ええ! 最初は至らない点があるかと思いますが、精一杯頑張ります! よろしくお願いします!」
「ええ! これからよろしくお願いします!」
礼儀はしっかりしないといけないというルールが染み付いている女神デーメーテールは、しっかりと敬語で挨拶をしてトビーに深々と頭を下げた。
もちろん、トビーも深々と頭を下げた。
「そうだ忘れてたわ。あなたは今トビー・マフバフっていう名前だけど、天界に入ったらすぐに新たな名を授けるわ」
「あ、新しい名前、ですか?」
「そう、わたしはあなたに事情を話さずに連れてきてしまった責任があるから、それだけはさせてちょうだい! ちなみに……新たな名を授けられるってことは、あなたはこれから他の神と同じ扱いになるってことよ」
「ぼ、僕が他の神様と同じ扱い!?」
「そうよ! さあ行くわよ! ようこそ、天界へ!」
女神デーメーテールは右手を天に上げ、手の平を天に見せた。
すると、一気に目の前の景色が明るくなる。
トビーは思わず腕で目を隠し、そして目を瞑った。
ふわっと体が浮いた感じがしたかと思えば、すぐに地面に足がつく感覚がした。
眩しくなった景色もすぐに暗くなり、元に戻った。。
ポンポンっと右肩を叩かれ、トビーは腕を避けて目をそっと開ける。
そこに広がっていた景色は……たくさんの神様たちが歩いていたり、騒がしく会話をしていた。
トビーは、景色が変わりすぎて上手く状況が飲み込めていない様子。
「ここが――――天界……?」
「そうよ。改めまして、ようこそ天界へ! ここがわたしたち、神が住まう世界よ。あなたもこれからここが新たな住処よ!」
「そうなんですね……。ここが天界なんだ……!」
天界という場所は、こんなにも人間の生活と変わらないのだと気づいた。
もっと静かで、威厳さと高級感があるものだと思っていたからである。
「あら、意外そうな顔をしているわね」
「いや……僕たち人間と全然変わらない感じなので……。意外だなって思いました」
「確かに、あなたたち人間とさほど変わらないわね。緊張しないで済みそうじゃないかしら?」
「まあ緊張はしてますけど……。ちょっと安心したっていうか……」
「ふふっ、じゃあわたしについてきてちょうだい。これから我が主に会いに行かなければならないから」
「は、はい!」
女神デーメーテールが、驚いたまま座っているトビーに手を差し伸べた。
こんな神聖な存在の手を取って良いのだろうかと迷ったトビーだったが、彼女の顔を見ると『遠慮しないで』とでも言うような感じの顔をしていた。
トビーは恐る恐る女神デーメーテールの手を取り、そしてゆっくりと立ち上がった。
(僕は――――本当に神様たちが暮らす世界に本当に立ってるんだ!)
驚きと期待感を持ちながら、トビーは女神デーメーテールの後をついていった。
これから、トビーの異質で新たな生活が始まる。
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