第2話 異変
次の日……。
街に出て販売をし、自宅へと帰る途中のトビー。
「いや〜、今日もあっついねぇ……。涼みながらやらないと死んじゃうよ……」
いつも暑いこの地域だが、今日は特に暑い日。
全身から汗が出て、トビーのボディーラインが浮き出てしまうほど、服が体に貼り付いていた。
「とりあえず、早く家に帰って体を冷やそう」
少しだけ早歩きして、トビーは家に向かっていった。
今日も空を見ると快晴……と思っていた。
「――――ん? なんだあれ……」
トビーは立ち止まり、ある一点を見つめた。
彼の目線を辿っていくと――――右側に見える尖山の上に、如何にも不自然な形をした雲があった。
山の頂上から、上に向かってまっすぐと細い糸のように伸びている。
まるで飛行機雲のようだ。
しかし、この世界は現代に比較的近いものの、飛行機というものはない。
ということは、飛行機のないこの世界に飛行機雲が現れるなど絶対にありえないのだ。
「なんだろう……? 何かの予兆? 怖いなあ……」
トビーはこの不可思議な雲を気にしながら、再び自宅へ向かって歩き始めた。
この雲は2日間残り続け、そして消えてなくなっていた。
「――――? 結局あれはなんだったんだろう……?」
結局疑問が残ったままのトビーは少し恐怖心がありながらも、いつも通りに一日を過ごした。
家畜のお世話をし、農作物のお世話をし、それらを販売し……トビーの毎日の日課をこなした。
◇◇◇
飛行機雲のような不可解な雲が消えてから5日が経った頃……。
トビーは自宅の中にいた。
この日も気温が高く、彼は完全に疲弊しきっていた。
「あ、あっつい……。これいつになったら落ち着くんだろう……? 牛とか農作物も疲れ切っちゃうよ……」
これだけ暑い日が続いていれば、農作物は暑さにやられて上手く育たないものが出てくる。
実際、畑を見てみると水分が足りなくて萎れてしまっている。
トビーがいつもより多く水を与えたってこの状態になってしまう。
そして、トビーにとって一番大事にしている牛は暑さにめっぽう弱い。
牛にとって悪い影響が出てくる。
広い牧草地に放牧はせず、日陰で涼しい牛舎で何とか牛たちは過ごせてはいるが……。
「この調子じゃ牛たちも危ない……。はあ、どうしようかな……」
椅子に座りながら天井を見つめ、ボーッとするトビー。
家は涼しくても、自分の体はなかなか涼しくならなかった。
しかし、それほど長居は出来ない。
農作物や牛たちの世話をしなければいけないからだ。
「それにしても……なんで最近こんなに暑いんだろう? 去年はこんなに暑くなかったのに……」
去年は程よく雨も降り、比較的涼しい日があった。
と言っても、ここは他の地域と比べて気温は高いが……。
しかし、今年は全く違う。
雨が降らない、そして気温がものすごく高い日が続いているという最悪な条件だ。
トビーが両親が残したこの農業と畜産を引き継いでからそれなりの時が経ったが、今まで経験からでも初めてだった。
「ああ〜、早く涼しくなってくれないかなぁ……」
なんてトビーが思っていると、外の異変に気づいた。
それは本当に奇跡的に見えたとしか言いようがない。
偶然にも外の様子が見える場所にいたトビーは、窓からその異変を見ることが出来た。
正面に見える、頂上が平たい山の上に、また不可思議な雲が形成されていたのだ。
形はあの時と同じ、飛行機雲のような形だった。
しかもそれは現在進行系で伸びている。
「な、なんだ!? また変な雲が出来てる! また変なこと起こったりして……」
どんどん出来上がっていく謎の雲は山の頂上で形成が止まった。
何が起こっているのか、トビーには全く想像がつかない。
とにかく、彼はその場を動かずに様子を見ることにした。
「何かが落っこちてきた感じだったよね。宇宙から何か落ちてきたのかな……」
空のはるか彼方と考えれば、その可能性は十分にある。
どこからか発射されて出来たというのは、この世界にはまだそんな技術がないため考えづらい。
「――――ん? 何かがこっちに来てない?」
しばらくすると、ちょっとずつ山の中腹あたりに何やら小さい黒い点が見える。
その点が一体何なのかはまだ小さすぎて分からない。
しかし、だんだんとその点は大きくなっていき――――やがて点からはっきりした形に変わっていった。
「――――あれって人じゃ、ないよね? まさか人が飛ぶなんてないよね? あ、でも魔法使って飛ぶ人もいたりするのかな……?」
ここは異世界。
当然魔法を扱える人だって存在する。
しかし、生まれてこのかた農業と畜産にしか触れてこなかったトビーは、魔法に関しては全くの無知。
そのため、人が飛ぶ原理も魔法によるものなのかはよく分からなかった。
「うん、どう見ても人がこっちに来てる。一体誰なんだろう……?」
トビーが思ったよりもかなりのスピードでこちらに向かっていた。
その証拠に、先ほどまで点だった物体がすぐに形が分かるようになり、人だと分かるようになり、そして今はその人が女性だと分かるほどだ。
そして、トビーの自宅から見える山はかなりの距離がある。
しかし、トビーが飛んでいるものが女性だと判断出来るまで、わずか1分くらいしか経っていない。
「――――もしかして僕の家に向かってる?」
その女性は確実にトビーの自宅に向かっていた。
そして、遂にトビーの自宅の玄関に飛び降りたのだ。
(これは大変なことになるかもしれない。一応逃げよう!)
トビーはその場を退き、洞窟の方へ逃げようとした瞬間だった。
彼の体は急に動かなくなり、そしてそのまま床に倒れてしまったのだ。
『やっと見つけました』
「えっ……」
女性の声が耳から聞こえた瞬間、トビーの意識はあっという間に遠のいていった。
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