神様のお世話役(構い役)になった

うまチャン

第1話 平凡な日

 街から離れ、小さな村よりもさらに山奥。

高さ2000メートルを超える大きな山の麓で、不自然に土地が開けている場所がある。

どうやら人が暮らしているようだ。


「ふぅ……今日も暑いなあ」


 帽子を被り、額の汗を拭う1人の男が広大な土地で作業をしている。

彼の名前はトビー・マフバフ。

今年20歳になり、一人前として農業を中心に商売をしている。

 最近は晴天が続き、大量の汗が流れるほど気温が高い。

もちろんトビーも例外ではなく、体から汗が吹き出す。

おかげで服が体に貼り付く。


「あっつい……! 流石の僕でも体から危険だって知らせが来てるから一旦休憩しようかな……あ、でもその前にあれやらなきゃ!」


 手をポンと打つと、とある場所へと向かった。

彼が向かった先は……。


「あっつい……あっついねぇ。父さん、母さん」 


 トビーの自宅の近くを流れる小川の沿いにひっそりと立っているのは、父と母のお墓だった。

今から4年前、トビーが16歳の時に両親はこの世を去った。

原因は今も分からないまま……。

両親が亡くなってからは、こうして農場や畜産を引き継ぎ、商売をしている。

 トビーは小川から水を汲み、墓石に水をかけた。


「今日も暑いから、水いっぱいかけとくね。これでたくさん飲んで涼んでね」


 トビーは父と母にそう話しかけるように言った。

そして、お墓の前でお祈りを捧げる。


「――――っと。それじゃあ、また明日も来るね。明日はお掃除もするからね」


 トビーは別れを告げると、自宅へと戻った。

椅子に座ると足を投げ出し、思いっきりリラックスをする。

 彼の家の造りは独特で、家の大半が小さな洞窟の中だ。

これは今は亡き父が、夏は一日中気温が高いこの地の暑さを凌ぐために設計されたためである。

洞窟の中は年間を通して涼しく、天然の冷蔵庫のような役割を持つため、夏の暑さから逃れるには持って来いの場所だったのだ。


「ふぅ〜、涼しい……。さて、そろそろお腹が空いてくる頃合いだね」


 体内時計が敏感なトビーは、お腹が鳴りそうになる感覚が分かるとさっそく台所へと向かった。


「えっとぉ……? 小麦粉とお肉はあるから――――添え物の山菜欲しいかも」


 小麦粉と肉だけではお皿が寂しいと感じたトビーは、外に出て植物を探した。

前かがみになりながら草むらを探すと……。


「あ、あったあった。これこれ」


 流石は自然に溢れた場所で過ごしているなだけある。

トビーは目的の山菜を見つけると、その場にしゃがんでその山菜を採った。

確かに、この山菜だけ葉の形に特徴がある。

大きくて丸みがある。


「さてっと、じゃあこれを添え物にしよう」


 トビーはその山菜を家の中に持ち込んだ。

そして、水を鍋に入れて火を炊き、味付けに塩を入れる。


(よしよし、沸騰してきた)


 ぐつぐつと沸騰したところで、先ほど採った山菜をさっと煮る。

この山菜は葉が薄く、こうしてさっと茹でるだけで食べられるようになる。

さらに塩茹でなので、その植物の味がダイレクトに伝わってくるのだ。

 山菜のような植物は、まさに草のような匂いと味がしたり、アクが強いものが多い。

ということは……彼はそんな味や匂いが平気ということである。

これは長い間自然の中で育ってきた彼だからだ。


「じゃあ次は肉だね!」


 茹で終わり、次は肉の調理に取り掛かった。

ブロックになっているため、そのまま食べるのも良いが何せ時間がかかる。

器用に包丁で小さく切っていき……小さなサイコロステーキにした。


(そして……これも今のうちに作っちゃお)


 一度台所で手を洗うと、今度は小麦粉をボウルに入れる。

その小麦粉に塩水を少しだけ入れ、手でかき混ぜる。

固まったところで、今度は右隣にある小さな釜に薪を入れて火をつけた。

火が安定するまで時間がかかるため、ここでまた牛肉の方へと戻った。

 牛肉をフライパンでじっくり、しっかりと焼いていく。

油が滲み出て、熱で油が踊りだす音が部屋に響く。


(ん〜! 良い匂い!っと、そろそろこっちも良いかな)


 良い匂いが漂って来たところで、今度は小さな釜の方へ。

少しだけ小麦粉が乾いてしまっているため、残ったごく少量の塩水をかける。

そして練り直すともとに戻った。

それを円盤状に広げた形を作り、幅が広くなっている釜の縁に乗せた。

同じものを4個作り、釜の縁に乗せたら後はしばらく待つだけ。

 牛肉の色もだんだんと灰色から茶色になったところで、トビーは味付けを施す。

もちろん味付けは塩だけというとてもシンプルなものだ。

 ちょっとおしゃれなやり方で塩をステーキにふりかけ、そのまま焼いていき、焦げ茶色へと変われば……もう十分に焼けた証拠だ。

トビーは焼けた牛肉をフライ返しでまとめて取ると、皿の上に乗せる。


「あ……これ山菜最後に茹でておけば良かった……。失敗した。どうすれば――――あ、そうすれば味もちょっとは付くから良いかも!」


 時間を置いたせいで冷めてしまった山菜。

サイコロステーキを焼くために使ったフライパンをすぐに火から遠ざけた。


「この熱を使って……温める!」


 トビーは少しずつ冷めつつあるフライパンの熱を利用し、冷めきった山菜を温める。

塩と肉汁が混ざり合っているため、アクが強くてほぼ草の味しかしない山菜に味が染み渡る。

あまり温めすぎると今度は焦げてしまうため、10秒も立たずに引き上げた。


「よし! これで完成!」


焼いていた小麦粉から作った食べ物も良い感じにきつね色になってきた。

トビーはそれを木製のフライ返しで皿に盛り付ける。


「うん! 完成! それじゃあ頂きます!」


 出来立てを早速食べ始めるトビー。

サイコロステーキを食べた瞬間、


「おいし〜!」


 とろけるような良い表情を見せる。

そんなふうに、トビーはこうしてのんびりと毎日を過ごしていた。

野菜や牛などの家畜のお世話をして、街に出て肉や野菜を販売して稼ぎ、そのお金で生活をする。

ごくごく普通な生活をしていた。

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