廃線の道

拝啓はいけい


近頃は星月夜ほしつきよの光が穏やかになり、夜明けの季節が待ち遠しく感じられます。


先日はお手紙をどうもありがとう。

あなたの方からなんて珍しいことだったので、少しだけ驚いちゃいました。

なによりもさ、嬉しかったよ。これは本当のことだよ。

お互いなにかと忙しいけど、時間を見つけて

またお手紙を出し合おう。約束だよ。


やっぱり都会での生活は大変みたいだね。だけど楽しそう。

微笑ほほえましいなんていったら怒られるかもしれないけど、

あなたが聞かせてくれた失敗談は、私にはすごくまぶしく感じるんだ。


ともかく、ご近所さんと仲良くなれてよかったね。おめでとう。

そのお祝いってわけじゃないけれど、ひさしぶりに、

ふたりで鍋パーティーをしよう。つぎの里帰りのときにでも。


本当は、引っ越し祝いもかねてなにか送れたらいいんだけど、

規制の影響で、今はまったく身動きがとれない状況です。

だから代わりに、鍋パーティーをしよう。


私の方はといえば、あいかわらず散歩ばかりしています。

聞いて。つい最近、いい散歩コースを見つけたの。

ここ数年マンネリぎみだったから、けっこう嬉しかったな。


街はずれの草原そうげんのなかに、線路が走っていたんだ。

大昔の鉄道の跡なんだろうね。草にもれて

びてもいたけど、かたちははっきりと残っていた。


線路にそって歩いていると、時間を忘れてしまう。

これは本当のことだよ。私は自分の言葉でしゃべってる。


もう使われていない線路だからね、たどっていけば

すぐに途切れるはずだって、そう高をくくっていた。

だけど、まったくそうなる気配がない。

どこまでもどこまでも続いている。私はいまだに、

線路の終わりまでたどり着けていない。


どこまで続いているんだろう。想像すると、わくわくする。

子どもみたいで恥ずかしいけど、これが、今の私の幸せです。


そうそう、昨日もその線路をたどって歩いていたんだけど、

面白いことがあってね、思わず笑っちゃった。


   ――観測かんそくのふくらみには――時の流れが息づいていて」

 「きみの寿命の上に――夏星のようにふりかかる――


なんて空耳が、突然聞こえてきたんだから。ね、おかしいでしょ?

じつを言うと、これを書いている今も、

可笑おかしくて可笑しくて笑いが止まらないの。


私は今日も、空色をかぞえながら歩いています。

あなたは今、何をかぞえて、何をしていますか?


まだまだ試行錯誤しこうさくごが続きますので、

どうぞおからだを宝物と思って、

すこやかにお過ごしください。

 またね ばいばい


かしこ


P.S.


これは私の意思じゃないです。

このまま、だれからも相手にされずに、

ひとりでちていくのかと思うと、ほんとに怖くなります。

このごろ、ほんとに怖いんです。これは私の意思じゃない。

たぶんこれ、あなたが言ってるよね?

私の見立てよりもずっと死が多いんだよ。

死といってべつに私が死ぬわけじゃない。

私は死なない。これは私の意思じゃない。

何かが死を増幅ぞうふくさせているんだと思う。

たぶん身近なもの。あてずっぽうだけど。

でも考えても考えても、全然わかんない。

これだけは私の意思なのかもしれない。

ちがうよ。全然ちがう。これは私の意思じゃない。

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