第7話 サブイベントフラグ

-アルテナの街 市場通り飲食街-


中央公園から東に向けて市場通りとなっている。

食材や雑貨等の露店や屋台が広がっていて活気がある。


この辺りはゲームでは普通の路地的な感じだったので印象がまるで違う。


私たちは屋台で売られているお好み焼きと焼鳥にそっくりな商品と果実で作られたジュースを人数分購入し、イートインスペースの様なテーブルが並んだ開けた場所に座ることにした。


少年探偵団と自称する3人の子供はおさげの女の子が「ミア」、小太りのガキ大将風の男の子は「ゲン」、細身でインテリ系な雰囲気の男の子は「ミーツ」という名前で皆この街の小学校に通う1年生らしい。


なるほどゲームには無かったが、小学校とか有るんだ。

そういう施設はこの街を見て回った感じだと見当たらなかったが何処かに有るんだろう?

そして今日は休校なのかな?


自称少年探偵団の3人は昨日の「冒険者殺人事件」の調査を行っているらしい。

目撃証言によれば黒装束を身に着けた短髪の女性らしい。


ごめんソレ私です、犯人目の前に居ます。


その場に居た女侍は街の人々からの証言から割り出したらしく、自称探偵団3人はサクラに事件の事を執拗に聞いていたがサクラは上手にはぐらかしていた。


事実を交えた本当っぽい嘘が上手いなぁと感心する。

侍じゃ無くて詐欺師が本職じゃないのか?純粋な子供達は素直に頷きながらメモを取っていた。


「お姉ちゃん、猫ちゃんまたね!」


「またな!姉ちゃん!」


「ごちそうさまでした。ご協力感謝します。」


個性豊かな自称探偵団と暫く話をして3人は調査に戻ると言って帰っていた。


「ところで何か分かった事ある?私はさっぱりですよ。」


私はゲームシステムとの相違点や街の様子、ギルドメンバーは居なかった事等を話した。


広い世界でそう簡単には手掛かりが掴めないのは当然かも知れない。

ただサクラは労働組合ギルドで有力な情報を得たらしい。


「酒場と労働組合ギルドで話を聞いたでござるが・・・少し前に巨大な大槌を持った美女と赤髪の機械種アンドロイドが現れて労働組合ギルドの依頼を片っ端から片付けたらしいでござる。・・・あの2人は間違いなくこの世界に来ているでござる。」


サクラの聞いた話で2人の特徴はゲームの時と同じだ、同一人物で間違いないらしい。


咲耶とDOSドッちゃんも、私達同様にこの世界に転移している。

やはりRPGでイベントを進めるには街の住民との会話が必須なんだと痛感する。


「でも、不思議な事に登録された日が2週間前の事らしい。」


「2週間前?随分時間に誤差が有るね、私たちが2週間寝ていたのかな?」


「それは無いとおもうでござるよ。」


「ですよね~。」


サクラの話では咲耶とDOSドッちゃんは2週間前に冒険者登録を済ませて労働組合ギルドの掲示板にある討伐依頼を片っ端から解決し、街の英雄となっていたらしい。


この辺りにモンスターの姿が見当たらなかったのは彼女達が倒しまくったからだった。


弊害としてモンスター討伐の依頼は激減と言うか、ほぼ皆無になり暇を持て余した冒険者が街で問題を起こす者も増えたらしい。


ああ、それで昨日の3人の様な輩が居た訳か。

平和になった弊害と言うか、何とも複雑だな。


「2人は私達がこの世界に飛ばされる2週間前の時間軸に飛ばされて、ゲームストーリー通りにイベントを進めているって事?」


現実世界でこんな会話を大っぴらにすると変人扱いされそうな荒唐無稽な話だ。

どうして2週間の誤差が生まれたか分からないけど、同性同名では無く特徴が同じなら本人で間違いないはずだ。


「現実離れしているけど、その線は濃厚でござるな。この辺りにモンスターが居なかったのも納得でござる。」


モンスターの再発生リポップとか無いのとか疑問は有るが、ギルドメンバーがこの世界に来ているのが分かった事は素直に嬉しい。

ストーリーを辿って進めば会えるはず、てか2週間あったらクリアしている可能性も有るのでは?


いや、序盤の狭い街1周するのに4時間程度掛かっている。

MAXレベルでモンスター討伐は余裕とはいえ、複数人の共闘が必要なレイドボス戦やラストダンジョン最下層まで到達し2人で破壊神ザナファを相手にするのは少し無理が有るだろう。


「じゃ、労働組合ギルドには依頼とか無かった感じ?」


「薬草採取とかの素材や食材・木材集めは募集が沢山有ったでござる。あ、そうそう盗賊団討伐ってのが1つ有ったでござる。まぁメインイベントでは無いから受けなかったでござる。」


アルテナ北西の森に盗賊団が砦を築いて、森の街道を通る旅人や商人から金品を強奪しているらしい。


冒険者崩れが集まり高い戦闘能力が有るらしく、自警団や派遣されて常駐している街の衛兵も砦に乗り込んだりはしない様で街でのイザコザの解決をしているだけだと言う。


ゲームのストーリーモードは主にアルテナ草原・森林でチュートリアル的な主要討伐イベントがいくつか有り。

アルテナ北東の地下湖に生息する巨大なレッドドラゴンとの初レイドバトル。


討伐後、地下湖を抜けて武装国家「オスロウ国」でモンスター討伐イベントやコロシアムでの武闘大会など終えると、国王に化けた暗黒神の眷属を討伐するイベントへと繋がる。


その後オスロウ国が平和になった矢先に、国王不在の隙を付きオスロウ国の隣国に当たる魔法国家「ハイメス国」から宣戦布告が有り、国家間戦争に巻き込まれる。


ここでオスロウ国に加担orハイメス国に加担するか選択を迫られる。

一応、どちらにも加わらずイベントを無視する選択も出来る。


大抵は王道のオスロウ国加担がメインルート選ばれ易い。

まぁ結局どちらかに加担すると最強武器か最強防具用のレア素材が貰える、初回のみだけどね。


どちらかの国が滅びてしまい今後のイベントに影響を与えるが、どちらにも加担しない事も出来て両国滅ばない選択もあるがレア素材が貰えない為不人気で選ぶ人は居ない。


戦後処理のオスロウ国で東の大国の都市管理AI暴走により鎖国された〖機械都市ギュノス国〗の話を聞く。


そして元ギュノス軍兵士長が中心となるレジスタンス軍と合流し都市と都市民開放の為、ギュノス国内部のクリスタルタワー最下層にある都市管理AIの【マザーブレイン】の破壊協力を求められる。


都市のセイフティロックを守る4体の守護機械兵ガーディアンを倒し、クリスタルタワー最下層のマザーブレインとのレイドバトル。

プレイヤーは勝利はするがそこで真実を知る。


マザーブレインは暗黒神ザナファの封印装置を制御しており、暗黒神の邪悪なエネルギー増大を感知しこの世界全体を守る為に自己防衛システムが作動。

ギュノス国民ごと鎖国してしまう。


その原因はプレイヤーは後で情報として知る事になるのだが、オスロウ国、ハイメス国、ギュノス国にはそれぞれ暗黒神の能力を抑える核となる宝玉が安置されておりオスロウ国とハイメス国の宝玉が戦乱の中、何者かによって破壊される。


更にプレイヤーがマザーブレインを破壊した事により暗黒神ザナファが完全復活する。

星そのものを変動させる程のエネルギーが世界を覆いモンスターは強化凶暴化し、そのエネルギーの中心となるアビスダンジョンの50階層に座する暗黒神ザナファを倒し物語は終了する。


ストーリーモードの大筋はこんな感じだけど細かなミニイベントは多数あり、オンラインの配信クエストや期間限定イベントでは暗黒神ザナファより強いボス等も多数追加されている。


この世界はどこまでゲームと同じなのだろうか。


「じゃ、明日朝一でオスロウを目指そうよ。戦争は始まってないみたいだし、もしかしたら2人と合流できるかもしれない!」


「そうでござるな、拙者はもう少し街を回って情報収集してくるでござる。」


サクラは冒険者登録出来たみたいだし、オスロウ国の労働組合ギルドで2人がサクラの登録に気が付いていたら合流出来るかも知れない。

もしくは不本意ながら私の指名手配書で気付いて探してくれるか知れない。

・・・うん、少し希望が見えてきた。


「じゃ私も街をもう一回りして宿屋に戻るよ。」


「遅い!お腹空いた!サクラ何やってんだろう。」


今日だけで何回このセリフを思い浮かべただろうか。

別に腹ペコキャラではないんだが・・・。


そう言えば外が騒がしいな、借りている宿屋2階の窓から外を見てみると街の人々が懐中電灯や光魔法等で何やら探しているのか?自警団や衛兵も動員している様子。


まさか指名手配書が出回って私を探しているんじゃ・・・

捕縛され拷問・・・恐ろしい想像をしてしまい身震いする。


宿屋前に出て街の人達が話している内容に聞き耳を立ててみると、どうやら街の住民が数人行方不明で捜索をしているとの事だった。


街の外にある森林の盗賊団の砦に連れ去られたと言う目撃情報が有り、自警団や派遣された衛兵達が街の入口で砦へ突入するかどうかの会議中だ。


盗賊団と言っても仕事を失った冒険者崩れが約60名程度集まった連中らしく、一般人で形成された自警団や派遣衛兵程度では間違いなく返り討ちに遭うだろうと突入に足踏みしている状態。


サクラが宿屋に帰還し状況を説明してくれた。


「シノブ殿!大変でござる!少年探偵団の子供達が盗賊団に拉致されたでござる!」


「はぁ?マジで!?何であの子達が攫われんのよ?」


サクラの話によると昨日倒してしまった3人の冒険者達は盗賊団の一味だったらしく、数人の街の人間を拉致して金品の要求と殺人に関与した首謀者の捜索というか炙り出しというかそう言った声明文的な物も送られているらしい。


探偵団の子供達は殺人事件の調査という名目で聞き回っていた時に一味の仲間に遭遇したのだろう。


間違い無くそれが原因なんだろうな。

これって言って見れば私の責任じゃん・・・まずいな。


「これは拙者達が行くしかないでござるな!」


「原因の100パーセント私だしね、国に支援要請しても救出は遅くなる。」


人質取って金銭要求するとかロクな人間じゃないし60人程度壊滅させてやる。

どうやって殺さないように手加減するかが問題な位で・・・なんせ手刀程度で死んじゃうとか戦闘力たったの5かよゴミめ。


やっぱアレかアイテムや特殊技能スキルで間接的に制圧するしかないな。


2人で手短に作戦を立てた後、サクラは自警団本部に作戦報告し衛兵達に砦から少し離れた所で待機してもらい被害者の保護をお願いしていた。

この際盗賊団全員確保して解散させてしまおう。


少年探偵団が無茶して怪我とか負って無いと良いけど・・・。

眼鏡の少年がいたらスケボーやサッカーボールで劇場版的な活躍で解決するかも知れないが、そんな御都合主義的な事は起きないだろう。


・・・そして今夜、少年探偵団と住人奪還作戦が急遽決行される事となった。

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