第8話 黒猫と少女

-アルテナの北西森林入口 盗賊団砦付近-


森林入口付近に衛兵達と協力し簡易的なベースキャンプを築き、開放出来た人質を保護出来る様に準備を整える。

現在アルテナの街に居た冒険者はオスロウ国等の隣国に移動し殆ど居ない為、人質奪還の依頼を受けてくれる冒険者が皆無な状況だった。

申し訳ないが、都合良くサクラは作戦の中心を担う事になった。


「どうかミアを・・・娘を助けてください。お願いします!」


自警団の一人がどうやら少年探偵団のミアの父親らしい、悲痛な面持ちでサクラの手を掴んで懇願していた。

他の自警団の方も自身の無力さを知っている様でサクラに願いを託していた。

一般人約100人と冒険者約60人なら、まず一般人に軍配が上がる事は無い。

特殊才能ギフト特殊技能スキル魔法スペルは初級使用者と素人では大きな戦力差となるからだ。


砦を取り纏めている3人の冒険者が達人級の凄腕で、昨日街で死んだ冒険者は1番下っ端の部類らしいと衛兵とサクラが話をしていた。

達人ってどんな感じなんだ?変な話だが一般人程度の強さだったら手加減する方が難しい、それは昨日学習した。

微妙に強い方が戦いが楽になりそうではあるけど・・・


盗賊団首領「バロウキン」は、聖職者上位職で武道を極めた【拳聖けんせい】でオスロウ国のコロシアムで行われる武闘大会で準優勝経験も有ると噂されている。

首領の右腕のと称される上級冒険者「カマル」と「カガシ」。

幹部以外はお尋ね者や並程度の冒険者崩れの集団らしい。


「シノブ殿、いざ行くでござるよ」


コクリ。お互い顔を見合わせ頷く。


私達2人は森に入り盗賊団の砦を目指す、森に入ると同時に【黒猫スーツ】を脱ぎ【忍装束】に着替える。

この【忍装束】には回避・敏捷性向上の効果がある為、一応着替えた。

もともと防御力が低いし、私は臆病なんだ。


ゲームシステム的には【拳聖】は聖職者の上位職でレベル60以上でなれる。

武道と聖僧を極めないと就けない、すなわち首領のバロウキンは最低でもレベル60以上と言うことになる。

【拳聖】の特殊技能スキルの中には「使用者のレベル」×「攻撃力」に応じて相手に固定ダメージを与える物が有る。

レベル差が有るとは言えそんな攻撃食らったらメチャクチャ痛いはずだ。

ボス級の戦闘はサクラに任せて、私はモブ冒険者の捕縛をしつつ拉致住民の開放と保護誘導をメインで行う。


「サクラはここで待機してて。作戦通り2回目の爆発が聞こえてから5分後に正面から侵入してくれれば良いから。正面から真直ぐだよ、両脇の壁際には罠を仕掛けるから。」


3メートル強はある比較的高い壁に覆われた砦は正面入口と裏口があり、砦の内部見取り図は衛兵が捉えた盗賊団に所属している冒険者を尋問し割と正確な情報で配置は分かったので人質収監している場所は把握している。


簡単に説明すると、まず裏口を土遁忍術で完全に塞ぐ。

人質の状況を確認後、両サイドの壁沿いに陽動用の時限式小型爆薬と粘着麻痺罠を仕掛ける。

1回目の爆発を起こし夜間警備しているモブをそこの集中させ手薄になった時点で人質を解放し近場へ待機させる。


もう1個の時限式小型爆薬を起爆し混乱に乗じてサクラが突入する。

私は人質解放後避難誘導し入口へ逃げ出してくる冒険者や盗賊を各個捕縛。

3メートルの壁を越えて横に逃げたら放置する、そこまで面倒見切れない。


手加減作戦として達人級の3人以外はサクラ考案の攻撃方法、長めの濡れタオルで叩こうと言う訳の分からん攻撃方法だ。

どこかのガン●ムファイターの真似らしい、全く謎だが手加減としては有効かも知れない。


砦の入口を警備している盗賊は2名だけ、監視塔のような場所は見当たらない。

とりあえず入口の2名を正面から歩いて近付いてみる。

濡れタオルを持った忍者装束の女とか怪しすぎると苦笑しながら話しかけてみた。


「あの~こんばんわ、道に迷ってしまってココはどこですか?」


「ココは街道警備を取り仕切っている砦で立入禁止です。護衛の依頼なら労働組合ギルド経由で行ってください。」


街で見た派遣衛兵と同じ鎧を着た2人が事務的な対応をする、あれも盗品なのだろうか。

それに街道警備とか笑える。

この道を通る一般人や商人に護衛役で労働組合ギルドで依頼を受け、別グループで盗賊役をして三文芝居でお金を巻き上げる。

依頼をしなかった連中からは金品を直接奪っているバロウキン劇団でしょうに。

アルテナの街ではハリウッド俳優並みに有名になられてますよ。


「そうなんですか、分かりました。」


「うん?お前、頭の上に・・・」


【黒猫スーツ】を着ていると犯罪者印どくろマークは見えないらしいがさっき【忍装束】に着替えたので、当然ながら丸見えなのである。

盗賊団に入団って事で潜入するのも有りかも?まぁ、良いか。

私は【縮地】を使い濡れタオルの間合いに入る。


パン! バッチン!


警備員が私の頭上に視線を向けた瞬間に素早く濡れタオルが虚空を舞い、入口を警備員の意識を刈り取る。

瞬間的に顔面に衝撃を受けた警備員は、鼻血を出して倒れる。

私はドキドキしながら息と脈を測る・・・良かった生きてる、首の骨が逝ったとか普通に有りそうで怖い。

良し!これは使える!

今日から私の主力武器メインウエポンは濡れタオルにしよう!

入口警備員を拘束、麻痺罠で捕縛し少し離れた木陰に隠す。


特殊技能スキル【索敵】を使用する。

基本モンスターは赤いマーカーで表示され、プレイヤーやNPCは青く表示される。

今回の場合はモンスターが相手ではない為、表示は全て青いマーカーとなっている。

脳内MAPには複数人固まった場所が3ヶ所見える、この中のどれかが人質住民だろう。


「さてと・・・まずは少年探偵団と住人合わせて12名程度だったかな?安否確認をしないと。なるべく気配を消して見回りに見つからない様にしないと。」


敷地内をうろついて居る警備員は4名。

この施設に忍び込む者など普段から居ないらしく敷地の中央辺りで見回り業務をサボって雑談をしている、完全に油断しきっている様子だ。

砦の内部は中央奥に幹部連中の居住施設となる石造りの大きな建物が有り、その両サイドに石造りの小さな小屋が有る。


前方から左側の小屋には見回り警備を中心に行っている冒険者崩れのモブ盗賊が16名程度待機していて、見るからに安酒を呷りながらカードゲームを楽しんでいた。


右側の小屋には入口に1名警備している盗賊が居て、そこに街の住民が捕らわれている。

地面から約2メートル程度の位置に鉄格子で仕切られた小さな小窓が有り。

中を覗いて住民の安否を確認してみたが、どうやら全員怪我はしてない様だ。


「皆さん無事ですか?助け来ました、騒がず静かにお願いします。」


窓越しに中の住民にそっと小声で話しかける。

窓の真下に居た女性が声に気が付いて此方に顔を向けた瞬間、驚いて声を上げそうになり自分の手で口を覆っていた。

私は自分の口の前に人差し指を立てて静かにする様にジェスチャーを送る。

女性は口を押えたままウンウンと頷き、私の合図を理解した事を体で示す。


その様子に気が付いた住人達もゾロゾロと近づき集まってきた。

中には少年探偵団のミア、ゲン、ミーツも居る。住人達にこれから実行する作戦を小声で伝え、必ず助けるで冷静に行動して欲しいとお願いする。


「少年探偵団の3人も協力して皆で抜け出そうね。」


元気付ける為に何気なく発した言葉にミアが言葉を挟んだ。


「お姉ちゃん、なんでミア達の事知っているの?」


しまった。

そうか黒猫の姿でしか彼女達に会ってないんだった。

ゲンとミーツも不思議そうに此方を見上げていた。うーん取り合えず少年探偵団は有名だからと適当に誤魔化した。


人質収容している窓から降り、外壁付近に特殊技能スキルで作成した【爆発罠】を仕掛け。

手早く【粘着罠】も設置して右側の小屋付近にも同様の仕掛けを設置する。

よし準備は完了だ、ここまでの所要時間は約15分位か予定通り。


「さてと・・・1発目の爆破いきますよ~っと。」


詰所の天井部分に待機して身を潜めながら、1個目の【爆発罠】を遠隔起爆させる。

深夜の静寂の中、大きな爆発音と共に大量の煙が上空を目指して上がる。

詰所から「なんだ!」「敵か!」等声が上がり扉からゾロゾロと酔っ払い盗賊達が出来てきた。

人質小屋の警備員も動揺しているのが良く見える。


中央で雑談していた警備兵が真っ先に爆音の方へ駆け着け【粘着罠】に引っ掛かった。

その隙に人質が収容されている入口の護衛を気絶させ、開錠特殊技能レゾナンススキルを使い扉をの鍵を開ける。

人質はまだ、誘導出来無いので待機して貰う。


詰所にいた約7名位が同じく駆けつけて【粘着罠】に掛かる。

結構上手く行くもんだと感心する、2回目を爆発が起きたらベースキャンプから数人の衛兵が砦入口まで駆けつけ脱出した住人をベースキャンプまで誘導する予定だ。


「ほいじゃ2発目をっと!」


自分の後方から爆発音と煙が舞い上がる。

更に動揺した残りの盗賊が、爆発音の有った待機小屋の後方に雪崩れ込み【粘着罠】に掛かる。

2名位が幹部の居る建物へ報告に行った様だ。


詰所の屋根を降りて人質小屋に向かい、周囲を確認して住民を入口まで誘導を開始する。

特殊技能スキル【索敵】には入口までの不審人物の反応は無いので問題無く行けそうだ。

住民の数人は私の頭上に着いた犯罪者印どくろマークを見て戸惑っていたが、状況が状況なので見て見ぬ振りをしている様だった。

入口付近で正面堂々と侵入してきたサクラが見えた。


「侍ねーちゃんだ!」


「かっこいい!頑張ってください!」


「悪者を倒しに来たの!?」


サクラを見つけた子供達が駆け出し燥ぐ様に捲し立てる。

「拙者にまかせるでござる」と笑顔で会話を交わし子供達の頭を撫でていた。


「モブの中に6人位罠に引っ掛かってないヤツがいるから、殺さない様に気を付けて!」


敵相手の身の安全を気にする妙な激励をする。

砦入口付近で住民の皆を衛兵に誘導してもらう様に促し、私は入口で待機する。

後はサクラが幹部をボコボコにして作戦完了。


砦の入口付近でミアを除いた全員が衛兵に保護されていた、ミアは何故か衛兵の元へ行こうとせず此方を見つめて何か言いたそうな感じだった。


「ど、どうしたのかな?皆待っているから早く行くと良いよ。私はもう少し仕事があるから」


しばしの沈黙の後、ミアは両手を自身の胸の前で握り此方の目を正面から見上げながら力強く言った。


「お姉ちゃん!あの黒猫さんだよね!声同じだもん!」


唐突だったので少し驚いた。

キラキラ輝く目で此方を見上げて確信めいた何かを期待した表情をしている。

嘘で誤魔化すのは簡単だけど、この純粋な眼差しは何か訴えかけるモノが有る。

どうしようか、知られても作戦に支障は無いし良いかな。


プイッ!思わずそっぽを向いて「・・・極秘情報だから内緒だよ」と小声で言うと、ミアは感極まった様な嬉しそうな表情で「秘密を守るのは得意だよ!」って言って衛兵の所へ元気に走って行った。

人と認識されて話をするのは初めてだ、少し新鮮な感じがする。

私は親子で抱きしめ合うミア親子を見つめながら、この世界に来て初めて人の温かな心に触れたような気がしてホッコリしていた。

きっと頬が緩んでいるに違いない。


私は改めて【黒猫スーツ】に着替え、砦の入口で腕を組み仁王立ちで待機を開始する。

後は大掃除はサクラに任せるとしようか!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る