第6話 アルテナ街の少年探偵団

-アルテナの街 宿屋-


チュンチュン


薄いカーテンから零れる朝日と雀の様な朝鳥の鳴き声で薄っすら目が覚める。


「う~~~~ん」


ベッドから体を起こし思いっきり背筋を伸ばす。

今日は良い天気だ。


あー街の中と言うか戦闘可能なフィールド以外は天候変化とか無いんだっけ?

でもどうなんだろう?現実に近いなら仕様変更されているのだろうか?


まぁ、考えても無駄かな。

だめだ、まだ頭が回らない。


眠い目を擦りながら考え事をしていると、ふと視界の隅で動くモノがあったので視線をそちらに向けると昨晩ベッド周辺に複数仕掛けた麻痺付き【粘着罠】に何者かが引っ掛かっていた。


「シノブ殿、おはよう。今日も良い朝でござるな。」


「そうだね。所でそんな場所で這いつくばって何をしているのかな?」


彼女・・・もとい彼の姿を見てハッキリと目が覚める。

私は敢えて極上の笑顔で挨拶を交わす。


お約束に忠実と言うか・・・成功率60パーセントの麻痺にも見事に掛かっているご様子で。


やれやれ。


「拙者は寝相が悪くて、転げ落ちた先に敵の罠が仕掛けてあったでござる」


・・・敵て!ああ、女の敵なら私にも心当たりが有る。

暫くこのままにしておこう。


「じゃ、私はお腹も空いてないし街をブラついて視認できる情報収集をしてくるね。あ、そうそう、私の不必要な素材やアイテムを机に置いておくから後で売却して換金しておいてね!」


手をヒラヒラ振りながら無慈悲にも部屋を後にする。


「えっ!ちょっ!このままでござるか?シノブ殿!待って!」


後ろの方で悲痛な叫びが聞こえた気がしたが放置した、おっと忘れていた。

扉を閉めようとして伝え忘れたことを思い出し、扉の隙間から顔だけ出し伝えた。


「そうそう、私は現在猫なので言語による情報収集はよろしくねん!」


-アルテナの街 中央広場-


中央広場にある噴水に腰掛け一息つく。

アルテナの街はそう広くはない。


中央広場から半径40キロメートル程度の円形の作りの街で、今の身体能力なら3~4時間程度あれば一通り回れる。

ゲーム内ではもっと狭く感じたのだけれど、自分の足で歩くのとは感覚が違うなぁ。


労働組合ギルド、酒場、市場通り、武器屋、防具屋、鍛冶屋、魔法商会、衛兵の詰所、神殿とゲーム内と配置も同じ。

ただ違う所が幾つか見受けられた。


まず人口が明らかに多い。

基本的にプレイヤー同士のコミュニケーションが盛んなオンラインゲームではNPCは少ない。


最初の街なんて50人位しか配置されていなかったが、家族や子供同士の集団等ざっと200~300名以上は見受けられた。

会話もプログラムされた物を延々と一方的に喋るだけなのに、ここでは世間話など普通に行われている。

後は街と街を繋ぐ転移装置が壊れているのか起動出来無い。


もう認めるしかない、この世界はゲームにそっくりな別世界だ。

今でも半信半疑だけど、ここは暮らす人々の営みがある。

旦那の愚痴を言い合う主婦、無邪気に木の棒で剣術遊びをする子供達、市場通りで働く叔父さん達。


衣類もゲームのNPCの物とは違い安っぽいが多種多様な服を着ていた。

他のプレイヤーキャラクターやギルドメンバーも来ている可能性が有るので街を隈なく回ってみたが姿は無かった。


NPCとは違いそこそこの装備を付けているはずだから気が付くと思うけど。

もしかしてサクラと会えたのが奇跡的だったのかな?


ただ子供には木の棒で追いかけられるは、お店に近づくと邪険に扱われるのは悲しい。

今は所詮猫なので木陰で聞き耳を立てるのが精一杯だ。


てか、無邪気な子供って結構怖い。

街の人々の話を盗み聞きしていると昨日の冒険者殺しの件で持ち切りだった。

街の外でイジケていた間にサクラが情報操作していたらしく、サクラはお尋ね者(私)を追ってこの街に来たが逃げられた的な感じに噂が流れていた。


ふむ、【黒猫スーツ】を脱いだ私を追っていると言う設定ね。

死亡した3名の冒険者は態度が悪く、随分嫌われていたらしく不謹慎では有るが同情よりも喜びの声の方が多く聞こえた。


昨日の事を思い返していて不意に疑問が生じた。

そう不本意とはいえ街中でPK?この場合NPKになるのだろうか?

これはゲームシステムでは不可能な事象だ。


サービス終了と同時に暗黒神ザナファを倒した瞬間光に包まれて、気が付いたらゲームそっくりの異世界。


そっくりだけど所々違和感は有るって感じだ。

ゲームのシステムや世界観をベースに何らかの事象改変が起こった様なイメージ。

しかし、似た様なアニメや小説はイロイロ見てきたけど現実として受け入れるしかない。


「それよりも皆来てるのかなぁ・・・会えるのかな。」


独り言を呟き溜息をついて項垂れる。

ふと視線を感じ横を向くと私に触れようと近づいていた1人の少女と目が合った。

まさに「キョトン」と言った擬音が出てそうな顔をしていた。

ヤバ!今、独り言が声に出ていたかも。


「猫さんはお喋りできるの?」


5~8歳くらいだろうか?見た目的に小学生位かな?

おさげ髪のワンピースを着た女の子が真横に座り小首を傾げて話しかけてきた。


プイッ!思わずそっぽを向いて今更ながら猫の振りをしながら、極自然に歩き始める。

所詮子供だし、親や知り合いに言っても信じて貰え無いだろう。


泊まっている宿屋に向かい1キロメートルくらい歩いただろうか、春の様な温かな気候で気分が良い。

そういえば朝から何も食べてないし流石にお腹が空いてきた。

この姿では食事とか大っぴらに取れないじゃないか!盲点だった!

サクラが居ないと今の私は食料調達が出来ないんだった!

お魚咥えたドラ猫になる訳にもいかないし。


不意に立ち止まって後ろを振り向くと先程のおさげ髪の女の子と少し小太りのガキ大将的な風貌の男の子と、細身でインテリ系の男の子の3人が少し距離を置いて此方の様子を伺っていた。


おいおい後を付けて来たのか・・・

しかも人数が増えてるし。

先程、木の棒で追いかけ回してきた子供とは違うが子供が苦手になりそうだ。

3人の子供がヒソヒソ話をしている。

どうやら私を捕まえたいらしい・・・ま、無理だけどね。


「ようやく見つけたでござる」


背後でサクラの声がして、軽く手を振って答えた。

無事罠を解除出来たらしい。

ほんの少しの距離に私を捕まえようとしている子供が居るので不用意に喋れない。


サクラに身振り手振りで子供の事を伝えるが頭上にハテナマークが浮かんでいる様な顔をしているのが少しムカツク。

そうこうしていると3人の子供は歩いて近づいて来た。


「ねぇお姉ちゃん、その子ってお姉ちゃんの猫さん?」


「うん、そうでござるよ。この子は拙者の使い魔の黒猫でござる。」


サクラが喋った瞬間3人の子供がビックリした表情をした。

まぁ、当然である。


見た目は可憐で華奢で美人な女侍だか声が完全に男なのだから。

今まで話した全員が同じ反応をしていて面白い。


宿屋の女主人は流石と言うか「接客のプロ」と言うのだろうか表情を一瞬だけ変えたが、すぐ通常の接客を行っていたのは凄いと思った。

商業課の高校に通う学生としては、良い社会勉強の見本になった。


「えっ・・・と・・・男なのか?」


ガキ大将風の男の子がサクラに問いかけて来た。

おお、勇気あるね。

空気読まないのも良いぞ。


大人は空気を読んでその質問はして来なかったのだ。

サクラがどんな反応するのだろうか?


「そうでござる。信じて貰えないかも知れないが、暗黒神ハーデスと言う邪神の呪いによって男の声に変えられてしまったのでござる。」


おいおい即興で変な追加設定作ったぞ!

しかも暗黒神ザナファではなくギルドメンバーの暗黒神ハーデスハーちゃんのせいかよ!


思わずツッコミを入れそうになるが、ギリギリで思い留まる。

設定と割り切れば内容自体に嘘はないのか?

サクラ自身は嘘で真っ黒だけどな。

もしかしてサクラって実は相当の嘘つきなのでは?疑心暗鬼になりそうだ。


「この子はシノブ。この子も呪いで猫になっているが元は人間でござる。」


おお!そう繋げるのね、なかなか上手いじゃない。

その設定で行けばサクラ同伴なら喋っても問題なさそう。

サクラは子供に「極秘情報だから内緒だよ」って口止めをしていたけど大丈夫だろうか。


子供達も「僕達は少年探偵団だから秘密を守るのは得意だよ!」とか言ってたけど、まさかもう一人見た目は子供で頭脳が大人のメンバーが居るんじゃなかろうか?


ソイツが出向く先で必ず殺人事件が起きる死神的な常時発動型特殊技能パッシブスキルが付いてそうな友人が居ないよな。


「シノブも喋っても大丈夫でござるよ。」


「まぁあんまり目立ちたくはないし、なるべく喋らない方向で行こうかと。」


「マジかよ!スッゲー!!」


「本当に喋った!すごい!」


「ね、だから言ったでしょ!」


私が喋った瞬間、3人の子供は歓声に似た驚きの声をあげ感動に目を輝かせていた。

男の子2人はビックリし「スゲー!スゲー!」と連呼し、おさげの子は少しドヤ顔をしている。


もしかしてこれ見世物でお金とれるんじゃね?とかくだらない事を考えてしまった。


「ねぇお腹空いたから何か食べない?アイテム売ってくれたんでしょう?」


「そうでござるな、3人も一緒に来るでござるか?」


「行く!」「行く!」「行く!」


ほぼ3人同時に喰い気味で叫ぶ。


まぁ好奇心旺盛なお子様達だことで。こうして私達は市場通りの飲食街へ足を運んで行った。

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