第2話 仲間と中の人
-アルテナ草原-
釈然としないまま、周囲を見渡してみる。
だだっ広い緑豊かな草原に温かな日差しが降り注ぐ、これはゲームストーリーモードの最序盤の〖アルテナ草原〗フィールドだよね・・・・
敵モンスターは見当たらない。ステータスウィンドウとかどうやって出すんだろう?
キーボードやコントローラーを持っているはずの手は、この通り体に連動しているし痛覚や臭覚などゲームでは感じなかった感覚が有る。
フルフェイスヘルメットとは違い視野角が広く周囲の状況が把握し易い。
これってヤバいよね、マジヤバだよ。
・・・・あーでも、良く考えたらこれゲームし放題じゃない?
学校行かなくていいし!案外いいかも!
・・・でも、痛いのはやだな。
死んだらどうなるんだろう?ゲームではデスペナルティと言って自動復活と同時にセーブエリアに強制移動した上に所持金半減、総獲得経験値が数パーセント減少でレベル減少さえ有る。
そもそもセーブって出来るのか?
ステータスウィンドウの出し方が分からないからステータスの確認方法が分からん・・・
ちなみにゲーム内では見覚えが有る景色だけど実際草原中央でコンパスや簡易マップが無い状態だと、どっちが町なのかとか方角がイマイチ分からない。
とりあえず前に進んで道路状に整地された所を探すしかない。
えーと武器は、腰に1本の小太刀【
腰の小型ポシェットに・・・ああ、これがアイテムストレージになるのか。
ポショット内を探ってみると、おお?ゲーム内キャラクター所持品を思い出しながら漁ると、アイテムサイズに関係なく手裏剣やクナイが沢山出てくる。
すげー!アイテムウィンドウが無い代わりにこのポシェットが四次元ポケットになっていると言う訳だ。
これは便利!摩訶不思議!楽しいかも!回復薬【ポーション】の蓋が開かないのはヒットポイントが満タンだからだろうか?
思いっきりジャンプをしてみると1.5メートル位跳躍出来た。
周囲はリアルっぽいけど、リアルではこんなに飛べないから能力がゲーム内設定になってる感じだ。
ゲームのキャラクターステータスはそのままなのかな?
小太刀【
特殊技能スキル【二刀流】を所持している私は長刀2本同時装備の出来るが、この小太刀は長刀以上の攻撃力を有する為私のお気に入り武器だ。
特殊技能スキルとか使えるのかな?小太刀を抜き構えてみる。
おお!なんか雰囲気有るぞ。
頭の中で技の名前と攻撃モーションをイメージする。
やっぱあれだよね技名を叫ばないとカッコ良く無いよね!
「ふぅ・・剣技!【
流れるように自然に素早い4連撃に合わせて赤い炎が小太刀の軌道に合わせて発生する。
現実では有り得ない光景に大いに感動する、まさにゲーマーの夢の実現である。
小学生男子が下校時にアニメの必殺技を傘で模しているのは、脳内でこんな感じの事が繰り広げられているに違いない。
当時は脳の成長を疑う様な冷ややかな眼差しで見ていたが、今ならその気持ちが少しだけ理解出来る。
「むおー!超カッコイイ!!すげー!すげー!うひょー!」
特殊技能スキル【
【マジックナイト】と言う職業の【魔法剣】と言う特殊技能スキルも有るが、そちらは斬撃と魔法ダメージを同時に与えるのでダメージ計算式が差別化されている。
飛び跳ねながら特殊技能スキル【
だる・・・面倒…何やってんだろ?あ、あれだこの特殊技能スキルは再充填時間リキャストタイムがほぼ無いから連発出来るけど、調子に乗って使っていたからスキルポイントが無くなったって訳だ。
「なるほど、こんな感じになるんだ。」
特殊技能スキルや魔法スペルを使用する時に必要なのが〖スキルポイント〗を略して〖SP〗。
大気中に存在する〖マナ〗を身体に取り込み保管し、消費する事で覚えた技を発動出来る。
基本的に自然回復するので、通常攻撃のみを行っていれば消費する事は無い。
この虚脱感はSP切れなんだと思う。
SPは自然回復するのを待つか回復アイテムを使用すると回復可能なので、とりあえず地面に仰向けで寝そべってみた。
緑に茂った芝生と温かな日差しと程よい吹く春風のような心地良い気候。
なんだかこのまま寝たら幸せだろうなぁ…と目を閉じた。
・
・
・
プスッ
「いっったぁぁぁーーーい!」
急に尖った物で額を刺されたような感覚で目が覚める。
「あ、起きた。大丈夫でござるかシノブ殿。」
誰の声だ!?額を抑えつつ振り返ると見覚えの有る人物が立っていた。
見上げると桜色の髪をしたポニーテールの武士が佇んでいた。
大きい胸に縊れた腰付き、白地に桜模様の入った着物に黒い袴の様なパンツに草鞋を履きの美しい女性だ。
この姿は同じギルドの女侍「サクラ」だ。
手元を良く見ると長刀【乱れ桜吹雪みだれさくらふぶき】を抜刀している。
しかし一瞬何らかの違和感を感じた。
「ちょっ!あんたその刀で額刺して起こしたの?!あ・り・え・な・いんですけど!」
「ああ、申し訳ないでござる。シノブ殿が死んでるのかと思ったでござる。」
いやいや、仮に死んでても刺すなよ!
・・・とツッコミを入れようととしたが、不意に先程と同じ違和感を感じた。
んん?んんん?声が男性特有の低めの声。
いつもは高めでハキハキした声なのに。
名前は忘れたが有名声優の声だったはず・・・聞こえ声は、まるで違う。
「ねぇサクラって声どうしたの?」
サクラはハッとした表情で明らかに動揺した。
「えーと、なんだろ風邪でござるか…な?」
「いや、地声自体変だよね。なんだか男性みたいな声に・・・」
そういえば私もリアルの地声になっている事に気が付いた。
そうか、これ声優機能がOFFってる状態だ。
これは基本設定で変更できる機能だが、ウィンドウ自体開く事が出来ないので声優音声に設定変更が出来て無いデフォルトの状態なんだ。
しばしの沈黙の後、急にサクラが土下座をした。
「ご、ごめんなさい!実は女性侍をロールプレイしてただけで、リアルでは男なんだ!」
「え!?マジデ?」
「・・・マジで」
目を見開いていたが不意に視線を逸らしサクラは顔を赤くしながら俯いている。
えーと、落ち着け私・・・。
2年程度このゲームをプレイしてきて1番驚いた。
この時私はどんな顔していたのだろうか?自分では見えないがアホっぽい顔をしているに違いない。
「せ、切腹するでござる!」
脇差を高らかに抜いて大袈裟に切腹をしようとしたので、私も即座に長刀【村雨むらさめ】を抜いて上段に構えた。
切腹するなら介錯してあげるのが礼儀だろう。
「ちょ!危ないでござる!貴殿は何するでござるか!」
「え?切腹するなら介錯してあげようかと。」
「・・・酷いでござる」
・・・っていうかこれは有名なアレだ、かの有名な〖ネカマ〗だ。
ネカマとはリアル男性がネットゲーム内で女性の振りをして性別を偽る行動の総称だったと思う。
ゲーム内でリアル性別を女性と偽り男性プレイヤーからアイテムを貢いで貰ったり、同性と言いゲーム内で仲良くなった女性プレイヤーとリアルで会う約束を取り付け実際に待ち合わせに男性が来る等の出会い目的に使われる事が多いらしい。
「付き合おう」とか執拗に付け回すストーカー化したりと、良い噂は聞かない。
中には女性キャラを使いロールプレイをする男性プレイヤーは多いが、リアル性別を偽っている人は「ネカマ」と言って差支えは無い。
まぁ別のギルドとかでは普通に居るらしいんだけど、それは男性が女性キャラでプレイしているであって性別を偽って女性を演じているとは微妙にニュアンスが違ってくる。
ギルド〖深紅の薔薇〗はリアル女性限定のギルドだ、リアル性別が男性の場合はネカマが適応される。
サクラとは二年位同じゲームの同じギルドに所属した仲間だから、どういう性格かは良く分かっているつもりだ。
物腰は柔らかでござる口調でガールズトークが面白いむっつりスケベで照れ屋な女性だ。
いや違う!物腰は柔らかでござる口調でガールズトークが面白いむっつりスケベで照れ屋な女の子のふりをした男性だ!
・・・・うーむ、まぁ面白いから良いか。
良いのか?個人的には別に良い、サクラはサクラだから。
友人や彼氏とかでもないし。
・・・・たぶん無害?ギルド規約の〖リアル女性限定〗に引っかかるのでギルドマスターのミカさんにバレたら即行ギルドを退会させられるんじゃないか?大丈夫かこれ?
「はぁ~」
溜息をついて頭を掻く。
どうしたものかと・・・
そもそも外見、キャラクターは完全な美人侍で声だけ地声の男性って・・・
アニメの「ポプテピ●ック」かよ!
不気味だけど・・・少し笑える、弄り甲斐が有りそうだ。
どの道、このゲーム世界の様な場所で見知った仲間は居てくれると心強い。
「まぁ・・・うん、あれですよ。サクラは男性だった訳だよね。騙してたの?」
「さようでござる、弁解しようもないでござる。」
意外に素直だ、正座しながら項垂れている。
嘘がバレて仲間の信頼を裏切った事を真剣に考えている表情が伺える。
長く一緒に過ごして来たからかサクラに対して嫌悪感的なモノは感じない。
私は【
プスッ!
「いだぁい!!・・・でござる。」
ござる遅いぞ。
項垂れているサクラの額に刀を刺したら涙目で良い反応をした。
ぷぷ笑える!別にサディスト属性は無いけれど面白い。
涙目で項垂れるサクラに対して、今まで感じた事の無い感情が芽生えた様な気がする。
気を取り直して刀を鞘に納める。
「まぁ良いよ、私は気にしないから。サクラはサクラだよ!」
「シノブ殿・・・ありがとうございま・・・でござるます。」
ござる遅いし「ござるます。」って間違ってるし・・・
その後サクラは改めて大袈裟に土下座をする。
なんだか私が謝罪強要している様な感覚に捕らわれ申し訳ない気持ちが少し湧く。
「私達、同じギルドに所属してる仲間でしょ!ほら立って!」
私はサクラの手を掴み引き上げる。
「うう・・・かたじけない、シノブは優しいでござるな。拙者感服したでござる。」
華奢で綺麗な容姿、ポニーテールの女性侍の癖に男ボイスの違和感は変わらないなぁ。
まぁその内慣れると思うけど。私達は取り敢えず、最初の街〖アルテナ〗のを探しながら歩き始めた。
・
・
・
「それよかさ!この世界って・・・」
「ふむ、拙者もびっくりしたでござる」
サクラが言うには私が体験したのと同じく暗黒神ザナファを倒した瞬間に光が溢れて、視界がホワイトアウトした様な感覚で気が付くとゲームキャラクターでゲーム世界そっくりの場所に居たと・・・
状況は全く同じだ。
しかし自分の見知った人と別世界で会えた自分は幸運なのかも知れない。
「百歩譲って、異世界転生?転移なのかな?したとして・・・サクラが居るってことは他のギルドメンバーやプレイヤーもこの奇妙な現象に遭遇したのかな?夢じゃないよね?」
湧き上がる疑問をサクラに問いかけてみた。
ゲーム最終日には国内だけでも数万人単位でログインしていたはずだし、まさか私達2人だけなのかな?
「分からんでござる。全プレイヤーが転生していたら、今こうしている間にも誰かしら遭遇しても良さそうな感じはないでござらんか?」
確かにその通りだ、他プレイヤーがそこら中にいても良いはず。
辺りを見渡してもプレイヤーはおろか、敵モンスターすら見当たらない。
ゲーム感覚では無いので距離感とかが全く違って感じる。
2人で途方に暮れていても埒があかない。
この世界がゲームと同じなら、ストーリーモードの流れを沿って行けばクリアは難しくない。
【
レベルはゲーム最高数値の100だから後半以外は多分余裕なはずだ。
私達は小1時間広大な草原を歩いた、身体能力がゲームキャラクターに依存しているせいか長距離歩いても疲れたりしない。
サクラが居るってことは、想像でしか無いけどギルドメンバー全員この世界に転生している可能性が高い。
もしかしたら他のプレイヤーも多数来ている可能性も有る。
まずは皆を探そう!皆でこのゲーム世界をクリアしたらどうなるんだろう!
こんな状況にも関わらず、何故かドキドキしている自分が居る。
忘れていた・・・レベルもカンストし「育成」も「やり込み」もある程度終わりマンネリ化していた。
ゲーム内でやることも無く、ダラダラチャットで世間話だけして過ごしていた。
私は思い出していた。
初めてこのゲームを買って貰って、ログインした時のワクワク感や高揚感を。
これから世界の謎を解き明かす様な未知への探求へ向けられた抑えきれない好奇心を。
始まるんだ、新しい冒険が!
この世界を知りたい!やり尽くしたゲームでは無いこの現実を!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます