第二章 ランシーン砦
「軍学校での一年目は主に
「父上のときは戦争が多かったので参考にはならないかと」
昔と今では軍学校の制度は変わっているだろうからと、お爺様は
「基本的なことは変わっていない。軍は大きく分けて武官と文官がある。武官は父上や俺のように前線で指揮を
「確か、ロベルトは文官クラスじゃなかったか?」
「いえ、あれは武官、文官の両方を受けています」
ロベルトというのはルジェ叔父様の息子で、私の
ロベルトとリアムの二人は
「二つ受けることが可能なのですか?」
「不可能ではないが、
「
学園は基礎学力の
けれど、軍学校は義務ではなく
軍学校へ入るが軍人になるつもりはない。そこまでいくともう変人の域になってしまう。
当主は後方
「まさか、父上が自ら鍛えるわけではないですよね?」
「そんなわけあるか。温室育ちの基礎体力もない
「ですよね……ん? では鍛えるとは?」
「ロナとリックを呼んで来い。
「それもどうかと……」
「だったら俺がやるか?」
「
早く行けと促されたルジェ叔父様は悲しげな目で私を見たあと
ルジェ叔父様は軍学校への入学を反対していたものね……。
「お爺様、ロナさんとリックさんというのは?」
「春先に配属される軍学校を卒業したばかりの新人の教育係だ。ロナが基礎訓練、リックが実地訓練を担当している。何か質問があれば二人に
一年弱で身につくか? とお爺様に不安視されている基礎訓練とはいったい何なのだろうかと、色々考え不安になる心を静める
コン、コン……とノックされた
「セレスティーア、父上の横へ」
「はい」
「二人はそこに」
初対面の印象はとても大事だと教育を受けた私は、お
短い
黒い上着に純白のスラックスが良く似合っていて、
でも
「この子は俺の孫だ。二人は呼ばれた理由を聞いたか?」
「いえ、まだ何も」
「同じく」
「なら
初めて目にした女性軍人様に興奮していた私を
座ったままで良いと言われたので姿勢を正し、綺麗な女性軍人様から
「フィルデ・ロティシュの孫、セレスティーア・ロティシュと申します。
挨拶を終えたあとは深く頭を下げる。
これから私の先生となる方たちなのでこの挨拶が正解だろうと顔を上げたら、二人共
ルジェ叔父様に視線で助けを
「あ、すみません。貴族のご
照れたように笑ったロナさんがふっと息を
「
背が高く体格の良いリックさんは強面だが、私の目を見てゆっくりと話してくれるのでとても優しい人なのだろう。
「セレスティーアが軍学校に入学するまでの間、二人に
「……」
「……」
「そうだよね、そうなるよな」
お爺様の言葉に無言になってしまったロナさんとリックさんに対し、ルジェ叔父様は目元を片手で
「いえ、あの、軍学校とはどういう……?
「俺の孫なんだから軍学校に入ってもおかしくはないだろうが。それと、お前は貴族に夢を見過ぎだ」
ロナさん、人間は発光しません。
「いやいや、何か深い理由でも? まさか、
「
お爺様、それは私がお訊きしたいです。何をなさって宰相様に
「二年後に軍学校に入学させる。
「本気で言っているんですか?」
「どうせ毎年面倒なのが一人交ざっているだろうが、それと
「ですが、ドレスでの訓練は……」
「おい、ドレスでやるわけがないだろ……貴族を何だと思っているんだ? セレスティーアだってシャツとズボンくらいは……持っているよな?」
「え、お爺様、ロナさんが!」
「
「夢ぐらい見させろ、このっ、暴君が!」
「ロナ、落ち着け! まだ此処の実権はその暴君が
お爺様の言葉を
そんな二人を
この短時間に何が起きたのか……今分かることは、このままでは質問どころではなくなってしまうということだ。
「あの、おじいっ……!?」
そっと手を上げて声を発した
この
固いソファーに背中を預けながら子どものように
ランシーン砦に
極一部というのはお爺様やルジェ叔父様のような上級官職に
砦内には客室もあり、
各自専用の部屋があると言っていたルジェ叔父様が、陛下は此処を
そして、私が案内された部屋がまさにその話題の客室で、そこには
伯爵家の令嬢ということで一応規定に従い客人
お爺様の孫が砦に来ていることは周知されたが、その孫が訓練に交ざるとは
明日は砦内の設備や訓練場などを案内してもらい、各所への
役に立たない
● ● ●
「おはよう、セレス」
案内役として部屋まで
「セレスは軍人ではないから、案内できるところが限られている。
「はい」
「元帥とルジェ
「お
「良い子だよね……あの人の孫だとは思えない」
建物の中を歩きながら、街や砦で
そのあとは
地位が高いほど上の階に部屋を持つので、お爺様とルジェ叔父様の私室、客室は最上階に置かれている。その下の階からは各部隊の上官の部屋、作戦会議室、
建物を出て右側の木が
時期的に新人教育は
「
目に生気のない無数の
「毎年此処へ配属されてくる新人の数は三十から四十。武官、文官、両方とも午前中は
ロナさんの声に反応しノロノロと立ち上がった屍たちが、何かに
その姿を
訓練を見学したあとは各部隊の上官の
誰かに言い聞かせられたわけでもなく私もそう思っていた。
けれど、実際に顔を合わせて話した方たちは皆とても優しく紳士的な対応だった。
昨夜のうちにお爺様から
身内にも
しかも、指導役として公私ともに
此処へ来るまで不安で仕方がなかったのに、それが今は期待や興奮に変わっている。
そう期待に胸を
婚約破棄され捨てられるらしいので、軍人令嬢はじめます 雪/角川ビーンズ文庫 @beans
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