はなやかディナー
萌とご飯に行ってから数日が過ぎた。あの日以来、一人の食卓がなんだか寂しい。とくべつ気心知れた友達と食事をするのはあんなにも楽しいことだったんだと萌が思い出させてくれた。
ベッドでごろごろ。萌をお家に招きたいなと思いながらも、萌が今の仕事が好きで忙しくしていることを知っているし、萌のことだから必ず色よい返事がくる。誘ったら萌に負担をかけてしまうかもしれない。そんな風にうだうだと考える。しばらくスマホとにらめっこしていると、灯る通知。萌からだ!
要件は、また一緒に食事へ行かないかというもの。萌も私との食事会を楽しんでくれていたということが窺えて嬉しくて嬉しくて飛びつくように返信する。「もちろんいいよ!」と。
そして「もしよかったら、私のお家でご飯を食べない?」と勇気を出して聞いてみる。すると爆速で萌から「悠香の手料理が食べられるってこと!?」と返信が来て思わず笑ってしまった。「私で良ければいくらでも作るよ笑」と返して、萌に食べたい料理の系統やメニューなどを聞いていく。萌が私の作る料理を楽しみにしてくれているのが嬉しいなあとじんわりと胸が温かくなる。よし、当日は腕に縒りをかけて作るぞ!
萌がお家に来るからと思うといつも以上に仕事がはかどったし、最近散らかりがちだった部屋も綺麗になった。なるべくおいしいものを食べてほしいから、いつもより食材にこだわったし、改めてレシピを見直して改良した。もういい大人なのに小学生のようにわくわくしている自分がいて、ちょっぴり照れ臭い。
そんな風に日々を過ごしていたらあっという間に萌との約束の日がやってきた。こぢんまりとした部屋に友達を招くのは久しぶりで少し緊張する自分がいた。
「お邪魔します~!」
「どうぞ、あがって」
萌はいつも以上ににこにこしていて、手を洗う時にも鼻歌なんか歌っちゃったりして。この日を楽しみにしていてくれたのかなと思うと頬が緩む。
萌をリビングに案内して、自由にくつろいでいてねと声をかけて私はキッチンに戻る。下ごしらえはすましたから、あとはできたてあつあつを食べてもらうために調理するだけ。
今日作るメインディッシュはハンバーグ。私の一番の得意料理だ。すでにタネは作ってあるから、成形して焼いていく。粉チーズがおいしく仕上げる隠し味。フライパンで焼き目を付けてから、グリルでじっくりと火を通すのがハンバーグをジューシーにするコツだ。
グリルにハンバーグと付け合わせのにんじんとじゃがいもを一緒に入れたら、じっくり焼く。その間に玉ねぎスープを温める。玉ねぎをあめ色になるまで弱火で時間をかけて炒めて、ベーコンでうまみを足したら水を注いで、コンソメと塩胡椒で味を調える。あとは萌の大好物のマカロニサラダ。茹でたマカロニに食べやすい大きさに切ったハムときゅうりとゆで卵。味はマヨネーズとりんご酢でシンプルに。
そのほかカトラリーを用意したり、ハンバーグにかけるソースを作ったりとこまごまとした作業をしていたらグリルからぴぴっぴぴっと焼きあがったことを知らせる音が鳴る。グリルを開けて竹串をさしてハンバーグの火の通り具合を確認する。うん、ばっちり!
そして盛り付けの作業に入る。いい匂いがリビングまで漂ってきたのか、「悠香、お手伝いできることはある?」と萌の声。萌にはスープをよそって、フランスパンを切ってもらう。お気に入りの大きなお皿にハンバーグと付け合わせのにんじん、じゃがいも、ブロッコリーとマカロニサラダ。萌が切ってくれたフランスパンは白く長細いお皿に、フランスパン用のバターやクリームチーズを出したら準備ができた。
「悠香ありがとう~! めちゃくちゃおいしそう!」
「ふふっ、さあ召し上がれ」
「いっただきまーす!」
「いただきます」
萌は早速ハンバーグを口に運ぶ。咀嚼していくにつれて萌の目がきらきらと輝いて、表情全体で「おいしい!」を伝えてくれて私は胸をほっと撫で下ろす。よかった、気に入ってくれたみたい。
「悠香、悠香! おいしすぎるよ!」
「ありがとう。お口に合ったみたいでよかった」
「ハンバーグ、味はもちろんめっちゃジューシーでおいしい! これはほかの料理も楽しみだなあ」
「好きなだけ食べてね。まだマカロニサラダとフランスパンはあまりがあるから」
「お言葉に甘えていっぱい食べちゃお。次はスープにしようかな。……玉ねぎの優しい甘さがいいね~。コクがあっておいしい。お家でも食べたいから今度レシピ教えて」
「もちろん! 後でLINEに貼っとくね」
にぎやかに話しながら萌は気持ちのいい食べっぷりでどのメニューにもおいしいおいしいと言いながら食べてくれた。私はそれがすごく嬉しくて口角が上がりっぱなしだ。
「もう全部全部おいしいなあ……。ありがとね、私のためにたくさん準備してくれて。大変だったでしょ?」
「ううん。準備してる時からとっても楽しくて今日が待ち遠しかった。こちらこそありがとうだよ」
「もう~。悠香は優しいなあ。お返しと言っては何だけど、悠香のためにとびきりおいしいお店を見つけてくるね!」
「ありがとう! また一緒に食事してくれたら嬉しいな」
「仕事の関係で次いつになるかはわからないけど、必ず連絡するから待っててね」
「うん、楽しみに待ってる」
次の約束をした後は思い出話に花が咲く。萌と過ごす時間はいつだって楽しくて元気が出る。食事をしながら私と萌の笑いあう声が夜の街に溶けていった。
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