第49話

奏一と連絡を断ってから二週間。

奏一はどうしているだろうか。ユイトの事を探しているだろうか。突然音信不通になったのだから、狼狽えているかもしれない。そういったことが気にはなるものの、堪えた。

ユイトは、店で副主任の昇格祭を終え、いつものように仕事をしていた。それでも、自分で起こした行動とは言え、奏一を思い出しては胸を苦しくさせていた。そのたびに、奏一が幸せになるためだと自分に言い聞かせた。

ある日、店が閉店したばかりの午前一時頃、店のドアが開いた。

その時、ユイトは片付けのために厨房にいた。「すみません。もう閉店したんですよ」

ドアが開いたことに気付き声をかけたのは、先輩の優牙だった。

だが、優牙は閉店後のホストクラブを訪れた人物を見て目を丸くした。

「あの……何か?」

 優牙が目の前の人物を不振がりながら尋ねた。

「すみません、こんな時間に……その……葛城ユイトさんいらっしゃいますか?」

 さも真面目そうな面持ちの人物は聞いてくる。

「カツラギ?ユイト……?あのー、そういう名の者はこちらにいないんで……あ、もしかして本名ですかね…。源氏名わかりますか?」

「確か……レン……とか言ってたかな……いるでしょうか?」

 その人物は縋るようにこの店のナンバーワンホストを見つめた。

「あぁ、蓮ですね、少々お待ちください。只今呼んで参りますので」

 そう言って頭を下げると、優牙は奥へと消えて行った。

ユイトが厨房でグラスを濯(ゆす)いでいると、優牙が現れた。以前は優牙に殴られてしまったこともあったが、今では関係も良好でユイトも彼のことを慕っているくらいだ。

「おい、蓮。お客さんだぞ。男だけど……」

「え?客?こんな時間にですか?」

 ユイトは思い切り不審に思った。一体こんな時間に誰がこんなところに来るというのだろうか。しかも男と言っていたが……まさか、奏一ではないだろうかとそんな期待が過った。

もう会ってはいけないのだと思いつつも、もし来たのが奏一だったら嬉しいなと思ってしまう。

「あぁ。何か真面目そうなヤツだったけど。……続き、俺がやっとくから行けよ」

 そう優牙に言われたが、洗剤の付いたスポンジを片手に持っているユイトは戸惑った。

「でも……」

「大丈夫、任せろって。待たせると悪いだろ、早く行けよ」

「……はい、すみません。お願いします」

 礼を言うと、ユイトはササっと手を洗い厨房を出た。

 緊張しながらフロアに出て入り口に向かうと、ユイトは顔を見るなり硬直してしまった。足の裏が張り付いたように、動くことができない。

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